義母のいる、二世帯住宅に住むようになって、はや13年経つ。
引っ越してきた当時は、週末、2歳の娘を連れて義母の部屋に行き、お茶を飲みながら世間話をすることもあった。そこで、よく話題にのぼったのが、夫の弟の、元妻である。
「加代さんはね、いつも帰りが遅くて、食事もろくに作らない人だったのよ」
義弟夫妻は、私たちが引っ越してくる前に離婚したから、加代さんのことはよく知らない。だが、温和で、辛抱強い義母が、唯一我慢できない相手だったのだろう。普段は、誰の悪口も言わないのに、こと加代さんに関しては、いなくなってからも不満を漏らすことがある。
「小学生の子供が、8時9時まで夕飯を食べなかったら、お腹が空いちゃうじゃない? しょうがないから、アタシとお父さんでご飯を作って、食べさせていたのよ」
義弟夫婦には、幼い男の子がいたが、加代さんは家事や育児よりも、仕事を優先する人だった。そのしわよせは、すべて義母に来てしまい、保育園のお迎えから食事の支度、遊び相手などを手伝っていたらしい。
「それなのに、あの人、帰ってきてご飯ができていると不機嫌になるの。自分が作ろうと思っていたのに、と文句を言って。……そのくせ、残さず食べるんだけどね」
洗濯物を取り込んでおけば、「どうして畳んでくれなかったんですか」と反撃される。夏の旅行を提案すれば、「私には予定があるのに」と難色を示す。そのくせ、ちゃっかりついて来て、誰よりもはしゃぐのだという。義母は首をかしげながら、理解不能の元嫁について続けた。
「この家には私の居場所がないと言って、あの人は出て行ったのよ。アタシが家のことをやっていたのが気に入らなかったんでしょうね」
身の回りのものだけ持ち出して、彼女は本や雑誌類をどっさり残していった。読書家だっただけに、何百冊もの本を処分するのが難儀だったそうだ。
「そしたらね、ひと月くらいしたら、ご両親連れて、フラッと遊びに来たのよ! 『来ちゃいました~』なんて言って、いきなりよ」
義母は、相当驚いたのだろう。当時の感情が蘇ったかのように、1目盛分ボリュームが上がった。
普通は、一方的に離婚した家に、何の前触れもなく、親を連れて押しかけるなんてことはできない。どうやら、善悪の判断基準が、一般からかけ離れているようだ。
極めつけは、離婚して半年後、加代さんが電撃再婚したことだろうか。相手は、同じ職場だった男性である。「居場所がない」という離婚の理由は口実で、加代さんは婚外恋愛の相手を選んだのだと、義母は呆れ果てていた。
私も、世間のものさしで測れば、まぎれもなく「悪妻」の部類に入ると思う。
育児は夫任せだし、部屋の片付けもできない。干した布団をベランダから落とし、落下地点にあった義母の物干し台を破壊したり、ビニールプールに水を入れていることを忘れ、義母宅の水道を無駄遣いした失敗もある。
でも、義母はいつも笑って許してくれた。
おそらく、加代さんのおかげだ。彼女に比べれば、私など、スケールの小さな悪妻でしかなく、到底かなわない。無敵の嫁といえるだろう。
一族にひとり、無敵の嫁がいるとありがたい。
彼女は、私の隠れ蓑である。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
引っ越してきた当時は、週末、2歳の娘を連れて義母の部屋に行き、お茶を飲みながら世間話をすることもあった。そこで、よく話題にのぼったのが、夫の弟の、元妻である。
「加代さんはね、いつも帰りが遅くて、食事もろくに作らない人だったのよ」
義弟夫妻は、私たちが引っ越してくる前に離婚したから、加代さんのことはよく知らない。だが、温和で、辛抱強い義母が、唯一我慢できない相手だったのだろう。普段は、誰の悪口も言わないのに、こと加代さんに関しては、いなくなってからも不満を漏らすことがある。
「小学生の子供が、8時9時まで夕飯を食べなかったら、お腹が空いちゃうじゃない? しょうがないから、アタシとお父さんでご飯を作って、食べさせていたのよ」
義弟夫婦には、幼い男の子がいたが、加代さんは家事や育児よりも、仕事を優先する人だった。そのしわよせは、すべて義母に来てしまい、保育園のお迎えから食事の支度、遊び相手などを手伝っていたらしい。
「それなのに、あの人、帰ってきてご飯ができていると不機嫌になるの。自分が作ろうと思っていたのに、と文句を言って。……そのくせ、残さず食べるんだけどね」
洗濯物を取り込んでおけば、「どうして畳んでくれなかったんですか」と反撃される。夏の旅行を提案すれば、「私には予定があるのに」と難色を示す。そのくせ、ちゃっかりついて来て、誰よりもはしゃぐのだという。義母は首をかしげながら、理解不能の元嫁について続けた。
「この家には私の居場所がないと言って、あの人は出て行ったのよ。アタシが家のことをやっていたのが気に入らなかったんでしょうね」
身の回りのものだけ持ち出して、彼女は本や雑誌類をどっさり残していった。読書家だっただけに、何百冊もの本を処分するのが難儀だったそうだ。
「そしたらね、ひと月くらいしたら、ご両親連れて、フラッと遊びに来たのよ! 『来ちゃいました~』なんて言って、いきなりよ」
義母は、相当驚いたのだろう。当時の感情が蘇ったかのように、1目盛分ボリュームが上がった。
普通は、一方的に離婚した家に、何の前触れもなく、親を連れて押しかけるなんてことはできない。どうやら、善悪の判断基準が、一般からかけ離れているようだ。
極めつけは、離婚して半年後、加代さんが電撃再婚したことだろうか。相手は、同じ職場だった男性である。「居場所がない」という離婚の理由は口実で、加代さんは婚外恋愛の相手を選んだのだと、義母は呆れ果てていた。
私も、世間のものさしで測れば、まぎれもなく「悪妻」の部類に入ると思う。
育児は夫任せだし、部屋の片付けもできない。干した布団をベランダから落とし、落下地点にあった義母の物干し台を破壊したり、ビニールプールに水を入れていることを忘れ、義母宅の水道を無駄遣いした失敗もある。
でも、義母はいつも笑って許してくれた。
おそらく、加代さんのおかげだ。彼女に比べれば、私など、スケールの小さな悪妻でしかなく、到底かなわない。無敵の嫁といえるだろう。
一族にひとり、無敵の嫁がいるとありがたい。
彼女は、私の隠れ蓑である。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
但し、家の嫁は仕事より子供が優先しますが…
何て言うかな、素直じゃないんやろうね!その部分が一番似てるよ(笑)
あっ、名前も香代ですわ(爆)
言うまでもなく私にはよく出来た女房がおります。
母親の格好の口撃のターゲットになっております。
今のところ弟の嫁に愚痴っているようです。
加代さんのようなワルがいたら女房も救われたかと思いますよ。
そんなわけで、最近「オレは褒められた人間ではないけど、援交とかして捕まる人間よりはマシだな」と思う今日この頃だね。それぐらい、そういう事件が目立つ昨今だしね。
これ、
加代さんを主人公にしたらどんなドラマになるんだろう・・・。
う~ん、
お義母さんを主人公にしたら・・・。
それとも
加代さんのお子さんを主人公に・・・。
やっぱり
砂希さんが主人公のドラマが 一番平和かもね(笑)
奥さん、香代さんっていうの??
すごい偶然(笑)
といっても、こちらの加代さんは仮名だけど、名前を決めるとき、何かひらめくものがあったんだよね~。
素直じゃないのか、何も考えていないのか。
両方っていう気もするね。
人間、常識の枠からはみ出さないようにするのが一番かしら。
そうそう、片割れ月さんには、超良妻賢母がいますもんね~。
どんなによくできた嫁でも、姑にかかってはケチョンケチョンですよ。
まあ、ワタクシの場合、悪妻愚母って感じですけれど、さらなるウルトラスーパー悪妻愚母のおかげで救われているのです(笑)
一番の被害者は、義母だったりして…。
義弟はいい夫だったと思いますが、異性としては物足りなかったんでしょうね。
自然薯パワーを知っていたら、教えてあげられたのに~!
そうそう、的確な例えだと思うよ。
「もつべき友は、自分より恥なヤツ」なんて書いてあるマンガを見たおぼえもあるし。
今回、この話を書くきっかけになったのは姉のひとことなの。
「そういえば、加代さんって人がいたわねぇ。あの人のおかげで助かっているとか言ってたじゃない」という話題になり、思い出したというわけ。
恩人のようなものなのに、忘れていたとは薄情だね(汗)
ほほう、それはまた面白そうな試みですね。
私の視点で書くと、対岸の火事&隠れ蓑的利点が中心になります。
加代さんの視点は…想像もつきませんねぇ。
義母の視点は、被害者に終始しそうです。
でも、一番気の毒なのが、息子の視点ですかね。
離婚後、陰のある子供になってしまいましたよ。
(あ、失礼、私だけですね)
最近読んだ「7人の敵がいる!」を思い出しました。
加代さんは確かに理解不能だけど、
彼女が実の息子だったら・・・
あ、こちらの義義妹?も 新人類っぽくて、
義母の私の扱いが 軟化した時期もありましたね。