伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

瑠璃でもなく、玻璃でもなく

2008-11-07 21:04:59 | 小説
 既婚者の同僚森津朔也と不倫の関係を続け朔也に妻と離婚して自分と結婚するよう求めながら別の広告代理店勤務の男ともつきあいつつ、自分の方が妻より愛されているのだから離婚しても当然、自分ばかりが犠牲を強いられているなどと考えて早期の結婚を求め続ける、典型的に自分のことしか見えてない身勝手な不倫女矢野美月と、朔也と結婚して寿退社して専業主婦に収まり代官山の料理教室に通い優雅な日常を送りながら日常生活に不満を感じる森津英利子の2人が、不倫、略奪婚、起業自立の末にそれぞれの幸せをつかむという小説。
 私が男の視線で見るからかも知れませんが、これほど自分しか見えていない主人公が、不倫相手に離婚をさせて、すぐにできちゃった婚して、夫の両親と同居して子どももでき幸せになるという展開は、ビックリしました。普通に行ったら、朔也はいつまでたっても妻と離婚せずという展開でしょうし、離婚して美月と結婚するならそういう若い不倫相手に平気で乗り換える男はまた次の若い不倫相手を作るというのが現実にも、そして小説でもありがちな展開ですが、そうしないで不倫をして言いたい放題の美月が幸せになる、朔也も浮気もしないというのは、斬新というか。MOREの読者層では、美月のような主人公に共感するのが多数派なんでしょうか?
 しかも朔也が離婚を決意したきっかけが美月が広告代理店の男と軽井沢旅行に行ったこととなるわけですから、不倫はする、二股を掛けるというのが幸せに通じるというお話です。
 それでいて、英利子が離婚されるのは、夫の両親との同居を拒み、子どもができなかったからですし、美月の幸せは夫の両親と同居して早く子どもを作ったことに支えられているのですから、専業主婦は夫の家に入り早く子どもを作りましょうと、意外にもかなり古風な価値観も見えます。
 で、離婚された英利子は、ここでも登場するまわりの女に手当たり次第に声をかけてモノにしたら距離を置く広告代理店男と一度寝て支援を受けて起業して幸せになり朔也も美月も恨まないという結論になって、朔也も美月も堂々と幸せって結論。
 何でしょね、この小説。わがまま放題に不倫・略奪愛で幸せになれる、妻も別れた方が幸せだったって、不倫のすすめでしょうか。でも結婚したら夫の親の言うこと聞いて子どもを作るのが幸せよって。両親との同居を求める朔也、手当たり次第に手をつけては捨てる広告代理店男が最後まで好感を持って描かれていることも合わせ、結局はかなり男に都合のいいお話なんですが、こういうのを好むほどMOREの読者層って保守的になったんでしょうか。ちょっと意外です。
 そしてこの小説の最初から9割は、要約すれば「隣の芝生は青い」の一言に尽きます。美月も英利子も、読んでいて呆れてイヤになるほど、他人のことをうらやみ自分の現状は物足りないと考え続け、不満を言い続けます。これが略奪婚の後、ぽんと5年たって、5年後でもまだ友人の変化を知りまだうらやむ姿が出てきますが、それでもなぜか最後は今の自分が幸せと考えるようになります。ここが唐突で説得力がありません。ここまで他人のことばかりうらやみ続けた人物が最後に他人をうらやまなくなるならその考えを変えるきっかけなり経緯こそ重要だと思うんですが、そして美月は結婚後落ちつくまでの思い、英利子は起業後軌道に乗るまでの苦労こそポイントだと思うのですが、突然「あれから5年がたった」で全部すっ飛ばされます。面倒くさくなったんでしょうか。読んでて拍子抜けしました。
 それに、朔也が不貞行為を働いて一方的に別れると言っているのに(しかも別居後すぐだし朔也は大企業勤務なのに)弁護士を立てながら請求した慰謝料額が200万円って・・・英利子が絶対別れないと言えば朔也からは離婚できないという交渉上圧倒的に有利な状況で請求額で200万円なんて、業界人としては大変驚きました。


唯川恵 集英社 2008年10月10日発行
MORE2005年5月号~2007年10月号連載
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする