いつも利用している図書館の新着本リストで目についたので手に取ってみました。
五木寛之さんのエッセイを見つけると、いまだについ手が伸びてしまいます。「地図のない旅」というタイトルの本ははるか昔読んだ記憶があるのですが、長い年月を経ての “新” 版です。
先日来読んだ「Ⅰ」「Ⅱ」に続いて、本書「Ⅲ」が “完結編” となるようですが、内容は特段 “完結” を意識したものではなく、前作、前々作と同様に五木さんの普段と変わらぬ筆致で綴られたエッセイそのものです。
ということで、今までどおり、私の関心を惹いたところをひとつ覚えとして書き留めておきます。
「虚像と実像のあいだに」との小文の中で心を止めたくだりです。
モハメド・アリとのインタビューの際のエピソードは、五木さんの他のエッセイでも紹介されていますが、本書ではこんな内容でした。
(p135より引用) 若い頃、ボクシングのヘビー級チャンピオンだったモハメッド・アリと対談をしことがある。
私が最初に彼に質問したのは、生まれてはじめての記憶は?というものだった。どうせ通りいっぺんの答えしか返ってこないだろうと予想していたのだが、そうでは なかった。・・・
「うーん」
と、額に手を当ててうつむくと、十分以上も無言で考え込んでしまったのである。しばらくして、彼は独りごとのようにポツリポツリと話しはじめた。・・・
古い記憶の糸をまさぐるように、遠くをみつめて彼は話しだした。
こういう姿から、フィルターを通さないその方のそのままの人柄を伺い知ることができるのですね。
とても魅力に満ちた人物です。