伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

嘘 Love Lies

2023-10-09 19:50:43 | 小説
 左官だった義父が死んだあと母が連れ込んだ男に殴られ続けて11歳の時に暴力団幹部の九十九誠に目をかけられて柔道を教えられるなどするが九十九の言いなりにならざるを得なくなっていく刀根秀俊、秀俊に密かに思いを寄せる同級生で神主の娘桐原美月、秀俊が密かに思う中村陽菜乃、陽菜乃に好意を持つクラス委員長の正木亮介が、中2の時に遭遇した事件を機に傷を抱え過去に縛られつつ生きた苦悩に満ちた20年を描いた小説。
 私の個人的な問題ですが、この小説、過去に確実に読んだと思えるのですが、私が2002年からエクセルにつけ続けている読書記録に記載がない。出版時期を考えてもそれ以前に読んだことはあり得ない。それでも拭えないこのデジャヴ感は何?ついにボケが…いや読んだのを忘れるのならわかるが、読んでないものに見覚えがあるって…美月の直接目の当たりにしていない事件が見えてしまう能力が、私にも降りてきたのか…


村山由佳 新潮文庫 2021年2月1日発行(単行本は2017年12月)
「週刊新潮」連載
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民事裁判手続のIT化

2023-10-08 22:19:41 | 実用書・ビジネス書
 民事訴訟のIT化(訴え提起等のIT化:e提出、期日等のIT化:e法廷、事件記録に関するIT化:e事件管理等)に関する民事訴訟法の2022年改正、民事訴訟以外の民事執行、民事保全、倒産手続、労働審判等のIT化に関する2023年改正について解説した本。
 裁判手続等のIT化検討会座長、その後の法制審議会の部会長として民事訴訟のIT化を推進してきた著者(議論が始まった2017年当時は携帯電話等も使っていないIT弱者だったと自ら語っています:はしがき)の本ですが、その旗振り役の著者の目から見て民事訴訟のIT化は、個々の制度の問題点に係る改善を積み上げていって最終的な改正案が形成されていく通常の民事基本法の改正とは異なり、一種のトップダウンとして最終目標がまず設定されそれに向けて改正案が構築されていくという経過をとったように思われるとされています(13ページ)。端的にいえば、現状で誰かが困っているということからではなく、例えば諸外国より遅れていると評価されることが沽券に関わるというような動機からか、とにかくIT化するという結論ありきで進められてきた話のように感じます。
 IT化のニーズがあることは明らかだ(サイレントマジョリティなんだそうです:4ページ。安保闘争で群衆に国会を包囲されたときの岸首相みたいな言い草ですね)というのですが、例えば事件記録のIT化(基本的に2025年施行予定)は現状と比較して情報漏洩のリスクを高めます。営業秘密とDV被害者等の個人情報秘匿の場合はその部分は改正法施行後も電子化せずに紙で扱うこととされています。立法者は現在の紙による取扱の方が情報漏洩防止上有利であるとはっきり意識しているのです。国民がIT化を求めているという人は、そういう事情が十分に説明された上で人々がIT化を支持しているというのでしょうか。
 私は、民事訴訟のIT化についてあまり好ましく思っていないので、辛辣な物言いをしますが、現実にはIT化は否応なく進められますので、一定の対応をせざるを得ません。そういう動機で読みましたが、改正の内容がひととおり説明されているので、食わず嫌いしていてよくわかっていなかった私には勉強になりました。しかし、実務家向けには、より正確な条文というか要件と、それぞれの改正の経過措置についても書いておいて欲しかったなと思います。そういうことを考えると弁護士向けより一般読者向けなのかなと思いますが、一般読者が読み通すのはまた辛いだろうなと思います。 


山本和彦 弘文堂 2023年7月30日発行
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2023-10-07 00:09:44 | 戯曲
 妻に先立たれて生きる意欲をなくした78歳の健康体の男性が安らかな死を希望して医師にペントバルビタール剤の致死量処方を求めているという設定で、医師はそれに応じるべきかという問題について公開の場で論じるという劇の戯曲。
 倫理委員会の委員長の司会の下、医師による自死幇助に反対の意見を持つ委員と自死を求めている本人とその依頼を受けた弁護士が、参考人として招かれた憲法学の教授、医師会の役員、司教に対して質問・討論をする形で、法律、医学、神学の観点からの問題点が整理して示されるという構成です。
 著者( F.v.シーラッハ)は、「テロ」(2015年)で緊急避難(より多数の被害を避けるための加害)について論じている(それについて、私のサイト「モバイル新館」で「『テロ』( F.v.シーラッハ)を題材に刑事裁判を考える」というブログ記事を書きました)際と同様、シンプルで力強い問題提起をしています。同種の問題提起をしている本は数多あり、情報量は専門家が書いた本の方が多いのですが、構成の妙というか、より心に残るというか、考えさせられるように思えます。
 ただ、普遍的なテーマが論じられてはいるのですが、当然にドイツでの事情が前提となっており、相当に事情が異なる日本では、ここで論じられていることがそのままには当てはまらず、そこで入り込みにくいところがあります。


原題:GOTT
フェルディナント・フォン・シーラッハ 訳:酒寄進一
東京創元社 2023年9月8日発行(原書は2020年)

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70歳からの正しいわがまま

2023-10-06 21:02:33 | ノンフィクション
 終末期に在宅で過ごす患者の訪問医療を行う著者が、訪問医療での自らの経験を語り、死にゆく姿ではなく、他人の考えに従うのではなく、自らの考えに基づいてギリギリまで生きたいように生きて行く患者たちの姿を見て、そのような生き方、死のあり方を勧める本。
 70にして矩を踰󠄁えよ、70歳になったら人として分別ある行動をとる、なんてことにとらわれる必要はもはやないのではないか。わがまま三昧、他人に多少眉を顰められたとしても、やりたいことをやりたいようにやっていい、やるべきだと私は思う(187ページ)というのが、この本の基本メッセージとなっています。周りの人は迷惑かもしれないけれど、死が迫っているのだし、構わない、そんなこと構ってられないということでしょうね。
 ただ、時折思うのですが、死ぬときに幸せか後悔しないかが、それまでの人生がどうであったかを打ち消してしまうほどに決定的なものなのか、それもまた悲しいなという気がします。


平野国美 サンマーク出版 2023年4月20日発行
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アジアを生きる

2023-10-05 21:39:47 | 人文・社会科学系
 熊本生まれの在日韓国人2世で初の「在日」東大教授とされる政治学者の著者が、自らがたどった思想・思索の来歴を語った本。
 「近くて遠いアジア」と題する第1章と「西欧とアジアの二分法を超えて」と題する第2章は、著者の学問的関心、傾倒した思想にかかわる記述が中心となり、社会学ないしは政治哲学の業界での大家の考えや著作の紹介とその批判が続き、門外漢の目には専門用語/業界用語と小難しい「概念」が羅列されたペダンティックな文章と感じられます。「地域主義と『東北アジア共同の家』」と題する第3章は、扱う時代と事実が馴染みやすいものであることもあって比較的読みやすいというか、耳に馴染んだ話が続きますが、「個別的『普遍主義』の可能性」と題する第4章はなぜか江戸時代から明治にかけての国学的な考察に迷い込みまた読みにくくなる印象です。
 アジア的な文化・思考の価値をいうこの本で、著者が駐日アメリカ大使館の政務担当者が「干戈を交え、悲惨な戦争で多大な犠牲者を出しても、やがては親密な友好国となれるものなんです」とベトナムや日本の例を挙げてうそぶくのに「国家理性の狡智によって戦争が避けられるとしたら、その乾いたザッハリッヒな(非人格的で即物的な)ロジックを闇雲に否定しようとは思わない」(126~127ページ)と述べ、たとえどんなにそぐわなくても我々は異質なものとも共存しなければならないということを、イギリスの哲学者やドイツの外交官らの言を挙げていう(166~168ページ)著者のスタンスはどう見ればいいのでしょうか。前者に関して「それでも私は、その冷厳なロジックによって切り捨てられていく人々のことを思わざるを得ない。なぜなら、『在日』とは、そうした『国家理性』によって切り捨てられた人々のことを意味しているからだ」としている点に著者のアイデンティティーの一環が感じられますが。


姜尚中 集英社新書 2023年5月22日発行

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全検証 コロナ政策

2023-10-04 20:33:23 | 人文・社会科学系
 主として公的な機関の発表資料と統計に基づいて、コロナ禍の実情と推移、ワクチン・マスク・行動制限・PCR検査の感染・死亡抑止効果、医療崩壊の実態と原因、コロナ予算の規模と使途、無駄と使い残し、コロナ対策・コロナ予算の日本経済への影響・後遺症について評価し論じた本。
 著者は私の同業者で、「はしがき」で「私の本業は弁護士であり、『門外漢』と揶揄されることが多いのですが、門外漢であるからこそ、このような分析が可能になりました」(4ページ)と述べています。私は、証拠資料に基づいてどのような事実があったか/認定できるかを論じるのはまさしく弁護士の本業で、弁護士が専門的力量とセンスを示せる場であると考えています。もちろん、論証に用いる資料の取捨選択、資料の読み方は幅があるものですし、見落としている資料の存在、資料の読み方の誤り、資料の性質についての知識などで対象分野の専門家から異なる指摘があり得るでしょうし、別のより説得力のある見解が提示されることもあり得るでしょう。そういう意味で、弁護士が提示する議論・意見は唯一のものとか確実なものとは限らず、その論旨の説得力を評価して読むべきものです。そういう限界があることを前提として、資料に基づいて弁護士が提示するものは、対象分野について専門家でないとしても一定の価値があるものと思います。
 著者の評価は、ワクチンは接種後一定期間は死亡・重篤化予防効果があり、デルタ株までは感染予防効果もあったがオミクロン株では感染予防効果はなかった、マスクは特に感染者がマスクをすることに周囲の感染を予防する効果が見られ、行動制限にも感染予防効果があった、日本で医療崩壊が顕著に起きたのはほとんどが民間中小病院という日本ではしかたがなかったなどで、ブラック企業被害対策弁護団事務局長が書いたものとしてはずいぶんと穏健なものに思えます(財政問題とかアベノミクスは批判していますが)。
 2022年は2020年と比べて感染者も死亡者も圧倒的に増えているのに、2023年5月からは感染拡大防止に一定の効果が見られたマスクも行動制限もなされなくなりました。このまま元々感染が拡大する冬を迎えたら感染が確実に拡大する(106~107ページ、175~176ページ)という著者の指摘には同感します。


明石順平 角川新書 2023年8月10日発行
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女性不況サバイバル

2023-10-03 21:13:36 | ノンフィクション
 コロナ禍の下で、元々低賃金・不安定雇用を強いられてきた女性労働者が、夫セーフティネット(働けなくなっても賃金が下がっても男性に扶養してもらえるだろうという偏見から対策がサボられる)、ケア軽視(ケア労働は家庭で女性がただでやっているような労働だから高い賃金を払うなどの必要はない)、「自由な働き方」(フリーランスは自己責任だから労働者並みに保護する必要はない)、「労働移動」(失業しても転職して別のところで収入を得ればいいから手厚く保護する必要はない)、世帯主主義(コロナ禍の下での給付金等は、「迅速な支給」のために世帯主に支給する)、強制帰国(技能実習生は妊娠したら雇止めとなっても技能実習ができないから在留資格が更新されず強制帰国となって雇用終了)という6つの仕掛けによって、さらに苦境に追い込まれたことを批判的に紹介するとともに、それと闘って成果を上げた事例を紹介する本。
 昨今の日本政府の政策や企業の姿勢への批判、それと闘うことを諦めるな、闘って勝っているケースがあるというメッセージはいいと思います。
 ただ労働者側の弁護士としては、実際にはもう少し労働者側が闘えているところがあると感じています。第1章で中心的に論じられているシフト制の労働では、近時の裁判例でも、私の実感でも、契約書上労働時間が明記されず時給だけしか定められていない場合でも、現実のシフト指定(週の労働日の日数、1日の労働時間)が数か月程度概ね一定であれば、その後に使用者側の都合でシフトを減らされたら、減らした指定が無効でその分の賃金を払えと裁判所は判断すると思います。使用者の好き嫌いでのシフト削減なら賃金全額、コロナ禍での業務縮小が合理的と考えられる場合でも労働基準法第26条の休業手当6割分は十分にいけると思います。それは裁判ではということではありますが、裁判をすればそうなるのだからという交渉も可能でしょう。
 フリーランスについても、契約書上は自営業者への業務委託でも労働の実態によっては労働者と判断されることがあります。有期契約労働者の雇止めに対しても、近年使用者側の巻き返しが強く裁判所も揺れ動いていますが、過去に数回更新しているケースでは民間なら十分闘えるケースが多くあります(公務員:会計年度任用職員と、派遣労働者については、裁判所が頑なに救済を拒否しているのでかなり厳しいですが)。
 そういったところで、労働者側の弁護士の目からは、この本のニュアンス以上に労働者側が闘って勝利できる場面も多いと感じていますので、諦めないで欲しいなぁと思います。


竹信三恵子 岩波新書 2023年7月20日発行
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報道弾圧 言論の自由に命を賭けた記者たち

2023-10-02 23:16:10 | ノンフィクション
 容疑者の殺害も辞さない「麻薬戦争」を推進するドゥテルテ大統領と次いで大統領となったマルコス・ジュニア政権下のフィリピン、プーチン政権下のロシア、習近平政権下の中国、内戦下のイエメンとシリア、エルドアン政権下のトルコ、皇太子(現首相)がジャーナリスト殺害を指示した疑惑が報じられているサウジアラビア、国軍によるクーデター後のミャンマーでの政権に都合の悪い報道をした記者の殺害や逮捕、いわゆる民主主義国での機密情報やフェイクニュース規制を理由とする記者・報道機関への捜索などの状況をまとめた本。
 昨今の世界の状況をおさらいするにはいい本だと思いますが、あらゆることがらについて上には上がというか下には下があるわけで、記者が次々殺されたり逮捕されている事例を並べてしまうと、少なくとも表立った形では殺されたり逮捕されていない日本の状況はまだましじゃないかという印象を与えかねません。最後に日本の状況についても、国境なき記者団の報道の自由度ランキングで安倍政権以降いわゆる先進国で例外的なほど低迷している事情を情報公開のお粗末さ、特定秘密保護法、高市発言等を挙げて述べているのですが、いかんせん迫力不足というか及び腰に見えてしまいます。もっとも、それは、日本ではまだ殺されたりするわけじゃないんだからこの程度の政権の圧力でビビったり忖度しないでもっと頑張れるだろうという形で報道側に返っていく話かと思います(映画「妖怪の孫」「分断と凋落の日本」で、ニューヨークタイムズの記者が指摘していることです:映画「妖怪の孫」についてはこちらで、「分断と凋落の日本」については2023年6月6日の記事で紹介しています)が。


東京新聞外報部 ちくま新書 2023年8月10日発行

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Zero to IPO 世界で最も成功した起業家・投資家からの1兆ドルアドバイス

2023-10-01 15:48:19 | 実用書・ビジネス書
 ベンチャービジネスを起業し拡大し上場させるに至るまでの経営者の心得について語る本。
 起業家の資質について、「成功者」としてもてはやされる起業家と「詐欺師」と面罵される人物は紙一重(日本語版序文:朝倉祐介、9ページ)、これから10年間仕事しかしなくていいと思えなければこの道を進むのは考え直した方がいい(41ページ)などと書かれていて、自分も自営業者である身には考え込まされます。
 企業文化について、最近の企業の大半がコアバリューを策定するが、最も重要なのは経営者が有言実行しなくてはならないことだ、社員はあなたが掲げたことではなくあなたの行動を見ている(160~161ページ)というのも、なるほどです。労働者側の弁護士としての経験では、ご立派な社是等を掲げながら労働者(従業員)に対して全然違うことをしている経営者をよく見ます。
 第13章まであるのですが、一番長いのが「資金調達」の第4章で、さらに「大失敗」の第9章で、ビジネスにおける唯一の許されざる罪は資金の枯渇である(241~242ページ)と追い打ちをかけています。経営者としてもっとも厳しく苦しいのはやはりそこですよね。
 読んで一番有益だったのは第7章の「リーダーシップ」かなと思います。「宛先」が2つ以上あるメールだけでなく自分がCCに入っているメールもすべて消す、午前と午後に各1時間ほどメールを遮断する、そうすれば受信箱でどんな問題が持ち上がっていたとしても自分がメールを見る頃にはたいていすでに解決している(182~183ページ)って、素晴らしい。個人自営業者の私にはマネできないことではありますが。


原題:Zero to IPO
フレデリック・ケレスト 訳:酒井章文
翔泳社 2023年4月17日発行(原書は2022年)

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