これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

救急の日ではなく、耳の日ですが

2011年03月03日 20時37分43秒 | エッセイ
 仕事から帰ると、居間で娘がテレビを見ていた。
 女性救急隊員の仕事ぶりに密着した、ドキュメンタリーのようだった。どんな仕事をするのだろうと興味を持ち、私もテレビの前に座って見る。
 まずは、コンビニ店員から、「血だらけのお客様がいる」という通報を受けて出動する場面からのスタートだ。
 お客様というのは、ホームレス風のおじいさんである。左のこめかみから頬にかけて、真っ赤な血が滴っている。私は思わず悲鳴を上げた。
「うわっ、イヤだ! 血だらけじゃん!!」
「ミキも、近寄りたくない」
 娘も眉間にしわを寄せ、渋い顔で画面を睨んでいる。
 しかし、この救急隊員は、おじいさんにやさしい言葉をかけて、傷の手当てを始めたのだ。会話の様子から、認知症の気配も感じられる。とても、私にはできないと感心した。
 次に、午前3時にひき逃げ事件が起き、現場に駆けつける映像が流れる。
「午前3時!? 寝てるし」
 娘は寝起きが悪い。おそらく、どんなに体を揺さぶられても、起きて救助に向かうことはできないだろう。
 結局、被害者は亡くなったそうだ。路上の血痕などから、かなり凄惨な事故現場だったことが予測できる。私を含めて、神経の細い者ならば、大怪我を負った人を救助するよりも、血の海となった光景を直視できずに、尻尾を巻いて逃げ出すか、卒倒してしまうかもしれない。
 さらに、事故の衝撃で脱げた靴や、落ちた財布、預金通帳などが映し出された。暗闇の中で、ゴロリと転がったままになっている。
「あっ、お財布だ」
「通帳もあるって」
 私と娘は顔を見合わせた。
「ダメだね、お母さんだったら、助けようとしないで、財布だけ取って帰っちゃうんじゃない?」
「何よ、ミキだって、通帳狙っているくせに」
「あはは、お母さんもミキも、絶対救急隊員にはなれないね」
 タチの悪い冗談だ……。

 テレビを見ていて思い出したことがある。
 娘がまだ1歳だったとき、救急車のお世話になった。熱性けいれんだと思っていたら、深夜になって、急に意識がなくなったのだ。呼びかけても返事がなく、首をダラリと垂らしている。急いで病院に電話をすると、救急車を呼んだほうがいいと言われた。
 ところが、救急車に運び込んだとたん、意識が戻ってきた。自分が救急車に乗っていると理解した娘は、「ピーポ!」などと指をさしてはしゃぎ始めた。
 あのときの気まずさといったら……。
 急患で診察してもらったあとも、困った事態が待っていた。時間は午前2時。行きは救急車だったから、帰りの足がない。タクシープールも空っぽで、私と夫は、フガフガと寝始めた娘を抱え、途方に暮れた。
「どうやって帰る??」
「どうしよう……」
「あっ、見て! タクシーが入ってきたよ!」
「よかった、これで帰れる!!」

 最近では、安易に救急車を呼ぶケースが増えており、救急隊員の負担になっているという。
 よほどのことがないかぎり、私は救急隊員に頼らないつもりだ。
 特に深夜は……。




楽しんでいただけましたか? クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (16)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2011 東京マラソン | トップ | 花粉症対策 »
最新の画像もっと見る

16 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
わかるわ~ (しょうしみん)
2011-03-04 00:51:43
うちの一番下のちびがおんなじだったので気持ちわっかるわ~。うちのは急性肺炎と脳膜炎を起こしかけていたので、ちょっと状況違うかもしんないけど、救急車に飛び乗ってみたはいいけど、なんにも持ってきませんでしたってのは今でも忘れません。財布はおろか、いきなり救急車に乗ったもんだから、靴はいてなくて、スリッパでタクシーに乗って帰ったのをおぼえてます。人間パニクってると、後で後悔がついて回るもんですね。
返信する
おはようございます (矢野主典)
2011-03-04 05:51:01
おはようございます。
いつも従兄弟のYanoがお世話になり御礼を申します。私は従兄弟の矢野主典(さかん)でございます。尚、Yanoは今回は逃亡いたしました。がしかし、次回は必ずや自らコメント致す事ここにお約束いたします。
ところで、矢野太政官が「“今度は太政官か”とは何たる雑言! そこに直れ!」と憤怒いたしておりました。仕方のない大伯父でございます。(笑)
さて、救急車を呼ぶまではいいですが、診察と治療が終わった後、帰る手段に困ってしまう事は往々にしてあるものでございます。小生は「帰りも乗せてきていただきたい!」と救急隊員に頼み、当然ながら断られた経験もございます。
突然ご主人が倒れた時の為に、シミュレーションなるものも不可欠かと存じます。もし、奥様かお嬢さんの際には小生が駆け付け、人工呼吸をさせていただければと存じます。(笑)
返信する
火事場泥棒は重罪 (陽水)
2011-03-04 07:40:25
っくう~なんちゅう親子だ!俺なら足がつかないように2つとも…イヤイヤ( ̄~ ̄)ξ
何年前だったか忘れたけど会社に来ていきなり背中に激痛が走り息も出来なくて声も出ない…奥の部屋の休憩室で七転八倒してたら社長が救急車を呼んでしまった…で、担架に載せられていざ出発したとたん…激痛はどこへやら~(笑)消防団員だったのと知り合いが運転手…「〇田さん、大丈夫け…」と余談が始まった(笑)
しかし、名前から生年月日、住所、連絡先までちゃんと答えて…病院へ搬送された時はすっかり痛みも消えたので自分で降りようとしたら担架にしっかり縛られて救急室に運ばれてしまった(笑)
結局は腎臓結石でしたか…後から消防署へ言ってチン謝して来ました(^^ゞ
返信する
ご無沙汰しております (九曜の星)
2011-03-04 13:38:39
大変、ご無沙汰しております。

久しぶりに興味深く、記事を拝見させていただきました。

救急車に運ばれたことがあります(笑)
自宅で仕事をしていて、過労で痙攣したそうです(母談)。

それから何年かして、救急隊員の方と話をする機会があったのですが、救急救命士という仕事は、それほど給料は高くないようです。
確かに、人の命を救うのは、医師たちですが、救急救命士も少なからず、それに力を入れているはずなのに、食べていくだけで精一杯の給与しかもらえないそうです。

ちょっと、残酷な現実を知ってしまったひと時でした。

応援クリックさせて、いただきます^^
返信する
どの程度か分からなくて… (片割れ月)
2011-03-04 18:17:03
そうだね、このあたりで救急車を呼んだことがないのは我が家だけでしたが、
去年、父の狂言とも思える突然の目まいで、ついに救急車のお世話になりました。
脳血管関係だと救急車で行ったほうが助かる確率は大ということで、呼んだのだが…
本人が「おれはもうだめだ!」といってこれだもん。けっこう難しいと思います。(_ _;)…パタリ
返信する
なんと! (砂希)
2011-03-04 20:19:26
>しょうしみんさん

あらっ、ちびちゃんも大変でしたね!
しかし、財布はおろか、靴も履いていないって(笑)
そういえば、パジャマのまま子どもを抱えて病院に直行した友人もいたっけ…。
非常時には、細かいことを考える力が働きません。
それだけ必死ということでしょう。
ちなみに、娘が搬送された病院は日大○が丘でした!
1時間くらい歩けば帰れたかも(笑)
返信する
さかん (砂希)
2011-03-04 20:33:21
>矢野主典さん

へー、主典と書いて「さかん」と読むんですか。
どんな職なのかと調べてみました。
7世紀後半から8世紀初頭にかけて、律令制のもとに定められた四等官のひとつなんですね。
でも、一番下っ端…。
いえいえ、決裁権限を持たない雑務吏員という、立派なご職業なんですね(笑)
やはり下っ端…。
もとい、帰りの足がないと困ります。
とんだ落とし穴でした。
返信する
チン謝 (砂希)
2011-03-04 20:38:44
>陽水さん

なんちゅうタイミングの悪さ!
痛みのピークが通報した頃だったんだろうね。
どんどん引いてきて、到着時に元気になっているパターンはウチと同じ(笑)
ただ、こちらは消防団じゃないから、知らない人でマシだったかも~。
まあ、気をつけてくださいな。
火事場泥棒は許せないよね。
たとえば、私がひき逃げされたら、やっぱり荷物は散乱すると思う。
そこから、財布だけ抜き取ってドロンする人がいるかも。
本文を読み、冗談が通じない人がいそうな気がしてきた。
ちょっと直しておこうかな。
返信する
いらっしゃいませ (砂希)
2011-03-04 20:43:38
>九曜の星さん

あっ、お久しぶりで~す!
こちらから伺うべきところを、ご訪問いただきありがとうございました。
過労で痙攣とは、穏やかじゃないですね。
激務なんでしょうか。
お大事になさってください。
それにしても、救急隊員の待遇の悪いこと…。
二十四時間体制で、体を張って働いているんですから、もっと厚遇してほしいです。
でも、なり手がいないとは聞きませんね。
人の役に立ちたいという人情の表れでしょうか。
返信する
程度 (砂希)
2011-03-04 20:50:35
>片割れ月さん

それはそれは、お父様がご無事でよかったじゃないですか。
どのくらいツライかは、本人でなければわかりませんから、大事をとって丁度よかったのかも。
甥がまだ10代だった頃、救急車のお世話になったことがあります。
早朝から、サイレン鳴らして救急車が到着すると、近所の人が出てきます。
ウチには米寿の義母がいますから、誰もが義母の一大事だと思ったそうです。
しかし、当の本人が出てきて「お騒がせしてごめんなさいね」なんて言うものだから、相当驚かれたとか。
元気が一番!
返信する

コメントを投稿

エッセイ」カテゴリの最新記事