伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

星屑

2023-10-19 20:56:03 | 小説
 強大な芸能プロダクション「鳳プロダクション」に勤務して10年以上になるが裏方役しか任されないことを不満に思っている樋口桐絵が、福岡のライブハウス「ほらあなはうす」で演奏するバンド「ザ・マグナムズ」のボーカルの16歳の少女篠塚未散の歌声に痺れ、会社に黙ってスカウトして上京させ、歌手デビューさせようと目論むが、会社が総力を挙げて社長の孫にして専務の娘14歳の有川真由を売り出そうとしていることと被るためさまざまな抵抗を受け…という展開の芸能界サスセス小説。
 30女の樋口の視点で語られ、上司の峰岸、大御所歌手の城田万里子、専務などの登場場面が多く、大人の事情がいろいろ出てくるなど中年層主体の作品なのですが、16歳と14歳の少女の言動を親目線で見てグッとくることが何度もありました。意外に純な感動も味わえる作品だと思います。改めて、作者が「ダブル・ファンタジー」(2009年)以前は青春小説の旗手であったことを思い起こしました。


村山由佳 幻冬舎 2022年7月10日発行
「夕刊フジ」「神奈川新聞」等連載
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アナログ

2023-10-18 22:01:41 | 小説
 デザイン事務所で飲食店等の設計や内装の仕事をしている水島悟が、担当した喫茶店「ピアノ」で出会ったみゆきと名乗る女性と、連絡先を伝え合うことなく、何もなければ木曜の夕方には来ているというみゆきの言葉を頼りに木曜夕方に「ピアノ」に通い、みゆきへの思いを募らせて行くが…という恋愛小説。
 映画を先に見てから読みました。映画は大筋は原作に沿っていますが、原作では悟は勤務先の同僚吉田ひかりと以前付き合っていたとか、定食屋「よしかわ」に通い看板娘のひろこの様子を気にしていたり、高校時代からの友人の高木、山下は下ネタを連発し、など女の影が見え隠れするのに、映画ではジャニーズタレント(二宮和也)のイメージを落とさないという配慮からか、最初のシーンからしてエコな朝食を作り(電気炊飯器ではなくご飯を炊き、糠漬けもしている)、他の女性の影はまったくなく、高木や山下にさえ下ネタは言わせず、上品で一途な設定に変えています。みゆきとのデートも原作では海へ行くのは夜に湘南の海へ行くだけですが、映画では(夜の海は場所は明示されていませんが)さらに羽田空港付近と岡本桟橋(南房総市)でのデートもあり、経過がいろいろ変えられています。デートの映像は映画で設定を変えて正解だと思いますが。
 映画を見てから原作を読むと、映画の印象よりはずいぶんと泥臭い印象で悟もより親しみが湧く感じです。映画の方が美しく爽やかですが、原作の方が微笑ましいように思えました。


ビートたけし 新潮社 2017年9月20日発行
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ザ・ブラック・キッズ

2023-10-17 22:29:23 | 小説
 ロサンゼルスで生まれ育った17歳の高校生で黒人のアシュリーは、幼なじみの白人の同級生ヘザー、キンバリー、コートニーらと遊び暮らしていたが、無抵抗の黒人青年ロドニー・キングを警官が4人がかりで半殺しにした事件とその警官らに無罪判決が言い渡されたことから街では暴動が発生し、家族や知人らが巻き込まれて行く中で考え交友関係にも変化が生じていくという小説。
 正義感が強く「共産主義者」と自己規定する姉のジョーに対し、アシュリーは黒人に対する差別や迫害を知りつつそこにあまり目を向けようとせず、同級生の貧しいスポーツ奨学生の黒人ラショーンがエアジョーダンを履いているのを見て「ラショーンの靴って、なんか、貧乏なはずなの人にしてはずいぶんと高級だよね」と口走り、暴動で略奪してきたかのような噂を立ててしまうという意識の低い軽率な人物と設定されています。
 そういったふつうの、どちらかといえば恵まれ、白人との交友を求めてきた者の目から黒人が置かれている事情を見て考えさせるという趣向で、黒人でない人種差別に問題意識をあまり持たない層に読ませ考えさせようとしているのでしょうね。


原題:THE BLACK KIDS
クリスティーナ・ハモンズ・リード 訳:原島文世
晶文社 2023年8月25日発行(原書は2020年)
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女囚たち ブラジルの女性刑務所の真実

2023-10-16 23:26:07 | エッセイ
 ブラジルで30年以上にわたり刑務所に通って診察を続けた著者が、州立女性刑務所での7年間の勤務の過程で見聞きしたことを記した本。
 数ページごとのエピソードで、前半はテーマを立てて総論的な解説をしようとしているようですが、断片的な叙述になっています。後半ははっきりと出会った受刑者から聞いたエピソードの羅列となっています。そういう構成ですので、体系的な論述というよりは思いつくままに書かれたエッセイという読後感です。
 登場する受刑者たちの収監に至る事情を読んでいると、薬物の悲劇を痛感します。その流れで著者は違法薬物との戦いを正当化しようとしているのかと思っていたのですが、何と、著者は終章で、禁酒法が社会を腐敗させ密売や犯罪を助長させたとして、同じようにドラッグの使用と密売を違法にする法律が「我々を最悪の状況に導いている」と主張していて(282ページ)驚きました。
 著者の経験で、男性の囚人には女性(母、妻等)が列をなして面会に訪れる(ブラジルでは面会時に同衾さえ許されるそうです:40ページ)(もっとも、それは面会に行かないと報復・暴力が待っているからということであるようですが:42~43ページ、286ページ等)のに、女性の囚人は見捨てられ夫や愛人はほとんど面会に来ない、それはその女性がその男のために収監された場合でも同じ(42ページ等)というのが、悲しいですね。


原題:PRISIONEIRAS
ドラウジオ・ヴァレーラ 訳:伊藤秋仁
水声社 2023年8月10日発行(原書は2017年)
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回転寿司からサカナが消える日

2023-10-15 21:43:23 | 実用書・ビジネス書
 回転寿司チェーンが格安で寿司を提供できてきた仕組みと事情について説明し、それが近年大きく変化し危機が近づいていることを論じた本。
 生鮮魚介の買付の段階で、これまでは日本は主要な需要先であった(特に生魚を食べるのは日本人くらいだった)が、近年は中国を始め生魚の需要が増え、漁業者からすれば注文がうるさく小口で買い付ける日本の業者よりも緩い条件で大量に買ってくれる他国の方が上客となっている、加工業者は寿司ネタなどの生魚加工では冷温下で衛生のために重装備で手洗い等も厳守の厳しい労働条件で働く者の確保に苦しみ、現状では厳しい日本の要求に対応できていることが業者の高評価にもつながるので対応しているが、より条件の緩い他国に売りたいと思うのが当然であり、かつて人件費の安さを理由に海外に加工工場を造ったもののアジア各国の人件費が上がり(今では日本の方が低賃金ということさえある)、海外での加工のために輸送・冷蔵保管の工程が増えるが、原油高と円安、電気代高騰でこれらのコストも増加しているという状況が具体例を示して説明されています。
 当時から産業空洞化と懸念されていた様々な施設・工程の海外移転のツケが返ってくるということですね。消費者として安い商品の提供はありがたいことです(消費者が安い商品でなければ買えない原因は、賃金が上がらないことにあって、結局は、財界・企業経営者の強欲に問題があるのだと、私は思いますが)が、それが目先の利益に踊らされた無理な構造に依拠するものでないかということは考えておきたいですね。


小平桃郎 扶桑社新書 2023年7月1日発行
「週刊SPA!」連載
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ルポ大学崩壊

2023-10-14 22:54:57 | ノンフィクション
 独立行政法人化と運営費交付金の削減、国立大学法人法改正による学長選考方法の自由化などによって独裁化と政府による支配が進む国立大学の惨状、私立学校法の改正で(学長・総長ではなく)理事長がトップとなり理事長の思うがままに運営できることになったことで私物化が促進された私立大学の惨状、多発するハラスメント、有期雇用職員の雇止め、非常勤教職員の雇止め等の雇用破壊、文科省役人の天下り等の実情を報じた本。
 最初に紹介されているのが、吉田寮自治会に対して訴訟提起して立ち退きを求め、タテカン(立て看板)を一方的に撤去して学生・教職員組合と対立している私の出身校京都大学です。私が在学していた頃には、まだノーベル賞受賞者輩出などよりも「反戦自由の伝統」を誇りに思う風潮があったのですが、落ちぶれ変わり果てた姿に悄然とします。
 有期雇用の職員や教職員の雇止めに関しては、裁判上、雇止めが有効とされる(労働者敗訴)ケースが相次いでいます。それは、労働契約の条項や規則、担当業務の差替えなどを工夫して、おそらくは使用者側の弁護士の入れ知恵で大学側がうまく立ち回っているためです。判決文を読んでいるとため息が出ますが、裁判所にはそういった大学側の小ずるい手法が今のところ効いています。こういったやり方は、短期的には大学側=使用者側の勝利となっていますが、このような状態が続けば、大学での有期雇用が、「大学」という言葉/ブランドが与えるイメージとは異なり、極めて不安定な労働者・研究者にとって割に合わないものだということがいずれは世に知れ渡り、大学は有能な人材を確保できなくなると、私は憂いているのですが。


田中圭太郎 ちくま新書 2023年2月10日発行

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イット・スターツ・ウィズ・アス ふたりから始まる

2023-10-13 00:06:26 | 小説
 イット・エンズ・ウィズ・アス(2023年10月12日の記事)で、離婚してシングルマザーとなったリリーと、リリーが16歳の時の初恋の相手で当時はホームレスだったがボストンで成功したレストランのシェフとなったアトラスが、改めて関係を作っていくラブ・ストーリー。
 前作の読者へのファンサービスという色彩が強く、前作でのエピソードを繰り返し拾いながら、一面で純情に、一面で大胆に恋愛のステップを踏んでいきます。前作同様、DV被害者へのメッセージとエールを送る目的で書かれているものと思いますが、前作よりそのニュアンスを薄め前向きの楽しさの方を打ち出している印象です。
 私には、脇役ですが、アトラスの相談役の12歳のゲイのセラピストが微笑ましく好ましく思えました。


原題:IT STARTS WITH US
コリーン・フーヴァー 訳:相山夏奏
二見書房 2023年8月25日発行(原書は2022年)
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イット・エンズ・ウィズ・アス ふたりで終わらせる

2023-10-12 23:46:27 | 小説
 メイン州プレソラ(架空の市のようです)市長であるDV男を父に持ち、高校の時に近隣の廃屋に住み着いたホームレス青年アトラスに恋したが引き離され、大学入学時にボストンに移り勤務先を辞めて花屋を起業することにした23歳のリリー・ブルームが、父の葬儀後に気分転換のために忍び込んだ高級マンションの屋上で偶然出会い一夜の関係を迫ってきたイケメンの脳神経外科医ライル・キンケイドと恋に陥ってという設定で展開する小説。
 作者の問題提起が典型的に示されているのは、リリーが元彼のアトラスと再会したことに疑念を持ち嫉妬するライルに対して「そうよ。わたしは昔、アトラスからもらったマグネットをずっと捨てずにいた。彼との出来事を書いた日記も捨てなかった。タトゥーのことも秘密にしていた。そうよね、話すべきだった。自分がまだアトラスを愛していることを、そして死ぬまできっと彼を愛し続けるだろうってことも。なぜなら彼はわたしの人生の大切な一部だから。それをきいたら、きっとあなたは傷つくと思う。でも、だからといって、手をあげていいはずがない。たとえ寝室で、わたしとアトラスがベッドにいるところを見つけたとしても、それがわたしを殴る理由にはならない」(384~385ページ)と言い放つところです。確かに、殴ることを正当化する理由にはならないでしょう。しかし、このリリーの振る舞い、開き直りに共感できるか…作者は読者にその点で踏み絵を迫っているように思えます。


原題:IT ENDS WITH US
コリーン・フーヴァー 訳:相山夏奏
二見書房 2023年4月20日発行(2020年発行のものを改訳・改題、原書は2016年)
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探偵の探偵 Ⅰ~Ⅳ

2023-10-11 22:23:42 | 小説
 高2のときに、ストーカーにつきまとわれたために遠縁の親戚宅に避難させていた中学生の妹咲良がそのストーカーに殺害され、警察でストーカーが所持していた咲良の所在を探り当てた探偵の無記名の調査報告書を見せられ、復讐心と悪徳探偵への敵愾心を募らせた紗崎玲奈が、探偵養成スクールに通い、事情を聞いた所長の須磨康臣の下で悪徳探偵の被害者の被害を調査し対応する「対探偵課」員として、配属された妹のような峰森琴葉とともに、悪徳探偵と対峙し、妹の所在をストーカーのために調査した探偵を探すという小説。
 もともと新体操で国体出場の運動神経に暴力団系のテコンドー道場でしごかれ、違法な手口も含めた調査技術をたたき込まれた紗崎は、DV男やストーカーのために働く探偵たちめがけて野に放たれた狼のように噛みついていきますが、度々相手に襲われてボロボロに傷つきます。読み味はミステリーやアクションというよりはバイオレンスものです。「あしたのジョー」で、プロデビュー後の矢吹丈が毎回ノーガード戦法で散々相手のパンチをもらってからクロスカウンターで相手を仕留めてくるのに、なんで格下相手にそんなにパンチをもらわなきゃならないんだと叱責し嘆く丹下段平のような感想を持ちました。毎回危険にさらされる女性の探偵としては、V.I.ウォーショースキー(サラ・パレツキー)が有名ですが、それをさらに過激にしたイメージです。暴力、特に女性への暴力の描写を好まないもので、読むに堪えないというか苦痛に思えるところが多々ありました。
 調査/情報収集の方法(一部適法、違法なもの多数)、住居侵入の方法(違法)、手近なものを武器にした戦い方(ほぼ違法)などについてのトリビアに読みでがあります。実際に試すわけにはいかない(よい子はマネしないように!)ものが大半ですので、その実効性を実感・検証できるわけではないのですが…
 2015年に北川景子主演でテレビドラマ化されたとかで(例によってテレビ見ないもので知りませんでしたが)、1巻から3巻まで統一したイメージのイラストだった表紙が4巻では違うイメージの写真になっています。販売政策上の判断でしょうけど、どうかなと思います。


松岡圭祐 講談社文庫
Ⅰ 2014年11月14日発行
Ⅱ 2014年12月12日発行
Ⅲ 2015年3月13日発行
Ⅳ 2015年7月15日発行



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偽りの楽園 上下

2023-10-10 20:19:08 | 小説
 スウェーデンに農場を買って引っ越した父母から相次いで連絡があり、父からは母が精神病院に入院したが脱走した、母からは父の言うことはすべて嘘だと言われて戸惑うロンドンで11歳年上のゲイのパートナーと同棲中のダニエルが、ロンドンにやってきた母の訴えを聞き取りながら真相を考え探るミステリー小説。
 お話の大部分は、私にはデジャヴ感があります。「嘘 Love Lies」(2023年10月9日の記事)の場合とは違って、作品を読んだことがあるという意味ではなく、ダニエルの母ティルデが話す話のパターンが。弁護士をしていると、特に私のように「庶民の弁護士」を名乗り、控訴の相談をよく受ける立場にいると、十分な証拠があると言うのですが聞いてみると証拠とされているものがその人の主張する事実を「十分」裏付けるどころかどうしてそれがその主張の証拠といえるのだろうかと思う訴えを聞くことが少なからずあります。自分が正しいと思っているから何でも自分に有利に見えるのかもしれませんし、ものごとの評価や価値観の基準がかなり偏っているということかもしれません。第三者の目からは、十分な証拠があると言われれば言われるほどとてもそうは思えず無理な話だと感じられ、ですから当然、裁判でそう振る舞えば負けてしまいます。しかし本人にはそういう自覚はなく、正しい主張をし、証拠も十分あるのに裁判官が異常なあるいは不公平な判断をしたと思い込み、そう主張します。この作品のダニエルの聞き取りとティルデの語りの形で続くティルデの長い長い話を読んでいると、そういう人の話を見ているようです(ティルデも、自分はきちんと証拠に基づいて整然と説得力のある話をしていると自己認識しているのですが:下巻162ページ)。本人訴訟をして負け、裁判官が異常な判決をしたと憤っている方には、自分の主張はこの作品のティルデの話のように見えていたのではないかと一考して見ることをお薦めしたい…そう言われて冷静になれる人はまだ望みがあるのだろうと思いますけど。
 ミステリーとしては、そのティルデの話がようやく終わったあとの最後の100ページないしは60ページの展開で読ませるのですが、そのために全体の85%、約480ページにも及ぶ十分な証拠があるなんてとんでもないと感じるティルデの話を読み続けられるかが、作品の評価を分けるでしょう。訳者あとがきでは、延々と続くティルデの話を「これが読ませる。語りの妙にページを繰る手が止まらなくなる」(下巻282ページ)とまで言っていますので、それに同感されるのであれば高い評価の作品となるでしょう。


原題:THE FARM
トム・ロブ・スミス 訳:田口俊樹
新潮文庫 2015年9月1日発行(原書は2014年)

 
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