漢字を学び心を育む

2回目のチャレンジで漢検1級に合格。
現在、ペン習字に傾倒。
硬筆書写検定1級が欲しいです

人を愛するということ

2012-04-15 16:50:50 | ◇1級:文章
北海道ニセコ町有島記念館

 
 愛と憎みとは、相反馳する心的作用の両極を意味するものではない。憎みとは人間の愛の変じた一つの形式である。愛の反対は憎みではない。愛の反対は愛しないことだ。だから、愛しない場合にのみ、私は何ものをも個性の中に奪い取ることが出来ないのだ。憎む場合にも私は奪い取る。それは私が憎んだところの外界と、そして私がそれに対してったおくりものとである。愛する場合に於ては、例えば私が飢えた人を愛して、これに一飯をったとすれば、その愛された人と一飯とは共に還って来て私自身の骨肉となるだろう。憎しみの場合に於ても、例えば私が私を陥れたものを憎んで、これにばりを加えたとすれば、憎まれた人も、その醜い私のばりも共に還って来て私のに巣喰うのだ。

惜みなく愛は奪ふ/有島武郎




   
有島 武郎
(ありしま たけお 1878年3月4日 - 1923年6月9日(満45歳没))

 小説家 東京小石川出身。大蔵官僚の有島武の長男。学習院中等科卒業後、農学者を志して札幌農学校に進学、キリスト教の洗礼を受ける。1903年渡米。ハバフォード大学院、その後、ハーバード大学で歴史・経済学を学ぶ。ハーバード大学は1年足らずで退学する。帰国後、志賀直哉や武者小路実篤らとともに同人「白樺」に参加。1923年、軽井沢の別荘(浄月荘)で波多野秋子と心中した。


代表作

『カインの末裔』(1917年)
『惜みなく愛は奪ふ』(1917年、評論)
『生れ出づる悩み』(1918年)
『小さき者へ』(1918年)
『或る女』(1919年)



 相反馳  あいはんち
 擲     なげう
 遣     や
 ばり    罵詈
 衷     うち



有島記念館の建つニセコ町は、わたしの生まれ育った故郷の隣町。
国道5号線沿いにある「有島」という地名は高校生の時から知っていた。
同級生がそこに住んでいて足繁く通ったから。
小説は読んだことはなかったが、有島武郎の名だけはその頃から知っていた。
でも、地名の「有島」が小説家の「有島武郎」と繋がったのは大人になってから。
有島記念館
http://www.town.niseko.lg.jp/goannai/arishima.html
有島記念館の建つニセコの地は、有島の出世作「カインの末裔」の舞台ともなった所です。また、父から引き継いだ広大なニセコの農場を、土地共有という形で小作人に無償で解放し、当時の社会に大きな反響を呼んだことでも知られています。



 
 愛は惜しみなく奪う

 「愛は惜しみなく与う」(トルストイ)をもとにした言葉。人を愛するということは、相手のすべてを奪って自己のものにしようとすることである。有島武郎が評論「惜みなく愛は奪ふ」で主張。 <コトバンク>より


慧眼である。

有島のこの有名な一文を読んでいるととても他人事とは思えない。
愛は相手を独占すること。相手を自分色に染めること。
相手を憎んで別れるのが、一番ベストな別れだと思っていたがとんでもない間違いだった。
愛するという感情がないと、”憎しみ”なんて湧いてきやしない。
実際、心が離れた相手と別れるときには何も感情が湧いてこなかった。

クリスチャンとして洗礼を受けた身での人妻との無理心中。
不倫と自害(縊死)。
かなり罪深いことだったのだろうと察する。


ちなみに同じクリスチャンである三浦綾子は、人を愛することについてこう語っている。


 ”ほんとうに人を愛するということは、その人が一人でいても生きていけるようにしてあげることだ。”