OMOI-KOMI - 我流の作法 -

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落語論 (堀井 憲一郎)

2012-11-27 23:15:19 | 本と雑誌

Suehirotei  会社近くの図書館の書架で目についたので読んでみました。

 私は、まあまあ落語が好きな方だと思います。基本的には上方落語、四天王と言われた六代目笑福亭松鶴・三代目桂米朝・三代目桂春團治・三代目桂文枝各師匠二代目桂枝雀師匠がお気に入りですが、最近は東京落語、五代目古今亭志ん生師匠はもとより四代目桂三木助師匠・八代目桂文楽師匠あたりも聞き始めました。

 本書は落語通のコラムニスト堀井憲一郎氏による「落語論」です。「論」といっても堅苦しい内容ではなく、著者の奔放な主張をテンポよく開陳したものです。

 たとえば「江戸落語と大阪落語」について。

(p53より引用) 江戸落語と大阪落語は別に生まれ、別に存在し、そして現在も別にある。・・・江戸に出張してきた上方落語や、上方に出張った江戸落語を聞いたところで、真髄はわからない。・・・落語家は、江戸落語か、上方落語か、どちらかしか喋らない。

 噺によっては、一方で生まれた噺が他方でも口演されることはあります。上方落語の演目の一つ「はてなの茶碗」は、東京では「茶金」として語られます。が、この噺はやはり「上方噺」です。京都の旦那と大阪男のやりとりを演じるのは東京の噺家では無理です。かの五代目古今亭志ん生師匠の「夢金」も聞きましたが、残念ながら私の耳にはギクシャクした違和感しか残りませんでした。

 本書は、第一章に相当する「本質論」に続いて「技術論」が展開されます。単に落語を楽しむのであれば、技術論に関する蘊蓄は不要と著者自身も述べていますが、いくつかの指摘は私のような素人でも何となく首肯できるところがあります。

 その一つは「声の出し方」。特に「声の高低」が生み出すメロディについての解説です。

(p103より引用) 歌い調子が決まると、心地いい。内容なんかどうでもよくなって、ただ、その調子を聞いていたくなる。・・・
 声のいい演者は、多くの場合「完全な歌い調子」を取らない。
 ここぞ、というところで、心地いい音を連続させる。あとは「登場人物の個々を印象づける芝居」を基調としている。・・・それが落語の主流である。

 もうひとつは「間」。「無音の間合い」のことです。
 「間がいいねぇ」というのは、よく聞く噺家への褒め言葉ですね。著者は「間」とは「音のないセリフ」だともいえると指摘しています。

(p134より引用) ポイントは、無音の長さと観客の期待である。・・・
 絶賛される小三治の「長い間」は、その無音の時間がすごいのではなく、その無音の時間も待たせる小三治の制圧感がすごいのである。その客のつかみぐあいが見事なのだ。間合いとか間の長さの問題ではない。

 技術としての「間」の見事さではなく、演者としての「気」がすごい。このあたりの指摘も説得力がありますね。

 落語を聞く楽しみは、「ストーリー」ではありません。一部の新作落語を除いては、「ストーリーの意外性」のウェイトは通常小さくなります。特に有名な古典落語の場合はそうです。すでに何度も聞き知っている話を、異なる噺家が演じるのを聞くとか、同じ噺家の話を異なるTPOで聞くといったケースが大半です。
 それだけに、落語の魅力はストーリー以外でマンネリ化しないもの、まさに、それは「演者の力(個性)」に収斂されるといえるのでしょう。


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からくり民主主義 (高橋 秀実)

2012-11-22 23:12:36 | 本と雑誌

Oi_npp_1975  単行本で出版されたのは10年ほど前、ちょっと古い本ですが、タイトルが気になったので手にとってみました。
 著者の高橋秀実さんはテレビ番組制作会社の勤務を経てフリーになったノンフィクション作家です。

 本書は、賛成・反対双方の声が渦巻くいくつかの社会問題の現場を訪れ、自らの眼と耳で取材した実相レポートです。
 そこには、テレビ等のマスコミで伝えられている実態とはまったく別の現実がありました。

 たとえば、第6章「反対の賛成なのだ」で取り上げた沖縄の米軍基地問題。ヘリポート基地建設の舞台となった辺野古でみんなの海を守ることを訴えている「ジュゴンの会」事務局長の島袋等氏の言葉です。

(p191より引用) 「いつも取材はこんな感じですよ。地元では基地に賛成派も反対派もないんです。感覚もみんな大差ないんですよ。それなのに“対立”とか“しこり”とかばっかり訊いて書く。全部マスコミがつくったんですよ。もうイヤなんです」

 単純な二項対立の図式を示し、反対派の活動を殊更クローズアップするのがマスコミの姿勢に、地元では辟易しているというのが現実のようです。

 もうひとつ、第7章「危険な日常」で登場する大飯町役場職員(前町長の息子)時岡兵一郎氏の言葉。

(p238より引用) 「反対運動は大切ですわ・・・」

 大飯町は関西電力大飯原子力発電所を抱える福井県の町です。時岡氏によると、原発誘致に関する住民の声としては、賛成55、反対45くらいがちょうどいいのだそうです。

(p238より引用) 「全員賛成は困ります。原発ベッタリになってはいけませんわ。これくらいのバランスだと、安全管理もしっかりやってもらえるから、ちょうどいいんですわ。・・・」

 適度な反対の存在は地元への補償の増加にもつながることから「『誘致賛成派』にとっても望ましい」といいますから、何がなんやら訳が分からない・・・という感じです。

(p240より引用) 「若狭は二十年以上、どこかしらで原発を建設していました。ずーっとバブルだったんです。それが二年前、もんじゅの建設が終わって、何もなくなり、さあ、ポスト原発は何を、と考えたところ、やっぱり原発しかないんですね。・・・あれ(原発)がくればまた夢が、と地元では思ってしまうんです。確かにこんな金をもってきてくれる企業は他にありませんから」

 反対派のひとり田代牧夫氏の自嘲をこめたこの言葉はとても印象的です。これといった産業もない地方自治体の一つの実態なのでしょう。

 さて、本書の序章「国民の声」で、「テレビの機能」として、こう著者は語っています。

(p13より引用) 世間とはどこかにあるものではなく、個人の感情を正義に転換する際、「世間」なるものが現れ、知らないうちにその代表となるのだ。誰も頼んでいないのに。こうしてつぶやきをクレームにステップアップさせる時に、無意識のうちに「世間」を生み出すのが、テレビの機能だとも言えるだろう。

 今この「世間」を生み出す機能がネットの世界にも具備され始めています。テレビ・新聞といったオールド・メディアが伝える「世間」が0次情報の伝播により否定される場合もあれば、逆に、少数意見としての「つぶやき」がいかにも大衆の総意であるかのように拡大・拡散される場合もあります。
 「みんな、そう言っている」といった「世間」の実態が、数年前に比べて必ずしも明確になっているわけではないようです。

 最後に、蛇足です。
 今話題の大飯原子力発電所ですが、本書でみる限りの誘致経緯から察すると、十分な立地条件の精査がされたか否かについては、大きな疑問を抱かざるを得ないですね。
 

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<決定版> プロの仕事術 (「THE21」編集部)

2012-11-17 09:59:02 | 本と雑誌

Php  会社の昼休みに覗いた図書館で目についたので読んでみました。
 いわゆる「仕事術」をテーマに、大前研一氏・藤田晋氏ら著名なコンサルタント・起業家など20名の方々のインタビューをまとめたものです。

 タイトルには「仕事術」とありますが、具体的には、「考える技術と書く技術」「話す技術と聞く技術」「最強の営業技術」「最強の勉強術」「採用される人の条件」といった5つのテーマごとに、数人の方々のコメントが紹介されています。
 ちょっと前の本なので、中には、最近ではほとんど表舞台に登場していない方もいますが、流石に今でも存在感のある方々は、いくつかの大切な気づきを与えてくれます。

 まずは、セコム㈱取締役最高顧問飯田亮氏「思考力」について語ったくだりです。

(p14より引用) 思考力というのは、「頭のよさ×集中力×考えた時間」で決まるもの。そのうち、頭のよさや集中力なんてものはそう大差ないから、結局、長い時間考えた人間が勝つんだよ。
 だから私は、「さらにもう五分間、考えてみろ」とよくいうんだ。考えて考えて結論が出たら、普通は「さあできた」と満足してしまう。でもそこで終わらないで、さらにもう五分考えてみる。すると、自分の思考の甘さや矛盾に気づくことが多い。

 こういった「思考の粘り」は確かに大事なことだと思いますね。

 そして、次は、SBIホールディングスCEOの北尾吉孝氏による「人材評価」に関するコメントです。「才と徳」「胆識」を重んじ人物眼には定評のある北尾氏ですが、時に間違えることもあると言います。

(p174より引用) 「上、下を見るに三年を要す。下、上を見るに三日を要す」という言葉があるように、人は上司のことはわりとすぐわかるのですが、部下を正しく評価することには時間がかかるんです。

 この指摘は、私も重々心しなくてはなりません。比較的少ない時間のふれあいの中で一定の評価を求められることがありますが、そこでの間違いを起こさないためには、自己の主観的評価に加えて、適切な他者の多角的な視点からの意見も十分に採り入れる必要があるということです。

 さて、本書ですが、典型的な「成功者」の方々からのお薦めTips本です。とはいえ、到底真似できないようなスーパーマン的How Toが列挙されているわけではありません。
 何人かの方々が共通して口に出している「成功のための要諦」がありました。それは、
  ・まず、明確な目標を持つこと
  ・そして、その目標を実現するために、実際に行動を起こすこと
とても、自然でシンプルです。

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妻と別れたい男たち (三浦 展)

2012-11-11 09:02:55 | 本と雑誌

Parkcity  ちょっと心情的には複雑なのですが、妻が「ザッと読んだので」といって渡してくれた本です。

 ただ、内容は、かなり「?」なものでした。基本的には、首都圏1都3県在住の40~64歳の男性2201名へのインターネット調査をベースにした考察です。
 たとえば、こういった分析結果が書かれています。

(p86より引用) 離婚したいと思いやすい夫はこんな人
・自分の学歴が高卒以下
・自分の職業が自由業、自営業
・妻が結婚出産後も継続して働いている
・妻が自由業、自営業

 さて、この結果をどう評価しましょう。
 前述したように、調査の母集団は首都圏の男性のみ。しかも、2000人程度のサンプルに過ぎません。学歴とか職業とかの説明変数も大雑把で、結果の評価にあたっても、有意水準の仮説検定を行っているようには見えません。
 たとえば、第三章「夫婦の地域格差」では、1都3県を26ブロックに分けて考察していますが、2000名程度のサンプルを26に分けると平均して80名程度。それで何か有意な傾向を求めようとするのが無理な話です。ブロックによっては一桁のサンプルの場合もあるようです。

(p146より引用) 川越になぜ隠れ家を持ちたい人が多いのかは、よくわからない。

と著者もコメントしていますが、それは当たり前でしょう。あまりにも統計的方法論が粗雑過ぎます。

(p94より引用) かつての標準世帯を維持することが今の社会では難しくなってきたからこそ、離婚が増えたとも言えるだろう。

とのコメントに表れているように、著者は本テーマを「階層問題」としてとらえようとしているようですが、示されているデータでは十分な説得力は(残念ながら)ないですね。

 そして、最終章で、家族や会社の同僚以外に友人を作れと主張されると、正直、これまでの立論?はなんだったのかという気になります。久しぶりに、とんでもなく内容・構成ともに貧弱な著作を読んでしまいました・・・。


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脳は平気で嘘をつく 「嘘」と「誤解」の心理学入門 (植木 理恵)

2012-11-03 09:05:35 | 本と雑誌

Noukouzou  タイトルから判断して久しぶりの「脳」に関する本だと思って手にとったのですが、期待していた内容とはちょっと違っていました。

 いろいろなシーンにおける円滑なコミュニケーションのためのTipsが認知心理学的側面から紹介されているのですが、内容はかなり物足りないですね。

 概念の説明も淡白ですし、その根拠についても「実験からそういえます」とあるだけで、実験方法・内容についての十分な紹介もありません。また、著者の得意な心理学的知見からの提言についても、その具体性に関していえば非常にプアです。
 たとえば、著者は、ひたすら一方的に意見を出し合う「ブレーンストーミング」について、コミュニケーションを重視する日本にはあまり向かないと主張しているのですが、それに続くコメントはこんな感じです。

(p164より引用) 日本人には日本人に合った「集団的思考法」というものがきっとある。アメリカのマネをするのではなく、日本人の資質に合った集団的思考法をみんなで模索していけばいいのではないだろうか。

 そうでしょうが、その何がしかの「集団的思考法」とやらのヒントなりとも示さないと、単なる素人のつぶやきレベルに止まってしまいます。

 とはいえ、そういった中で、ちょっと参考になったところを2・3、書き留めておきます。

 まずは、「第一印象に左右されやすい性向」とそれを是正するためのヒントについてです。

(p55より引用) 自分の先入観や思い込みを補強するために確証ばかりを求める確証バイアスは、思考のエラーとも言える。「自分の正しさを確かめるための情報ばかりを集める」という間違いである。
 本来、物事の真実や本質を見極めるためには、多角的に対象となるものを見ていく必要がある。いくつかの確証を確かめたのであれば、今度は反証もいくつか確かめる。そういう作業を繰り返すことで物事の本質は徐々に浮かび上がってくる。

 確かに、一度形作られた「第一印象」を変更するのには抵抗がありますね。何かの機会に、よほど強烈な新発見がなければ簡単には変わりません。日頃から「意識的」に普段と異なる視座から見る癖をつけることが大事なようです。

 もうひとつ、自分が起こしたことから学んでいく「教訓帰納」について紹介しているくだりから。

(p167より引用) 「悪いこと」が起こった時に教訓帰納するのは、一種の人間の本能である。・・・普通の人は「悪いこと」が起こった時しか教訓帰納しないが、メタ認知能力のある人は「いいこと」であっても教訓帰納するのである。

 ここでいう「メタ認知能力」とは「自分の思考や行動を客観的に把握し、なおかつ全体を俯瞰的に捉える能力」のことですが、主観的な視点に偏ると、つい「悪いこと」「失敗したこと」のみを教訓のインプットにしてしまいがちだという指摘です。
 この傾向は、確かに心当たりがあります。私自身も自省すべき点だと思いました。


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