サクラナ外伝フォー「自慢のカレー」
「暖めるだけでいいんだす。
煮すぎると丸々した野菜が崩れてしまうだすからな」
あおむはトンペイの囁きに答えず、
二つの鍋がぐつぐつ煮立ち始めたところで、
かき混ぜるのをやめて鍋をじっと見ていた。
トンぺイもあおむのそんな態度を見て
幼児の母親と共にそれ以上何か言わなかった。
「うん、このくらいでいいだすよ」
あおむはそれだけ言ってコンロの火を止めると、
「だば、ケンちゃんのを先に用意するだすから、
そこのお茶碗にご飯を半分くらい入れて、
スプーンを用意してくれるだすかな」
と、
幼児の母親ではなくトンペイの方を見て言うと、
「へい」
とだけトンペイは言って、
すぐにそばにあった茶碗に
そばに置いてあった炊飯器から米を木製のしゃもじですくうようにしていれて
少し形を整えてから、
あおむにそれを渡すと、
あおむは左手で茶碗を持って、
右手で大きな鍋からおたまでカレーのルーだけをまずすくいあげて少しかけてから、
さらに今度は具をうまくすくってその上にかけたのだった。
「これで僕の自慢のカレー、
ケンちゃんの分だけは完成だすよ」
と、
あおむがニコッと笑って、それをトンペイの前に差し出すと、
既にスプーンを左手に持って待っていたトンペイがそれを黙って受け取ると、
大事そうにキッチンの反対側にいる幼児のいる場所に向かっていったのだった。
すると、
あおむは、
「ケンちゃんのおかあさん、
残りのみんなの分を盛るだすから、同じ要領でお願いだすよ」
意外にも自信ありげに言ったのだった。
(続く)