前回に引き続き、福島県の「県民健康管理調査」についてみていこう。今回は、詳細調査のうち、甲状腺検査。
5本立て調査についておさらいしておくと、前回紹介した福島県のサイトのほか(県民健康管理調査について http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24287)、福島県立医大のサイト「放射線医学県民健康管理センター」もあるようなので、そこから引用すると、
県民健康管理調査とは?
http://fukushima-mimamori.jp/overview/ (リンクはココ)
「県民健康管理調査」の内容は、次の5項目です。
1. 基本調査(問診票による被ばく線量の把握)
2. 甲状腺検査
3. 健康診査
4. こころの健康度・生活習慣に関する調査
5. 妊産婦に関する調査
これらの関係を図的にみておくと、福島県の上記サイトの資料から(「県民健康管理ファイル」の記録編・資料編 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/fairu.pdf リンクはココ)、

図 福島県の県民健康管理調査の概要
(出典:上記資料、11頁)
図の一番上に「長寿健康県日本一を目指して」と、この資料集のタイトルが読み取れる。本気なのだろうか、いったいどういう根拠でそうなるのか、といった疑問がいろいろわいてきてしまう(疫学調査の対象となった原爆被爆者が長生きした点を念頭に置いているのだと想像するが、それはかなり偶発的な出来事なのではないだろうか)。まあ、pdfファイルを開かないと資料集のタイトルがわからないようになっているので、多少の配慮がなされているのかもしれない。
本題に戻り、先ずは、甲状腺検査の概要についてみておこう。福島県の冒頭サイトの資料から(第6回「県民健康管理調査」検討委員会の資料 2012/4/26公表 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240426shiryou.pdf リンクはココ)、
県民健康管理調査「甲状腺検査」の実施状況について (資料3)
1 調査目的
今回の東日本大震災による東京電力㈱福島第一原子力発電所事故による健康の影響については、現時点での放射線量等の状況から考えて極めて少ないと考えられているが、チェルノブイリ原発事故後に明らかになった健康被害として、放射性ヨウ素の内部被ばくによる小児の甲状腺がんが認められたところ。
そのため、子どもたちの健康を長期的に見守り、現時点での甲状腺の状況を把握するとともに、生涯にわたる健康を見守り、本人や保護者の皆様に安心していただくため、平成23年10月より甲状腺検査を実施している。
2 対象者
平成23年3月11日(震災時)に0歳から18歳までの全県民(県外避難者も含む。)約36万人
具体的には平成4年4月2日から平成23年4月1日までに生まれた県内居住者(県外避難者を含む。)
3 実施計画等
(1) 検査方法
甲状腺の超音波検査を実施し、しこり(結節性病変)等が認められた場合は、福島県立医科大学(以下「福島医大」という。)附属病院等において二次検査(詳細な超音波検査、採血、尿検査、必要に応じて細胞診等)を実施する。
(2) 実施スケジュール
平成23年10月から平成26年3月までに、先行検査(現状確認のための検査)として対象となっている全県民に検査を実施する。
また、平成26年4月以降は、本格検査として20歳までは2年ごと、それ以降は5年ごとに検査を行い、生涯にわたり県民の健康を見守る予定。
なお、対象者を平成24年4月1日までに生まれた者に拡大して行う。
[後略] (同資料の9頁)
対象者は、3.11時点で0歳から18歳だった県内の子供たち、約36万人。検査(1次検査)は、超音波検査のみ。事故後3年間で一巡し、その後は2年毎に(20歳以降は5年毎)。
今年1月の「県民健康管理調査」検討委員会(8名構成で座長は山下俊一氏)の第5回会合において、超音波検査結果の判定基準がきまったようで、次のように公表されている(第5回「県民健康管理調査」検討委員会の資料 2012/1/25公表 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240125shiryou.pdf リンクはココ。なお、この基準をもとに3,765人分の判定結果の概要も公表)

その後、4月の同委員会の第6回会合後に、38,114人分の判定結果の概要が公表されている(第6回「県民健康管理調査」検討委員会の資料 2012/4/26公表 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240426shiryou.pdf リンクはココ)。

この4月公表のデータに関しては、チェルノブイリ事故時より東電福一による健康被害の方が早く出てきているのではないかという観点から、このブログでも以前にも記事にしたところ(詳細はココ)。また、嚢胞については、20mm以下がひとくくりになっており、情報開示として適切でないとの指摘もなされていた。
最新のものでは、今月12日の同委員会の第7回会合後に、次のような38,114人分の検査結果の分析が公表されている(第7回「県民健康管理調査」検討委員会の資料 2012/6/12公表 http://www.pref.fukushima.jp/imu/kenkoukanri/240612shiryou.pdf リンクはココ)。3月末の検査結果を一挙に出さずに、小出しにしているようだ。



この6月公表での最大のポイントは、結節・嚢胞の大きさ別の度数分布がわかったことだろう。とりあえず、表にまとめておくと、
表 超音波検査による結節・嚢胞の大きさの分布
大きさ 結節 嚢胞
合計 38,114人 38,114人
なし 37,729 24,730
あり
5mm以下 201 * 12,414 *
5mm超10mm以下 126 949 *
10mm超15mm以下 26 18 *
15mm超20mm以下 18 2 *
20mm超25mm以下 9 1
25mm超30mm以下 4 0 **
30mm超35mm以下 1 -
35mm超 0 -
注)「*」はA2判定に該当するものの印。「**」は25mm超のもの全部を含む。
出典)上記資料、14-15頁。
嚢胞ありで5mm超20mm以下の被調査者が969人(全体の2.5%)もいることが判明し、批判を浴びているようだ。「木下黄太のブログ」から、
世田谷区、小学生1年生が「大人なら過去に心筋梗塞か?」という心電図の異常。母親は甲状腺にしこり。
2012-06-14 00:00:03
http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/b89fdd00689fa4027967c4adc47bfe7a (リンクはココ。記事の後半を参照)
5mm以上甲状腺のう胞「チェルノブイリよりはるかに高い発生率です」驚愕するヘレン・カルディコット女医。
2012-06-14 17:05:04
http://blog.goo.ne.jp/nagaikenji20070927/e/202fd21c72ab7b33120b23bae42704c5 (リンクはココ)
この甲状腺検査に対する批判は、これまでいろいろ出てきている。主なものは、次のような感じだろうか。
(1) 1次検査に、血液検査がない。(超音波のみ)
(2) 検査頻度が少なすぎる。(当初3年に1回、その後2年毎。20歳以上だと5年毎)
(3) 検査結果の判定は、そもそも正しいのか。(判定基準の正当性)
(4) 検査結果の詳細を被調査者側に明らかにしない(個別の説明なし、エコー写真もなし)。
(5) 追加検査が困難になっている。(山下俊一氏による日本甲状腺学会会員宛の追加検査不要説明依頼の文書)
(6) 2次検査で何故か細胞診をしない。
上記(1)については、例えば、次のような指摘がある。
福島の子供たち 甲状腺エコー検査OKでも腫瘍出るのは4年後
2011.11.02 07:00
http://www.news-postseven.com/archives/20111102_68134.html (リンクはココ)
[鎌田實氏(諏訪中央病院名誉院長)の談話] チェルノブイリでは、甲状腺がんや機能低下症が多発した経緯があり、多項目の検査をしたほうがよいと考えた。腫瘍を見つけるだけのエコー検査だけでよいのだろうか。血液に異常がある子を見つけ、厳重に管理することで腫瘍の早期発見も可能になってくる。
腫瘍が出来るのは、4~10年後の可能性が高い。
鎌田氏が指摘するように、放射性ヨウ素の被ばくについては、甲状腺がんにならずとも、甲状腺の機能異常がみられる可能性がある。群馬の専門医の調査によれば、次の点が明らかになっている。
原発事故の後に甲状腺機能低下1175人のうち939人(80%) 群馬の院長調査
2011.11.23
http://savechild.net/archives/12626.html (リンクはココ)
宮下[和也・宮下クリニック院長(同県高崎市)]は、同クリニックの患者のうち、甲状腺機能が正常な状態で安定し、薬の中断や変更がなく、ヨウ素の過剰摂取や妊娠・出産、花粉症など甲状腺機能に影響する他の要員もない1175人について、事故前と事故3か月以内の甲状腺ホルモン「フリーT4」と甲状腺刺激ホルモン「TSH」の変化を調べた。
その結果、939人(80%)で、フリーT4が低下し、低下を補うために分泌されるTSHは上昇した。・・・
健康な人に対しこの高い割合で影響があるとは思われないが、もともと甲状腺が弱い体質の人なら問題が生じる可能性があるだろう。
上記(2)~(5)については、例えば、次のような指摘がある。
J-CASTニュースから、
郡山の4歳児と7歳児に甲状腺がんの疑い!?チェルノブイリと同じ健康被害か
2012/2/23 18:38
http://www.j-cast.com/tv/2012/02/23123195.html?p=all (リンクはココ)
福島県の健康管理調査検討委員会座長「自覚症状なければ追加検査必要なし」
福島県で行っている甲状腺検診は3年かけて一巡するが、甲状腺学会の関係者はこう疑問を呈している。
「動物実験ではたしかに被曝しても一年で発がんすることはないという結果が出ているが、チェルノブイリでは事故直後のデータをフォローしていないので、放射能に対して感受性の強い一歳や二歳の子どもが、事故後一~二年後まで受診しなくても大丈夫だといいきれるのか」
しかも、福島ではエコー写真を見せてもらうこともできないし、県内でセカンドオピニオンを仰ぐことも困難なのだ。それは「検討委員会」の座長・山下俊一福島県立医大副学長が、全国の日本甲状腺学会員あてに「次回の検査を受けるまでの間に自覚症状等が出現しない限り、追加検査は必要がない」というメールを送っているからだ。・・・
中日新聞からは、
福島の子 3割以上“良性”のう胞 甲状腺検査で不安は消えず
2012年5月18日
http://iryou.chunichi.co.jp/article/detail/20120518160011991 (リンクはココ。引用するとキリがないのでリンクを参照してほしい)
上記(6)については、今年2月の週刊文春の記事(おしどりマコ氏・「週刊文春」編集部によるもの)の指摘がある。同記事の概要は、J-CASTニュースの上述の記事から引用すると、
「『今までにこんな例は見たことがありません』 超音波の画像を診た医師はそうつぶやいたという。七歳女児(検査当時・以下同)の小さな喉にある甲状腺に、八ミリの結節(しこり)が、微細な石灰化を伴ってみられたのだ」
「週刊文春」の巻頭特集「衝撃スクープ 郡山4歳児と7歳児に『甲状腺がん』の疑い!」は、こうした書き出しで始まっている。
原発事故のあと3か月以上福島暮らし
北海道へ自主避難している親子309名(子供139名、大人170名)を対象に、昨年末から地元の内科医がボランティアで甲状腺の超音波検査を行っている。郡山から夫と離婚して避難してきた母親の7歳の姉に結節が見つかり、2歳の妹にも2ミリのものが見つかったのだが、妹のほうはがんの疑いはないという。
この文春記事のポイントと個人的に理解しているのは、togetterから引用すると、
2012年2月25日(土) IWJCh4 自由報道協会主催 おしどりマコ氏・「週刊文春」編集部緊急記者会見 @KW36_wavさんのつだり単独まとめ
2012/02/25 20:52:01
http://togetter.com/li/263517 (リンクはココ)
おしどりマコ「甲状腺がんの被曝由来は乳頭癌が多い、95%。うち細胞診が甲状腺がんの乳頭癌で一般的な診断方法。細胞診は短時間で、苦痛も少なく最も一般的な方法の一つだと。今回疑われる乳頭癌の細胞診未実施について疑問を」 KW36_wav 2012/02/25 19:33:48
おしどりマコ「やはり、疑いながらも細胞診がされてないことについてインタビューをしたお母様が不安だと」 KW36_wav 2012/02/25 19:34:16
週刊文春「二名の方は細胞診を受けてない。ガンではないと厳密には確定してないというのが編集部の理解」 KW36_wav 2012/02/25 19:34:47
おしどりマコ「見出しについては口を挟めないが、良性であると言うより、良性の可能性ながら経過観察というのが今回では最も正確ではないかと」 KW36_wav 2012/02/25 19:35:18
おしどりマコ・週刊文春編集部側のこの認識は、かつての山下俊一氏の談話から考えると、かなり正しいのではないだろうか。山下氏は、「チェルノブイリ原発事故と甲状腺がん」と題した講演の中で、次のように語っていたようだ(ブログ「院長の独り言」の記事「福島-子どもの甲状腺にしこり(追加検査なし)」 2012年01月31日 http://onodekita.sblo.jp/article/53386380.html から。リンクはココ)。
放射線誘発による甲状腺がんは組織学的に大半が乳頭癌です。その為、予後が良いのが特徴ですが、小児の場合には触診では進行がんしか見つからず、超音波診断による結節異常に対する穿刺吸引針生検と細胞診が重要です。特に小児甲状腺がんの場合には典型的な乳頭癌よりも、硬化がんタイプで線維化や石灰化の強い例が多く存在します。
また、1cm以下の結節でも早期に頚部リンパ節への移転や肺移転の頻度が高いのが特徴です。・・・
いろいろと活躍されている山下氏。前にも紹介した独シュピーゲル誌とインタビュー際の関係の談話をみておくと、ブログ「EX-SKF-JP」から、
放射線研究で世界に冠たろうとする山下俊一教授、独シュピーゲル誌とインタビュー
Saturday, August 20, 2011
http://ex-skf-jp.blogspot.jp/2011/08/blog-post_9917.html (リンクはココ)
シュ:子供についてはどうか。
山下:18歳未満の子供全員について甲状腺の超音波検査を実施したいと考えています。全部で360,000人です。被曝してから甲状腺がんを発症するまでには約5年かかります。それはチェルノブイリの経験で明らかになったことです。
ここでは、甲状腺がん、それも約5年後以降に発症するものに言及している。これは、チェルノブイリ事故に伴い疫学的に検証されているコンセンサス的な内容だ。
ということは、コンセンサス以外はみたくないという誘引が働いているのだろうか。つまり、がん以外の甲状腺の機能異常には興味はないし、むしろ見つかるのは望ましくない、ということなのだろうか。あるいは、甲状腺がんは約5年後以降に発症するものにしか興味はないし、それより前に見つかるのは自然発生だろうけど望ましくない、ということなのだろうか。うーん、よくわからない。
いろいろな批判があるけど、最大の問題点は、追加検査をしてもらえない、あるいはセカンド・オピニオンが得られない、といった状況にかなり近い状態が発生していることだろう。
週刊金曜日ニュースから、
異常数値が出る子どもを放置――山下氏の指示を黙認する政府に怒号
2012 年 6 月 20 日 5:56 PM
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?p=2135 (リンクはココ)
・・・「県民健康管理調査」検討委員会の山下俊一座長が、子どもの甲状腺再検査を封じている問題で六月一日、衆院議員会館内で政府交渉が開かれた。・・・
こうした事態は、噂話のレベルだと、紹介状ありでおもむいた専門病院での取り組みにも影響を与えているのかもしれない。ツイッターから、
@GoodBye_Nuclear
お母様の承諾を得てTW。当院エコーで甲状腺に微小石灰化を伴う数ミリ不整型結節が見つかった小学女児。紹介状持参で某大学教授の診察を受けた。1分程のエコーで「なんともない」。さらに「お母様は神経質」。当院エコーは私も立会い、超音波検査士と専門医も「悪性が否定できず」の見解だったのに。
1:24am 火曜 6月 19
ついでに、福島県の在住の方が14項目の検討・要望事項を福島県立医大の「放射線医学県民健康管理センター」などに送付し、その回答を入手したようなので、紹介しておこう。ブログ「人生二毛作の田舎暮らし」から、
福島医大から回答!
2012/06/07 22:31
http://49981367.at.webry.info/201206/article_5.html (リンクはココ)
福島医大への要望!
2012/05/23 09:08
http://49981367.at.webry.info/201205/article_18.html
〔関連記事〕
・福島の子供の甲状腺の異常 2012/5/3 (既出)
・甲状腺の異常 〔YNNチェルノブイリ報告から〕 2012/5/30