金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

サラ金並みの米国企業借入コスト

2009年01月19日 | 金融

米国で企業の資金調達コストが高騰している。融資部門に携わっている人には目新しい話でないが、日本にも影響が出るのかどうか考えてみよう。

まず米国の様子を最近のニューヨーク・タイムズで見る。S&Pによると今年1年間で7千億ドルの企業ローンが満期を向かえる。この規模は連邦政府による金融機関救済に投下する資金と同規模だ。多くの企業は連邦政府の金融機関救済により資金調達が楽になることを期待しているが、足元の状況は厳しい。

米国国内航空会社で唯一投資適格格付を保有しているサウスウエスト航空は12月4億ドルの起債を行ったが、ジェット機17機を担保に提供した上、10.5%の金利を支払う必要があった。これは2004年の起債時のほぼ倍の金利だ。借入コストは昨年10月、11月のピーク時よりは低下しているものの、信用力の高い企業でも国債+5%の金利を支払う必要がある。

先見性のあった企業はリファイナンスリスクを回避するため、手持ち現金を厚くするとか予め設定した金利で引き出しのできるコミットメントラインを確保しておいた。しかしその余裕がなかった企業は、金利の低い短期借入で泳ぐとか、年金基金や保険会社との相対取引で安い調達を図っている。だが投資非適格企業の資金調達は苦しい。投資適格以下の企業は、与信にアクセスできないか、あるいは出来たとしても20%の金利を払う必要がある。これでは日本のサラ金以上の高金利だ。

ここで日本とアメリカの企業のデフォルトリスクを大雑把に考えてみよう。先日商工リサーチが、日本の昨年の倒産件数は1万5千件強(私的整理を含む)と発表していた。一方アメリカの倒産件数については、5,6万件という情報がある(調べると正確な数字が分かるかもしれないが省略)。仮にアメリカの倒産件数を6万件とし、アメリカの経済規模を日本に2倍とすると大雑把に言ってアメリカ企業の倒産確率は日本企業の2倍だと言える。

もし倒産会社の債務規模と倒産債権の回収率が同じ程度と仮定するならば、「日本の金融機関はアメリカの金融機関の半分程度のリスクプレミアムを貸出金利におり込む必要がある」という結論になる。あるいは日本の金融機関のリスクプレミアムが妥当だとするとアメリカの金融機関は利鞘を取り過ぎだということになる。理論的にはこの二つの可能性があるのだが、私は前者つまり「日本の金融機関は信用リスクプレミアムを十分にチャージできていない」と判断している。

問題はこれからの企業と金融機関の与信条件の交渉過程の中で、金融機関が信用リスクプレミアムの上乗せを図ることができるかどうかだ。結論からいうと金融逼迫はかなり続くので、金融機関の方がバーゲニング・パワーを持っている。従ってある程度のリスク・プレミアム上乗せが続くと考えるべきだろう。

だがアメリカの様に10%、20%という金利をチャージすることは一般的には無理だろう。商売の利益率が低い低格付けの日本企業の場合、そんな高い金利負担に耐えられる余裕はない。またそんな要求をすると「何とあこぎな」という批判を受けることは必至だ。

とはいうものの、アメリカでは貸出リスクのクッションとして中核自己資本比率を4%から6%に引き上げるべきだという意見が強くなっている。その動きが日本にも来ると予見する経営者がいる邦銀は融資姿勢に一層慎重になるだろう。

仄聞するに新しいみずほファイナンシャルグループの頭取などは、国際業務の経験が長くこのような先見性に富むのではないだろうか?と思われる。みずほは最近期限の到来するコミットメントラインをアンコミ(貸出を確約していない口頭ベースの融資枠)に切り替えているという話を聞いたが、これもその一環かもしれない。

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Too big to・・・・・

2009年01月19日 | 金融

Too A to Bというのは中学校の英語の教科書にも出てくる基本的な語法で「Bする にはA過ぎる」とか「A過ぎるのでBできない」という意味だ。政府が銀行に資本注入する時のマントラがToo big to fail「破綻させるには大き過ぎる」というものだったことは記憶に新しい。Too ~という語法は銀行と馴染みが良いと見えて、こんな文章がニューヨーク・タイムズに出ていた。

Citigroup was too big to manage,too unwieldy to succeed and too gigantic to sell to one buyer.

ざっと訳すと「シティグループは管理するには大き過ぎ、成功するには扱いが難し過ぎ、一人の買い手に売るには巨大過ぎる」

この記事のタイトルは「我々の知っている銀行業務の終わり」The end of Banking as we know it というものだ。記事はThe concept of the financial supermarket bit the dust last week.という。Bite(bitの現在形) the dustは直訳すると「埃を噛む」だが、「存在を終える」という意味のイディオム。地面に倒れて砂を噛むということからの連想だろうか?

金融スーパーマーケットという概念は存在を終えたということである。シティグループが保険会社、投資銀行、証券会社、カード会社等を傘下に置いた時、金融コングロマリットという言葉が流行ったが、10年で終わりを向かえた訳だ。

記事はポール・ミラーというアナリストの意見を紹介していた。彼は「米国の金融システムは更に~不良債権買取プログラムの7千億ドルとオバマ政権の8千億ドルの景気刺激対策に加えて~1兆ドルの資金投入が必要だ」「監督当局は中核自己資本比率を6%(多くの金融機関は4%以下)に引き上げることを考えている」と述べる。

この結果銀行はかってのように儲かる業種ではなくなるというのが彼の意見だ。金融セクター指数は2003年から07年にかけて倍に増加し、S&P指数の22%を占めた。そして現在は12.5%まで下落しているが。

金融機関が高い利益率を享受できたのは、薄い自己資本比率とハイレバレッジ取引で、つまり過度のリスクをとって稼いでいたからである。

翻って日本の状況を見てみよう。シティ傘下の日興アセットや日興コーディアル証券が売りに出る見込みで三菱UFJグループやみずほファイナンシャルグループが買い手になるという噂が出ている。

アメリカで起きたことは何年か後で日本で繰り返すという俗説があるが、金融スーパーマーケットは同じ轍を踏むのかだろうか?それとも日本型のスーパーが独自の発展を遂げるのだろうか?

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