鼻
クレオパトラの鼻が曲っていたとすれば、世界の歴史はその為に一変していたかも知れないとは名高いパスカルの警句である。しかし恋人と云うものは滅多に実相を見るものではない。いや、我我の自己ギマン は一たび恋愛に陥ったが最後、最も完全に行われるのである。
芥川龍之介 「侏儒の言葉」より
全文はこちら。↓
青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/158_15132.html
瞞
【解字】形声。目+(瞞-目)。音符の(瞞-目)マンは、丐メンに通じ、おおうの意味。まぶたでおおわれた目の意味を表す。
- くらい。目がよく見えない。
- だます。あざむく。くらます。「欺瞞」
欺瞞。
完全征服の問題に載っていました。
パスカルは全くわからないけど、芥川のこの一文はなかなか味わい深い哲学的なものだと思います。
芥川はこの中で、
『我我の自己欺瞞はひとり恋愛に限ったことではない。我々は多少の相違さえ除けば、大抵我我の欲するままに、いろいろ実相を塗り変えている。』
と書いていますが、なるほど真理ではないでしょうか。
ところで、瞞 も、酔歩 蹣 跚 スイホマンサン と同じ旁ですね。
目を覆うか足を覆うかの違いでしょうか。
似たような字で、車輛の 輛 などがありますが、「兩」は「両」の旧字でふたつを表しているので意味がまた違ってきます。