これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

擬音過剰エッセイ

2014年10月09日 19時26分20秒 | 過剰エッセイ
 本来、土曜日は休みなのに、その日は二十代の先生の保護者面談に立ち会わねばならず、ドタバタと勤務校に向かっていた。
 こういうときは、前向きに考えるに限る。「運動不足だったから、もっと動いたほうがいいよね」とか、「どうせ家にいてもダラダラするだけだし~」などと合理的な理由をつけるのだ。単純な私は、カチャッと気持ちが切り替わり、「いくぜいくぜ~」と弾みがつく。
 ガラッと勢いよく職員室のドアを開けると、すでに来ていた若手先生が見えた。寝癖風にふんわり整えられた後頭部がクルリと回転し、恐縮した口元から「おはようございます」の挨拶が飛び出す。男性にしては少々高めの声で、返した私のほうが低音だったかもしれない。
 二言三言会話を交わし、せっせと試験問題を作りながら保護者を待つ。待ち時間は意外に仕事の効率がいい。静かな職員室では、サラサラと鉛筆の走る音まで聞こえてくる。
「ピピピピピッ」
 静寂を遮るように、外線の着信音が響き渡る。若手が素早く手を伸ばし、シュバッと取ったら件の保護者のようだ。
「笹木先生、もう到着されたそうですから、そろそろお願いします」
「はい、わかりました」
 最初は母親だけが来る予定だったが、父親も都合がつくからと同席してくれた。息子の問題行動や学習態度、交友関係について話すと、うんうんと頷きながら聞いていた。
「家でも決まりを守らなくて、怒ってばかりいます」
 イヤなことを思い出したかのように、父親がハアッとため息をつく。たまに、教員の話を受け入れない家庭があるのだが、そういう雰囲気ではなかった。これなら、協力体制が取れそうだ。電話では伝わらないこともあるので、来てもらってよかった。
 息子の話以外に雑談も交わし、一時間ほどワイワイと情報交換したあと、「また何か起きたら連絡します」と挨拶して見送った。
「スムーズに終わってよかったですね。じゃあ、私は帰ります」
 お昼は、娘にカルボナーラを作ってやることになっている。とっとと帰って材料を買わねば。荷物を持ち、スッと立ち上がったら、若手先生がはにかみながら紙袋を差し出した。
「今日はありがとうございました。よかったら、これ、召し上がってください」
「えっ、ありがとう~」
 若い異性から物をいただくのは、ホワイトデーくらいである。今回は予想外だったので、思いのほかうれしくて、心臓がピョコピョコ踊りだしそうになった。
 ちょっと行儀が悪いけれど、電車の中でゴソゴソ袋の中をのぞいてみる。



 マウントバーム モンブラン・デコレ

 私の好きな「ねんりん家」の季節商品らしい。
 ちなみに、中はこんな感じになっている。



 何と気の利く子なのかしら!
 休日出勤もなんのその、喜びパワーがドワッと噴き出し、バッテリーが満タンになった。
 さあ、スーパーにいくぜいくぜ~!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (10)
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