OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

古寺巡礼 (辻井 喬)

2009-10-31 19:07:10 | 本と雑誌

Horyuji_gojyunoto  辻井喬氏の著作は、以前「伝統の創造力」という本を読んだことがあります。
 今回は、2冊目。「辻井喬」氏の「古寺巡礼」という組み合わせに興味をもって手に取ってみました。

 辻井氏流の面白い着眼や発想があり、私にとってもいろいろと気付きがありました。
 まずは、仏教思想理解における「仏像」の意味づけについての辻井氏の考えです。

 
(p16より引用) 仏教が中国大陸や朝鮮半島を経由してわが国に伝えられた際、その時代の権力の必要性や、文化的伝統に根ざす解釈で意訳されたりした結果、かなり原典とは異なったものになっているという。・・・
 そうした学問の進歩の中にあって、もっとも確実な仏教思想の受容は、まず仏像などの作品に表現されている感性を受け取ることのような気が僕にはしてくるのであった。

 
 後世の様々な意図を呑み込んで変貌した教義よりも、不変の仏像の姿に原始の教えが残されているということです。

 次は、「新薬師寺」を訪れ、その「新」の意味から繋がる「進歩史観」についての辻井氏の思索です。

 
(p26より引用) 新薬師寺の新というのはあたらしいという意味ではない。・・・「別の」とか「霊験あらたかな」ということらしい。
 そう教わって僕にはいつの間にか自分が、新しいものほど進歩している、秀れているという通俗的進歩主義の考え方に染まっていたことに気付かされた。その背後には時間を直線的な流れのなかでのみ理解し、空間を伴っての後戻りや曲線を描いて円環を作ることもあるという考え方から遠ざかっていたという事情があったと分かった。

 
 本書で紹介されている寺院や仏像は、今に残る素晴らしい文化の結晶です。
 もし直線的な進歩史観が正しいとするならば、往時のものよりも後年の創造の方が優れていることになります。さて、文化はその時代の人間の社会性・精神性が作り出すものです。今の建築や美術作品のいくつが1000年の月日を経てもなお心に響く感動を与えうるか・・・、考えされられます。

 もうひとつ、会津金塔山惠隆寺の薬師堂を訪れた際のくだりです。
 辻井氏の「伝統文化と新しい文化との関係性」についての考え方が表れています。

 
(p220より引用) 建築様式の和様と禅宗様の融合はおそらくその室町の頃に成立したのだろうが、そのことは太古から伝えられてきた文化の深さが、外来の様式を地域の伝統によってしっかりと受け止めたことを意味していよう。そこには新しいものや流行を追う都会人の軽薄さはない。
 そのためだろうか、薬師如来坐像の独創性が見る者に訴えてくる存在感は圧倒的であると言っていい。言い方を変えれば、伝統文化が深く生きていればいるほど、新しい文化を迎えたときに創造性が発揮されるという思想が、この坐像に見事に体現されているといえよう。

 
 最後に、最も私の印象に残った下りを記しておきます。
 福井県小浜市の名刹棡山明通寺を訪れ、鎌倉時代に再建された本堂を目にしたときの辻井氏の気付きです。

 
(p78より引用) 僕には、建て替えを前提とするということは、その建て替えの際、その時代の様式が入ることをも認めたうえでの再建なのではないかと思えてきた。
 つまり、最初造られたとおりに再現するのではなく、その最初の様式がその時代の人に与えた感銘と同じものを今の時代の人に与えようとする時、その時代の様式が混ざるのを当然の前提として考えていたのではないかということである。
 そこにあるのは、美というものの永遠性とは、時代と共に変わってゆくことのなかにその本質の重要な部分があるという美意識なのではないか。

 
 この着眼・発想は大いに勉強になります。
 美という価値観の継承において、過去の静的な美意識を寸分違わず再現するのではなく、その本質を伝えるがために変化を積極的に取り込むという考え方です。
 そして、そういった継承の仕方を、最初の創造の段階から織り込んでいるのだとすると、その構想力の雄大さは驚き以外の何ものでもありません。
 
 

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経済を動かす単純な論理 (櫻川 昌哉)

2009-10-27 23:01:35 | 本と雑誌

 このところ手にしている経済学の本は、「行動経済学」関係に偏っていたのですが、今回読んでみたのは、マクロ経済学の立場からの概説本です。

 著者は、「リスク」と「バブル」という2つのキーワードで、現在の世界経済の動きの基礎を分りやすく説明しています。
 とはいえ、私自身、完全に理解したわけではないので、以下に気になった記述の部分を書きとめておきます。

 まずは、今回の金融危機の理解する基本事項についての著者の解説です。
 今回の金融危機は、未回収リスクを内在したサブプライムローンを含んだ米国生れの金融商品が広く世界中に拡散され、そのリスクが顕在化したことが要因になったと言われています。

 
(p101より引用) 今回の金融危機を正確に理解するためには、証券化が引き起こした問題とバブルが引き起こした問題と、そして証券化とバブルが折り重なることによって生じた問題を、きちんと切り分けて議論する必要があります。・・・
 証券化が引き起こした問題は、証券化を進めたとき、債権管理の主体があいまいになりやすいという点です。証券化の制度設計が甘かったことは否めません。・・・
 バブルが引き起こした問題とは、リスクは測れるという前提に立つ金融工学の世界に、リスクを測ることができないバブルが混入してしまったことです。

 
 著者の言うように切り分けて考えると、今回の金融危機を引き起こした金融工学商品は、制度設計も甘く、不純物が混入している粗悪商品だったということになるのでしょうか。
 私は、経済については素人なのでよく分かりませんが、どうもそう思われて仕方ありません。

 また、「バブルが混入してしまった」という言い方ですが、これはちょっと気になります。
 住宅価格が未来永劫上昇し続けるはずもなく、この住宅バブルも当然リスクの主要因子だったはずです。金融工学を縦横無尽に駆使できる優秀な頭脳をもってしても、それを「測ることができない」と開き直られると「???」です。正確に測ることができなくても、ある程度「予測」はできたと思うのが自然でしょう。

 もうひとつの覚えは、著者がいう「バブルの特徴」です。

 
(p153より引用) 第1は、利子率が成長率より低くなるとき(つまり「利子率<成長率」のとき)、バブルが存在するということです。・・・
 ・・・GDPとバブルは同じ率で成長するということになります。これがバブル経済の持つ第2の特徴です。・・・
 ・・・バブル経済の第3の特徴はすこしショッキングです。バブル経済では、経済全体のバブルの総和が経済成長と同じ率で成長するということです。

 
 この第3の特徴から、「バブルの代替」という現象が生じます。
 著者によると、現在の日本はまだバブルが持続した状況だというのです。以前の土地資産をベースにしたバブルが、国債や貨幣に姿を変えているのだとの考えです。
 国債というバブルがはじけたときの財政に与える影響を考えるとぞっとします。

 著者は、うまくバブルを収縮されるための方策のひとつに「内需拡大」を挙げ、その具体策として「地方都市の集住」を提案しています。地方都市を集約して、50万都市をたくさんつくってはどうかとの案です。
 このあたりになるとマクロ経済学の発想の限界でしょうか。少々現実離れした内容だと言わざるを得ませんね。
 
 

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私にとっての20世紀―付 最後のメッセージ (加藤 周一)

2009-10-24 11:01:14 | 本と雑誌

 久しぶりに読んだ加藤周一氏の本です。

 2部構成で、第1部は2000年に出版された単行本のそのもの。「いま、ここにある危機」「戦前・戦後その連続と断絶」「社会主義冷戦のかなたへ」「言葉・ナショナリズム」の4編が採録されています。
 後半の第2部は「加藤周一、最後のメッセージ」として「老人と学生の未来―戦争か平和か」という講演と「加藤周一・一九六八年を語る―「言葉と戦車」ふたたび」というインタビューの書き起こしです。

 加藤氏にとって戦争、第二次世界大戦はとても大きなものでした。
 加藤氏に絶対的な影響を与えた「戦争」を経ても、日本人のものの考え方・感じ方で変らないものがありました。そのひとつが「大勢順応主義」です。

 
(p55より引用) 正しさの概念が数から独立している、最後の根拠が個人の良心のなかにある、という考え方は浸透しなかった。だから少数意見の尊重ということがあまり発展しなかった。

 
 戦争は「特殊な状況」です。その状況下で、数々の悪魔的な行為が行われました。もちろんそういった行為は正当化されるものではありません。が、他方、その行為者の本性が悪魔的だとはいえないと加藤氏は語ります。

 
(p61より引用) 人間の本性とか本質のほうに関心を持っていくよりは、人間を悪魔にしたり善良にしたりする社会とか歴史のほうに関心を向けるべきだとするこの考えは大いに経験に基づいた考え方です。それは、戦争中だけでなく、戦争の済んだあとの経験でもあります。

 
 加藤氏は、自らを「知識人」といって憚りません。
 また、それゆえに「知識人」たることの責任も強く意識し、その責任に対しては厳しい態度で臨みます。知識人たる「専門家」は、戦争に対してどのような態度をとったのか。

 
(p81より引用) 政治学、あるいは歴史学の場合には、学問が進めば進むほど歴史的な現象が現在起こっていることの必然性を理解することになるので、進めば進むほど批判力が低下する。そう考えると、なぜヴェトナム反戦運動が数学者と英文学者から出て政治学者から出なかったかが説明できる。

 
 加藤氏の怒りは、こう続きます。「戦争反対」への強烈な意思です。

 
(p81より引用) 戦争に反対する動機は、客観的な理解過程ではなくて、一種の倫理的正義感です。つまり「子どもを殺すのは悪い」ということがある。それで、ためらうことはない。そういう問題の時にこそ、その目的を達成するための科学的知識を、客観的知識を利用すべきであって、科学的知識のために倫理的判断を犠牲にすべきではない。
 だから、私は、戦争反対のほうが先にある。「初めに戦争反対ありき」です。

 
 小林秀雄氏は、昭和の「知識人」の代表者です。その小林氏に対しても、加藤氏の批判の矛先が向けられます。

 
(p225より引用) 小林さんのみならず日本の知識人の多くは、日本文化を再評価していくときに、文化ナショナリズムに惹かれていきました。そして体制批判能力を放棄していくという傾向は、戦前はもちろん戦後もずっと続いてきた。・・・日中戦争が中国侵略戦争であるかないかということに彼は興味がない。興味があるのは、たとえば自分を捨てて国に尽すとか、その勇気とか決断力です。決断してどこに行くか、決断がいったい何を社会に、歴史に及ぼすかということにはあまり関心がない。決断そのものを評価する。それは一種の美学だと思うけれど、小林さんの限界です。同時に、日本の多くの知識人の一面を象徴していると思うのです。・・・
 小林秀雄さんの場合は、一時代の指導的な知識人の一人として、本人の美学的体験の強さみたいなものだけを中心にして発言していたのでは困るのです。

 
 戦争に対峙しない知識人への加藤氏の不満であり非難です。こういった知識人の姿勢が、「戦争へと突入する状況」を作り出した一因だと考えているのです。
 加藤氏にとっての戦争は、自らの人生を通底する巨大な現実でした。「実生活と離れた思想」には意味を認めないとの信念です。
 
 

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雇用の常識「本当に見えるウソ」 (海老原 嗣生)

2009-10-21 22:04:00 | 本と雑誌

 本書の大半を割いて著者は、「終身雇用の崩壊」「転職の一般化」「成果主義の導入」・・・等々、近年の労働問題の議論において声高に主張される言説に対し、各種統計を駆使してその実体を指摘しようと試みています。

 ただ、それらの指摘(反証)は、今までも多くの書物で明らかにされたところを出るものではなく、斬新な切り口とは言いがたい内容です。

 私は、「統計数値」というものは、その数字が必然的に何らかの真の姿を語るのではなく、主張すべき内容に合致しした形で、論者が数字に語らせるという不可避的な性格をもっていると思っているのですが、本書もその例に漏れません。もちろん、著者が「俗論」と指摘している主張も同様です。
 比較する年度の選択を変えることにより、主張する変化の程度や傾向にかなり幅を持たせることができます。また、たとえば、同じ2%から3%の変化も、「たった1%の変化に過ぎない」というのか、「50%もの増加」というのか、主張したい内容により意味づけは変わるのです。

 そういう観点から言えば、統計数字で読み取れる写像と現実の肌感覚との差分を指摘し論を進める方が、より興味深い内容になったのではないでしょうか。

 とはいえ、著者のいくつかの指摘には首肯できる点もありました。

 たとえば、働く女性の復職支援策についての早稲田大学教授谷口真美氏のコメントを踏まえた著者の指摘です。

 
(p72より引用) 今の制度は見せかけの「個への配慮」であり、それは「個」をかえって悩ませる側面がある。それよりも、全社員の「考え方」の転換を促すような制度改革を実行していかなければダメなのだろう。現行のままでは、育児復職者の増加は、経営者や人事担当にとって対外的イメージ向上などのメリットはあっても、現場の管理者や従業員にとって何らメリットのないケースがほとんどだ。

 
 また、巻末で「2つの暴論」とあえて名付けた章で紹介されている議論も興味深いものです。

 そのひとつは、「限定型正社員」という雇用形態の導入。

 
(p169より引用) 契約は「職務契約」か「地域限定」に絞り、雇用期間に関しては「無制限」にするのはいかがか?

 
 もうひとつは、「移民受け入れ政策」の実行。
 今後の日本に確実に訪れる「人口減少に伴う経済力・社会基盤の劣化」を回避する策として、著者はこう語っています。

 
(p183より引用) 「成人した大人」をいきなり増やすこと、つまり移民受け入れ政策を避けることはできないだろう。移民に生産者であると同時に、消費者でもあり、税金・社会保険の支払い者でもあるという3つの役割を果たしてもらうには、相当量の人口流入が海外から必要となる。

 
 もちろん、これらの対策には検討すべき課題が山積ではあります。
 しかしながら、今後の社会の大きな潮流を捉え、現状打破的な大胆な政策提言をするということは、その論の是非はともかくとして、非常に重要な姿勢だと思います。
 
 

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夢をかなえるゾウ (水野 敬也)

2009-10-17 13:28:00 | 本と雑誌

 ご存知の通り、テレビ化もされたベストセラーです。
 どんな内容なのかちょっと興味があったので、図書館で数ヶ月の予約待ちの末、遅まきながら読んでみました。

 関西弁と関西系のギャグへの適応力があれば、とても読みやすい内容です。
 ただ、こういうのも「小説」というのでしょうか?内容は、「成功」を目指す人に贈る自己啓発のHow To本です。

 関西弁を喋るゾウの姿をした神様“ガネーシャ”が出す課題は、関西風ギャグの味付けがされていますが、その核となるメッセージは多くの世にある啓発本で指摘されているものです。
 この点は、本書の中でも“ガネーシャ”自身、認めているところです。

 
(p259より引用) 世の中にはいまだ成功法則書が溢れ、それを読んだ人に「成功するのではないか」という期待を与え続けています。
 しかし、そうした人たちのほとんどが成功していくことはありません。
 なぜでしょう?
 それは、
 何もしないからです。
 実行に移さないからです。
 経験に向かわないからです。
 もし、あなたが何かを実行に移すのなら、昨日までとは違う何かを今日行うのなら、仮にその方法がまちがっていたとしても、それは偉大な一歩です。

 
 本書でのメッセージのひとつは、「実行」してみなければどんなアドバイスも何の意味もないということです。

 さて、そのほか、“ガネーシャ”の台詞で気になるものをいくつか書き留めておきます。

 まずは、入門編としての“ガネーシャ”の忠告です。

 
(p32より引用) 「成功しないための一番重要な要素はな、『人の言うことを聞かない』や。・・・」

 
 他者から学ぼうとする「謙虚」な姿勢はとても重要です。

 また、以下の指摘も心当たりがありますね。私も、強く反省しなくてはなりません。

 
(p181より引用) 「人間ちゅうのは不思議な生物でな。自分にとってどうでもええ人には気い遣いよるくせに、一番お世話になった人や一番自分を好きでいてくれる人、つまり、自分にとって一番大事な人を一番ぞんざいに扱うんや。・・・」

 
 そして最後、“ガネーシャ”が言う「成功の秘訣」です。

 
(p283より引用) 「人がやりたいこと、人が持っている夢、人がどうなったら幸せやと感じるのか、そのことを考え続けていけば、成功なんてすぐそこや。」・・・
 どれだけ人を幸せにできるか、そのことにどれだけ喜びを見出せるか。それこそが、たった一つの成功の秘訣なのだ。

 
 私の場合、中身は見ないで評判だけで手にとってみたので、読み終えた感想としては、正直なところ、かなり物足りない感じがしています。
 本書をどういうジャンルの本ととらえるのか、本書に何を求めるのか、といった本書に対する立ち位置によって、印象や評価は大きく分かれますね。
 
 

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人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動 (マーク・ブキャナン)

2009-10-12 13:58:12 | 本と雑誌

 著者の本は、以前、スモール・ネットワークを論じた「複雑な世界、単純な法則」を読んだことがあります。
 本書はそれに続くもので、基本的な問題意識は以下の記述に表れています。

 
(p20より引用) 本書の中核をなす考え方は、突然わき起こる民族主義の高まり、女性の教育と産児制限との特徴的なつながり、さらには根強く残る人種間の分離をはじめ、金融市場や政治、ファッションの世界で見られる重要もしくは純粋に興味をかき立てられる多くの社会現象を理解する唯一の手立ては、人間ではなくパターンを考えることだというものである。

 
 面白い切り口で、いくつか私の興味を惹いた記述があったので、覚えに書き記しておきます。

 まずは、「自己組織化の本質」について。

 
(p29より引用) 自己組織化の本質は、パターンがひとりでに、しかも構成要素の細かな特性とはいっさい関係がないと言ってもいい形で出現することである。

 
 この考え方をわかりやすくたとえていえば、「空気の分子をどのように研究したところで台風を理解する助けにはならない」ということです。

 もうひとつ、著者の「経済学者の利己主義」についての興味深い指摘です。
 従来の経済学に没入していると、自分自身の行動も「合理的」傾向が強まるというのです。

 
(p177より引用) 「ふつうの」人々と比べたとき、現代の経済学理論を身につけたことが、経済学者自身の行動に知らず知らずのうちに影響を与えている可能性がある・・・経済学・・・を学ぶと、・・・「利己主義モデルに接しているために、実際に利己主義的な行動が助長されてしまうのである」。経済学者たちが助言者として世界の多数の政府に大きな影響力を及ぼしていることを考えると、この見解にはいささか不安を覚えるものがあるのではないだろうか。

 
 このことは、経済学者の判断基準が「ふつうの」人とは異なることを意味しています。「経済学者が前提としている人」の行動が「現実社会の人」と相違しているわけですから、経済学者の推奨する政策は、実社会にはJust fitしないことになるのです。

 さて、本書のサブタイトルは「社会物理学で読み解く人間行動」とあります。
 物理学的な側面としては、現実の人間社会を「複雑系」として捉える考え方に拠っていますし、社会学的な側面としては、前提を「合理的判断をくだす個人」に置く従来型経済学ではなく、最近流行の「行動経済学」の研究成果を紹介しています。

 著者が例として示す「人間行動」の結果のひとつに「富の偏在」があります。

 
(p242より引用) 富の偏りに関する普遍的法則は、人間世界に見られる数学的法則と自然界に見られる数学的法則との間に著しい共通性があることを具体的に示す一例にすぎない。

 
 ここでいう「数学的法則」とは、フランス人数学者ブノア・マンデルブロが発見した「べき乗法則」といわれるもので、さまざまな変動の発生頻度は、正規分布の曲線より両端の裾野が緩やかな分布を示すというパターンを示すとういうものです。

 本書の基本的な主張は、①自然界には、簡単な数学的数式で示されるひとつのパターンがある。②その数学的パターンは、人間を集団としてとらえた場合の行動についても当てはまる。というものです。
 ただ、これは、「人間」といえども「自然」の一部であるとの考えにたてば当然ともいえます。著者は、この「当然」という点について、なぜそうなるのかを説明してくれているのですが、どうもそのあたりの論旨については、残念ながら、私の理解力がついていかなかったようです。

 さて、最後に、著者による「知性」の定義についてご紹介しておきます。

 
(p97より引用) われわれの頭の意識的な部分を効果的なものにしているのは、実際には論理ではなく、適応する能力、すなわち、ある規則や考え方、信念などにもとづいて歩を進め、ついで、その結果がどうなるかによって調整していく能力である。・・・知性とは、単純な段階をたどり、調整しながら学習する能力のことなのだ。

 
 著者は、「知性」を静的なものではなく動的な能力と考えているようです。
 
 

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未来を予見する「5つの法則」 (田坂 広志)

2009-10-10 10:39:59 | 本と雑誌

 田坂広志氏の本は、以前、「これから知識社会で何が起こるのか‐いま、学ぶべき「次なる常識」」を読んだことがあります。
 本書は、前書に似たトーンで、田坂氏が予見した「未来の方向性」が紹介されています。

 田坂氏は、未来の予見にあたって「哲学」が必要だといいます。それが「弁証法」です。
 田坂氏は、弁証法が教える社会の変化・発展・進化の法則を「5つの法則」として整理しています。

 
(p17より引用) 弁証法の「五つの法則」

    • 第一の法則-「螺旋的プロセス」による発展の法則
    • 第二の法則-「否定の否定」による発展の法則
    • 第三の法則-「量から質への転化」による発展の法則
    • 第四の法則-「対立物の相互浸透」による発展の法則
    • 第五の法則-「矛盾の止揚」による発展の法則

 
 第一の「螺旋的プロセス」による発展の法則から敷衍される未来の予見のヒントとして、著者は以下のように語っています。

 
(p67より引用) 世の中の変化において、何かが消えていったとき、それを、ただ「存在理由が無くなったので消えた」と思うべきではないのです。
むしろ、消えていったものが持つ「意味」や「存在理由」を、深く考えてみるべきなのです。
なぜなら、そのことによって、見えてくるからです。
これから、何が「復活」してくるか。
その「未来」が、見えてくるからです。

 
 「消えていったもの」の「存在理由」によっては、時代の要請がその優先順位を下げているだけかもしれないというのです。
 その場合には、時代の要請が極大点を過ぎて回帰してきたとき、過去に「消えていったもの」が、再度新たな姿で脚光を浴びる可能性をもつことになるのです。

 つぎに、第二の法則です。
 この例のひとつとして、著者は「市場の進化」をあげています。

 ネット革命の進展によって、売り手から買い手(顧客)に主導権が移り、「中間業者(ミドルマン)」を中抜きするモデルが台頭しましたが、最近は「中間業者」が復活してきました。しかし、その中間業者は、以前とは異なる「ニューミドルマン」だといいます。

 
(p105より引用) 「ミドルマン」と「ニューミドルマン」は、何が違うのか。
向いている方向が違うのです。
小売や卸売などの「従来の中間業者」(オールドミドルマン)は、「企業」の方を向き「販売代理」のビジネスモデルで仕事をしていました。
これに対して、「新しい中間業者」(ニューミドルマン)は、「顧客」の方を向いて「購買代理」のビジネスモデルで仕事をするのです。

 
 第二の法則-「否定の否定」による発展の法則により、否定されていた「ミドルマン」が再度否定されて「ニューミドルマン」として復活するというわけです。

 これらのほかに、第三以降の法則の説明が続きますが、ちょっと面白いヒントになる考え方だと思ったのが、第五の法則について書かれていた点です。

 著者は、第五の法則-「矛盾の止揚」のためには「割り切らない」ことが重要だと説いています。

 
(p151より引用) 企業にとっての「矛盾」とは、ある意味で、それがあるからこそ、企業の「生命力」が生まれるのです。
従って、企業が抱える「矛盾」を機械的な「割り切り」によって解消してしまうと、「矛盾」とともに、「生命力」や「原動力」も消えてしまい、進歩や発展が止まってしまうのです。

 
 著者が勧める「矛盾」を止揚するマネジメント法は、「振り子」のようにバランスをとって振る舞うことです。「振り子」を振り続けながら、長期的に矛盾を止揚していくのです。

 さて、最後の章で、著者は、「弁証法的思考」をもって予見される未来の姿を12の「パラダイム転換」としてまとめています。
 そのうちのひとつ。多様な価値観を受容する時代の到来についてのフレーズです。

 
(p207より引用) 「多様な価値観の共生」という言葉は、しばしば、「異なった価値観をも、許容して、その共存を認める」という意味に、誤解をして使われることがあります。
しかし、この言葉の本当の意味は、「異なった価値観が共生することに、最大の価値を認める」ということであり、それこそが、「コスモロジー」のパラダイムに他ならないのです。

 
 「異なった価値観の許容」に止まらず、積極的な意味で「異なった価値観があることが大事だ」との主張です。
 
 

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知識社会 (全脳思考(神田昌典))

2009-10-07 22:16:50 | 本と雑誌

 本書は、「全脳思考」という神田氏の「思考法」を紹介したものですが、私としては、思考法そのものの内容よりも、その思考法の背景認識に関わる考え方のほうに興味を持ちました。

 ベースにあるのは、「工業社会→情報社会→知識社会」というよくあるスキームです。

 まずは、「情報社会」になって「失ったもの」について。

 
(p25より引用) 仕事が情報化された結果、失ったものは大きい。
 身体を同じ空間で共有しているからこそ、できることもある。たとえば、10年前の職場環境においては、隣の人が電話で話している会話ひとつからでも、部内で何が起きているかを理解することができた。上司の電話対応を聞いて、自分もいつの間にかスキルを身につけることができた。

 
 この弊害は確かに大きいものがありますね。
 可能な限り生身のコミュニケーションの場を確保する努力は必要ですが、もうひとつ、現在のコミュニケーション基盤を所与の前提として、その中での多様な情報のやりとりを生起・活性化する工夫も不可避になってきています。
 その試みのひとつとして、私も部内のSNSを立ち上げてみていますが、新たな個性の発見やリアル・コミュニケーションの補完に役立ち始めているのと同時に、やはり、アクティブ化の壁は大きいものがあると感じています。

 2点目は、「知識社会における新たな競争戦略」についてです。

 
(p50より引用) 知識社会では、市場を奪うための「競合戦略」より、市場自体をつくり出す「需要創造戦略」、そしてまたライバルから「市場シェア」を奪うことより、自社のことを顧客からどれだけ考えてもらえるかという「顧客マインド・シェア」を確保することが重要になってきているのだ。

 
 このことが、適応する「フレームワーク」の変化に結びついていると著者は主張します。
 「3C」や「4P」といった工業社会における競争戦略のために開発されたフレームワークは、市場創造戦略には適応不全を起こしているとの指摘です。

 最後は、「フラット組織の弊害」についての著者の考えです。

 
(p58より引用) 現在のフラット化した組織では、戦略の浸透そして実行は、じれったいほど時間がかかる。階層がフラットになったのだから、組織内における戦略の浸透も早くなったような印象がある。たしかにITインフラの社内整備により、同じ情報を共有するのは簡単になった。だが、事業推進に関わる情報・権限が分散した結果、同じヴィジョンを共有するのはひどく難しくなってしまった。

 
 確かに、従来の階層型組織の場合は、上位下達式の命令による統制スタイルでしたから、トップの号令一下によるアクションはスムーズだったことは事実でしょう。

 フラット組織は、同列の組織が多数並存します。そのために、「一つの組織横断的な戦略」を実行するうえでは、複数の関係部門の足並みをそろえるのが非常に困難になったというのです。
 他組織を「納得させる」努力と、並列組織をベースにしたプロジェクトマネジメントの仕組みがより重要になってくるわけです。
 
 

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TEFCAS (全脳思考(神田昌典))

2009-10-04 15:30:36 | 本と雑誌

 神田昌典氏関連の本は、以前、氏が翻訳した「ザ・マインドマップ」を読んだことがあります。
 翻訳に限らず多くの著作を世に出しているようですが、神田氏自身の著作を読むのは、本書が始めてです。

 本書では、神田氏のコンサルタントとしての経験から得た独自の「思考方法」が紹介されているのですが、その中で私の関心を惹いたのは以下の二点でした。

 ひとつめは、氏が提唱する「全脳思考モデル」の第一歩としての「発想」のヒントです。

 
(p211より引用) 全脳思考モデルでは、顧客のHAPPYな状態をイメージすることから思考を始める。・・・仮説構築を進めるうえで、特定人物を切り口とした思考は単純だが、非常に強力な方法論なのである。

 
 従来の延長線上からの発想を避けるための具体的な方法として、「特定人物の将来のHAPPYな状態」をスタートにするのは面白い着手法だと思います。

 あと、もうひとつは「TEFCAS」というコンセプトです。
 TEFCASとは、マインドマップで有名なトニー・ブザン氏が提唱している「目標を実現するためのプロセス管理サイクル」で、それぞれの頭文字の意味は、「Trials」「Events」「Feedback」「Check」「Adjust」「Success」とのこと。

 
(p265より引用) PDCAは生産工程における品質管理システムとして開発されたこともあり、トップが立てた計画を、ラインで高精度に実行していくことが価値を生む工業社会では、非常に有効であった。・・・
 知識社会では、想定しえない出来事に対して、社員一人ひとりが機転の利く対応を行い、その経験を自らのスキルアップに繋げていかなければならない。そうした能力を身につけるうえで、TEFCASは非常に強力なツールだ。

 
 PDCAは「Plan(計画)」が出発点です。
 他方、TEFCASは「Trials」、すなわち、仮説を試してみることから始まります。まずは、「やってみる」ことを重視します。

 将来が不確定な時代には、精緻な計画を立てることは極めて困難ですし、また、計画通りに物事が進むことも稀です。
 仮説検証のサイクルを細かく早く回しながら、つねに変化する外部条件にAdjustしながら進めていくことが「Success」(成功)への道となるという考え方です。
 
 

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宮本常一が撮った昭和の情景 上巻/下巻 (宮本常一)

2009-10-02 23:39:47 | 本と雑誌

 宮本常一氏の著作は、以前「忘れられた日本人」を読んだことがあります。

 本書は、昭和30年から55年の間に宮本氏が日本全国を巡って撮った約10万枚の写真の中から選ばれたものを、各年ごとに上下2巻にわたってまとめたものです。

 上巻巻末の田村善次郎氏の解説にあった、宮本氏のフィールドワークの基本姿勢についての紹介です。

 
(上 p248より引用) 一歩も二歩も踏み込まなければ撮れないカットは、9万枚とも10万枚とも云われる先生の写真の中には1枚もない。そう断言してよいだろう。
 「良い民俗調査をしようと思うのなら仲間になることである。君たちだって本当の仲間、友達には心をひらいて何でも見せるし、話もする。夜になれば泊まっていけともいうだろう。それを迷惑とは思わないはずだ」と私どもが何度も聞いた言葉である。

 
 本書に採録されている写真は、もちろん興味深いものばかりです。
 狭い国土を、その土地土地の気候風土に合わせて工夫し尽くした風景、海岸にまで迫る広島県呉市横島の段々畑や、珍しい香川県直島の枝条架式塩田・・・は、おそらく今はもう見られないでしょう。

 本書の楽しみは、それら貴重な写真に止まりません。
 数々の写真に添えられている宮本氏の著作からの引用が、その時代々々の空気を伝えています。

 たとえば、北海道利尻郡(利尻島)の昭和39年の街並みは、宮本氏にはこう映っていました。

 
(上 p235より引用) 島に来て見ると没落したのは少数のニシン建網業者であり、大半の島民は逆にその生産に生活にこれまで以上の工夫がなされ、この島を自分たちの安心して住める島にしようとの努力がうかがわれる

 
 また、福島県二本松市小浜の縁側のある民家の写真には、こう付されています。

 
(下 p214より引用) 縁側などというものは、一見不必要なもののようですが、それが日本人の生活にうるおいを与え、人と人とを仲よくさせた功績は実に大きかったと思います。が、これから先の家は、次第に縁が消えていくのではないかと思います

 
 まさに、その後の日本からは「縁」が消えていったのでした。

 私が生まれたのは昭和30年代半ばなので、同時代としての記憶にあるのは下巻(昭和40年~55年)の風景です。
 何枚かの写真に顔を出す雑種犬の姿に懐かしさを感じます。
 私の家の近所にも「アカ」という犬がいました。
 
 

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