ZAC2512年。
東方大陸南東部。
ビャクロクと呼ばれる村から2キロ離れた破棄された工場。
その中に1人の少年がいた。
「はぁ~。なんであんなゾイドに追われなくちゃいけないんだ・・・」
ぼやきながらも体は震えていた。
寒さではない。
つい先ほどまで追われていたのだ。
あるゾイドに・・・
45分前。
いつものように隣の町へ行こうとしていた。
今日は特別な日であった。
彼の誕生日である。
16歳になった。
東方大陸では16歳で大人として見られる。
まだ勉学に勤しみたい者は、高校へ。
働きたい者は就職へ。
それぞれの道を決め、歩んでいかなくてはならない歳であった。
少年=ハヤマ・ミナシロは、さらに勉強をするため高校への進学を希望していた。
そして今日、第一希望の学校の入試であった。
カバンに必要なものを入れ、フロートボードと呼ばれる乗り物に乗った。
ボード自体のマグネッサーシステムによって滑るようにして進んでいく。
時間もこのままで行けば、20分前に着席できていたはずであった・・・
学校のある町に到着する前に、街道にて巨大なゾイドが後ろから現れた。
ズンっと大きな音が近づいてくる事に気付いたハヤマが振り返った。
「ご、ゴジュラスギガ!!」
「ゴジュラスギガ」と呼ばれるゾイドは前傾姿勢で確実にハヤマを追っていた。
「なんで!どうして!いったいなんで僕を追ってくるの!!」
問いかけても答えてくれないのは分かっている。
思わず口に出していたのだ。
思わぬ事件にハヤマは、町から離れるようにして大きく道を逸れた。
こんな巨大ゾイドが町に急に現れたら確実に大パニックが起きる。
というのも、このゾイド。
軍以外で所持する人がほとんどいない希少な機体である。
接近戦では高い戦闘力を誇り、200トンもの巨体にも関わらず最高速度が180キロと機動力も優れている。
そんな怪物を町に入れない為、即座に廃工場へと向かうようにした。
工場に入り、そこから治安局に連絡する。
電話すればGPSで位置を自動で割り出してくれる。
後は治安局の方で助けてもらうことがベストだと思った。
その直感を信じて進むうちに廃工場が見えた。
岩の内部に埋め込まれるように作られたこの建造物に逃げ込めば、一応の安全は確保されるはずだった。
工場に入り、今度は階段を上った。
5Fまでの全力で上った割には疲れが少なかった。
それだけ必死だったのだ。
そして今に至った。
治安局に連絡してから、外が静かであった。
外を見ようにも怖さで見ることが出来なかった。
ただじっと部屋の奥で待っていた。
ふと気配を感じた。
周りを見回しても壁であったが確実に何かを感じたのだ。
怖さはあった。
しかし、それ以上に興味があってドアに手をかけた。
ドアを開けると・・・
反対側の部屋から割れていたはずの窓がオレンジになっていた。
ふと疑問に思うとオレンジの窓の奥から目らしき発光がした。
そして分かった。
「見つかった!!」
オレンジの窓はギガのキャノピーであったのだ。
急いで元の部屋に戻ろうとドアに手をかける前に、音がした
何かが破壊する音でなく、ウィィンと機械的な音であった。
するとオレンジの窓が一転、コックピットが現れた。
「え、え?」
なぜかギガは自分に乗ってほしいと言っているようであった。
すると、持っていた携帯端末から着信音がした。
電話だった。
「はい、ハヤマです。」
「ハヤマさんですか?治安局ですが・・・」
ようやく終わってくれたと思った。
しかし言葉が続き・・・。
「ビャクロクに向かおうとしている野良化したゾイドを確認したので・・・」
村にゾイドが向かっている?
それは直感で分かった。
野良化したゾイドが人を襲うことはほとんど無い。
が、一般的な考えであるもののかつて戦闘したことのあるゾイド関してはナワバリとして最適な場所だと理解しているのだ。
それが自分の故郷で起ころうとしている。
その後の内容を全く聞いていなかった。
それを阻止したい。
強い気持ちはあった。
しかし、今の自分は無力である。
頭の中でふとある方法が考えついた。
窓を見る。
まだギガはキャノピーを開いていた。
もし出来るのなら・・・。
一歩一歩、コックピットに近づいていく。
もうギガに対しての恐怖心は不思議となかった。
そして走りだして、ギガのコックピットに飛び乗った。
1度もゾイドを操縦したことはない。
しかし、操縦桿に手をかけた。
すると、キャノピーが閉まり、スクリーンに外の風景が写し出された。
マニュアルを取り出そうしたときに、写真が貼ってあった。
ギガの足元で笑っているZOITECの軍服を着た男であった。
知っている人ではない。
しかし、写真からの雰囲気で分かる。
このギガに多くの愛情を持っていたことを。
操縦桿からもギガの気持ちが伝わってくる。
この人に多くの愛情を受けていたことを。
「じゃあ、行こうか」
そう言ってハヤマは、自分の思いを操縦桿に伝えた。
その思いに応えるように、ギガが反転し村に向けて走り出した。
村に向かっている間に基本的な操縦について目を通していた。
基本装備のゴジュラスギガには火器が装備されていない。
だが、このような戦闘ゾイドに乗ったことのないハヤマにとって火器が無いことに不安があるものの、操縦についてはすぐに覚えられた。
また野良ゾイドとなれば、火器を装備していてもそれを指示するFCAが使えないため必然的に格闘戦となる。
そうなればギガにとって優位である。
(自分でもやれる!!)
そう思いながらハヤマはギガの操縦桿を強く握った。
そして、
「見つけた!!」
コンソールに野良ゾイドの表示が出ている。
数は5。
モニターをズームする。
機体はすべてコマンドウルフ
こちらに気づいたのだろう。
向かってくる。
距離が縮まっていく。
タイミングを見計らって尻尾でなぎ払おうとする。
そして、
「今だ!!」
必殺の一撃となるはずであった。
それが空を切る。
(かわされた?!)
野良だったら考えなしに突っ込んでいくところを散開した。
「戦闘について学習しているのか?!」
もう一度、尻尾で攻撃する。
まるでギガの攻撃を見透かされたかのように当たらない。
(どうして!)
今度はコマンドウルフからのコンビネーション攻撃。
それをなんとかかわしていく。
しかし、
ドン!!
コックピット内に衝撃が走った。
「何が?!」
一体のコマンドウルフからの射撃。
背部のロングレンジライフルが正確にゴジュラスギガを狙っていた。
「このコマンドウルフら、人が乗っているのか!」
ハヤマは気がついた。
野良のゾイドが射撃を、それもこんなに正確には通常使いこなせない。
その機動力からも傷は恐らくダミーであろう。
野良ゾイドだと思っていたハヤマに恐怖が襲ってくる。
これまで自分でゾイドを操縦したことがない中でゾイド乗りの乗った機体を相手にすることに、手も足も出ない事でじわじわと死の恐怖が忍び寄ってきていた。
ビィー!!ビィー!!
後方警戒のアラームが鳴る。
ハヤマが振り返ったころにはコマンドウルフが飛び掛かってきた。
『やられる!!』
目をつぶろうとした瞬間、ふとコマンドウルフが消えた。
左を見ると転がりながら倒れていた。
胴部の装甲が完全にひしゃげていた。
そこでハヤマは気がつく。
ギガが尻尾でコマンドウルフを撃破したことに。
すると、ギガが一吠えした。
「・・・そうだよね。ギガが戦う意思を見せているのに、僕が怯えていたらダメだね」
ハヤマは一回深呼吸する。
そして思い出す。
「ゾイドは操縦技術じゃない。心の通じ合いで動かす」
それを再認識して、コマンドウルフの群れを見渡した。
「残りは4機。こちらには射撃武装はない」
明らかにこちらが不利である。
いや。
「僕たちが不利だと思うから不利になる。
そうだよね、ギガ!」
ギガがもう一吠えする。
コマンドウルフがじりじりと後ずさりする。
その時、ギガが動く。
コマンドウルフは怯えている。
案の定、動けないためか射撃が始まる。
ギガが前かがみになると、正確なはずの砲弾を次々と華麗にかわしていく。
追撃モード。
ゴジュラスギガの最大の特徴であり、最大の武器。
この状態になると、大型機とは思えない機動性を発揮する。
とはいえ、この巨体をここまで完全にコントロールするには、今のハヤマでは出来るはずがなかった。
精神リンク。
今のハヤマとゴジュラスギガには強い絆がある。
それがここまで見事な操縦を行っていた。
先程までの動きと違い、ウルフのパイロットまで動揺しているのだろう。
狙いがどんどんと荒くなっていた。
「今だ!!」
ギガが踏み込む。
一気にコマンドウルフの群れの真ん中に飛び込み、牙と尾で3機を同時に撃破した。
残りは1機。
するとコマンドウルフが走り出すとスモーク弾を放った。
一気に視界が見えなくなる。
しかし、今のハヤマにはこの程度では動じなかった。
目を閉じ、一瞬息を殺した。
そして・・・
コマンドウルフが飛び掛かってきた。
だが、そこにギガはいなかった。
スモークが晴れるとギガの長大な尾が最後のウルフへと叩きつけた。
それはまるで相手の次の動きを把握していたかのようにハヤマがギガにジャンプをさせたのだ。
数分後に治安局が到着し、コマンドウルフの盗賊たちを連行していった。
「ハヤマ!!」
ギガから降りたハヤマに両親が駆け寄った。
「なんであなたがゾイドなんかに乗っているの!!」
息を切らしながら母親が怒鳴った。
当然だ。
受験を投げ出し、その上危ないことまでしていたのだから。
ハヤマが事情を説明しようとした時に、ひらひらと上から一枚の写真が落ちてきた。
ギガのコックピットにあった写真である。
その写真を両親が拾うと何か驚いているようであった。
一応、これまでの経緯を話した上でこう話した。
「さっきまで危ない事をしてごめんなさい。
けど、このギガと一緒に一人前のゾイド乗りになりたいと思っているんだ。
もちろん、受験できなかったからじゃなくて・・・」
そこまで言うとハヤマの両親が、
「そこまで言うならいいだろう。
ゾイドとの絆はそう簡単に切れないからな」
「けど、さっきまでのような危ない真似をするようなら逃げなさい。
生きて帰ってくることを第一に考えなさい」
何か納得したように許してくれた。
ハヤマは「なぜ?」と言おうとしたが、また怒鳴られるのではないかと思い言葉を飲み込んだ。
そして、次の日の朝にハヤマはギガと共に村を出て行った。
ハヤマが出て行った後、彼の両親が話していた。
「やはり、あのギガは分かっているのだろうな」
「ええ。ハヤマがあの人の子なのを。」
「いずれ話す事と思っていたが、こんな形とはね」
「大丈夫よ。あなたと血が繋がっていなくても、今度帰ってきた時には受け入れる強さがあるわ。
きっと」
{あとがき}
いきなりの展開で驚きましたか?
というわけでゴジュラスギガをメインにした連載「Howling」スタートです。
「Howling」は咆吼をイメージする方が多いみたいですが、調べると雄叫びが正しいです。
そのためギガのイメージにぴったりなのでこのメインタイトルにしました。
ちなみにギガはこんな感じ。
むぅ、スマホだと編集が難しいな。
また今度改めて撮影します。
それと、なんと主人公のハヤマ君のイラストもあります。
イラスト:うろろ氏
いろいろと注文を汲み取ってもらい、例によって遅ればせながらですが公開しました。
こちらも編集しないとな・・・
ちなみに「連載」もメインタイトルを変更します。
こちらは「咆吼」を意味する単語です。
Howlingは連載の後の話なので、所々で今の連載のネタバレがある・・・かも?
感じとしては/0やフューザーズのようなので、お楽しみに。
それでは、キャライラストを提供していただいたうろろ氏。
そしてここまで見ていただいた皆様、ありがとうございました。