スマホの写真を整理していたら、サンクトペテルブルクで撮った「お菓子の家」が出てきた。
懐かしい。
今の外気は35度を超えているが、12月のサンクトペテルブルクはマイナス2度だった。鼻水をふきふき散策したことを思い出す。
お菓子の家はロマンだ。でも、『ヘンゼルとグレーテル』ってどんな話だったっけ? 思い出せない。
ネットであらすじを確認し、「そうだったな」と記憶が蘇ってくる。同時に、いくつもの疑問を感じた。
「魔女のくせに、目が悪いってどういうこと? 魔法で治せよ」
「オーブンの使い方がわからないなんて、簡単にだまされたりして、本当に魔女なの?」
「オーブンで焼かれるなんて、弱ッ! 魔女の風上にもおけないね」
だんだん腹が立ってきた。
これは、魔女というより、山姥なのではないか。魔力はないけど、凶暴で残忍なおばあさん。
「となると、舞台は日本の方がいいんじゃないかなぁ」
そんなこんなで、書いてみました。ヘンゼルとグレーテル、日本編。
ある村に、貧しい木こりが2人の子どもと暮らしていました。男の子の名は辺是流(へんぜる)、女の子の名は紅麗輝(ぐれいてる)といい、キラキラネームです。
「日本人だったら柔道をやらなくちゃ。お家芸だからな」
「はい、お父さん。頑張ります」
辺是流も、紅麗輝も、素直に父の教えを守り、毎日練習していました。
そんな木こりに、村の人が縁談を持ってきます。お母さんは紅麗輝が生まれたときに亡くなったため、木こりは淋しかったのです。家族が増えて、しばらくは平穏に暮らしていましたが、農作物が不作となり食べるものに困るようになると、継母が本性を表しました。
「子どもたちを森に捨ててきましょう。私たちまで飢え死にするわ」
「い、いや、しかし、そんなこと」
「じゃないと、別れるわよ。いいの?」
「……わかったよ」
父と継母の会話を、偶然にも辺是流は聞いてしまいます。そして、森からの帰り道がわかるように、お風呂の石鹸を小さく刻んで準備しました。
翌日、父は辺是流と紅麗輝を連れて、森の奥深くまで出かけます。辺是流は、歩きながら石鹸のかけらを落としておいたので、父の姿を見失っても、紅麗輝と一緒に戻ってくることができました。
「あんた、何やってんのよ。2人とも帰ってきちゃったじゃない」
「じゃあ、今度はもっと遠くにするよ。安達ケ原とか」
「今度こそ、しくじるんじゃないわよ」
また辺是流は聞き耳を立てていましたが、もう石鹸はありません。仕方なく、トイレットペーパーをちぎって、目印にしようと考えました。
次の日、木こりはまた2人の子どもと一緒に出掛けます。辺是流は、トイレットペーパーを道々落としていきましたが、あいにくその日は雨でした。父の姿が見えなくなったとき、トイレットペーパーを頼りに帰ろうとして気がつきました。
「大変。溶けて残っていない」
今度こそ、辺是流も紅麗輝も、取り残されてしまいました。さまよい歩くうちに、すっかり辺りが暗くなってきました。そのとき、一軒のあばら家が目に入ります。粗末な小屋でしたが、灯りがともっていて、人が住んでいるようでした。
「紅麗輝、あの家に行ってみよう」
「はい、お兄さん」
辺是流が扉をノックすると、中から優しそうなおばあさんが出てきました。
「おや、どうしたんだい。こんな時間に子どもが」
「ぼくたち、道に迷ってしまって帰れないんです」
「まあまあ気の毒に。ここは、お貸しの家。旅人たちを泊める場所だから、お寄りなさい」
「ありがとうございます」
おばあさんは美味しい料理で2人をもてなしました。辺是流も紅麗輝も、お腹いっぱいになり、おばあさんに勧められるがまま、暖かい布団でぐっすりと眠りました。
夜更けに、紅麗輝は「シャーッ、シャーッ」という音で目をさまします。
「何の音かしら。ねえ、お兄さん、起きて起きて」
辺是流を起こすと、ちょっと様子が変です。
「ダメだ、体が痺れて動かない……。どうしたんだろう」
辺是流を置いて、紅麗輝は一人で音のする方向に向かいました。扉のすき間から中をのぞくと、優しいはずのおばあさんが、目を吊り上げ髪を振り乱し、鬼のような形相で包丁を研いでいたのでした。先ほどまでの柔らかな微笑はどこへやら、耳まで届きそうな大きな口をうっすらと開き、ニタニタと笑っているようです。
半眼となった両目が、こちらを射るように動きました。
「のぞいているのは誰だい?」
「あっ」
紅麗輝はおばあさんに見つかってしまいました。
「ふふふ、兄さんには痺れ薬を飲ませたのさ。お前さんも、ここで食料になるんだよ。覚悟しな!」
おばあさんは、恐ろしい山姥だったのです。ギラギラと光る、切れ味の鋭い包丁をかざして襲い掛かってきました。でも、紅麗輝は体を柔道で鍛えています。動体視力もよく、老婆の獲物には向いていません。たちまち山姥の動きを見切り、持っていた包丁を叩き落とすと、勢いよく一本背負いを決めました。
「うぐぐぐぐ」
骨粗しょう症の山姥は、どこかの骨が折れたようで動けません。すかさず、紅麗輝は山姥をかまどまで運び、中に押し込んで火をつけてしまいました。しばらくは山姥の悲鳴が聞こえていましたが、やがて静かになりました。
「お兄さん、もう大丈夫よ。動ける?」
「うん。ちょっとずつ」
紅麗輝は、じりじりと家の中を進みました。まだ危険なものがいるかもしれません。でも、人の気配はないようです。奥の部屋に入ると、たくさんの金銀小判が見つかりました。これまでに襲った旅人たちから奪ったものに違いありません。
辺是流が動けるようになるまで休んでいたら、木こりが2人を探しにやってきました。
「よかった、無事で。あの女とは別れたから、また3人で暮らそう」
木こりと辺是流、紅麗輝は、山姥の財宝を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ。
うーん。ロマンは1gもなくなってしまった。
私が一番苦手なのは、童話を書くことなのではないか……。
↑
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
懐かしい。
今の外気は35度を超えているが、12月のサンクトペテルブルクはマイナス2度だった。鼻水をふきふき散策したことを思い出す。
お菓子の家はロマンだ。でも、『ヘンゼルとグレーテル』ってどんな話だったっけ? 思い出せない。
ネットであらすじを確認し、「そうだったな」と記憶が蘇ってくる。同時に、いくつもの疑問を感じた。
「魔女のくせに、目が悪いってどういうこと? 魔法で治せよ」
「オーブンの使い方がわからないなんて、簡単にだまされたりして、本当に魔女なの?」
「オーブンで焼かれるなんて、弱ッ! 魔女の風上にもおけないね」
だんだん腹が立ってきた。
これは、魔女というより、山姥なのではないか。魔力はないけど、凶暴で残忍なおばあさん。
「となると、舞台は日本の方がいいんじゃないかなぁ」
そんなこんなで、書いてみました。ヘンゼルとグレーテル、日本編。
ある村に、貧しい木こりが2人の子どもと暮らしていました。男の子の名は辺是流(へんぜる)、女の子の名は紅麗輝(ぐれいてる)といい、キラキラネームです。
「日本人だったら柔道をやらなくちゃ。お家芸だからな」
「はい、お父さん。頑張ります」
辺是流も、紅麗輝も、素直に父の教えを守り、毎日練習していました。
そんな木こりに、村の人が縁談を持ってきます。お母さんは紅麗輝が生まれたときに亡くなったため、木こりは淋しかったのです。家族が増えて、しばらくは平穏に暮らしていましたが、農作物が不作となり食べるものに困るようになると、継母が本性を表しました。
「子どもたちを森に捨ててきましょう。私たちまで飢え死にするわ」
「い、いや、しかし、そんなこと」
「じゃないと、別れるわよ。いいの?」
「……わかったよ」
父と継母の会話を、偶然にも辺是流は聞いてしまいます。そして、森からの帰り道がわかるように、お風呂の石鹸を小さく刻んで準備しました。
翌日、父は辺是流と紅麗輝を連れて、森の奥深くまで出かけます。辺是流は、歩きながら石鹸のかけらを落としておいたので、父の姿を見失っても、紅麗輝と一緒に戻ってくることができました。
「あんた、何やってんのよ。2人とも帰ってきちゃったじゃない」
「じゃあ、今度はもっと遠くにするよ。安達ケ原とか」
「今度こそ、しくじるんじゃないわよ」
また辺是流は聞き耳を立てていましたが、もう石鹸はありません。仕方なく、トイレットペーパーをちぎって、目印にしようと考えました。
次の日、木こりはまた2人の子どもと一緒に出掛けます。辺是流は、トイレットペーパーを道々落としていきましたが、あいにくその日は雨でした。父の姿が見えなくなったとき、トイレットペーパーを頼りに帰ろうとして気がつきました。
「大変。溶けて残っていない」
今度こそ、辺是流も紅麗輝も、取り残されてしまいました。さまよい歩くうちに、すっかり辺りが暗くなってきました。そのとき、一軒のあばら家が目に入ります。粗末な小屋でしたが、灯りがともっていて、人が住んでいるようでした。
「紅麗輝、あの家に行ってみよう」
「はい、お兄さん」
辺是流が扉をノックすると、中から優しそうなおばあさんが出てきました。
「おや、どうしたんだい。こんな時間に子どもが」
「ぼくたち、道に迷ってしまって帰れないんです」
「まあまあ気の毒に。ここは、お貸しの家。旅人たちを泊める場所だから、お寄りなさい」
「ありがとうございます」
おばあさんは美味しい料理で2人をもてなしました。辺是流も紅麗輝も、お腹いっぱいになり、おばあさんに勧められるがまま、暖かい布団でぐっすりと眠りました。
夜更けに、紅麗輝は「シャーッ、シャーッ」という音で目をさまします。
「何の音かしら。ねえ、お兄さん、起きて起きて」
辺是流を起こすと、ちょっと様子が変です。
「ダメだ、体が痺れて動かない……。どうしたんだろう」
辺是流を置いて、紅麗輝は一人で音のする方向に向かいました。扉のすき間から中をのぞくと、優しいはずのおばあさんが、目を吊り上げ髪を振り乱し、鬼のような形相で包丁を研いでいたのでした。先ほどまでの柔らかな微笑はどこへやら、耳まで届きそうな大きな口をうっすらと開き、ニタニタと笑っているようです。
半眼となった両目が、こちらを射るように動きました。
「のぞいているのは誰だい?」
「あっ」
紅麗輝はおばあさんに見つかってしまいました。
「ふふふ、兄さんには痺れ薬を飲ませたのさ。お前さんも、ここで食料になるんだよ。覚悟しな!」
おばあさんは、恐ろしい山姥だったのです。ギラギラと光る、切れ味の鋭い包丁をかざして襲い掛かってきました。でも、紅麗輝は体を柔道で鍛えています。動体視力もよく、老婆の獲物には向いていません。たちまち山姥の動きを見切り、持っていた包丁を叩き落とすと、勢いよく一本背負いを決めました。
「うぐぐぐぐ」
骨粗しょう症の山姥は、どこかの骨が折れたようで動けません。すかさず、紅麗輝は山姥をかまどまで運び、中に押し込んで火をつけてしまいました。しばらくは山姥の悲鳴が聞こえていましたが、やがて静かになりました。
「お兄さん、もう大丈夫よ。動ける?」
「うん。ちょっとずつ」
紅麗輝は、じりじりと家の中を進みました。まだ危険なものがいるかもしれません。でも、人の気配はないようです。奥の部屋に入ると、たくさんの金銀小判が見つかりました。これまでに襲った旅人たちから奪ったものに違いありません。
辺是流が動けるようになるまで休んでいたら、木こりが2人を探しにやってきました。
「よかった、無事で。あの女とは別れたから、また3人で暮らそう」
木こりと辺是流、紅麗輝は、山姥の財宝を持ち帰り、幸せに暮らしましたとさ。
うーん。ロマンは1gもなくなってしまった。
私が一番苦手なのは、童話を書くことなのではないか……。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)