夕食の後片付けが終わりそうな頃、誰かが訪ねてきた。
夫がドアを開けて、なにやら親しそうに話をしていると思ったら、家の中に連れてきた。
入ってきたのは、金髪碧眼、お肌もすべすべのティーンエイジャーの少年で、まぶしいような笑顔で握手を求めてきた。
「おなかすいてる?」
と夫が聞くと、少年はちょっとためらってから、
「え、ええまあ・・まだ夕飯食べてないから」と、はにかんだように笑った。
「ちょうどよかった。夕飯の残りだけど食べていってよ」
3時間かけて煮込んだ、チキンのトマトシチューが一人分残っていたので、それを温めてクラッカーと一緒に出した。
少年は、美味しそうにそれをバクバクと食べ、夫と楽しそうに話し、おおいに笑った。
それにしても、この人、誰?
最初は、叔父叔母の知り合いかと思ったが(今、留守番で叔母宅にいるため)こんな若い知り合いが訪ねてくるとは思えない。
どこの出身?なんて聞いているから、夫の知り合いでもない。
盛り上がっている二人を前に、あなたは誰で何しに来たんですか、とも言えず、もやもやしながら会話を聞いていた。
するとどうやら、彼はノースダコタ出身の18歳で、ある企業のコンテストに参加しており、雑誌の講読を契約した数を競って、最優秀者には5000ドルが企業から支払われるということがわかってきた。
なんだ、押し売りじゃん・・・
聞くと、ハワイへは数日前に来て、その前はアラスカにいたという。高校を卒業したあと、大学に行くことを親は望んだけど、その前にやりたいことがあったんだと彼は言った。18歳の、今のこの感覚のままで、いろんな場所に行きたかった彼は、報奨金より何よりも、企業が交通費も宿泊も負担してくれるこの企画が魅力だった。
始めてみたら、それはもういろんな種類の人達に出会い、それはさまざまな土地に行けることと同じぐらい魅力的だった。
「テキサスだったかなあ、不審者と間違われて銃を向けられたことがあって、あれが一番怖かったなー」
前後ろ反対にかぶったキャップから、金色のきれいな巻き毛が完璧な具合の外カールで見えていて、目は澄んで、食べ方もとても上品だ。
ふと少年が、
「無理に購読しなくたっていいんだからね。断っていいんだからね」とつぶやくように言った。
夫は、自分が19歳のときにバックパッカーで諸国を回った話や、33歳の誕生日にスカイダイビングをしたことなど次々と話し、少年はじょうずに相槌を打ちながら聞いている。
夫は彼のような自由な若者が大好きだ。
「できることなら今でもバックパッカーに戻りたいくらいだよ」と言って笑ったけど、まあそれは本音なんだろう。
購読する雑誌は、50種類ぐらいの中から選べるようになっていて、夫は自分用にサーフィン雑誌を、叔母へのクリスマスプレゼントにワインの専門誌を注文した。
代金はその場で現金で支払い、書類と控えをもらった。
「僕も今度は、バックパッカーで外国に行ってみるよ」1時間後、少年は、あふれるような笑顔を残して元気に帰って行った。
「ねえもしこれが詐欺で、雑誌がこなかったら?」
私は意地悪な質問をしてみた。
「雑誌は来るさ。でも来なくてもいいさ」
夫が一人旅をしていた時、どこの誰ともわからぬ自分に、やさしくしてくれた人がたくさんいたという。
ここがハワイじゃなく、ニューヨークやシカゴだったら自分は同じことをしたかわからないけど、彼に感じた自分の感覚を信じるよと言った。
「ファーゴ」という映画があって、それは冬のノースダコタが舞台である。
空と大地の境すらわからないぐらいの雪世界で、深い深い冬が続くあの街で少年は生まれたのだな。
「クリスマスでもサーフィンができるハワイは天国だなぁ」
目を輝かせて言った少年の名前は、ジョリイ、といった。
夫は窓から、夜道を去ってゆくジョリイの姿をしばらく見ていて、フッと笑った。
嘘でも、本当でも、どちらでもいい、私もそんな気持ちになった。
夫がドアを開けて、なにやら親しそうに話をしていると思ったら、家の中に連れてきた。
入ってきたのは、金髪碧眼、お肌もすべすべのティーンエイジャーの少年で、まぶしいような笑顔で握手を求めてきた。
「おなかすいてる?」
と夫が聞くと、少年はちょっとためらってから、
「え、ええまあ・・まだ夕飯食べてないから」と、はにかんだように笑った。
「ちょうどよかった。夕飯の残りだけど食べていってよ」
3時間かけて煮込んだ、チキンのトマトシチューが一人分残っていたので、それを温めてクラッカーと一緒に出した。
少年は、美味しそうにそれをバクバクと食べ、夫と楽しそうに話し、おおいに笑った。
それにしても、この人、誰?
最初は、叔父叔母の知り合いかと思ったが(今、留守番で叔母宅にいるため)こんな若い知り合いが訪ねてくるとは思えない。
どこの出身?なんて聞いているから、夫の知り合いでもない。
盛り上がっている二人を前に、あなたは誰で何しに来たんですか、とも言えず、もやもやしながら会話を聞いていた。
するとどうやら、彼はノースダコタ出身の18歳で、ある企業のコンテストに参加しており、雑誌の講読を契約した数を競って、最優秀者には5000ドルが企業から支払われるということがわかってきた。
なんだ、押し売りじゃん・・・
聞くと、ハワイへは数日前に来て、その前はアラスカにいたという。高校を卒業したあと、大学に行くことを親は望んだけど、その前にやりたいことがあったんだと彼は言った。18歳の、今のこの感覚のままで、いろんな場所に行きたかった彼は、報奨金より何よりも、企業が交通費も宿泊も負担してくれるこの企画が魅力だった。
始めてみたら、それはもういろんな種類の人達に出会い、それはさまざまな土地に行けることと同じぐらい魅力的だった。
「テキサスだったかなあ、不審者と間違われて銃を向けられたことがあって、あれが一番怖かったなー」
前後ろ反対にかぶったキャップから、金色のきれいな巻き毛が完璧な具合の外カールで見えていて、目は澄んで、食べ方もとても上品だ。
ふと少年が、
「無理に購読しなくたっていいんだからね。断っていいんだからね」とつぶやくように言った。
夫は、自分が19歳のときにバックパッカーで諸国を回った話や、33歳の誕生日にスカイダイビングをしたことなど次々と話し、少年はじょうずに相槌を打ちながら聞いている。
夫は彼のような自由な若者が大好きだ。
「できることなら今でもバックパッカーに戻りたいくらいだよ」と言って笑ったけど、まあそれは本音なんだろう。
購読する雑誌は、50種類ぐらいの中から選べるようになっていて、夫は自分用にサーフィン雑誌を、叔母へのクリスマスプレゼントにワインの専門誌を注文した。
代金はその場で現金で支払い、書類と控えをもらった。
「僕も今度は、バックパッカーで外国に行ってみるよ」1時間後、少年は、あふれるような笑顔を残して元気に帰って行った。
「ねえもしこれが詐欺で、雑誌がこなかったら?」
私は意地悪な質問をしてみた。
「雑誌は来るさ。でも来なくてもいいさ」
夫が一人旅をしていた時、どこの誰ともわからぬ自分に、やさしくしてくれた人がたくさんいたという。
ここがハワイじゃなく、ニューヨークやシカゴだったら自分は同じことをしたかわからないけど、彼に感じた自分の感覚を信じるよと言った。
「ファーゴ」という映画があって、それは冬のノースダコタが舞台である。
空と大地の境すらわからないぐらいの雪世界で、深い深い冬が続くあの街で少年は生まれたのだな。
「クリスマスでもサーフィンができるハワイは天国だなぁ」
目を輝かせて言った少年の名前は、ジョリイ、といった。
夫は窓から、夜道を去ってゆくジョリイの姿をしばらく見ていて、フッと笑った。
嘘でも、本当でも、どちらでもいい、私もそんな気持ちになった。
でももし、10%の確率でも本当だったら?という思いもあったし、1時間半、楽しく話せてよかったし、てなところかなあ。
まあ、私は夫のその感覚を信じるしかないもんね。
ハワイは犯罪率も銃の所持率も少ないとはいっても、本土と比べて、だから日本とは違うのよね。
でも疑いだしたらきりがないし、何でもかんでも信じるわけでもなさそうだしさ・・
たぶん金額もあるよね。払ったのは12,000円ぐらい。少ない額じゃないけど、まあこのぐらいならと折り合いつけられたんだと思うよ。
どこのCMのキャッチフレーズかと思ったくらい。
かっこいいですね。
ここの記事に登場する人物、心がとっても大きいですね。
すごいです。
あと人を見分ける力がどこかにあるんでしょうね。
なんて心が広いんだ
詐欺でも本当でもどっちでもいいと思える出会いって
そうはないし
そう思える心の豊かさに拍手