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記憶箱の中身

落下の王国

2009-09-23 16:59:21 | 映画の話



先日「The Fall」2006年を観た。プリンターのインクが切れて買いに行った店にDVDが並んでいたのを気が向いて買った。すっかり忘れていたのだが数年前ロードショーで見損ねた映画の一つだった。
このターセム監督が長年暖め続けていた構想だったそうで、CM映像撮りで出かけた先々で気に入ったロケーションを探し貯めたという。結局自分のイメージどおりに自力で作った力作である。CD業界では第一線を走る人だからこれだけの映画を自費で作ることができるのだ。
映像が豪華で美しく目を奪われるものの物語が地味なためかそれほど話題に上らなかったように思う。しかしどうしてなかなか良いお話だ。
事故でベットに釘付けになっている青年は失敗続きで生きる気力をなくしている。暗闇の中の採れたてのオレンジみたいに明るく屈託無い少女。オレンジ農園で働くルーマニア出稼ぎ労働者の両親を手伝って木から落ち腕を折って入院中という設定だ。
ひょっとしたことで出会う二人。青年は慕ってくる少女に物語を聞かせる代わりに自殺を遂げるためのモルヒネ錠剤一瓶を薬棚から盗み出すようにとそそのかす。
彼の語る冒険物語が彼女のフィルターを通して展開してゆき、終いに崩れ行く物語と彼自身の心はあどけない少女の思いによって救済される。
簡単に言えばそれだけの話なのだけれどしみじみ良い感じが残るのだ。練り上げられ完成された感動の物語と言うほどの印象はないけれども、そこここにちりばめられた小さな切れ端が光っている。私はそれぞれの切れ端がそれぞれに発展していきそうな予感を残しつつ一つの流れになっているように観た。
話題になったのは映像の中に多くの13の世界遺産が出てくることなのだけれど、ターセム監督流の作りこむ映像はCGを使わずとも美しい。こだわりの人だ。
もっとも映画監督などこだわり強くなければよいものは生まれない。



更に言えば、何をするにもこだわりは必要だ。






落下の王国
The Fall