不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

OMOI-KOMI - 我流の作法 -

For Ordinary Business People

GMの言い分 (ウィリアム・J・ホルスタイン)

2009-08-30 10:49:43 | 本と雑誌

Camaro  経営再建中のGM。
 朽ちた巨木のイメージがあるGMですが、朽ち果てるまで安穏としていたわけではありません。

 本書は、経営陣・社員等へのインタビューをもとに、そのGMの今に至る道程を明らかにしていきます。
 彼らの口からは、従来のやり方への反省とともに、GM自らがその対策として数々の企業構造の変革にチャレンジしていたことが紹介されます。

 
(p37より引用) 事態に対応するために、GMは企業構造を変えなければならなかった。徹底的なコスト構造の見直しを進めなくてはならず、それには会社に深く根付いた社会保障の概念を、・・・見直すことが求められた。・・・経営陣は、ただ社員の平和を保つためにクルマを作り続け、社員の給料、年金と医療費を払えるだけの利益を上げればいいという考えに誘惑されていた。・・・このように会社の第一の関心は正直なところ市場にあったわけではなかったのだ。

 
 GMは、コスト面では、年金・医療費負担を中心とした「社員の福利厚生費の既得権益化」が、利益改善の大きな障害になっていました。また、収益面では、売れる車を世に出すという「基本的なマーケットインの思考」が決定的に欠落していたのでした。

 GMの変革に向けたアクションは多岐に及んでいました。
 もちろんその中には「生産性の向上」も含まれています。お決まりの手法ですが、そのお手本は「トヨタ」でした。

 
(p121より引用) カウガーはGMがさまざまな経路から学んだリーン生産方式を体系化し、それをグローバル生産システム(Global Msnufacturing System)、略してGMSと呼んだ。・・・
 1996年までに正式には発表されなかったGMSには、五つの原理がある。①従業員の参画、②標準化、③品質の作りこみ、④短いリードタイム、⑤継続的な改良、だ。その全ては直接トヨタから受け継いでいるものだ。

 
 このGMSは、新規建設された工場から導入されましたが、重要な課題は、このGMSをGM流に慣れ親しんでいる既存工場にも適用できるかということでした。そして、20年余りの期間をかけて、GMはすべての工場でほぼ満足すべきレベルのGMS導入を果たしたのです。

 このようなGMのトヨタに学ぶ姿勢は、新車開発のフェーズにおける「現場重視」のアクションにもつながりました。

 
(p154より引用) 会社がチーフ・エンジニアに新車発売に取りかかるよう任命すると、バラの率いるチームが、工場代表として製造チーフ・エンジニアを任命する。・・・
 これは、20年前と比較すると劇的な変革を遂げたといえよう。当時は経営側が従業員に向かって「これを製造するんだ。設備はこちらを使ってくれ」と言うだけだった。今では会社が新車の製作を決定すると、工場から代表者が指名され新車発売プロジェクトに関わるのだ。「基本的な問題を作業員の視点から見ることが早くできれば、良い結果が生まれる」とバラは言う。

 
 新車の開発にあたって初期段階から生産現場の声を活かそうという取り組みをすでに実施し、具体的な成果をあげているということです。

 著者は、本書で、GMも改革し続けていたことを多面的に指摘しています。
 しかしながら、GMは経営危機に陥り、今まさに再建途上にあります。

 ビッグスリーを救済するか否かにあたっては、アメリカにおける自動車産業の「現代的位置づけ」がひとつの議論になりました。
 この点についての著者の主張は明確です。

 
(p372より引用) 製造業には多様な要素が複雑に入り混じっている。アメリカが求め、必要とする設計・開発の最先端にかかわる仕事を提供するのは製造業である。さらに製造業の端末は各方面へと伸び、ハイテク技術の分野を含む経済のすべてに関与している。健全なテクノロジー産業は、その技術を買い取る自動車産業なしにはありえない。
 そのような観点に立つと、GMは前世紀の遺物どころではない。アメリカの経済を回復し、未来における世界でのアメリカの立場を維持するためにも、GMは絶対不可欠なのだ。

 
 GMの経営破綻は、もちろん、サブプライムローン問題に端を発した世界的金融危機がもたらした大不況がその主要な原因であったことは否定できません。
 もし、この世界的金融危機がなかったとしたら、GMは繁栄し続けたか?
 この仮定は現実的には無意味ですが、非常に興味深い仮定ではあります。
 
 

GMの言い分 GMの言い分
価格:¥ 2,100(税込)
発売日:2009-05-28

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

薩摩スチューデント、西へ (林 望)

2009-08-28 22:15:01 | 本と雑誌

England_expo  エッセイでは定評のある林望氏の長編小説です。

 舞台は幕末、薩英戦争敗戦後の薩摩です。
 攘夷の不可能を痛感した薩摩藩主島津久光は、国禁を犯して薩摩の若人をイギリス留学に旅立たせました。西欧諸国と伍して行くために決断した薩摩藩の先見です。

 
(p76より引用) 実際にこの留学費用として、運賃や滞在費だけで少なくとも七万両近い大金が動くのであった。今の金にして五億にも十億にもなるかという金額である。それだけの巨費を投じても若き俊秀たちをイギリスに送って一刻も早くこの国を西欧化しなくてはいけない、と五代もまた小松に率いられた藩庁も思い詰めていた。

 
 ストーリーの大半は、薩摩スチューデントの往路の航海での体験描写です。
 薩摩スチューデントは、最初の寄港地香港で国際社会の現実秩序を思い知ることになります。

 
(p109より引用) イギリスをはじめとする西洋諸国の膨大な富、それに押しひしがれている清国の貧困で無気力な民、香港の空気は上陸初日にして彼らを圧倒し、船酔いとはまた違った意味で酔わせていた。

 
 香港で定期便に乗換えた後、英国までの長い航海の中で、彼等は多くのヨーロッパ人の日常の姿と接することとなりました。その過程で、彼らの「攘夷」が如何に現実離れした考えであったのか、それぞれがそれぞれの体験を通して気づき始めたのでした。

 
(p163より引用) 「・・・国許には、まだ攘夷攘夷と簡単なこっのように思っちょる者がいくらもおっ。ものを知らんということは、そいこそ恐ろしかこっじゃ。世界の国の付き合いようというもんは、そげな単純なもんじゃ、とうていありもはんど」・・・
 吉田は、その明敏な頭脳を以て、今や急速に攘夷から開国開化へと思想を切り替えつつあった。

 
 この吉田は、井上馨外務卿の元で条約改正にあたった後、初代農商務次官となった吉田清成です。

 また、地中海の航海で寄港したマルタ島では、海の堅固な要塞とともに西欧文化にも触れました。それは、教会であり、オペラハウスであり、図書館でした。

 
(p281より引用) このとき初めて西洋式の図書館というこのを実見して、畠山と民部の心のなかに、これから日本が開国して西洋に伍して国を富ましめていくについてはどうしても国民を教育することが必要だ。誰でもが学問をして国全体が知識を蓄えることが必須だ。そのためにはどんなに金がかかろうとも、国家の仕事としてこういう施設を造って、広く知識を国民に与えるようにしなくてはならぬ、とそんな思いが雲のごとくに湧き起こってくるのであった。

 
 この畠山義成が、東京開成学校(東京大学の前身)初代校長となるのでした。

 一致団結して渡英した4名の使節と15名の留学生。当初の留学目的は諸般の事情で貫徹できず、帰国はバラバラとなりました。
 その後世もまた、様々ではありました。
 
 

薩摩スチューデント、西へ 薩摩スチューデント、西へ
価格:¥ 1,890(税込)
発売日:2007-04-20

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

城山三郎と久野収の「平和論」 (佐高 信 編集)

2009-08-26 22:25:49 | 本と雑誌

 夏は、戦争のことを考える季節です。

 本書は、城山三郎氏の「反戦論」、久野収氏の「非戦論」という二部構成で、両氏の主張および佐高氏自身の主張を開陳したものです。

 城山氏は、自ら志願して海軍に入隊しました。そこで正に理不尽な軍隊生活を経験したのです。
 城山氏の「反戦精神」は、まさにその実地の体験に基づく強靭な思想です。

 
(p20より引用) 特攻を感傷的に美化し、「強制」なのに「志願」とすりかえる風潮を城山は激しく糾弾する。そして、旗を振った者への嫌悪と、それに振りまわされた自分への悔いを秘めて、「旗」という詩をつくった。・・・
・・・軍隊でも会社でも、往々、旗を振る愚かなるトップによって“棄民”がつくられる。城山にとって、戦後の企業戦士はそのまま自らの兵隊体験と重なった。だから、城山が、「組織と人間」を描く、いわゆる経済小説を書くのは必然だったのである。

 
 本書には、城山三郎氏・久野収氏の論考に加え、佐高氏の持論も併載されています。
 たとえば、安易な規制緩和に走る政界・経済界の動きへの反論です。
 この動きが、本来最低限必要とされる社会のルール自体を緩めてしまっているとの指摘です。

 
(p72より引用) JR東日本の松田が、事故が起こる前に本を書いていた。そこには「民営化されて、コストを考えなければならない。コストを下げるために、車両を軽くした。車両の軽量化に成功した。国鉄時代だったら、技術陣がうるさくてそれはできなかっただろう」と書いてある。つまり、技術陣は安全を考えてこれ以上軽くしては危ないと言っていたが、それを突破して軽くしたということだ。風が吹けば軽い車両は倒れるということは素人にだってわかる。こんなに恐ろしいことができるのは規制緩和などではなく、安全緩和であるということだ。

 
 佐高氏は、小泉・竹中改革が推し進めた新自由主義、すなわち世の中をすべて「赤字・黒字」で測る利益至上主義的価値観には断固反対の立場です。

 さて、本書の後半は、久野収氏の論文と佐高氏との対談が採録されています。
 その中から、私の興味を惹いた部分を以下にご紹介します。

 まずは、「戦争と宗教」に関わる久野氏の整理学です。

 
(p110より引用) 久野 ・・・戦争には肉体的暴力による殴り合い、殺し合いか、知能による競い合いか、二つしか方法がない。知能による相手の折伏、説得、あるいは共感を得るという方法を世界宗教が考え出した。・・・しかし、世界宗教は、とくに一神教の場合には、ときどき政権や軍権といっしょになって異教徒を弾圧する場合があるわけです。
佐高 ブレインによる戦争から再び、肉体的暴力による戦争に戻ることがあるということですね。

 
 もうひとつ、「非武装的防衛力は幻想であるか」との寄稿文冒頭の久野氏の一文です。

 
(p120より引用) 非武装的防衛力などといえば、すぐさま、理想主義、一人よがりの空論、あげくのはては幻想だ、という非難が、現実主義を自称する連中から大きくはねかえってくる。ところがこの場合、現実主義とは、既成事実中心主義、先例主義にすぎず、事実や先例がないというだけの話である。

 
 「現実主義」というステレオタイプ的思考様式は、こと平和論に限らず、社会的事象のいろいろな場面で登場します。
 現実を踏まえること、「三現主義(現場・現物・現実)」は、リアルな課題を取り扱ううえでの基本動作としてはきわめて重要ですが、それは、そのまま「既成事実容認」というわけではないということです。
 「現実」は、思考のスタートであって、ゴールではありません。
 
 

城山三郎と久野収の「平和論」 城山三郎と久野収の「平和論」
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2009-05

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

俺は、中小企業のおやじ (鈴木 修)

2009-08-24 22:30:51 | 本と雑誌

Alto  スズキの会長兼社長の鈴木修氏のスズキ経営の足跡を幹にした自伝です。
 1978年48歳で社長に就任して以来、30年間もトップをつとめている自他共に認めた?ワンマン経営者です。表紙の写真から見ても、いかにもワンマンという風貌ですね。

 ワンマンかどうかはともかくとして、企業の経営者は自らの責任において数多くの意思決定をこなし続けなくてはなりません。意思決定がトップの仕事の真髄です。
 そういう点から、私が興味をもったいくつかのエピソードをご紹介します。

 まずは、最近の鈴木氏のことばです。
 昨年来の大不況に際して、スズキも減産を強いられました。

 
(p10より引用) こういうときには、外注先にコスト削減を強いるのはもってのほか、そんなことをしてはいかんのです。それは生産が増えているときにすることです。いまみたいなときは、内なるコスト削減、すなわち、おのれのマイナスをいかに減らすかに努力する。材料の質を落とすのではなく材料そのものを変えたり、不良品を減らすといった工夫をしたりする。・・・ひとりひとりの社員が気を引き締めていかなければならないのです。
 危機は常に社内にあり。このようなときこそ、おのれを見つめ直すチャンスです。

 
 つぎは、「中小企業」を自認するスズキの経営スタイルを象徴的に表していることばです。

 
(p45より引用) スズキは生産設備を平均して3年ぐらいで償却しています。たとえば、税法上の法定償却期間が10年となっている大型機械も、うちでは3年です。・・・
 うちのような企業は、「ゆっくりと10年単位で元がとれればいい」といった悠長なことはいっていられません。工場も機械も、・・・すべて3年ぐらいで投資を回収できるという判断がなければ、そもそも投資しません。・・・さらにいえば、「いざ投資した後は、是が非でも3年で元をとる」という覚悟で皆、一生懸命やるのです。

 
 有税償却であっても早めに償却するというぐらい徹底しているようです。早く償却しておけば、後々の利益が大きくなるという鈴木氏流の「先憂後楽」の経営哲学の表れです。

 最後は、海外進出の失敗事例から得た鈴木氏の貴重な教訓です。
 1980年代半ば、スズキはインドにおいての海外事業展開と期を一にしてスペインの企業にも資本参加しました。が、それは結果的には撤退を余儀なくされることとなりました。

 
(p172より引用) スペイン撤退から学んだことは次の2つです。
 まず、「会社というのは、いろいろ手間ががかかっても一から自分でつくりあげたほうが、いい結果が出る」という教訓です。世の中では「M&Aブーム」といわれた時期もありますが、少なくとも自動車産業でM&Aをやって大成功しているところはありません。・・・
 企業には独自の文化があって、経営主体が変ったからといって体質は簡単には変りません。・・・
 もうひとつは、「手離れの悪さが、事態を悪化させる」ということです。・・・
 少しばかりの債権を確保しようとして、じたばたするのではなく、思い切りよくあきらめて、新しい仕事に前向きのエネルギーを投入したほうがはるかに生産的です。

 
 連結売上高3兆円を越える企業にまで成長した「スズキ」のことを、鈴木氏は「まだまだ中小企業」だと言い続けています。
 驕りへの戒めの意図もあるのでしょうが、むしろ企業の経営実態は、良くも悪くも「中小企業」的だと本心から理解しているようです。

 
(p231より引用) かつては大企業といえば、資本金や人員数、売上高、歴史、利益といった物差しで判断することができました。ところが現在では、そうした物差しだけでは大企業と判断することはできません。業界でシェアがナンバー1かどうか、すなわちプライスリーダーであるかどうかが肝心です。たとえ小さな規模でも、強い個性や特色を備えた商品で、きわめて高い市場シェアを持つ会社こそが大企業であるといえると思います。スズキはまだまだその域に達していません。

 
 スズキが大きなシェアを占めるインドでは、タタの超低価格小型車が注目を浴びています。
 スズキの今後の舵取りや如何。
 
 

俺は、中小企業のおやじ 俺は、中小企業のおやじ
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2009-02-24

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スターリン―その秘められた生涯 (J.バーナード ハットン)

2009-08-22 18:59:03 | 本と雑誌

Stalin  家の本棚にあったので読んでみました。
 原題は「The Private Life of Joseph Stalin」(ヨシフ・スターリンの私生活)で、そのタイトルどおりスターリンの私的生活の面を中心にその一生を紹介した著作です。
 とはいえ、私生活に止まらず、レーニンやトロツキーといった面々との関係ややりとり、さらにはスターリンが政敵に対して下した公式には確認されていない行為等も記されています。

 たとえば、いわゆる「レーニンの遺言書」といわれる書き物の一節です。

 
(p78より引用) 「スターリンは書記長となるに及んで、その手に巨大な権力を掌握した。しかしわたしは、彼が細心の考慮を払ってその権力を行使するすべを心得ているとは信じない」・・・
「わたしは、同志諸君がスターリンを書記長の地位から追いだし、もっと誠実で、礼儀をわきまえ、もっと思慮に富み、移り気でない他の同志を書記長に指名する手段を講ずるよう提案する」

 
 そして、このレーニンの遺言書が政治局のメンバーに明かにされて、しばらく後、

 
(p85より引用) 彼(スターリン)の秘書カンネルは、レーニンの侍医二人がスターリンの部屋に入るのをみた。・・・スターリンは侍医の一人に向かっていった。「君はすぐゴルキーまでいってもらわねばならない。急いでレーニンを診察してもらいたいのでね」・・・
 翌日、致命的な発作がレーニンを襲った。

 
 第二次大戦最終盤から戦後にかけてのスターリンの外交活動は極めて精力的なものでした。必ずしも当時の国際政治の牽引者ではなかったスターリンですが、チャーチル、F.ルーズベルト、その後のトルーマンらに伍して外交面での影響力は大きなものがあったようです。
 もちろん、これが故にスターリンの独裁制が正当化されるものでは決してありません。また、この外交方針がその後の国際社会において正しい道であったかといえば、そうではなかったという評価にもなるでしょう。

 ちょうど8月6日、本書で「広島への原爆投下」が触れられている部分を読みました。
 スターリンにとっての「原爆投下の意味」についてです。

 
(p185より引用) アメリカの原子爆弾が広島で炸裂した時、スターリンの打算はすべて、裏切られてしまった。彼はこの原子爆弾の成功は、西欧側の政治家たちが、もはやソビエトの軍事力をさほど高く評価する必要のないことを示すものであると理解した。

 
 直後、スターリンは、原子爆弾の製造を促進する指示を出しました。
 
 

スターリン―その秘められた生涯 (講談社学術文庫) スターリン―その秘められた生涯 (講談社学術文庫)
価格:¥ 840(税込)
発売日:1989-10

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今までで一番やさしい経済の教科書 (木暮 太一)

2009-08-20 21:49:58 | 本と雑誌

 タイトルを見て、どんな内容か興味をもったので読んでみました。

 表層的な概説本ですが、「経済的な事象」の基本中の基本をザッと頭に入れるという目的であれば、読みやすく分りやすい本だと思います。
 ただ、説明の構成には論理的なストーリー立ては全くありません。経済的な事象を語るのに登場する「単語」の意味を、極々単純化して説明しているだけです。その点では、「超初級者向け経済基本用語集」といった方がいいかもしれません。

 タイトルにある「一番やさしい」というのはそのとおりだと思いますが、「経済の教科書」といえる内容ではありませんね。(私も読んだわけですから偉そうなことは言えませんが、)もし、本書が、大学生や新人社会人を読者として想定しているのだとすると、正直、あまりにも情けないと感じざるを得ません。

 あと、本書を読んで、どうしても首肯できなかった部分です。

 
(p186より引用) いくらがんばっても状況が変らない、現状維持をするだけでも大変、少しでも休むと下に下ってしまう。働いても働いても生活がよくならない。
 それが、資本主義の構造の問題なのです。構造上どうしてもこうなってしまう。

 
 そういう状況において、人はどんな仕事を選べばいいのか。著者の答えはこうです。

 
(p189より引用) 結論からいうと、「自分の人件費」を抑えられる仕事を選べばいいのです。つまり、自分の給料が安くても、無償奉仕でもやりたい、と思える大好きなことを仕事に選べばいい。・・・自分の人件費が少なくて済むということは、結果的に原価を抑えられるということで、利益を多く出すことができる。・・・
 「報酬をもらわなくてもいい」という点で優位に立つと、結果的に競争に勝つことができ報酬ももらえる。

 
 何かしっくりきません。大好きな仕事を選ぶべきというのはそのとおりだと思います。が、それは人件費を抑えて利益を出すためだといわれると違和感を覚えます。(結果、「報酬ももらえる」ということは、そこでやはりコストはかかるわけですし・・・)

 まあ、読み手によって、本書の評価はものすごくバラつくと思いますね。
 
 

今までで一番やさしい経済の教科書 今までで一番やさしい経済の教科書
価格:¥ 1,365(税込)
発売日:2009-03-13

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

不景気でも大型受注できる営業組織のつくり方 (大西 孝明)

2009-08-18 21:33:04 | 本と雑誌

 会社関係の方から頂いたので読んでみました。

 著者の大西孝明氏は現在営業コンサルタントですが、その前は、商社や外資系IT企業で大企業相手に営業業務に携わっていたことのことです。

 本書では、その実地経験を基にした極めて実践的な営業ノウハウを具体的に開陳しています。非常に基本的なことばかりですが、大手企業を顧客とする新人営業担当者にとっては改めて意識し直すべきポイントも多く記されています。

 たとえば、顧客側から見た場合の「商談」の意味についてです。

 
(p45より引用) 多くの営業部員は「企業の買物」を「個人の買物」と同じに考えて、「安くすれば売れる」と考える傾向があるので、企業と個人のお金を使う目的がまったく違うということを理解させる必要があります。
 大型商談は投資ですから、相手先は「絶対的な金額」ではなく「投資対効果」を考えます。つまり、安くても利益につながらないものであれば買わないでしょうし、「早く、大きく、確実に儲かる」と信じれば高額でも買います。

 
 もちろん、大企業といえども「低価格」は非常に重要な選択要素ではありますが、最終的には、商談対象となっている商品・製品・サービスが、自社にとって「投資対効果」の面で魅力的か否かということが、最も決定的な判断基準になります。
 この点をキチンと説得できなければ営業としては落第なのです。

 さて、その商談ですが、著者は、大企業の現実的な商談関係者を「5つのキャラクター」に分類します。

  • 「キング」 :実質決裁者
  • 「エンジェル」 :営業の見方になる有力者(営業代理人)
  • 「デビル」 :営業の敵になる有力者(競合会社の営業代理人)
  • 「サポーター」 :商談には無関係だが情報を提供してくれる人
  • 「オーディエンス」 :商談に関係しない人

 この中で、日々の商談で最も重要なのが「エンジェル」です。

 
(p60より引用) 「エンジェル」には「3つの条件」が必要です。
 ■社内影響力
 ■商品理解力
 ■個人的利益
・・・
 ちなみに、「商品理解力」とは「商品仕様」がわかることではなく、導入効果を理解できる能力のことをいいます。

 
 商談のプロセスにおけるポイントは「エンジェルを見極める」ことです。

 相手が大企業の場合、商談の場での最終的なクロージングは不可能です。かならず、(形式はいろいろありますが、)社内検討・社内稟議という段取りを踏みます。その段取りに「営業マン」が直接関係することはできません。
 そういう意味では、営業は「間接的」にならざるを得ず、こちら向きに社内を動かす「社内エージェント(=エンジェル)」が必ず必要となるのです。

 
(p64より引用) 「営業の仕事は顧客の話を聞くこと」といわれますが、この表現は誤解を招きます。部下に正しく伝えるためには「営業の仕事は、必要な情報を顧客から聞き出すこと」というべきです。

 
 営業活動は、商談を通じた情報から「エンジェル」を見つけ出し、「エンジェル」と共に進めていくものです。
 
 

不景気でも大型受注できる営業組織のつくり方 (アスカビジネス) 不景気でも大型受注できる営業組織のつくり方 (アスカビジネス)
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-04-06

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

臨界質量 (日本の「安心」はなぜ、消えたのか(山岸俊男))

2009-08-16 16:30:27 | 本と雑誌

 著者の山崎俊男氏は、「謙虚さ」とか「和を尊ぶ」といった「日本人らしい」と言われる行動は、日本人が古来よりもっている独特の精神性によるものではないと主張しています。

 
(p52より引用) いわゆる「日本人らしい行動」とは、単に日本の社会環境にうまく適応するための「戦略的行動」にすぎない

 
 すなわち、ある種「普遍的」な、極めて功利的・合理的な考え方によるものだというのです。
 とはいえ、その合理的判断の基軸(デフォルト)となる考え方は国により異なるようです。

 
(p72より引用) 状況が明確であればあるほど日本人もアメリカ人も行動の傾向はほとんど変らないということが分かるわけですが、日本人とアメリカ人では「自分の行動が他人にどういう影響を与えるか分からない」という状況においてどうするかという「デフォルト戦略」は明らかに違います。

 
 この指摘は興味を惹きます。

 
(p73より引用) 日本人の場合、「自分の選択によって他人に迷惑をかける可能性がある」という前提で行動するのがデフォルト戦略になっているということです。一方、アメリカ人の場合は「自分の戦略は誰に迷惑をかけるわけではない」という前提で、自分の好みにしたがってペンを選ぶことがデフォルト戦略になっているのだと思われます。

 
 そして、著者は、この日本人的思考についても利他的な要因を認めません。
 日本人が「なるべく他人の迷惑にならないように行動する」のは、「自分自身は違う考えを持っていても、世間の人は多数派の考えを持つ人に対して好印象をいだくだろうと予測するから」だと言うのです。

 こういった「みんながやるなら自分もやる」といった「『みんなが』主義」の社会において発生する行動現象を説明するにあたって、著者は、「臨界質量」という面白いコンセプトを紹介しています。

 
(p188より引用) 社会的ジレンマの多くは、他の人たちがどの程度、協力行動を取っているか、非協力行動を選んだかによって、がらりと結果が変ってくるのです。そして、その潮目となる比率のことを、心理学では「臨界質量」と呼びます。

 
 「臨界質量」とは、本来は物理学の用語で「原子核分裂の連鎖反応が持続する核分裂物質の最少の質量」のことを言います。
 が、この概念の相似形としての心理学上の現象の説明には、大変興味深いものがありました。

 
(p202より引用) ・・・臨界質量に基づく現象は、私たちに二つのことを教えてくれています。
 その第一は社会的ジレンマを解決し、人々の間に協力関係を作り出すには、最初から全員に働きかける必要はないということです。
 世の中の多くの人たちは他人の動きを見てから自分がどう行動するかを決める「みんなが」主義者なのですから、協力行動を選ぶ人が臨界質量をほんのわずかでも超えてくれていれば、あとはまるでドミノ倒しのように、「我も我も」と協力行動をする人が出てくるので社会的ジレンマは解決の方向に向かいます。・・・
 しかし、このことは裏を返せば、初期状態が臨界質量に達していなかったとしたら、雪崩を打ったように非協力行動を選ぶ人が増えてしまい、その場合、社会的ジレンマの解決が望めないということでもあります。

 
 この「臨界質量」の考え方は、組織変革への取り組みにも応用できます。
 変革にあたって、その組織全員を一気に感化する必要はないということです。初期の段階で、臨界質量を越える割合の同調者を何とかして集めることができれば、かなりの程度までの変革は、自走的なサイクルで達成しうると考えられるのです。
 ポイントは、「初期段階での消極的同調者の割合」です。
 
 

日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点 日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-02

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

二つのモラル (日本の「安心」はなぜ、消えたのか(山岸俊男))

2009-08-14 17:03:02 | 本と雑誌

 私が学生のころは「日本人論」がブームでした。
 ルース・ベネディクトの「菊と刀」をはじめとして、イザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」、中根千枝氏の「タテ社会の人間関係」、土居健郎氏の「甘えの構造」等々の本は必読書でした。

 本書は、社会心理学の立場から、興味深い切り口で現在日本の問題点を論じたものです。

 著者はまず、「いじめ」等の日本社会の荒廃として指摘される問題について、その原因の論調に批判の目を向けます。
 安易に「心の教育」の問題に帰結させてしまい、真の原因への対策がとられていないとの問題意識です。

 
(p29より引用) 日本の社会で起きているさまざまな事件や問題について、その原因を「心」に求め、きちんと子どもたちに教育をしさえすれば事態は改善すると思っている人が、どんなに多いことか。・・・
 すでに世の中は21世紀。ソ連も滅び、中国も社会主義を事実上、返上したというのに、いまだに戦前の軍部や社会主義諸国の指導者たちと同じ精神論を振りかざして、「心がけ」で問題を解決しようとする人が多いことには怒りを通り越して唖然をしてしまうほどです。

 
 著者は、旧来の日本の農村社会にみられる「集団主義社会」の仕組みに新たな分析を加えました。

 
(p104より引用) 集団主義社会とは社会の仕組みそのものが人々に「安心」を提供することによって、いちいち他人を「信頼」しなくてもいいようにしてくれる社会であるということでもあるのです。

 
 すなわち、その社会は「構成員の信頼関係」で成り立っているのではなく、信頼がなくとも「社会」として機能する別の要因があるというのです。
 それは、社会秩序を破ったものが蒙るデメリットです。このデメリットが秩序破壊の抑止力になっているとの考え方です。

 著者は、こういった「安心社会」に対立する概念として「信頼社会」を上げています。そして、この著者の考え方と同じくするものとしてカナダ人学者のジェイン・ジェイコブズ氏の説を紹介しています。

 
(p242より引用) ジェイコブズは古今東西の道徳律を調べていく中で、人類には二種類のモラルの体系があるということを発見しました。それが「市場の倫理」であり、もう一つが「統治の倫理」です。・・・
 ・・・ジェイコブズが言っている「市場の倫理=商人道」とは、私の言う「信頼社会」において有効なモラルの体系であり、一方の「統治の倫理=武士道」とは「安心社会」におけるモラルの体系であると言うことができるのです。

 
 ジェイコブズ氏によると、この二つのモラルの体系は相容れないもので、これらを混ぜ合わせると最終的には「何をやってもかまわない」という究極的な堕落を招いてしまうというのです。

 
(p248より引用) こうした分析を踏まえて「現代の我々は、市場の倫理と統治の倫理の違いをよく理解したうえで、どちらを選ぶかを自覚的に決定しなければいけない」とジェイコブズは警告しているのです

 
 この点を、最近の日本に当てはめた場合の著者の危惧です。

 
(p248より引用) ここ10年あまり日本で行われてきたさまざまな改革、たとえば規制緩和、市場の開放・・・が、日本を安心社会から信頼社会へとシフトチェンジしていこうという試みであった・・・
 そして、それは同時に、日本人の価値観を統治の倫理から市場の倫理に転換していこうという試みであったと言えます。

 
 この大きな社会の流れの中で、いろいろな問題が発生しています。
 それは、格差社会の出現であったり企業のコンプライアンス上の問題であったりですが、これらに対する対処として「武士道の精神」を持ち出す議論について、著者は強く反対しているのです。

 
(p249より引用) こうした問題が起きるたびに「日本人の精神をたたき直すために、武士道の精神を取り戻す必要がある」というのは、まったく的を外れた議論であるばかりか、かえって社会全体を誤らせる話になるに他ならないと思うのです。

 
 すなわち、この対処策は、「市場の倫理=商人道」に対して「統治の倫理=武士道」を混入するものであるとの主張です。
 
 

日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点 日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2008-02

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白洲家の流儀 (白洲 信哉)

2009-08-12 13:34:43 | 本と雑誌

 たまたま図書館の新刊書の棚で目に付いたので手にとってみました。
 いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパ」さんも読まれたようです。

 著者の白洲信哉氏は、父方の祖父母が白洲次郎・正子夫妻、母方の祖父が小林秀雄氏という強烈な家系の中にいます。

 まずは、白洲正子氏の「サービス精神」に関する信哉氏の記憶です。

 
(p35より引用) 祖母はいわゆる「サービス精神」のない人だった。・・・子どもだからと一から説明するということは、まったくなかった。もちろん、大人に対しても然りである。・・・
 僕はそれでよかったと思っている。知識やウンチクなどはそれほそれほどのものではない。何よりも自分で感じることが大事だ、ということを学んだ気がする。自分で感じなければ、いくら知識が増えても意味はない。表面的な言葉の意味だけが分かっていても、結局、何の役にも立たないことを、僕に伝えたかったのかもしれない。

 
 もうひとつ、小林秀雄氏の「知る」ということについての箴言。

 
(p36より引用) 祖父の小林は、「『知る』ということは苦労することと同じだ」と説いた。ただ知っているだけでは意味がないし、そこから先に進まなければ何の役にも立たない。それを自分の人生にどう活かしていくかが問題なのであって、単に教科書に書かれているようなことを覚えていても、本質に迫ることは出来ないと言いたかったのだ。

 
 さらに、小林秀雄氏が自らの著作について語る「奥行き」の話です。

 
(p45より引用) 発売当時、小林の著書『本居宣長』は四千円くらいしたが、
「四千円でも、10回読めば1回400円だ。分からなければ何度でも読んでいいのだし、大体、何度も読まないと分からないように書いてあるんだからな
と笑っていた。そのときはつられて笑っていたが、「1回読んで分かるほど浅はかなことは書いてないんだ」と、ある人に真面目に話したときの顔を思い出した。自分の考えの深さに誇りを持ち、文章の練り方にも自信を持っていたことが伝わってくる。

 
 本書で紹介されていることは、白洲次郎氏に関する本、白洲正子氏や小林秀雄氏の著作を読んでいれば、ほとんどが既に紹介されているものです。
 正直なところ、本書を読んでの新たな気づきはありませんでした。

 さらに言うならば、祖父母である白洲次郎・正子夫妻、さらには小林秀雄氏の残した遺産は、流石にとても大きなものだったということでしょう。

 今、時節柄、「世襲」の問題が話題になっていますね・・・
 
 

白洲家の流儀 (小学館101新書) 白洲家の流儀 (小学館101新書)
価格:¥ 735(税込)
発売日:2009-04-01

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

雍正帝―中国の独裁君主 (宮崎 市定)

2009-08-10 13:54:12 | 本と雑誌

Youseitei  会社の方のお勧め本として紹介されていたので読んでみました。

 清の初期の皇帝といえば、康熙帝・乾隆帝が有名ですが、本書は、その両帝に挟まれた第五代皇帝雍正帝(1678~1735)を採り上げた著作です。

 雍正帝は、皇帝としての在位期間は短かったのですが、独創的な施策に精力的に取り組み、清朝の専制君主体制をより強固なものにしました。
 雍正帝の独裁制は、皇帝が直接人民を統治することを目指しました。皇帝の取り巻きたる官僚政治を否定したのです。

 
(p245より引用) 雍正帝の奏摺政治は近世的な独裁性を一層完全にするに与って力あった。独裁制の下における官僚は、決して人民に対する奉仕者ではなかったが、併し人民を私有する特権階級であることは許されない。・・・雍正帝の理想は、官僚の私的な党派を解散し、これを凡て個々の天子に直属せしむるにある。さてこそここに前代未聞の奏摺政治なるものが出現したのであった。

  
 官僚に任せない政治は皇帝自らが手を下す政治でした。
 雍正帝は、地方統治を地方官との間の非公式の皇帝直通文書(摺奏)のやりとりで実現しようとしました。地方官からのすべての摺奏に自ら朱墨で意見を書きこんで送り返す(硃批)というやり方です。

 
(p108より引用) 雍正帝の居室はこうして、地方官から上奏し、帝の朱筆の返書を得て、再び返納された文書、いわゆる硃批諭旨でいっぱいになった。・・・
 昔から天子は一日に万機、すなわち日に一万回の用事があるといわれるが、真面目に政治をやろうとすれば目のまわるほど忙しいに相違ない。微塵も誤魔化しをせず、一事もなげやりにせず、全力をあげてがっちりと政治に取組んだ雍正帝の真剣さは正に頭の下る思いがする。恐らくこれほど良心的な帝王は、中国の歴史においてはもちろん、他国の歴史にもその比を見ないことであろう。

 
 専制君主にとって、自らの権力の示し方で政治の懐の深さが表れます。強圧的な態度のみが権力の使い方ではありません。
 皇帝に対する謀反を勧めた曾静に対する雍正帝の度量です。

 
(p165より引用) 曾静の悪口は朕個人に関してのことである。それもすべてが事実無根と分ったからには朕にとって損益はない。山の谷あいで犬が吠え梟が鳴く声を聞いたようなものだ。彼がすでに過ちを後悔した以上、彼を赦してやり、後悔して赦されぬ罪はないということを天下の人に知らせるがよい

 
 独裁制の全てが人民にとって悪いわけではありません。独裁という政治形態であっても善き君主は存在し得るのです。

 
(p177より引用) 雍正帝の理想をつきつめてゆけば、官僚はただ仕事のために追い使われる道具にすぎない。・・・雍正帝にとっては特権階級などの存在がそもそも不合理なので、特権とはただ天子一人が持っている独裁権のことで、天子以外の万民は全く平等の価値しかもたない。だから彼は地方のの解放を行った。

 
  本書で顕かにされた雍正帝は、独裁君主でありながら自らに厳しく有言実行を旨としていました。
 近世、洋の東西を問わず専制君主は多く現われましたが、その中でも、とてもユニークで興味深い人物だと言えるでしょう。

 
(p191より引用) 雍正帝は根は善良な素朴な、当時の満洲人そのものを代表する人物であった。・・・強い者に対してはきびしすぎるほどきびしかったが、その一方、反抗する気力さえない無抵抗、無防備の一般人民をこの上なく愛護し、身を粉にしてもその生活を保証してやりたいと思った。彼は戦争を好まなかった。・・・戦争が嫌いな、平和的な、しかも徹底した独裁君主であったのである。

 
 これが、著者が描いた雍正帝像でした。
 
 

雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫) 雍正帝―中国の独裁君主 (中公文庫)
価格:¥ 720(税込)
発売日:1996-05

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バカヤロー経済学 (竹内 薫)

2009-08-08 17:54:21 | 本と雑誌

 竹内薫氏の著作は、以前も「99.9%は仮説」・「仮説力」「天才の時間」等を読んだことがあります。
 多才な方ですが、本職がサイエンスライターということもあり、本書の評価はちょっとバラつくように思います。
 
 内容ですが、著者の竹内氏と経済学者の「先生」との対話という形で、経済学という切り口からの「現代社会のひとつの見方」がザクザクと示されていきます。
 たとえば、こんな感じです。

 
(p144より引用) 竹 アメリカに追いつけ追い越せの掛け声で日本が一丸となってやっていたときには大きな中央政府というシステムがうまく機能したけれど、今は、別のフェーズに入って、小さな政府、地方分権の時代になりつつあると。でも一方で、財務省は中央集権がいいから、これに抵抗する・・・。う~ん、バカヤローな構図ですね。

 
 本書の後半は、経済の話というより昨今の政治ネタで内容も週刊誌・業界紙並みになっているのが少々残念です。

 
(p242より引用) 竹 ・・・しかし、小泉さんはどうしてあんなに直感が働くんですかねえ。
先 天才的なんだよね、やっぱり。それは、派閥なんかにとらわれずに独力で生きてきたからなんだろうね。・・・

 
 ちなみに、本書に登場している「先生」は、竹内氏のブログによると元東洋大学経済学部教授の高橋洋一氏とのこと。
 小泉構造改革を推進した竹中平蔵氏に近い財務官僚OB(必ずしも典型的な役人ではありませんが)の学者さんですから、良し悪しはともかく、本書の「先生」の解説もその点を踏まえて読む必要がありますね。
 
 最後に、恥ずかしい話ですが、財務省から日本国の財務書類が開示されているのを、本書を読んで初めて知りました。
 ちなみに平成19年度の貸借対照表をみると、負債合計が977,777,771百万円、資産・負債差額が△ 282,865,049百万円という数字です。1,000兆円の負債、280兆円の債務超過・・・。
 おおよそ知っているとはいえ、貸借対照表でみるとすこぶるリアルです。 
 

バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5) バカヤロー経済学 (晋遊舎新書 5)
価格:¥ 840(税込)
発売日:2009-05-12

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

地球持続の技術 (小宮山 宏)

2009-08-05 22:51:08 | 本と雑誌

Ozone_hole  著者の小宮山宏氏は元東京大学総長、地球環境工学の第一人者です。

 本書は1999年の出版ですからそれほど最近のものではありませんが、その論旨は現時点でも十分な説得力があります。

 
(p33より引用) 石油の枯渇、地球の温暖化、廃棄物の大発生は、20世紀の膨張がもたらした当然の帰結である。われわれはこうした厳しい条件のもとで21世紀を迎えるわけである。
 地球はその薄皮一枚にも足りないバイオスフィアの中で、太陽エネルギーによる安定な循環を営んできた。その循環を攪乱しているのはわれわれ自身の活動なのであるから、地球の持続のために人間の手による循環系を構築することが必要なのである。

 
 著者はそのことを本書の主題に据えています。
 人間によるエネルギー消費の実態は、結局のところ、化石資源のもっていたエネルギーを宇宙に放射させることです。したがって、人間は、常に新たなエネルギー資源を必要とするのです。
 しかしながら化石燃料は枯渇性であり、その燃焼は温暖化の原因になります。

 
(p59より引用) だとすれば、自然エネルギーか核エネルギーに将来を委ねることが解として浮かび上がるだろう。

 
 ここで、著者は、化石資源の完全な代替として自然エネルギー利用することは21世紀中には困難であること、また、核エネルギーについては安全性において不安があることを指摘します。

 
(p60より引用) では、残された可能な道とは何であろうか。それは、まず中期的には、①エネルギー利用の効率を高めることによってその使用量を抑制して石油資源の延命を図りつつ、同時に、②非枯渇性エネルギーシステムの構築を目指すことであり、長期的には自然エネルギーによる全面代替を達成するということである。

 
 これが、著者の現実的な対応策です。
 そして「現実的」ということは「実現可能性がある」ということです。

 
(p115より引用) 持続性を脅かしているのは、・・・大量生産そのものではない。したがって、持続のために目指すべきは、資源の大量消費、製品の大量廃棄型文明からの脱却であるというべきであろう。資源量と環境容量が有限であることから生産は減少に向かうであるとか、人類の活動はすでに限界を越えつつあるのではないかという警告は貴重である。しかし、悲観する必要はない。解はあるのだ。

 
 最近、多くの地球環境問題を扱った著作が世に出ています。それらの中には根拠なく楽観的なものもあれば、いたずらに悲観論を説くものもあります。
 よく見られる指摘は「リサイクル」の有効性に関する議論です。

 
(p123より引用) リサイクルにはエネルギーが無駄になるという批判は多くの場合誤りである。本当にエネルギー消費が大きいとすれば行程が不合理であると考えた方がよいのだ。

 
 著者は、短絡的なリサイクル不要論を否定します。

 
(p123より引用) エネルギー的に価値のある天然資源の条件とは、①濃度が高く、②分離しにくい元素が含まれていない物質が、③集中して存在することである。・・・
 廃棄された人工物から素材を再生させることも、同じように考えることができる。・・・したがって、社会に分散した人工物を効率的に収集し輸送するシステムを構築することと、廃棄されたときに分離の困難な物質の混入がおこらないようにすることが、リサイクルの効率を高める鍵となる。人工物の製品設計から、市民による消費や排出までの全体システムをそのように構築することができさえすれば、エネルギー効率に優れた循環システムは可能なのである。

 
 本書を通じて、著者は、エネルギーの基本の解説から説き起こし、エネルギー消費の現実を明らかにしていきます。
 そして、最終的に、現実的な技術革新を前提とした「地球を持続させる完全循環型社会の具体的な実現シナリオ」を提示しています。

 「ビジョン2050」と名付けられたその道すじは、

 
(p165より引用) (1)エネルギーの利用効率を3倍にすること、(2)物質循環のシステムをつくること、(3)自然エネルギーを2倍にすること、

 
を前提としています。
 そしてこの利用効率の向上は、「エネルギー生産における効率化とエネルギー消費における節減の『積』」により達成可能だといい、循環システムの構築は、「技術と社会の関係の再構築」により実現するのだと主張しています。

 
(p181より引用) 電気自動車がクリーンに走り、家屋は快適な冷暖房システムを有し、大都市のごく近郊に美しい海や森林があり、それらは自然エネルギーによって維持されている。そういう未来イメージは決して夢ではないのである。

 
 著者は、事実を数字で捉え、技術動向や社会情勢の実情を踏まえた論理的な記述で、「ビジョン2050」の実現性を説き起こしていきます。
 とはいえ、夢を実現するためにはビジョンに向かう「意思」と実際の「行動」がなくてはならないのです。
 
 

地球持続の技術 (岩波新書) 地球持続の技術 (岩波新書)
価格:¥ 777(税込)
発売日:1999-12

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロ力 仕事の肖像 (アエラ編集部)

2009-08-02 13:11:20 | 本と雑誌

 図書館の書架でたまたま目に付いたので読んでみました。
 雑誌アエラに連載されている「現代の肖像」からの抜粋とのことです。

 いろいろなジャンルの16人。興味深いエピソードや気になるフレーズが数多くありました。
 たとえば、YouTubeのスティーブ・チェン氏の仕事術です。

 
(p52より引用) 今でも人付き合いは好きで、週に3、4日はアフターファイブにパーティーやディナーに出かける。しかし、帰宅後の4、5時間が「真の仕事の時間」だ。雑誌やオンラインで読んだ仕事関係の記事を、ノートパッドに貼り付ける。分類し、優先順位を決め、自分の目を引いたばらばらの材料が、相互にどう関係するか見抜く。同時に、夜中過ぎまで、社員とチャットやメールでアイデアをシェア。真のブレインストーミングが彼の中で起こり、エンジニアとして、経営者として必要な知識と慧眼を磨く時間が、夜なのだ。
 パソコン上には常に三つの「to doリスト」が開いている。「今日」、「今週」、そして「今後」。「今後」を除いてすべての項目が消えるまで仕事をやめない。

 
 このスティーブ・チェン氏のほかにも、南場智子氏・夏野剛氏・勝間和代氏といったビジネスの世界で成功した方々の話も多く紹介されていますが、そういった類のものよりも、より強烈にインパクトを感じたのは以下の方々のエピソードでした。

 昨年(2008年)の北京五輪、金メダルを取った日本女子ソフトボール。
 その快挙を最も喜んだはずの一人が元日本代表監督の宇津木妙子さんでしょう。
 まずは、宇津木さんの反骨の先駆者としての姿勢です。

 
(p69より引用) 日本の女子選手の成長を阻む依存性と、男性指導者しかいなかった日本スポーツ界の弊害を、19歳で既に見抜いていた。自分になら改革できると、野心が芽生えた。

 
 その指導姿勢は凄まじいほどに厳しいものでした。しかし、その厳しさの根底には真摯な愛情がありました。

 
(p70より引用) 32歳で現役生活にピリオドを打ち、会社を辞めたとき、宇津木に信頼を寄せていた寮生たちが次々退社して寮は歯が抜けたような状態になったという。

 
 もう一人、ニート・フリーター・ワーキングプアといった問題を研究テーマとしている教育社会学者本田由紀さん
 現場・現実の人と向き合った中から発せられる正直な言葉です。

 
(p288より引用) 「社会の軋みとしていろんな問題が出てきているのに、説教や、こうやって生きていけばいいんだよ、みたいなことで誤魔化そうとすると、構造の方は温存され、個人は余計につらくなるんです」

 
 さらに、

 
(p296より引用) 「・・・難しい内容を議論している研究会に出てると、誰に聞かせようと思って、議論してるんだろう、頭のよさの見せ合いっこをしてる場合か、と思うことがある。今、この世界で何が起きているのか、足元を見ようよと

 
 最後のご紹介は、国際紛争の最前線で活動されている伊勢﨑賢治さん
 彼がアフリカのシエラレオネの反政府勢力の武装解除に関わった際の経験です。

 
(p180より引用) いつ果てるともなく続く内戦を止めるには、正義を捨てても和平を選ばざるをえない。紛争を解決するということが、きれいごとではすまないことを見せつけられた。
 だからといって全面的に肯定はできない。50万人の命を奪っても罪に問われなければモラルは崩壊し、戦争の再発につながる。現場は矛盾だらけ。だから講演に呼ばれた先で、平和構築の複雑さを伝えるために、敢えて「正義と平和は両立しない」と語りかける。

 
 真の極限的判断の修羅場を経験した伊勢﨑氏は、「平和構築へのひとつの道」として、広告の手法を平和構築に生かす「ピースアド」という方法を模索しています。

 
(p188より引用) 「紛争が起きたら、国連から一斉に経験者に招集がかかる紛争屋の世界も一つの業界です。これからは“平和業界”を作らないといけない。平和のために投資をする世の中です。10年前、環境がこんなにお金になるとは誰も思わなかったでしょう。それを平和でやりたい」

 
  「戦争で儲ける」ようなビジネスは、何としてでも駆逐したいものです。
 
 

プロ力 仕事の肖像 プロ力 仕事の肖像
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-03-19

 
↓の評価ボタンを押してランキングをチェック!
素晴らしい すごい とても良い 良い
 
TREview
TREviewブログランキング
 
人気ブログランキングへ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする