ガーベラ・ダイアリー

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宮川ひろ著 「おかあさんのつうしんぼ」 偕成社文庫 

2006-03-20 | こんな本読みました

児童書。だが大人にもぜひおすすめしたい一冊である。かなり古い本ではあるが。

主人公は夕子。小学3年生。担任の有波先生<名前を覚えるのがとても上手な先生という夕子の印象>が始業式に姿を見せない。理由は、わが子(小学1年生)の入学式に出席したため。

夕子のお母さんは、やはり小学校の教師。女手一つで夕子を育てる。(父親は夕子が1歳の時に病気で他界)。有波先生が始業式に休んだことを夕子から聞き、<あまえているわねぇ>と批判的な態度をとる夕子の母。

 <「夕子が一人まえになるまで、あと十五年、おかあさんはあまえてはいられないのよ。」>というおかあさんのことばをきくと、いやな気持ちになる夕子。

有波先生のやり方と自分の母親を比べることによって、また身近な大人のいろいろなことばによって、夕子は自分の「母親の姿」を客観的に見はじめ、疑問を抱きはじめる。

作文から夕子の抱えている内面を知り、夕子の話に真剣に耳を傾け共感してくれる有波先生。しかし、悪いことはきちんと認めさせ、次にどう行動すべきかを考えさせる。そのような先生のあり方に好感をいだいた。

また、有波先生と母親ともに夕子の抱えているものを知りながら、そのことに何も触れずにいる。そういう大人の「子どもを見守る姿」が描かれていてよかった。また、子どもがこころの中にいうにいえない何かを抱え、それが大人の目には「問題行動」とうつるものをしっかり見据え、どうしてその行動が起きたのかを考えている(のがわかるように描いている)。

子どもなりに母親を助け、心配している。けれど母親の愛情がほしい。そんな葛藤から行ってしまう行為。子どもが必死でがんばっている姿にこころがうたれる(個人的にこういうのヨワいなあ。。。)。

また、有波先生のあり方に刺激を受けて、自分のやり方や考え方を少しずつかえていく夕子の母親。しかしその有波先生とて家庭の中では夫(小学校教師)にこんなことばを投げてしまう。

(生後11ヶ月の子どもが夜中に発熱してしまう。ずっと子どもの看病をし、かつ悩みを抱えるクラスの子どもの問題解決のために、おにぎりをけんめいに作っている有波先生。疲れがピークに達している)
 <「わるいけど、きょうはお父さんが休んでくださいね。」>

<「きょうは休みたくないんだがなあ。(後略)」>

<「そんなこといったって、遠足の日に、休めるわけがないでしょう。子どもはふたりでそだてるんですからね。女ばかりがしょいこんで休むから、女の先生より男の先生のほうがいいなんて、いわれるのよ。」>

このことばに、子どもをもって働く女性の悩みが集約されているように思う。それに対して、夫の側が妻の「はらだたしさ」を受けとめ、冷静に対処している姿が描かれている(ものすごくさらりとだが)。

どうしても私自身、大人の生き方に注目してしまうきらいがあるが、子どもの視点からみると、いくつかのエピソードが描かれている。

夕子のクラスの女の子が「みんなといっしょに給食を食べられるようになったこと」。夕子の母親のクラスの男の子が「学校に来られるようになったこと」。どうして彼らはそう「できるようになったのか」の過程が描かれている。結果ではなく。そこがいい(そのやり方がいいかどうかは別として)。

子ども、大人、先生、母親、父親、老人…日常の中のいろんな「人間」が描かれている。しかもやさしいことばで。
そこから何を感じとり、どうすべきか。著者のメッセージをしっかり受けとめなくてはと思った。

またここでは紹介を省くが、この本の解説を児童文学者の上野瞭氏が書かれている。これもとても示唆に富んでいて非常に考えさせられるものである(これだけを読んでもいいくらいに)。

しかし、この本今も書店に出回っているのだろうか。その点が不安だが。。。(紹介しておいてすみません汗)

 


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