Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.412:2011年6月の日経MJ教育マーケティング情報

2011年07月04日 | 教育関連マーケティング情報
今週は月末ですので日経MJの教育業界マーケティング情報をお送りします。
最近のこの分野の記事の傾向として、ベルリッツさんとベネッセさんの記事
が多いのに気がつきました。概算ですが3割近くがこの2社の記事かも知れ
ません。ベルリッツもベネッセグループの企業なので、日本の教育ビジネス
市場におけるベネッセのプレゼンスというのは、相当凄いなあと改めて実感
しております。

■終身雇用への回帰
新社会人、民間調査、「定年まで勤務」4割。
2011/06/06, 日経MJ(流通新聞), 7ページ

「終身雇用希望」74%。
2011/06/24, 日経MJ(流通新聞), 4ページ

【記事の概要】
6/6の記事は、マクロミル社が4月から働き始めた全国の新社会人を対象に
実施した意識調査の結果(N=500人)です。それによると、約8割が現在の
勤務先に満足しており、現在の勤務先に定年まで働くと回答した新社会人は、
男性で52%、女性は27%に達したそうです。

6/24の記事は、本学で実施した同様の調査の結果です。2011年の3月末から4
月上旬に開催された本学の新入社員公開セミナー参加者415人へのアンケー
ト結果となっています。詳細については下記のサイトに報告書がありますの
でご参照願います。
「2011年度新入社員の会社生活調査」
この調査によると、終身雇用を望む割合はこの10年間、ほぼ上昇する推移を
辿り、今年の新入社員は過去最高の74.5%に達しているという結果が出てい
ます。

【コメント】
「就職難の中、やっと入社できた会社だから長く勤めようという」こともあ
るのかもしれません。しかし、本学の過去の調査によると、2000年前後の前
回の就職氷河期では終身雇用を望む割合が5割強に留まっており、どうも就
職難だけが原因ではなさそうです。

さらに将来の進路として“管理職志向”or“専門職志向”を尋ねたところ、
“管理職志向”が48.1%と、半数近くの新入社員が管理職を望んでいるので
す。2000年代前半は管理職志向が20~25%ぐらいであったことを考えると驚
きの変化です。「終身雇用」や「出世」という昭和の頃のやや古い就業感が
復活しつつある背景にはどんな理由があるのでしょうか?

■大学リメディアル教育にeラーニング
大学向けeラーニング、栄光、Z会と組みシステム。
2011/06/08, 日経MJ(流通新聞), 9ページ

【記事の概要】
学習塾大手の栄光は、「Z会」の増進会出版社と組み、大学向けのeラーニ
ングシステムを開発します。内容は高校までの学習内容を復習できる教材、
いわゆるリメディアル教育です。交流サイト(SNS)を設け、入学予定者
が先輩大学生に質問できるといった機能も計画中だそうです。コンテンツは
両社が保有する中高生向け教材を活用し、大学側の要望に応じてカリキュラ
ムを作成するとのことです。

【コメント】
「大学でそこまでやるの?」あるいは「そもそも、高校までの学習内容を理
解できていない学生を入学させるのがおかしいのでは?」と考える方も多い
かと思います。

仰る通りの面もありますが、大学進学率が5割を超える中、若者の基礎学力
を養成する場はもはや「大学」しかないのでは、とコガは最近考えています。
ある方が、「大学は補習の府となるべきだ」揶揄して語っておりましたが、
現実コガの勤務しているようなレベルの大学では、その性格が年を追うごと
に強まっています。

「そんな事は大学がすべきでない」と言うのは簡単ですが、大学でやらなか
ったら企業がその役割を担うことになります。「いやいや、我が社はそんな
出来の悪い大学生は採用しませんから・・・」とおっしゃっている採用担当
の貴方、我々大学も10年前は「いやいや、我が大学はそんな出来の悪い高校
生には合格出しませんから・・・」と言っていたのです。

日本の少子化は動かしようのない事実です。若年労働力は着実に減少してい
くので、「出来の悪い大学生を採用せざるを得ない」状況が近い将来必ず到
来します。ですから一部(であって欲しいですが)の大学は、基礎学力の劣
る学生を引き受け、卒業までに「社会に出て恥をかかない程度」にその学力
を伸ばしてあげる必要があると考えます。たとえ「補習の府」と言われよう
とも。

そう考えますと、今回のような予備校のコンテンツをeラーニングで学習す
るという仕組みは有効な方策の一つです。若者の学力低下という社会問題に
対応するため、今後も様々な教育事業者が、領域を超えて協力し合う必要が
ありそうです。

■二大教育事業者の提携
ベルリッツ、能率協会と提携、ビジネス英語講座開発。
2011/06/08, 日経MJ(流通新聞), 9ページ

【記事の概要】
ベルリッツ・ジャパンと日本能率協会が企業向け研修コースの開発で業務提
携しました。両社のノウハウを活用し、ビジネスの現場など実践で使える英
語力が身につく内容を訴え、受注を目指すそうです。第1弾として、中学生
レベルの簡単な単語と文法を使いこなす「集中ビジネス英会話講座」を開講
します。授業には商談や新製品のプレゼンテーションなど実際のビジネスの
場面を想定したロールプレイング形式を採用するそうです。

社団法人日本能率協会のニュースリリース
「日本能率協会とベルリッツ・ジャパンがビジネス英会話講座で提携」

【コメント】
本学ライバルである日本能率協会さんとベルリッツさんの巧みな提携に脱帽
です。提携にはお互いの強みを活かし弱みを補完することが求められますが、
この提携では「コンテンツ」「チャネル」の2つでそれらを実現しています。
コンテンツについては、ベルリッツの英語教育のノウハウと、英語をビジネ
スコミュニケーションの文脈に位置づける能率協会のノウハウが活かされる
はずです。またチャネルについては、個人市場に強いベルリッツと法人研修
市場に強い能率協会の相乗効果が期待できそうです。

昨年11月の教育業界関連マーケティング情報(http://goo.gl/od0MF)でも
お伝えしましたが、ベルリッツさんは最近企業内教育市場に重点を置いた活
動を展開しております。今回の提携を契機に、企業内教育市場の業界地図も
変化が加速しそうな予感です。

■企業による出前授業
科学の魅力、女子学生に、資生堂が出前授業、仙台の高校で。
2011/06/17, 日経MJ(流通新聞), 6ページ

【記事の概要】
資生堂は同社の研究者が女子学生らに科学技術の魅力などを伝える出前授業
を、宮城県仙台二華高校で実施しました。学生の理科離れが進むなか、研究
者が理系の進路を選択した理由を伝えたり、調香師の仕事を模擬体験しても
らったりして、優秀な科学者の育成に貢献するのが目的だそうです。

【コメント】
同記事では、諸外国と比較して日本の女性研究者の少なさも紹介しています。
総務省の調査(10年3月末時点)によると、日本の研究者全体に占める女
性の割合は13.6%で、米国(34%)やイタリア(33%)の半分にも満たない
状況となっています。(参考 http://goo.gl/OrnF6
この傾向、大学の教員も当てはまるのですよね。
『男女共同参画白書 平成22年版』によると、本務教員数に占める女性の割
合は

小学校の教諭=65.3%
中学校の教諭=41.9%
高校の教諭=27.2%
大学・大学院の教授=12.0%(准教授は19.8%)

となっており、学歴が進むと女性教員の比率が下がっています。
本務教員総数に占める女性の割合」より

女性が研究者として働ける環境を社会や企業が整備することが求められるの
は言うまでもありませんが、それ以上に、研究者として仕事をする魅力を伝
えていくのはとても大事な事です。そういった意味で本記事の出前授業は社
会的に意義のある取組であると考えます。

コガもよく高校の出前授業に出かけるのですが、今後は大学の先生が行くの
でなく、実際に働くビジネスパーソンが高校生にその魅力を伝える機会が増
えていけば、キャリア教育の視点でより有効な施策になりそうですね。

■仕事の現場で資格をフル活用
岩田屋三越、その道の「プロ」が接客、顧客にぴったりの商品提案
2011/06/22, 日経MJ(流通新聞), 5ページ

【記事の概要】

福岡市にある岩田屋三越さんでは、資格や免許を保有する社員による接客を
強化しています。現在社内にいる有資格者は270人、取得資格の種類も209種
類を超えているそうです。本記事では日本女子プロゴルフ協会のティーチン
グプロC級の資格を持つ社員のゴルフ売り場での健闘を紹介しています。

同社には難関資格の保持者として
インテリアコーディネーター3人
シューフィッターの高度な資格「バチェラーシューフィッター」1人
ワインアドバイザー1人
がいます。また、取得者が多い資格としては、フィッティングアドバイザー
が71人いるそうです。

今後は利益率が高い自主編集売り場を中心に有資格者を配置し、福岡での百
貨店競争に勝ち抜いていくそうです。

【コメント】
よく学生から「資格を持っていた方が就職に有利ですか?」と質問されます。
そんな時「採用担当者は、資格を持っていること自体はあまり重視しないけ
れど、資格という目標を持って学習した意欲は少し評価してくれるかも」と
アドバイスしています。

しかし、今回の記事を読み、ちょっと考えが変わってきました。岩田屋三越
さんのように、「資格保有者」を積極的に活用した事業戦略を打ち出す会社
が今後増加してくるかも知れないからです。しかし、そうであっても働く個
人からすれば、資格はあくまでも手段です。大事なのは本人がどんな仕事を
したいということです。そしてよりよい仕事を遂行する上でどんな能力が必
要なのかを考えることが、資格に限らず重要なのですね。

さて、来月7月は日曜日が5週あります。三連休の中日である7月17日はメル
マガ休刊とさせていただく予定ですので、次回の日経MJ教育マーケティング
情報は7月31日号でお伝えする予定です。

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