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「菊と刀」の系譜 (「日本文化論」の変容(青木 保))

2007-05-20 14:15:32 | 本と雑誌

 戦後から現在にいたるまで、数多くの「日本人論」「日本文化論」が世に出ていますが、本書を読んでみると、その源流は、ルース・ベネディクトの「菊と刀」に遡るとも言えそうです。

 著者の論によると、ベネディクトが「菊と刀」において提起した「日本文化」の基調となる主要な論点は2点でした。

(p48より引用) 「日本をして日本人の国たらしめているもの」についての仮定として、『菊と刀』が日本人に提示し、その後ながく議論の対象となった問題は、二つある。第一に、日本人の社会組織の原理としての「集団主義」である。第二に、日本人の精神態度としての「恥の文化」である。

 この論点は、その後、中根千枝の「タテ社会の人間関係」において「タテ社会」の肯定に、作田啓一の「恥の文化再考」において「羞恥」の肯定に引き継がれ、さらに発展、展開されたと説いています。

(p94より引用) 中根の「集団主義」の特徴「タテ性」の強調と、作田の「恥の文化」の「二面性」の強調とは、アプローチの仕方が異なるとはいえ、ともにベネディクトの主張点を共有しながら、その展開をはかったという点、ともにその「肯定面」を主張したという点、しかも外観からみられるほどには両者の論点はちがわないという点で、この時期を代表する「日本文化論」に位置づけられる。

 また、著者は、「菊と刀」の立論においては「心理人類学」的なテーマも含まれており、1970年代以降の「日本文化論」の論考において、その観点からの継承も見られると指摘しています。

(p98より引用) 日本における「心理学」「精神医学」への関心の高まりとも呼応するように、この面での「日本文化論」も大きな関心をよぶのである。その中の代表的なものに、土居健郎『「甘え」の構造』(1971)と木村敏『人と人との間』(1972)があり、この二書は社会論的アプローチを特徴とする前二書に対して、精神分析と心理分析による「日本文化論」の提出としての特徴をもつ。

  こう概観してみると、確かに、ベネディクトの労作「菊と刀」の「日本文化論」に及ぼした影響の大きさが、まざまざと実感されます。

「日本文化論」の変容―戦後日本の文化とアイデンティティー 「日本文化論」の変容―戦後日本の文化とアイデンティティー
価格:¥ 620(税込)
発売日:1999-04

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