伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

ガンディーの真実 非暴力思想とは何か

2023-10-29 20:52:29 | 人文・社会科学系
 ガンディー(モハンダス・カラムチャンド・ガンディー)の青年期からの日常生活における食(菜食主義)、衣服(伝統的な衣装・スーツ→クルタ・腰布)、性(禁欲)、宗教、家族関係(長男との対立、妻との関係)について検討し、それらとガンディーの集団的不服従運動や非暴力思想の関係を論じた本。
 著者は、ガンディーの54年の政治的生涯のうちドラマティックな抗議行動が行われていた期間は合わせて4年に満たなかったと強調し(60ページ)、それ以外の期間は何をしていたのだろうかと問いかけ(52ページなど)、目立たない日常の諸実践が大規模な集団的不服従運動を成功に導くための欠かせない重要な自己修練だったと述べています(61ページ)。
 しかし、著者の分析も、ガンディー自身の文章や他の者の文章等に表れたガンディーの長い人生のいくつかの局面での言動を捉えてのもので全体を通じた分析と言える保証もなく、その日常的な実践に常人には理解しがたい点や不快に思える点があるとか一貫しているとか矛盾しているということにどれほどの意味があるのか、長男との関係がうまくいかなければ、妻が複雑な思いを持っていれば(それも最近発見された妻の日記でガンディーが釈放された日の記載に、会えて喜んだと書かれているが、同時に「泣かなかった」「とても弱っているように見えたが」と書かれていることが根拠とされている:244~249ページ)ガンディーの「非暴力思想」の評価を下げるべきなのか、私は疑問を持ちます。
 ガンディーも人間として限界があり過ちを犯したり判断を誤ることは当然にあるし現実にあった、その判断も理論だけで行ったのではなく、理論的には一貫しなくても当時の情勢と条件の下で運動上の効果を検討評価して戦略的あるいは戦術的に行って来たはずで、それが功を奏した場面もあれば、うまくいかなかった場面もあるという、そのことをあるがままに見て評価しそこから学べばいいということだと思います。
 著者は「はじめに」で「読者にとって最もショッキングな事実は『平和の使徒』として有名なガンディーが生涯に四度も従軍していたことであろう」(18ページ)と述べています。ガンディーの従軍の事実は特段隠されているわけでもなくガンディー自身「自伝」で明記している、読者が「自伝」を読んでいれば知っていることです。こういった書き方がなされているのですから、「ガンディー研究を一新する新鋭の書!」(表紙カバー見返し)なら当然に従軍の事実と非暴力思想の関係を解明してくれるのかと期待したのですが、インド人がイギリスに忠誠心を示せばイギリスが南アフリカの人種差別撤廃に動いてくれると考えていた(142~143ページ)とし、公益のための奉仕であるが命がけの体験から個人的・私的な願望を充足させることと両立しないと考え、ブラフマチャリア(禁欲)の決断に至ったとか2度目の従軍活動(1906年)の後にイギリス政府に裏切られ不服従を思いつき演説した(142~146ページ)という以上のことは書かれていません。こと1906年のできごとに関しては動機なりきっかけとして説明できる部分もあるのでしょうけれども、理論的関係の説明・解明には至っていませんし、その後ガンディーが第1次世界大戦で従軍していることをどう考えるべきなのか何も語られていません。
 ガンディーについて、日常生活面を中心に新たな事実を知り、通常とは異なる視点の存在を知るという点で勉強になりましたが、サブタイトルと表紙カバー見返しの記載から持った期待にはあまり応えていただけなかったかなと思いました。


間永次郞 ちくま新書 2023年9月10日発行


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