カミサン伝説20「ハッピー編」294
寿司屋がにやけながら、
龍之介に、
見た目は普通の赤いマグロを勧めると、
「その前に奥様の大トロから食べてみた方がいいんじゃないかなあ」
と、
春美が小声で言ったので、
「おー、そうだな」
と言って、
龍之介はマジメの前にある皿から大トロをその大きな手で掴むと、
同じように醤油もつけずに、
口に放り投げた。
「うーん...
みかけはいいんだけどなあ」
「あなたは味音痴じゃないの?
私もいただきます」
龍之介のあまりおいしそうでない表情を見て、
マジメは同じく大トロを口に入れた。
「脂が凄くのっていておいしいことはおいしいんですが、ちょっと...」
マジメも、
何か味に不満を感じたのか、
そこまで言って、
黙り込んだ。
「だから、こっちだって言っただろ」
寿司屋がにやけながら言うと、
「じゃあ」
と言って、
龍之介は、
一見してただのマグロの赤身に見える寿司
を大きな手で掴むと口に放り込んだ。
「うめえ。
こっちの方が全然うめえ。
何故だ?」
「そう? では、私もいただきます」
マジメも同じように残った1貫を口に入れた。
「わー。赤身なのにおいしいです」
「だろ! うちのは、冷凍じゃなく、
生のクロマグロ。しかも、場所もな」
「あなた」
「じゃあ、こっちはどうですか?」
チンタが似たような赤身の寿司2貫を持ってくる。
そして、
寿司屋が入れ代わるように、
店の奥に行く。
「こっちの方が厚いんだな。
もっと、うめえんだろ」
龍之介はそれだけ言って、
チンタの持ってきた赤身の寿司を同じように口に放り込む。
「あれっ? 同じか」
「私もいいですか?」
マジメも同じように、口に入れる。
「うーん...」
マジメはそれだけ言って、黙り込んでしまうと、
春美とハルカが後で笑っている。
すると、
寿司屋が戻ってきて、
「ほら、同じ大トロ、喰ってみな」
と言って、
にやりと笑ったのだった。
(続く)