Dr.keiの研究室2-Contemplation of the B.L.U.E-

【訃報】ラーメン界のパイオニア武内伸さん

悲しい訃報が入った。

前々から療養生活を送られていたラーメン・ジャーナリズムのパイオニア、武内伸さんが2008年7月13日に逝去されました。まずは心からご冥福をお祈りいたします。安らかにお眠りください。

参照

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武内さんは、僕にとって(年齢どうこうではなく)ラーメンの祖父的存在だった。父親的存在というよりは、祖父的存在だった。僕がラーメンに凝りはじめるきっかけを与えてくれた人というよりは、凝りはじめてから、彼の存在を知り、彼の偉大さを知り、なんとなく背中を見ていたっていう感じだった。(少し遠い存在というか、雲の上の存在というか・・・)

ラーメンの世界に入れば入るほど、武内さんの偉大さに気付いていった。武内さんは『ラーメン・ジャーナリズムの父』ともいえる方で、数々の名言をラーメン界の歴史に刻み込んでいった。ラーメン博物館の立役者としてもとても有名。ラーメンフリークで彼を知らない人はいないと言っていいほど。

新しいラーメンだけを追いかけるのではなく、色んなラーメンへのまなざしの重要性を説いていたのも武内さんだった。僕は、自称「ラーメンレトロマニア」だが、そういう視点を与えてくれたのも彼だった。彼の著書『ラーメン王国の歩き方』は、僕のバイブルとなったし、ラーメンの歴史や背景を教えてくれた教科書のような一冊だった。

2006年12月19日の記事でこの本について書きました。

いわゆる『ご当地ラーメン』なるものの存在を明るみに出したのも、やはり武内さんだった。今でこそスタンダードになった和歌山ラーメンや徳島ラーメンも、彼の貢献なくして、今の状況はないだろう。武内さんこそが日本各地のラーメンを全国に広めた張本人だった。

どんな世界であれ、その世界の開拓者は偉大だ。武内さんは、ラーメン界のパイオニアであった。「B級グルメ」の一つに過ぎなかったラーメンがこれほどまでに愛されるようになった背後には武内さんの存在がある。彼がいて、佐野さんがいて、そして今のラーメンジャーナリズム・メディアがあるのだ。

(*ただし、彼自身、故大門八郎さんという方の『ラーメンの本』という本から影響を受けており、彼以前のラーメン・ライターもたしかに存在している)

僕は彼の言葉が好きだった。超らーめんナビに掲載されていた武内さんのコラムは毎回とても楽しみにしていた。辛口コラムは実に面白かった。また、今のブロガーや評論家には書けない「歴史に裏打ちされたお店」の数々が紹介されていた。情報を垂れ流すのではなく、ラーメンの歴史そのものをしっかりとわれわれに示してくれた。

ラーメンフリークとしてのkei(ラーメンブロガーとしてのkei)も、武内さん(祖父的存在)と石神さん(父親的存在)の狭間で作られたような気がする。クラシックとニューウェイブの狭間と言ってもいいかもしれない。それはかつての記事でも書いたことだ。それくらい武内さんのスタンドポイントは確固としていた。明快だった。

武内さんがお亡くなりになり、一つの歴史の幕が下りようとしているようにも感じる。最近のラーメン界はなんか異様なほどに情報に振り回されすぎているようにも思える。ラーメン情報を生業にする人(副業にする人)が増えすぎたせいかもしれない。素朴でシンプルなラーメンを無視して、外見・ヴィジュアル・流行といった不安定な要素ばかりが目に付くようになってきた。僕を含めラーメンフリークの食べ方は尋常ではない。ネットが原因の一つかもしれないが、ラーメンを楽しむためにラーメンを食べ歩くというよりは、情報(画像や記事など)を集めるためにラーメンを食べ歩いているようにも思える。

僕もラーメンブロガーの一人として、そういう情報に追われている部分もある。けれど、武内さんの本を読み、そういう流行的情報に振り回されないで、自分の足と舌で素敵なラーメンを地道に探すことの楽しさを学んだ。武内さんはまさに自分の足と舌でラーメンを開拓したお方であった。

僕ももう一度自分を見つめなおし、ラーメンにどんな貢献ができるのか、ラーメンをどのように語るべきかを考えたい。ただ、はっきり言えることだが、武内さんのラーメンへの愛は、(一度もお会いしていないが)僕自身の中に入ってきた。彼の言葉や思いをしっかり胸に刻んで、もっともっとラーメンについて語っていきたいと思う。

「読み物としてのラーメン」をこれからもっともっと洗練させて、一人のラーメン論者として、ラーメンの素晴らしさを言葉にしていきたい。それこそが、武内さんの思いを受け継ぐということであるし、彼がわれわれに与えてくれた「精神」の伝承なのである。

最後に、平和主義の武内さんらしい一文を引用しておきたい。ラーメン=平和の象徴という考え方は極めて同感であるし、またこのことは絵本にもなったほどだ。

私にとって未知なるラーメン店に入るという行動は、秘境に挑む探険家のようにワクワクする。人の登山紀を見ても、実際に山に登ってみないと、その実感は分からない。・・・同じ土俵で比べたら、登山家にはたいへん失礼な話だが、ラーメンはいつでも手頃で、気軽に探検ができる。いたって平和で、小市民的な趣味だと思うが、どうであろうか?(武内. 1999.pp3-4)


PS.武内さん、僕も僕なりにラーメンを探求していきます。見ていてください。見守っていていください。いつか武内さんのようにしっかりとラーメンを語れる人間になりたいと思っています。

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