漢字を学び心を育む

2回目のチャレンジで漢検1級に合格。
現在、ペン習字に傾倒。
硬筆書写検定1級が欲しいです

3ケチ

2014-01-11 19:07:16 | ◇1級:文章
 私は丁度そのとき、道を歩きながら、その少女のことを胸に描いていたところだったので、ハッとした。あの薔薇の蕾のように愛らしい少女を、帆村に紹介かたがた引張りだした今夜の仕儀だった。それはこの場末の町にある一軒のカフェの女だった。カフェの女とは云いながら、カフェとは似合わぬ姫君のようにたけた少女だった。
ゴールデン・バット事件/海野十三




海野 十三
(うんの じゅうざ 1897年12月26日 - 1949年5月17日(満51歳没))

 日本におけるSFの始祖となった小説家。徳島市の医家に生まれ、早稲田大学理工科で電気工学を専攻。逓信省電気試験所に勤務するかたわら、1928(昭和3)年、「新青年」に『電気風呂の怪死事件』と名付けた探偵小説を発表して小説家としてデビュー。以降、探偵小説、科学小説、加えて少年小説にも数多くの作品を残した。

代表作

『放送された遺言(遺言状放送)』(昭和2年)
『空襲下の日本』(昭和8年)
『十八時の音楽浴』(昭和12年)
『千年後の世界』(昭和14年)
『宇宙の迷子』(昭和22年)



 臈たける  ろうたける・・・・・・ 洗練された美しさと気品がある。特に、女性にいう。


大辞林では、

〔「労(ろう)たし」の「ろう」を「たける」の「ろう()」と解してできた語か〕


デジタル大辞泉では、

《「らう(労)いたし」の音変化》いとおしい。かわいらしい。


と載っています。


最近学習した漢検1級合格ノートの訓読みで「臈闌けた」が出題されていました。(ええ、もちろん読めませんでした..)
ちなみに、(艹部) と 臈(肉部) と 臘 はすべて同字です。

臈の熟語では、上臈ジョウロウ(女中の高位者)と下臈ゲロウ(身分の低い女官) がありますが、
臈纈ロウケチ という言葉はご存知でしょうか。染織技術で上代三纈(さんけち)の一つです。
三纈(さんけち)とは、現在のろうけつ染にあたる臈纈(ろうけち)と絞り染の纐纈(こうけち)、板締め絞りの夾纈(きょうけち)の三つの古代染色法のことをいいます。



本日、天気が良かったので、千歳市の図書館まで足を延ばしてみました。

『日本の染織1/松本包夫 著』 より

  ろうけち Wax-resist Dyeing(蠟防染)
こんにちいう蠟防染である。古代の臈纈は、版型に蠟をつけて帛面に押し、防染したものが多い。技法上、色数に制約があるので夾纈ほど流行はしなかったが、版型の押捺角度を適宜に変えた、面白味のある作例が多い。

草花文臈纈紫綾(正倉院)


  こうけち Tie-resist Dyeing(絞り染)
いわゆる絞り染。技法が簡単なだけに文様も素朴なものがほとんどで、支配者の専有物主体の正倉院裂中では重用されていないが、民衆間ではかなり愛用されていたのではなかろうか。

赤地七曜文纐纈絁(正倉院)


  きょうけち Clamp-resist Dyeing(板締染)
いわゆる上代三纈の代表格。板締染の一種だが、多彩で大型の文様を量産できる特性がある。唐代の新技法で、正倉院裂中にも遺例が多く、その特性よりして、大型で華麗な唐花文の流行に大きな役割を果たした。

山水夾纈屏風(正倉院)




全て1級配当の漢字ですね。
覚えておいて損はないかと思います。



YaYa....

2013-05-03 16:31:51 | ◇1級:文章
 
 墻根の草萌えいづるころより ヤヤ 春深く 霞みわたりて
『徒然草』



    
[副詞]イヤイヤ(弥弥)の約
  1. 大小、長短、上下、軽重などのものごとの程度を表す。
    いくらか。少し。かなり。
  2. ものごとのゆっくりとした進行を表す。






 いといたく思ひしめりて ヤヤ もすれば 花の木に目をつけて眺めやる
『源氏物語』




[副詞]
  1. ややもすれば。ともすれば。どうかすると。ひょっとすると。
    とかくそのような状態になりまやすいさま。
    放任しておくとそのような状態になりやすい。
  2. 「ともすれば」は、無意識のうちに、ひとりでにある状態になりやすい。
  3. 「ややもすれば」は、ある状態になりがちであるという程度が「ともすれば」より強い。







  「やや」は、一級の訓読み。

  「やや」は、準一級の表外読み。

  「やや」は、一級の表外読み。


最初気付きませんでしたが、「動」は、「ややもすれば」限定のようですね。
実は、この他にも「ヤヤ」の読み問題で出題されたものがありました。


 日本鉄道会社の新線路は今や都府の半ばを通じて、
         汽笛の声 盛んなり

須藤南翠『緑簑談』


これは、難しいですね。
感覚で読むしかないでしょう。

ついでに、「やや」と読む漢字をすべて並べてみました。


 
 
 
 
 
 
 
 
 



いろはにほへと ちりぬるを

2012-07-12 18:19:09 | ◇1級:文章
 
 馬は旋風の如く奔りて、我前を過ぎぬ。幣の如く束ねたる薄金はさらさらと鳴り、彩りたる紐は鬣と共に飄り、蹄の觸るゝ處は火花を散せり。かゝる時彼鐵板は腋を打ちて、拍車に 釁る と聞く。群衆は高く叫びて馬の後に從ひ走れり。そのさま艫打つ波に似たり。けふの祭はこれにて終りぬ。

即興詩人/森鴎外訳





キン
ぬ(る)、ちぬ(る)、すきま、なかたが(い)、きず、きざ(し)



【解字】会意。爨+酉+分。爨は、かしぐの意味。かまどの祭りに、酒を供え、血をそそいで清める、ちぬるの意味を表す。

  1. ちぬ-る。いけにえの血を器にぬって神を祭る。また、その祭り。=衅
  2. ひま。
    すき。すき間。
    争いのいとぐち。また争い。仲たがい。
  3. きず。
    物のこわれたところ。さけめ。ひび。
    欠点。あら。
  4. あやまち。過失。
  5. 罪。罪過。とがめ。
  6. きざし。前ぶれ。
  7. うごく。ふるい動く。
  8. 香料を体にぬる。
    すすなどをぬって黒くする。






 ”ちぬる” という動詞も初めて目にしました。



白川先生によると、

 1.ものを切って、その刀などに血が付着すること。

 2.人の上から酒を注いで祓い清める → 祓除釁浴フツジョキンヨク
   ※死者の場合は、釁鬯キンチョウ という。

 3.礼器や兵器を制作したときに、牲血を以て祓う。 → 釁塗キント


酒の代わりに、牲血で祓い清めることもあったという。



1級頻出の熟語と四字熟語では、


 釁隙 キンゲキ  不和


 釁端 キンタン  争いのはじまり


 三釁三浴 サンキンサンヨク  相手を大切に思う心。





--
 キョク すくう

象形。左右の手を合わせた形。左右の手でものをもつ意。臼を匊の古文とする。臼は前方にものを抱きかかえる形。匊は掬いとるような形をいう。

 1 みぎひだりの手、両手でものをもつ。
 2 すくう、両手ですくいとる。
 3 挙と通じ、あげる。


臼を半分に切ったような字で形成される字を拾ってみた。



 

 輿

 

 嶼 欅 襷 歟

 叟 艘 溲

 臾 腴 萸 諛

 攪 鱟 鷽 黌

 釁 爨


※常用漢字--興
 準1級--攪、輿
 上記以外は全て1級配当。



受検者泣かせの画数が多く難解な字のオンパレード。

特に、 は、29画です。

飯盒炊爨 三世一爨 も抑えておいた方がいいでしょうか。




常用漢字では、興 の一字しかありませんが、旧字になると下記の五字が存在します。


 覚(覺)
 学(學)
 挙(擧)
 与(與)
 誉(譽)





昭和という時代(3)

2012-06-14 09:09:36 | ◇1級:文章
 
 湯タンポは翌朝までホカホカとあたたかかった。自分の湯タンポを持って洗面所にゆき、祖母に栓をあけてもらい、なまぬるいそのお湯で顔を洗うのである。

父の詫び状/向田邦子







ゆたんぽ
湯湯婆

湯湯婆と当てる。「たんぽ」は、「湯婆」の唐音。



 豪雪の寒村育ちのわたしはもちろん使っていました。
向田さんと同じく、その残り湯で翌朝顔を洗っていたと思います。
そして、わたしが小さい頃は今よりもっともっと雪が多く寒さももっともっと厳しかったように思うのです。
冬、蒲団に入っても息が白くなるほどでした。
子供の頃の記憶と今大人になっての感じ方はもちろん違いはあると思いますが。




湯湯婆、猫と並んで冬の三大蒲団暖房具といえばこれ。



あんか
行火


正確には豆炭行火。
これも使っていましたが、湯湯婆も同じくらいの頻度で使っていたと記憶しています。
どう使い分けしていたのかはわかりませんが、たぶん母親の気分次第だったような気がします。
私的には、翌朝、洗顔のお湯に使える点から言っても湯湯婆に分があるように思いますが。



そのほかにも昭和の家庭を偲ばせるものとして、


 焜炉 こんろ

 懐炉 かいろ

 炬燵 こたつ

 囲炉裏 いろり

 卓袱台 ちゃぶだい


などがありますが、卓袱台といえば1級問題で卓袱(しっぽく)料理というのがありました。


しっぽくりょうり
卓袱料理



江戸時代、長崎地方から流行し始めた中国料理の日本化したもの。主として肉・魚介類を用いた各種の料理を大皿に盛って食卓の上に置き、各人取り分けて食べる。長崎料理。
(卓袱=食卓をおおう布。テーブルクロス)



もちろん、見たことも食べたこともありません。
でも、すごくゴージャスな感じがします。




昭和という時代(2)

昭和という時代


人を愛するということ

2012-04-15 16:50:50 | ◇1級:文章
北海道ニセコ町有島記念館

 
 愛と憎みとは、相反馳する心的作用の両極を意味するものではない。憎みとは人間の愛の変じた一つの形式である。愛の反対は憎みではない。愛の反対は愛しないことだ。だから、愛しない場合にのみ、私は何ものをも個性の中に奪い取ることが出来ないのだ。憎む場合にも私は奪い取る。それは私が憎んだところの外界と、そして私がそれに対してったおくりものとである。愛する場合に於ては、例えば私が飢えた人を愛して、これに一飯をったとすれば、その愛された人と一飯とは共に還って来て私自身の骨肉となるだろう。憎しみの場合に於ても、例えば私が私を陥れたものを憎んで、これにばりを加えたとすれば、憎まれた人も、その醜い私のばりも共に還って来て私のに巣喰うのだ。

惜みなく愛は奪ふ/有島武郎




   
有島 武郎
(ありしま たけお 1878年3月4日 - 1923年6月9日(満45歳没))

 小説家 東京小石川出身。大蔵官僚の有島武の長男。学習院中等科卒業後、農学者を志して札幌農学校に進学、キリスト教の洗礼を受ける。1903年渡米。ハバフォード大学院、その後、ハーバード大学で歴史・経済学を学ぶ。ハーバード大学は1年足らずで退学する。帰国後、志賀直哉や武者小路実篤らとともに同人「白樺」に参加。1923年、軽井沢の別荘(浄月荘)で波多野秋子と心中した。


代表作

『カインの末裔』(1917年)
『惜みなく愛は奪ふ』(1917年、評論)
『生れ出づる悩み』(1918年)
『小さき者へ』(1918年)
『或る女』(1919年)



 相反馳  あいはんち
 擲     なげう
 遣     や
 ばり    罵詈
 衷     うち



有島記念館の建つニセコ町は、わたしの生まれ育った故郷の隣町。
国道5号線沿いにある「有島」という地名は高校生の時から知っていた。
同級生がそこに住んでいて足繁く通ったから。
小説は読んだことはなかったが、有島武郎の名だけはその頃から知っていた。
でも、地名の「有島」が小説家の「有島武郎」と繋がったのは大人になってから。
有島記念館
http://www.town.niseko.lg.jp/goannai/arishima.html
有島記念館の建つニセコの地は、有島の出世作「カインの末裔」の舞台ともなった所です。また、父から引き継いだ広大なニセコの農場を、土地共有という形で小作人に無償で解放し、当時の社会に大きな反響を呼んだことでも知られています。



 
 愛は惜しみなく奪う

 「愛は惜しみなく与う」(トルストイ)をもとにした言葉。人を愛するということは、相手のすべてを奪って自己のものにしようとすることである。有島武郎が評論「惜みなく愛は奪ふ」で主張。 <コトバンク>より


慧眼である。

有島のこの有名な一文を読んでいるととても他人事とは思えない。
愛は相手を独占すること。相手を自分色に染めること。
相手を憎んで別れるのが、一番ベストな別れだと思っていたがとんでもない間違いだった。
愛するという感情がないと、”憎しみ”なんて湧いてきやしない。
実際、心が離れた相手と別れるときには何も感情が湧いてこなかった。

クリスチャンとして洗礼を受けた身での人妻との無理心中。
不倫と自害(縊死)。
かなり罪深いことだったのだろうと察する。


ちなみに同じクリスチャンである三浦綾子は、人を愛することについてこう語っている。


 ”ほんとうに人を愛するということは、その人が一人でいても生きていけるようにしてあげることだ。”




眠る盃

2011-09-24 15:23:29 | ◇1級:文章

 
 彼らは瞞着した皮肉を浮べながら、酒舖から酒舖へ蹣跚として よろ めいていつた。が、彼らの頭は夜が来ると一様に冴え渡つた。

碑文/横光利一









ソウロウ
よろめ(く)

蹌踉

  1. 足元のたしかでないさま。よろめくさま。
  2. 誘惑にのる。浮気をする。





 俗にいう 『 よろめきドラマ 』 は、『 蹌踉きドラマ 』 と書きます。


しかし今回わたしが注目したのは、音読みの「ソウロウ」の方。
 「ソウロウ」 で思い浮かべるのが、
司馬遼太郎の小説、幕末における土佐藩・山内豊信を書いた「酔って候」です。
「酔ってございます」とか「酔っておいでになります」という意味合いでしょうか。

でも、「蹌踉=よろめく」という言葉を憶えてしまうと、

 「酔って蹌踉」

の方がシックリくると感じませんか。

それとも、酔ってヨロメクのは、「酔歩蹣跚(すいほまんさん)」の専売特許なのでしょうか。笑
ちなみにgoo辞書では、【蹌踉めく/蹣跚めく】の2つがあるみたいです。



--
誤謬で思い出したことがあります。

 昔とったキネヅカ

杵塚だと、つい最近まで思っていました。
「づか」という漢字がこれしか思い浮かばなかった。と言った方が正しいのかもしれません。
恥ずかしながら諺の正確な意味も把握していませんでした。
今思えば、「杵の墓」というのも変だなと感じますが。。

正解は「杵柄」なんですが、「柄」という字、準1級の検定で「権柄けんぺい-ずく」がどうしても思い浮かばなかった悔しい字でもあります。





古典に親しむ -副詞

2011-09-12 19:46:38 | ◇1級:文章


 副詞

 品詞の一つ。自立語で活用がなく、主語・述語にならない語のうち、主として連用修飾語と用いられるもの。状態副詞(たちまち・のんびり・ちらちら)、程度副詞(もし・あたかも・決して)などに分けられる。





 読み・書きの総合演習として、最後に難関の文章題が大きく立ちはだかっている。200点満点の30点配点なので結構なウェイトを占める。出題は、明治以降の文豪である 田山花袋、中島敦、森鴎外、中江兆民、芥川龍之介などの作品から引用されるが、すぐさま「言葉を知らない」ことに愕然とさせられる。名作を揃えた”Yonda?パンダ”でお馴染みの『新潮文庫の100冊』なんて殆ど手にしたことないわたしのことですから結構キツく感じます。




中でも厄介なのが、「副詞」

読むのはもちろんのこと、書けなければいけません。





 蓋し  けだし
 而も  しかも
 亦   また
 豈   あに
 将に  まさに
 竟に  ついに
 嘸   さぞ
 安んぞ いずくんぞ
 敢えて あえて
 仮借  あたら
 浦めて はじめて
 曾て  かつて
 就中  なかんずく
 偶々  たまたま
 稍   やや
 偖   さて、つらつら
 恰も  あたかも
 愈   いよいよ
 憖い  なまじい
 寧ろ  むしろ
 霎   しばし
 曩に  さきに
 些か  いささか
 咸く  ことごとく
 況や  いわんや
 寔に  まことに
 亟   しばしば
 苟も  いやしく
  畏くも かしこくも




その他にも、、


 雖も  いえども 連語 
 如く  ごとく  連語
 這の  この   連語
 所謂  いわゆる 連語
 爾   その   連語
 許り  ばかり  助詞
 杯   など   助詞
 序で  ついで  名詞
 尤も  もっとも 名詞
 噫   ああ   感嘆詞
 茲爰啻 ここ   接続詞





漢検「一級」に挑戦するのは、自分の漢字力、つまり国語(日本語)の世界を充実することなのであり、より文化的に向上する生活を目指した生涯学習の一階梯である。

   『漢検協会 完全征服 ―漢字は生涯の友―』





ええ、もちろん信じていますとも。







--
一昨日、親類の結婚式で13年振りに第2の故郷である旭川を訪れた。
旭川駅は改装中で当時の俤を残していませんでしたが街並は以前のままでした。
買物公園、大雪山、石狩川と澄んだ空、優佳良織 、三浦綾子、そしてラーメンの梅光軒・・・

結婚式は教会で行われましたが、賛美歌を斉唱する女性信者たちの美しい歌声に思わず涙が零れた。
旭川でキリスト教言えば、神父が自らの命と引換えに乗客の命を救う 三浦綾子の「塩狩峠」が有名です。
ここでもテーマは、「愛」です。

『新潮文庫の100冊』の一冊に入っています。





札幌への帰り道、立ち寄った砂川のSOMES.(皇室御用達)

わたしは貧乏なので、読書青年になろうと↓を購入。
https://www.somes.co.jp/store/products/detail.php?product_id=406

昭和という時代(2)

2011-08-29 23:58:23 | ◇1級:文章
 
 食べ終えて、祖母に手を拭いてもらってから、洗面所横の小部屋をのぞく。顔中をシャボンの泡だらけにした父が、母の鏡台の脇につるした かわと で剃刀を研いでいる。

『海苔巻きの端っこ』父の詫び状/向田邦子








 かわと=革砥



昔、床屋のおじさんがよく研いでいましたね。




 妻が向田さんのファンだったことから、わたしも感化され屢読むようになった。
不慮の事故で急逝してから、この夏でもう30年が経ちます。
わたしの父と同じ昭和4年生まれですから存命なら82歳になるのでしょうか。

 「昭和の達人 向田邦子」

東京山の手中流階級のお嬢様。(父は保険会社支店長)
戦後のキャリアウーマンの先駆者、そしてかなりの才媛である。
「家」を大事にし「古い言葉」を「昭和の言葉」を頑なまでに大切にした。


山本夏彦は著書の中で、”向田邦子は突然あらわれてほとんど名人である”と大のお気に入り。
「七色(なないろ)とんがらし」と書いて、「七味(しちみ)とうがらし」を決して許さず、
「風呂あがり」ではなく「湯あがり」に拘り続けたと邦子を絶賛している。



向田邦子を読むと懐かしい昭和の言葉が随所に鏤められている。



 かや(蚊帳)
 ちゃぶだい(卓袱台)
 おひつ(お櫃)
 おむすび
 おこうこ(たくあん)
 瀬戸物
 寝押し
 お出掛け
 よそゆきの洋服(余所行き)
 おみおつけ(御御御付)
 なかんずく(就中)
 字引き
 これは寝過ぎた、しくじった。(兎と亀)
 ベソをかく
 差義長(さぎちょう)
 注連縄(しめなわ)
 うわばみ(蟒蛇)
 剣呑(けんのん)
 ご不浄
 蝦蟇口(がまぐち)
 たち(質)
 割烹着(かっぽうぎ)
 はめ殺し窓





  カレーとライスが別の容器で出てくるのがカレーライス。ごはんの上にかけてあるのがライスカレーだという説があるが、私は違う。
金を払って、おもてで食べるのがカレーライス。
 自分の家で食べるのが、ライスカレーである。厳密にいえば、子供の日に食べた、母の作ったうどん粉のいっぱい入ったのが、ライスカレーなのだ。


『昔カレー』父の詫び状/向田邦子






なんだか、涙がでてきます。

全くもって同感です。
昔はルーではなく、小麦粉と片栗粉とカレー粉を混ぜて作っていました。





向田邦子は、 ”昭和” を生きてきたオンナです。
決して ”西暦” のオンナではありません。





昭和という時代
http://blog.goo.ne.jp/sh_tech/e/36068c45a77ef95ef78cb85a873dbdb0

サラドはお嫌いですか。

2011-08-27 18:45:54 | ◇1級:文章

  二人の若い紳士が、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲をかついで、白熊のような犬を二つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことを云いながら、あるいておりました。
「ぜんたい、ここらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」
「鹿の黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞もうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。くるくるまわって、それからどたっと倒れるだろうねえ。」
 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。


注文の多い料理店/宮沢賢治








ショ、ソ、ヒツ、
ひき、あし



【解字】象形。もと足と同形で、あしの形にかたどり、あしの意味。雅の省略体の牙を疋に誤り、雅の意味に用いる。疋を音符に含む形声文字に、胥・楚・疎・疏・礎・糈・蔬・醑などがある。

  1. あし。
  2. ただしい。⇒雅。
  3. ヒキ。匹
  4. 古くは銭十文を一疋とし、後には二十五文を一疋とした。
  5. 一疋は、布二反をいう。






 ご存知、「雨ニモマケズ」でお馴染みの宮沢賢治先生。
東日本大震災被災者を元気付けるためにも、花巻市出身の宮沢賢治が注目されてるという。
「上を向いて歩こう」の坂本九さん、「こだまでしょうか」の金子みすゞさんもそうですね。


これを ”童話” というのには少し怖いし無理があるような気もします。
内容も、比喩というか諷刺が盛り込まれており小学生では難しいのかもしれませんね。
わたしも宮沢賢治を読んだのは恥ずかしながら30歳過ぎてからです。
娘の情操教育(笑)のため、蒲団に入って毎晩読み聞かせをしたのが最初です。
子供は毎晩楽しみにしていましたね。わたしが読んでるうちにいつの間にか眠りに落ちているんですが。
でも、とっても幸せな眠りだったと思います。
娘のお気に入りはこの本と『セロ弾きのゴーシュ』でした。




さて、



<Wikipedia>



  1. 古代日本において布帛2反(端)分を指して呼んだ。古代中国において使われた長さの単位両(=40尺)が転じたものという。
  2. 鎌倉時代から江戸時代にかけて用いられた銭貨の数え方(通貨単位ではない)で、100疋をもって1貫とした(この方式によると1疋=10銭(文)となるが、疋と銭(文)を併用する慣例はなかったとされている)。また、初期の頃には1疋に換算する銭貨の数は定まっておらず、『徒然草』には1疋=30文とされている。1疋=10銭(文)とされたのは犬追物に使う犬1疋(匹)の値段が10銭(文)だったからという伝説がある(『奇異雑談集』・『貞丈雑記』など)
  3. 匹とは助数詞のひとつで、動物(悪い意味では人間も)を数える単位。現在では一般的に「匹」を用いるのがほとんどであるが、古くは「疋」も用いられていた。




なるほど、疋が匹に変化した理由がわかりました。

字義についても、

 反物の単位 ⇒ 銭貨の数え方 ⇒ 動物を数える単位

へと遷移されたのでしょうか。


そういえば、準1級で学習した「匹夫の勇」や「匹夫匹婦」を憶えていますか。
あまり良い意味には使われていなかったような気がします。




1級的には、

「疋帛ヒツバク」 絹の反物。
「疋絹ヒケン」一疋ずつ巻いた絹


や、


「疋(ただ)しい」        ←これはないかも。。


というのも要チェックかもしれません。



基督

2011-06-08 22:01:06 | ◇1級:文章
 
 少女はそれにも関らず、西瓜の種を噛みやめては、時々涼しい眼を挙げて、卓の一方に面した壁をぢつと眺めやる事があつた。見ると成程その壁には、すぐ鼻の先の折れ釘に、小さな シンチュウ の十字架がつつましやかに懸つてゐた。さうしてその十字架の上には、稚拙な受難の 基督 が、高々と両腕をひろげながら、手ずれた浮き彫の輪廓を影のやうにぼんやり浮べてゐた。少女の眼はこの ヤソ を見る毎に、長い マツゲ の後の寂しい色が、一瞬間何処かへ見えなくなつて、その代りに無邪気な希望の光が、生き生きとよみ返つてゐるらしかつた。が、すぐに又視線が移ると、彼女は必吐息を洩らして、光沢のない黒 繻子 の上衣の肩を所在なささうに落しながら、もう一度盆の西瓜の種をぽつりぽつり噛み出すのであつた。
少女は名を宋金花と云つて、貧しい家計を助ける為に、夜々その部屋に客を迎へる、当年十五歳の 私窩子 であつた。秦淮に多い私窩子の中には、金花程の容貌の持ち主なら、何人でもゐるのに違ひなかつた。が、金花程気立ての優しい少女が、二人とこの土地にゐるかどうか、それは少くとも疑問であつた。


南京の基督/芥川龍之介






 シンチュウ  [真鍮] 
 基督     [キリスト]
 ヤソ     [耶蘇]
 マツゲ    [睫]
 繻子     [しゅす]
 私窩子    [しかし]







青空文庫からの引用ですが、1級の勉強してから改めて読むと芥川の良さがわかるような気がしてくるから不思議です。




芥川龍之介は基督教抜きには語れないと云います。


「私窩子」

 という言葉は初めて目にしました。


 淫売婦。売春婦。私娼。

「自分の棲家にいる娘」 所謂、売春宿にいる娘なのでしょうか。


「窩」といえば、「眼窩が窪む」しか思い浮かべることができません。






基督教に関する漢字を並べてみました。

全て漢字で書けなければ洗礼できません。笑



 ミサ
 いけにえ
 たっけい
 ぼうとく
 けいけん
 ざんげ
 おひつじ
 こうし
 イスラエル
 キリシタン
 天にまします我らの父よ













 ミサ    [弥撒]
 いけにえ  [生贄]
 たっけい  [磔刑]
 ぼうとく  [冒瀆]
 けいけん  [敬虔]
 ざんげ   [懺悔]
 おひつじ  [羝]
 こうし   [犢]
 イスラエル [以色列]
 キリシタン [切支丹]
 まします  [在す]







ちなみに難関大学で有名な「ICU」は、

国際基督教大学 (International Christian University)のことです。