これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

呪われた勝負服

2008年05月10日 12時37分14秒 | エッセイ
 30代後半から服装に気を遣うようになった。くすんできた肌を少しでも明るく見せたくて、ピンクや黄色などのカラフルな服を着たくなる。間違っても、灰色や黄土色などといった汚らしい色を身につけてはいけない。
「今日は完璧」と自信が持てる服装だと、周りの人も親切になり、ドアを押さえてくれたり、落としたものを拾ってくれたりするものだ。
 が、「今日は手抜きで」といい加減な服装をしていると、エレベーターは待っていてくれないし、店員の対応もそっけない。やはり、開運の鍵は明るい色にあるのだろう。
 昨年、スペイン料理のディナーに誘われた。情熱の国を思い浮かべ、赤のワンピースを着ていきたくなった。外相時代の川口順子氏が「赤は私の勝負服」と発言したことは有名だが、確かに赤は華やかなうえに自己主張を倍増させるような力強さがある。その日、一緒に出かける相手が若くて美人の同僚二人だったこともあり、いつも以上に気合いが入った。
 赤のワンピースは十年以上前にドイツで買ってきたものだが、胸元が大きく開いていて、貧弱体型の私に着こなせる代物ではなかった。試着もせずに買ったので、胸のサイズが全然足りないことに気づかず、いざ袖を通してみたら下着丸見えで、いたたまれない思いをした、いわくつきの代物だ。結局何年も放置したあと、胸側だと思い込んでいたカットの大きな面を、背中側にすれば着られることに気づき、三回ほど袖を通したことがある。
 去年より太ったかもしれないけれど、まだ着られるわよね……。
 ディナーの前日、私は鏡の前でファッションショーをした。当日になって、あてにしていた服が着られなかったら目も当てられない。幸い、体型に大きな変化はなく、それなりに見栄えがした。
 大丈夫。これなら彼女たちと並んでも、恥ずかしくないでしょ。
 完璧、とまではいかないが、80点くらいは取れた印象だった。
 あと3点、と欲を出したのがいけなかった。畳んでしまっていたので、ワンピースにはシワがついていた。これさえなければ、さらに印象がよくなるはずだ。夜中だったにもかかわらず、私はアイロンを出してシワを伸ばし始めた。
 眠かったから、最初は目の錯覚かと思った。アイロンをかけた部分が少し黒ずんで見える。
 スチームで色が濃く見えるだけでしょ、と私は軽く受け流した。
 なおも手を動かしていると、どんどん赤黒い部分が増えてくる。どうやらスチームのせいではないようだ。
 大変、焦げちゃったんだ!
 アイロンが触れた部分と、そうでない部分との色が明らかに違っている。取り扱いのタグが邪魔で捨ててしまったことを、つくづく後悔した。
 なんて薄幸なワンピース……。何年間もタンスに押し込められたまま忘れられ、ようやく日の目を見たかと思えば、それもつかの間、アイロン操作のミスで焦がされゴミ箱行きである。
 はるばるドイツから連れてきたというのに、気の毒なことをした。
 何を着てもパッとしなくなったら、それは年のせいではなく、ワンピースの祟りである。



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2 コメント

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あ~あ~勿体ない! (純)
2009-03-07 23:07:13
せっかくの赤のドレスが!

よく、赤の服を好んで着る人は情熱家、と言われてますが、正にその通りですよ。寝ぼけマナコでアイロンかけちゃったんでしょうか?それとも熱に弱い生地だったんでしょうか?

あえて砂希さんの名誉の為に熱に弱い生地だったと認識しておきますね!(笑)
生地のせい~ (砂希)
2009-03-08 07:30:00
純さん、そういうことにしておいてください(笑)
私の赤のイメージは「自己顕示欲の強さ」かな。
目立ちたがり屋の人が多いような気がします。
それほど似合ってもいなかったので、まあよしとしておきますよ。

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