瀬渡の蔵

管理人・「瀬渡」のゾイドとたまに日常を綴った記録の保管庫

第一章ex 彼女の中の英雄

2016年08月14日 18時40分31秒 | 連載
東方大陸北東部でのキャンプにて。
「ミズホさん」
長い黒髪の女性が傍にいた女性に声をかけた。
エリカ・キサラギ
ZOITECの社長令嬢である。
「何でしょう、お嬢様?」
もう一人はZOITECの軍服を着た女性だった。
ミズホ・カシマ。
ZOITECの中でも最強部隊と謳われる[アージャーパラディン]の副隊長である。
「どうしてミズホさんは軍人になったのですか?」
「え!!」
思わぬ質問にミズホは戸惑った。
エリカ自身からまさか自分について質問をしてくるとは思っていなかったからだ。
「一体どうしたのですか、突然?」
「すこし気になっていたので、聞いてみたかったのです」
エリカを見ると体をそわそわとしていた。
「もしかして冷えてきましたか?それでしたら何か暖かいものを・・・」
「そういうことではありません。ただ、ミズホさんと何かお話をしたくてつい聞いたのです」
エリカは少し声を震わせながら話した。
そのことでミズホは理解をした。
これまでお屋敷という安全な場所にしかいなかったのが、今はいつ襲撃があるか分からないような場所にいることに不安を感じ始めている。
気丈にもエリカは、危険ながらも走破によるブルーシティの到着を希望した。
しかし、初めての外の世界でいろいろと知識はあってもまったく経験のない世界に追いやられるようにして飛び込んできた。
その不安を振り払うためミズホに話を振ったのだ。
「分かりました。その前に話が長くなるので紅茶を入れてきますね」
「はい。お願いします」
ミズホはテーブルの上のカップにティーパックを入れてお湯を注ぐと、エリカに差し出した。
「ありがとうございます」
「いえ。それではお話させていただきますね」
ミズホはふっと上を見つめた。
「あれはまだ8歳の頃でした・・・」



当時8歳のミズホは東方大陸南東部の小さな村で過ごしていた。
主に農業を中心とした、のどかな場所であった。
そんなあるとき、遠くの方から見たことのない巨獣が現れた。
エレファンダー。
象型の重武装ゾイドで対要塞戦を想定した大型機であった。
他にコマンドウルフインターセプターが8機。
正規軍のカラーリングではなく、野盗によるものであった。
村にもゾイドはあるものの作業用に改装されているため、戦闘用ゾイドと呼べる機体はいなかった。
村人が逃げまとう中、ミズホは逃げながら祈っていた。
『誰か!大好きな場所を守って!みんなの場所を壊さないで!お願い!!』
そう思った時に、爆発音が後ろから聞こえた。
誰もが村を攻撃したと思った。
だが、爆発したのは村の家々でなく野盗側のコマンドウルフ1体が煙を出しながら倒れた。
いったい何が起こったかわからなった。
そんな中で1人の村人が気付いた。
「あそこの黒いコマンドがやったのか・・・?」
指をさす方に目をやると、確かに黒いカラーリングをしたコマンドウルフが背部の長身の砲を野盗に向けていた。
「救援部隊なのか?いったいどこの?」
所属マークのない黒いコマンドウルフは次々と野盗のコマンドウルフに砲撃する。
カラーリング以外は野盗と同じのコマンドウルフインターセプターであったが、腕は大きく違っていた。
野盗たちは冷静さを失ったのか黒いコマンドウルフに砲撃するも全く当たらなかった。
一方の黒いコマンドウルフはほとんど動くことなく、一発で行動不能にさせていた。
一発の無駄弾を使わずに野盗のコマンドウルフをすべて行動不能にした。
その光景に「すごい・・・」とミズホは子供ながら口に出た。
パオオオォォォォォン!!
仲間がやられての怒りからかエレファンダーが甲高い咆哮をあげた。
「まずい!」
誰かが声を出した。
子供ながら何がまずいのかわからないミズホだった。
簡単なことだ。
コマンドウルフは高速戦闘用の軽量軽装備ゾイド。
対するエレファンダーは、対要塞攻略を念頭に置いた重装備型ゾイド。
黒いコマンドウルフには大型ゾイドを倒すことも可能なロングレンジライフルを装備しているとはいえ、並みの大型ゾイドを遥かに上回る装甲をしたエレファンダーを倒すにはかなりの時間がかかる。
持久戦となるのは必至であった。
そうなれば、コマンドウルフが不利になっていく。
いくら速度のある機体でも、一回でも動きを止められれば集中砲火を浴びる。
そう考えるのが一般的な考え方だ。
だが、黒いコマンドウルフは意外な行動に出た。
背部に併装されているビーム砲でエレファンダーの周りを砲撃しながら走り出したのだ。
着弾するたびに土が柱のように上がり、飛び散っていく。
それをもろともせずにエレファンダーも動き出した。
鼻先に付けられた60㎜ハイパーレーザーガンが応戦する。
それを華麗にコマンドウルフがかわしていく。
接近戦と呼べる距離まで詰められるとエレファンダーはグンと首を下げる。
鼻先のユニットからストライクアイアンクローを展開する。
おそらくエレファンダーのパイロットは「これで勝った」と思ったのだろう。
もしクローにかからなくとも一撃でこのエレファンダーを倒すのは不可能であった。
そうなれば後は各所の火器で動きを止めれば勝てる。
そう思っていただろう。
コマンドウルフがクロー攻撃範囲に入った瞬間に左足に狙いをつけた。
瞬間的に伸びた鼻だったがそれより早く、まるで読んでいたかのように黒いコマンドウルフがかわす。
だが、エレファンダーに次の手がある。
そう思っていた。
しかし、エレファンダーに次の手はなかった。
黒いコマンドウルフのロングレンジライフルの銃口はエレファンダーの口の近くにあるエネルギーパイプを狙っていた。
エレファンダーの唯一脆い部分。
そのために鼻や牙で守られている。
そんなピンポイントの部分を零射距離で狙っていた。
呆然とするエレファンダーのパイロットのことを知らず、黒いコマンドウルフはロングレンジライフルを放った。
断絶魔を上げてエレファンダーが崩れ落ちた。
その瞬間、すべての野盗を行動不能にした。

のちに分かったことだが、野盗達の使っていたゾイドの損傷は大体2週間くらいで修復するくらいの損傷であった。
エネルギーパイプを損傷したエレファンダーも後から来たZOITECの兵士がパーツ交換をするくらいで終わるほどの簡単なものであった。
黒いコマンドウルフのパイロットはゾイドを殺さず、最小限の攻撃で行動不能にしたのであった。



「というわけです」
「では、その黒いコマンドウルフの方に憧れて、ZOITECに入ったのですか?」
「いいえ、その機体がZOITECなのかは分かりません・・・」
「え!」
「そのコマンドのパイロットはコックピットを開けずにどこかにいってしまったのです。
その後に救助に来たZOITECの方に聞いても分からないと言われてしまって。
ですから、ZOITECに入ってその黒いコマンドを捜して、あの時のお礼を言おうと思っています」
「なんだか一緒なのですね、ミズホさんも」
「一緒、ですか?」
「私もシュウさんに助けられて、今ここにいます。
そしてシュウさんを見つけたら、この子と一緒にお礼を言うつもりです」
「そうですね、境遇は違えど恐ろしく似ていますね」
ふふ、と笑みをかわす二人。
「きっと見つかりますよ。ミズホさんの捜している人は」
「なんかそう思います。私も」




{あとがき}
初の寄り道~。
今回の話は、本編の寄り道と思って作ったのでex(エクストラ)という形にしました。
話の内容としてはミズホの過去ですね。
流れはベタでしたが、こういった話も悪くはないですね。
黒いコマンドのパイロット、だれなんでしょうね~?
あと余分な会話を削った結果、内容が短めだったこともexにした理由です。
今後も過去の話を入れていきたいと思います。
そんな感じでここまで。
最後までお付き合いありがとうございました。