仏教書のうちで最も古い聖典の訳ということで興味を持って読んでみました。
一つ一つは短文ですが、注釈も含めるとなかなか読み応えがあります。
短いフレーズといいながらほとんどが難解なのですが、中にはスッと腹に落ちるフレーズもありました。
たとえば、「賎しい人」について説いた章の中の一文。
(p31より引用) 生れによって賎しい人となるのではない。生れによってバラモンとなるのではない。行為によって賎しい人ともなり、行為によってバラモンともなる。
これは仏教がもたらしたインドにおける最大のパラダイムシフトでしょう。
「バラモン」はカーストの最高位の司祭・僧侶階級のことですが、「行為によってバラモンとなる」というブッダの教えは、生まれにより定められる「カースト制」を正面から否定するものでした。
ブッダは「バラモン」と認めるための数々の条件を挙げていますが、そのいくつかはこういった資質です。
(p115より引用) 630 敵意ある者どもの間にあって敵意なく、暴力を用いる者どもの間にあって心おだやかに、執著する者どもの間にあって執著しない人、-かれをわたしはバラモンと呼ぶ
632 粗野にならず、ことがらを伝える真実のことばを発し、ことばによって人の感情を害することのない人、-かれをわたくしはバラモンと呼ぶ
636 この世の禍福いずれにも執著することなく、憂いなく、汚れなく、清らかな人、-かれをわたくしはバラモンと呼ぶ
こういった言い方であればイメージは湧きますね。
最後にブッダはこう結んでいます。
(p118より引用) 655 苦行と清らかな行いと感官の制御と自制と、-これによってバラモンとなる。これが最上のバラモンである。
「迅速」という章で列挙されている修行者に対する説法の中にも、分かりやすく、ひょっとすると私でもできる教えがありました。
(p169より引用) 931 虚言を避けよ。よく気をつけて詐りをしないようにせよ。また生活に関しても、知慧に関しても、戒律や道徳に関しても、自分が他人よりもすぐれていると思ってはならない。
そして、もう一つ、「二種類の観察」という章の中で、「安楽」と「苦悩」について説いている一節。
(p143より引用) 762 他の人々が「安楽」であると称するものを、諸々の聖者は「苦悩」であると言う。他の人々が「苦悩」であると称するものを、諸々の聖者は「安楽」であると知る。解し難き真理を見よ。無智なる人々はここに迷っている。
より深い解説を聞きたくなるフレーズです。
さて、本書を読み通しての感想ですが、ともかく、形ばかりは最後まで「文字」を目で追いましたが、正直なところ9割方理解できませんでした。
そもそも「仏教」思想についての基礎知識すらないレベルですから、その根源思想、それも詩の形式で記されたものが分かるはずもありません。
気になるフレーズの欠片でも、記憶に残ればと思います。
ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫) 価格:¥ 1,080(税込) 発売日:1958-01 |