Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

008 G型L型大学論

2014年11月08日 | ニュースのキーワード



GとL
野球好きなら、ジャイアンツ対ライオンズの日本シリーズを想像しますか。
韓国通ならLG(ラッキーゴールドスター)グループを思い出すかも。
外車ファンなら写真のメルセデスベンツGLクラスかも知れませんね。

しかし、今回のGとLはGlobalとLocalです。
最近ネットで話題となった冨山和彦氏のグローバル型大学とローカル型大学
の議論について、ひさびさ登場のナカダくんが鋭くツッコミます。

>>>>>>>>>>>ここからナカダくんの記事>>>>>>>>>>>
皆さんご無沙汰しております。ナカダでございます。SANNO Learning Magazine
が休刊となって以来、約8ヶ月ぶりの投稿となります。実は、かれこれ1ヶ月前に
コガ編集長から当コーナーへの執筆を依頼され、「喜んで書かせていただきます」
と即答していたのですが、「とはいえネタがない」「週末にイベントが続いた」
といったよんどころのない事情で延び延びとなっておりました。誠に申し訳あり
ません。今回は書評ではなく、先月からネット論壇を中心に話題となっている
「G型大学・L型大学」論について、少しばかり私見を述べさせていただきたい
と思います。

さて、今回のテーマは「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度
化に関する有識者会議(第1回)」で配布された「我が国の産業構造と労働
市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」(冨山和彦
委員提出)という資料の提言内容についてです。
(何と長い会議名と資料タイトルなんでしょう。)

この資料は文科省のサイト上で公開されております。(下記をクリック)
我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性


G型L型といっても新しいガンダムの話ではなくて、Gはグローバル経済圏、
Lはローカル経済圏を意味する記号です。「グローバル経済圏で活躍する人材
を養成するのはごくごく一握りの大学(G型大学)に留め、その他はローカル
経済圏の生産性向上のために徹底した職業訓練を施す教育機関(L型大学)
にせよ」というのが上記の提言の骨子になります。この提言については
ネット論壇を中心にすでに議論百出しており、「G型 L型」でググってみれ
ば、2時間は余裕で潰せるはずです。
したがって、今さらこの提言の賛否を論じたところで、Googleの検索結果が
1件増えるだけですので、少し視座を変えてみたいと思います。

まず、現行の学校教育法では「大学」の目的は次のように定められています。

第八十三条 大学は、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く
専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを
目的とする。
2 大学は、その目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社
会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。

この条文が大学の現状から乖離していることはすぐに分かります。そもそも
日本にある781校(2014年5月時点)の大学全てを、70文字足らずで一括りに
定義すること自体ムリなのかもしれません。冨山委員は「新たな高等教育機
関であるL大学」の役割を、「生産性向上に資するスキル保持者の輩出(職
業訓練)」と述べていますので、L型大学を設置するには、現行法を改正し、
L型大学の目的を定義し、その目的に適合した新しい大学のカテゴリーを設
置する必要があるものと思われます。
(G型大学は現行法のままでも設置可能でしょう。)

しかし、大学の目的を細分化し、目的ごとに大学を種別化しようという試み
は今に始まったことではありません。政府で公に議論されるようになってか
らでも、少なくとも40年は経っています。1971年(昭和46年)の「四六答
申」では「高等教育の多様化」を掲げ、かなり具体的で踏み込んだ提言をし
ています。特に「第3章 高等教育の改革に関する基本構想」は、今読み返
しても全く古びていません。G型L型大学論に興味を持たれた方は、まずはこ
の四六答申からご一読いただきたいと思います。

今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申) (第22回答申(昭和46年6月11日))

しかし「古びていない」というのは四六答申の先見性が優れているからだけ
ではありません。むしろ40年前に提起された問題が今に至るまで解決されて
いない点を(特に高等教育を生業としている者は)重視するべきでしょう。
つまり私はG型L型大学の是非を考える前に、大学の種別化が必要だと提唱さ
れながらなぜ今に至るまで種別化されていないかのか?を改めて問い直した
いと考えています。日本の大学を巡る問題がこれ以上先送りできないのであ
ればなおのこと、過去の議論と政策の帰結をきちんと検証してから議論に着
手していただきたいものです。

最後に一つ。大学の目的は、上記のとおり学校教育基本法第八十三条で定め
られています。大学の目的を再定義するにせよ、あるいは大学の種別化を実
現するにせよ、学校教育法の改正案を国会でしっかり審議していただきたい
と思います。まさか法改正ではなく、法解釈の変更で大学の再定義(種別
化)を成し遂げるという裏技を企てたりはしていないでしょうね? 実はワ
タシはそれが一番心配なのです、はい。
<文責 ナカダ>

>>>>>>>>>>>ここまでナカダくんの記事>>>>>>>>>>>
さて、ローカルな大学の現場を7年経験しているコガとしては、冨山氏の
「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の
今後の方向性」の内容は、嬉しい反面、どうもおもしろくない部分もありま
す。

嬉しいのは、最近猫も杓子も「グローバル人材育成」ばかりを叫んでいる中
で、ローカルなマーケットの人材育成に光を当ててくれたという点です。一
方で、おもしろくない点は議論を分かりやすくするためか、Lの人材育成を
極端に表層的な知識・スキルに偏ったものとして説明してしまっているとこ
ろです。

本来、グローバルだろうが、ローカルだろうが、結局根っこのところで必要
となるコンピテンシーは似たようなものではないかとコガは考えているので、
ローカルな世界を小手先だけの免許取得や会計ソフトの使い方に振るのはち
と行き過ぎではないかと考えております。
さらに話をややこしくしているのは、今年度より専門学校に「職業実践専門
課程」というのが始まっておりまして、冨山氏の主張する職業訓練を中心と
する大学との区分けがとても難しい、というよりほぼ一緒のコンセプトなの
です。

さてさて、この議論どのような着地点を見出すことができるのでしょうか?

vol.495:反転授業について想う事

2014年01月06日 | ニュースのキーワード

2013年日本のeラーニング界を回顧すると、「MOOC」と「反転授業」が二大
キーワードであったとコガは考えております。MOOCについては、昨年本メル
マガで3回も取り上げていました。

vol.480 MOOCとOCWの違い
vol.487:「PC Conference2013 東京」参加体験記
vol.490:ウェブで学ぶ
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/s/MOOC を参照)
しかし反転授業については一度も取り上げてこなかったので、この機会に考
えてみたいと思います。

■反転授業(Flipped Classroom)とは
反転授業は、現在大学教育や社会人教育よりも予備校や初中等教育において
注目・実践されているようです。その推進の在り方も、中央官庁のTOPDOWN
的な押し付けでなく、現場の小中学校の先生や予備校の先生が色々と知恵を
出し合い、実践し、知識を共有するというCommunity Of Practice(実践コ
ミュニティ)が形成され、草の根的な展開を見せております。
そんな反転授業の実践コミュニティの一つに「反転授業の研究」があります。

インターネットサイト「反転授業の研究?思索と実践の記録」
http://flipped-class.net/wp/
facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/hanten/

ここでの反転授業の定義は「最初にe-learningで知識をインプットし、その
後、教室のアクティビティで知識をアウトプットする学習法である」とあり
ます。また反転授業と予習の違いについては、「従来の予習では、理解度が
低いため、教室で結局、授業をやらなくてはならず、グループワークの時間
を確保できなかったが、動画講義で予習させることによって理解度を上げる
ことができるようになり、教室で最初からグループワークをできるようにな
った」と説明しています(上記サイト「反転授業と単なる予習との違いは何
」2013/12/6より)

■反転授業2つのスタイル
朝日新聞(2014/1/4)の記事「家で動画見て予習、『反転授業』試行へ
で、武雄市での「反転授業」の紹介がありました。
新聞記事の補足という形で、上記の「反転授業の研究」サイトに反転授業の
2つのスタイルが紹介されています(http://goo.gl/NOHBhh)。

新聞で取り上げられていたのは「創造的反転授業」というスタイルで、動画
講義で学んだ知識をベースにして、教室ではプロジェクトやグループワーク
など創造的作業、協働作業を行い、21世紀型スキルの向上を目指します。こ
れは学力が高い高校で導入される方法だそうです。その一方で、動画講義を
受けた後、教室で習熟度別に問題演習し、分からない生徒を教師がサポート
する「補習型反転授業」というスタイルもあり、こちらは学力が低い高校で
導入されるそうです。

■企業内教育での取組み
さて、予備校や初中等教育で盛り上がりを見せている「反転授業」ですが、
企業内教育ではどうでしょう?実はコガの過去20年間の経験の中で、「反転
授業」的な企業内教育の方法が実は2回ほど登場しています。

その1「ジョイント研修」(1980年代後半~90年代中盤)
まだeラーニングなど存在しなかった頃、集合研修の事前に関連したテーマ
の通信教育を受講するという「通信教育+集合研修」パターンで実施された
研修のスタイルがありました。「知識」獲得の部分を通信教育が担うことで、
集合研修での講義時間を削減し、その時間を活用しグループディスカッショ
ン等で知識の現場への応用を考えさせ、集まった時間を有効活用するという
ものです。

しかし、この方式は広く普及しませんでした。理由は、当時の通信教育学習
システムのハンドリングの悪さにあったとコガは考えています。すなわち、
・開講日が月初に固定している。
・レポートの提出から添削されたレポートの返却までに時間がかかる
・リアルタイムで履修者の学習状況が把握できない
・集合研修直前の受講者の追加やキャンセルがしづらい
等の理由です。
ちなみに現在の通信教育システムでは大分改善されていると思います!(^^)!。

その2「ブレンデットラーニング」(2000年~2006年)
これは、上記の通信教育の部分がeラーニングに変わったものです。ネット
を活用した仕組みのため、教材の配送等の手間もなく、学習管理や採点がリ
アルタイムで行えるため「ジョイント研修」のネガな部分がかなり解消され
ました。しかし、この方法もあまり普及しませんでした。その理由について
かの認知心理学の大家であるロジャー・シャンクが大変面白い事を書いてお
ります。それを現在東京大学にいらっしゃる藤本徹先生が2006年当時に翻訳
した文章が下記サイトにありますのでぜひごらんください。

Another Way教育・学習、シリアスゲーム、留学生活のブログ
「ブレンデッドラーニングと聞いたら逃げろ」(2006/11/6)より 
http://anotherway.jp/archives/000793.html

また、シャンクの文章を受けて藤本先生も当時以下のように述べています。
==========================================================
ブレンデッドラーニング」は、新しい教育手法でもなんでもなく、eラーニ
ングと言っても売り文句としてあまり効かなくなったので、その代わりの売
り文句として登場したにすぎない。「ブレンド米」や「ブレンドコーヒー」
のように、「ブレンド」という言葉は、単品では売れないクオリティの低い
ものを混ぜてラベルを張り替えて売る時によく利用される。eラーニング業
界がブレンデッドという売り文句に飛びついているのは、ブレンドしないと
売れない商品ばかりがあふれていることを示しているようにも見える。質の
悪いものはいかにブレンドしても最高級品にはなり得ず、よくある「最高級
品風」ブレンドでしかない。「~風」というラベルをつけて聞こえを良くす
ることは簡単だが、そんなことではユーザーの目はごまかせない。そもそも
ブレンドしていること自体が売りになる状況というのは、どこかおかしいの
である(上記ブログよりの引用)。
==========================================================

■で「反転授業」はどうなる?
あくまでも個人的な見解ですが、少なくとも企業内教育において「反転授業」
はあまり浸透しないのではないかと考えています。一番の理由は、「よい講義
であれば、それが知識伝達の内容であっても生で聞きたいと思う学習者が多い
と思われるし、よくない講義であればそもそもインターネットで観てまで学習
はしたくない」からです。

上手な先生の講義をライブで聴講して味わうことのできる知的興奮というの
は、ショートケーキに例えればイチゴの部分な訳でして、そのもっともオイ
シイ部分をインターネットの講義に代替してしまうのは、せっかくの新鮮な
イチゴを砂糖と一緒に煮詰めてイチゴジャムにしてしまう行為のようなもの
ではないかとコガは考えております。

また、忙しいビジネスパーソンはどんなメディアであれ事前学習は嫌がるも
のです。もしどうしても事前に学習させたいのであれば、集合研修の開始時
間を午後からとし、その代り朝一番に必ず研修会場に集合させ、研修スター
ト前の午前中に講義動画を学習する時間を設ける方が現実的かと思います。

みなさんは「反転授業」どう思われますか?
<文責 コガ>

vol.475:事件の深読み 「大阪産業大学やらせ受験」の背後にあるもの

2013年03月25日 | ニュースのキーワード
この時期の大学は来年度の入学者もほぼ決まり、卒業する4年生を送り出し、
新年度に向けての準備で忙しくなってくるのですが、先週一般の人にとって
は何とも不可解なニュースが飛び込んできました。

「<大阪産業大学>付属高生に謝礼を払い「やらせ受験」」
(毎日新聞 3月17日(日))

> 大阪産業大学(大阪府大東市)が2009年度の入試で、
>優秀な生徒に経営学部を受験させるよう付属高校
>(大阪市城東区)に依頼し、高校側が生徒に1回あたり
>5000円の謝礼を渡していたことが分かった。
>入学者が増えすぎると補助金を国からカットされるため、
>入学意思の乏しい生徒で合格枠を埋め入学者を抑制する
>狙いだったと、複数の関係者が証言した。大学・高校が
>組織的に「やらせ受験」に関与した疑いがあり、
>文部科学省が調査を始めた。

この事件を正しく理解するには、私立大学への補助金の仕組みを理解する必
要があります。まず国からの補助金というのは、直接国から補助金が支給さ
れるのでなく、日本私立学校振興・共済事業団という組織を経由して全国の
私大に支給されます。従ってその配分の基準については極めて細かく定めら
れています。詳細については下記のサイトを参照願います。

私立大学等経常費補助金~私立大学等に対する補助事業

さて今回の事件の背景には、そうした様々な配分基準のうち「学生数」に関
する制限が関係しています。本来は本家本元である日本私立学校振興・共済
事業団の「私立大学等経常費補助金取扱要領 私立大学等経常費補助金配分
基準」(http://www.shigaku.go.jp/files/s_hojo21y.pdf)に基づいて説明
するのが正しいのですが、定員に関する減額については下記の旺文社の資料
がよくまとまっていたので、そちらを参考にご説明いたします。

「私立大「定員超過」による補助金“不交付”、23年度から「経過措置」廃
し、“本来”基準で強化!」(旺文社 教育情報センター 22年11月)
http://eic.obunsha.co.jp/resource/topics/1011/1101.pdf

第一のポイントは、大学の定員には「入学定員」と「収容定員」の2つの定
員があるという点です。入学定員とは読んで字のごとく、ある年に1年生を
何人まで入学させるかという定員です。一方の収容定員とは、4年制の大学
の場合、1年から4年までの学士課程全体の定員となり、途中で入学定員が変
更になっていなければ、入学定員×4となります(もちろん薬学部等の6年
制の課程は×6となります)。

第二のポイントは、定員に対し「多すぎても」「少なすぎても」補助金が不
交付になってしまうというルールがある点です。「多くてだめ」なのは、学
生が多すぎると教育や研究の質が下がるからです。「少なくてもだめ」なの
は、学生が集まらないのは「きちんとした教育をしていないから学生が集ま
らない」という判断からとコガは推察しております。具体的には学生数が収
容定員の50%を切ると補助金は不交付となります。ちなみに今回の場合は前
者の「多くてだめ」=定員超過のペナルティが関係しています。

第三のポイントは「または」という制限です。事件があった当時は入学定員
超過=1.37倍まで、収容定員超過=1.5倍までであれば補助金が交付される
ことになっていました。そして、このどちらかの条件をクリアしていればOK
という事になっています。入試関連のスタッフは、この倍率を横目に見つつ、
どこまで多く合格者を出すかという事に頭を悩ませます。私大文系の場合、
4年間で一人400万円弱の学費(入学金、授業料、施設費等の合計)が入って
くる訳ですから、定員ギリギリまで学生を確保したいという思いがある反面、
前述の倍率を超えてしまうと補助金が出なくなってしまうので、これはもう
真剣勝負です。合格者の歩留まり率はどのぐらいになるかを予想して、最終
的な合格者数をはじき出します。

第四のポイントは、昨今、「推薦入試」や「AO入試」といった12月までに決
まってしまう入試形態での合格者が増加傾向にある点です。これによって一
般入試の合格者数の決定がとても難しくなりました。なぜなら、かりに推薦
やAO入試の合格者の入学者が予想より多かった場合、最後の一般入試で全体
の入学者数を調整しなくてはなりません。しかし各大学とも「推薦入試」や
「AO入試」が始まる前に、一般入試の募集人員数を公開しているので、最低
限その募集人員までは合格者を出す必要があるためです。

さて、こうした予備知識を背景に、今回の事件を考えてみましょう。大阪産
業大学の経営学部(定員465人)は、事件のあった当時は下記のような状況
におかれていたと推察されます。

1)すでに収容定員は1.5倍をオーバーしていた。
2)そこでその年は入学者を1.37倍以内(637人以内)にする必要があった。
3)しかし一般入試の前の「推薦」や「AO」等の入試の合格者の歩留まり(入学者数)が良かった(報道によると600人近く)。
4)一方で、一般入試では募集定員の合格者(78人)をだす必要があった。
5)そこで、合格者のうち「入学辞退者」を多くする必要があった。

こうした背景から、
・頭がよくて合格する可能性が高い系列高校の学生を受験させる。
・彼らは既に別の偏差値の高い大学に合格しているので、大阪産業大学に合格しても入学辞退する。
・よって募集定員どおりの合格者を出しつつ、入学者数を少なくすることが実現する
という作戦を考え出したものと思われます。

さらにこの「頭がよくて合格する可能性の高い付属高校の学生」の受験によ
って、予備校での大阪産業大学の偏差値ランキングをアップさせるという効
果もあるのです。なお今回のメルマガでは触れませんが、大阪産業大学では
2012年度の「センター試験利用入試」においても系列高校の学生を3,000人
以上無料で受験させ偏差値を向上させるという操作があったという事件が先
週発覚しています。

今回の事件は、系列高校の教頭先生の内部告発で明るみに出たと聞いていま
す。もし事実だとしたら、当時一般入試で同大学を受験し、不合格となった
学生が一番の被害者といえるでしょう。また私学の補助金は、我々の血税か
ら支払われている訳ですから、国民全体が被害を受けているともいえます。
その当時は「うまい裏ワザを思いついた」と思っていたのかもしれません。
しかし、自分だけが良くても、それによって被害を受ける人がいることを常
に考えなくてはいけません。
特に大学という公共財的な性格を持つ機関であれば・・・。

とここまで書いていたら、さらに事件の真相にはお粗末な勘違いがあったこ
とを下記の記事から知りました。
大産大 不正入試は「勘違い」から始まった』(週刊朝日 2013年3月29日号)

先ほどの旺文社さんの資料をもう一度ご覧いただきたいのですが、当時は経
過措置で入学定員超過率が1.37倍となっていたのにもかかわらず、どうも
1.3倍という経過措置後の数字で計算していたようなのです。話の発端は勘違
いというのがなんともナサケナイ印象を受けました。
今回の事件を他山の石として、自分も春休み期間中に緩んでしまった気を引
き締め、新年度を迎えたいと思った次第です。(文責:コガ)

vol.452:「O to O」「ろくろ」「一転して外向きのワカモノ」

2012年04月26日 | ニュースのキーワード
今月のニュースのキーワードは
「O to O」「ろくろ」「一転して外向きのワカモノ」の3点です。

O to O
オートゥーオーと読みます。ちょっとみると、顔文字のようでもありますが、
最近ネットビジネスの世界でよく使われている「Online to Offline」とい
う言葉の略称です。IT用語辞典によると、
「O2Oとは、主にEコマースの分野で用いられる用語で、オンラインとオフラ
インの購買活動が連携し合う、または、オンラインでの活動が実店舗などで
の購買に影響を及ぼす、といった意味の用語である」
と解説されています。(http://www.sophia-it.com/content/O+to+O)。
例えば昨年の「おせち騒動」以来やや勢いをなくしつつあるクーポンサイト
とか、Twitterやfacebook等のソーシャルネットワークを用いて、顧客を実
際の店舗に来店させるような活動のことをO to Oと言うそうです。

こうしたO to Oは、教育ビジネスでも活用されつつあります。2012年4月6日
の日経MJ(7面)によると、総合情報サイトの「オールアバウト」がO to O
の手法を用いてスクール事業に参入するそうです。月間180万人が訪問する
というオールアバウトの読者を、同サイトで記事を執筆している専門家(ガ
イド)が講師を担当するリアルな場での講座に誘導するというものです。

記事では「今後はネットだけのサービスを展開する企業でもO to Oの考え方
を取り入れたサービスが増えそうだ」と述べておりますが、教育ビジネスに
おいては逆のパターンの増加が期待されます。つまり、リアルの場だけの教
育事業者や学校が、もっとネットを活用すべきではないかということです。
海外では、MITのオープンコースウェア等が、世界規模でO to Oを推進して
いますが、日本では授業のインターネットでの公開にしても、「情報の公開
は社会貢献」程度の意味づけしかされていないのが現状かと思います。

ろくろ
コガは完全に情報に乗り遅れてしまっていたのですが、「ろくろ」がネット
の中で話題の言葉になっているそうです。日経MJ4月8日(18面)によると、

「なぜウェブの業界人は、インタビューの時、ろくろで粘土をこねるような
恰好になっているの?」



というTwitter上の発言が瞬く間に拡散し、「ろくろ」のブームが到来した
そうです。その後、「ろくろ」をキーワードにTwitterで求人をするIT系の
企業が現れたり、陶芸自体が人気になったり、はたまた「ろくろ」ポーズの
写真に陶器を合成できるiphoneソフトが出現したりと話題に事欠かないよう
です。

面白法人カヤックの「ろくろ」求人Twitter
http://goo.gl/wMxzm
ろくろ写真合成ソフト「ろくろる」(Apple store)
http://goo.gl/Bri22

そういえば、研修インストラクターでも「ろくろ」ポーズになる人よく見か
けます。もしかしたらコガもいつも間にか講義の時に「ろくろ」を回してい
るかも?
おまけ「ろくろ」画像まとめサイト「WEB業界ろくろ回しすぎワロタ


一転して外向きの新入社員
日本能率協会さんの「2012年度 新入社員『会社や社会に対する意識調査』
結果」の速報が公開されています。
http://www.jma.or.jp/news/release_detail.html?id=171

この調査は日本能率協会の新入社員向け公開教育セミナー参加者および日本
能率協会の研修を活用している企業の新入社員を対象に実施したもので、回
答者は1,309人ということです。「おやっ?」と思ったのは、「グローバル
化に前向き、『海外赴任したい』が過半数」という回答結果です。同調査で
は「グローバル化は自分も当事者である」と回答した新入社員が81.0%、さ
らに「海外赴任をしてみたい」という回答50.7%とわずかながら過半数を超
えたのです。

実は新入社員のグローバル化に対する意識調査は、2010年に産業能率大学で
も実施しており、その時の結果から「若者に内向き志向広がる」という論調
が一気に広がりました(http://goo.gl/FA44x)。2年ぐらいで極端に内向き
から外向きに変わるものなのだろうかと疑問に思い、今回2つの調査のデータ
を比較してみました。

日本能率協会の調査(2012年4月)
質問:海外赴任をしてみたいと思いますか

海外赴任をしてみたい50.7%(45.7%)
海外赴任はしたくない48.8%(53.1%)
(カッコ内の数字は2011年度の調査結果)

産業能率大学の調査(2010年10月)
質問:海外で働きたいと思うか

働きたいとは思わない49.0%
国・地域によっては働きたい24.0%
どんな国・地域でも働きたい27.0%

ちなみに産能での調査は2001、2004、2007と実施しており、それぞれの調査
での「海外で働きたいと思わない」と回答した率は

2001=29.2%
2004=28.7%
2007=36.2%

と年々内向き率が高まっていました。2つの調査から推測すると、新入社員
の内向志向は2010年頃ピークを迎え、その後若干のブレはあるものの、外向
きと内向きが半々ぐらいという傾向が続いているようです。いずれにせよ、
過半数を少し上回ったり、あるいは足りなかっただけで、毎年コロコロと
「外向きだ」「内向きだ」とレッテルを張り替えるのは、止めにしませんか
というのがコガの結論なのでした。

 <文責 コガ>

vol.448:2012年3月のニュースのキーワード

2012年03月27日 | ニュースのキーワード
今月のニュースのキーワードは
「Apple Academix2012」「高校生が100人いる村」「教職課程を履修せずに
小学校の教員になる方法」の3点です。

■Apple Academix2012
3月10日(土)に、六本木ヒルズアカデミーで「Apple Academix2012」とい
う高等教育機関でのICTを活用した教育をテーマとしたイベントが開催され
ました。このイベントは早々と予約が満席になってしまったようで、六本木
ヒルズの会場に入りきらなかったお客様向けに、銀座のアップルストアでも
イベントの模様を放映していたそうです。

【参考】Apple Academix2012 ツイッターのまとめサイト
http://togetter.com/li/270619

コガは運良く六本木ヒルズアカデミーの本会場に参加することができ、5人
のスピーカーから、大変有益なお話を聴くことができました。

最初は、Apple, Worldwide Education Marketing, Sr Managerのミゲル ヤ
ング氏のスピーチでした。ミゲルさんからは、Appleの教育分野での最近の
動向についてお話しいただきました。話の内容は、本メルマガ
vol.440:Apple Special Event January19
でお伝えした内容の短縮版で、「ibook2」「ibook Author」「iTunes U」
の3点についてご紹介いただきました。

次に登場したのは米国テキサス州にあるAbilene Christian Universityの、
ウィリアム ランキン教授です。ランキン教授からはICTを活用した教育の可
能性を、大変分かりやすいケースを交えてレクチャーいただきました。

例えば、YouTubeで4,000万を超えるビューを記録した韓国の高校生ギタリス
トFunTwoのカノンロックを例にあげ、Fun Twoの演奏をカバーするギタリス
トが様々なカノンロックのバージョンを創造していったケースを紹介し、IC
Tは知識伝達だけでなく知識創造のツールとなっていることを説明してくれ
ました。

三番バッターは、東京大学副学長・大学総合教育研究センター長の吉見俊哉
先生です。吉見先生からは、昨今話題となっている秋入学の件を出発点に、
日本の大学が今抱えている問題点についてご講義いただきました。
その中で、現在の大学の状況は、16世紀に大学が衰退した時期に似ていると
いうお話しがありました。16世紀はグーテンベルグが発明した印刷術が広ま
り、講義を聴かなくとも書籍を通じて知識を獲得できるようになり大学が衰
退したそうですが、現在はインターネットによって、知識伝達・創造のスタ
イルが激変し、同様のことが起こりつつあるのではないかというご指摘があ
りました。

四番目は、実際の授業での実践ということで、大阪女学院大学教授の加藤映
子先生のお話しがありました。大阪女学院は「英語出学ぶ、英語で論文を書
く」ことを授業で実践されているそうですが、そうした授業にiPadを用いる
ことで、様々な学びの変革が起こっていることを報告いただきました。

最後は、桜美林大学の畑山先生より、桜美林での学士課程教育の変革内容に
ついてお話しいただきました。2012年度より、同大学のビジネスマネジメン
ト学群にてiPadを入学生全員に導入されるそうです。こちらは授業の中でな
く、授業の外で用いることを想定しており、授業での対話や協働を促進する
ツールとして活用を予定しているということでした。

【感想】
イベント開始前、会場ではアデルのローリング・イン・ザ・ディープがBGM
で流れていました。またイベント参加のお土産も、リンゴマークの入ったモ
レスキン風の高級ノートとボールペンです。イベント終了後は、六本木ヒル
ズ49階からの展望を長めながら軽食をいただけるという趣向まで用意されて
いました。何を言いたいかというと、とってもオシャレで満足感の高いイベ
ントだったのです。さすがApple!こうした演出もAppleというブランドイ
メージ向上に一役買っていることを実感しました。



■高校生が100人いるむら
vol.446:第17回京都FDフォーラム参加記」で、
法政大学の児美川孝一郎先生の講演を取り上げましたが、先生の講演内容の
中で、お伝えしていなかった事がありましたので再度取り上げさせていただ
きます。

先生によると、高校入学者100人の内、高校・専門学校・大学(短大・大学
院含む)を卒業後すぐに就職し、継続して最初の会社に就労している人の数
は44人なのだそうです。児美川先生はその人達のことを「ストレーター」と
呼んでいました。その他の56人は、学校を中退したり、卒業後就職せずフ
リーターやニートになったり、せっかく就職しても早期に退職してしまうそ
うです。

このデータを見て、今までのキャリア教育は「ストレーター」になることを
前提にしすぎていることに気がつきました。ストレーター率を増やすことば
かりを考えるのでなく、現状を真摯に受け止め、ストレートに行けなかった
時にも賢く生きる術を与える。キャリア教育自体をそいしたコンセプトに転
換していく必要性があるのではないかと思った次第です。

なお後日、児美川先生のデータを参考に「高校生が100人いるむら」という
動画を作ってみました。よろしければご覧ください。

高校生が100にんいるむら

■教職課程を履修せずに小学校の教員になる方法
コガは、毎月FMICSあざみ野という大学のことを考える勉強会に参加してい
ます。先日その勉強会で、『ゼロからだって「教師」になれる!』という本の
著者の高橋幸恵さんにお会いしました。この本は、大学で教職課程を修了して
いない人向けに、小学校の教員免許を取得する方法を5つ紹介しています。
中でもコガが驚いたのが「教員資格認定試験」という制度の存在です。この制度は、
一般社会人や教員免許を取得できない大学に在籍している学生に対して、小学校や特
別支援学校の教師になる道を開くために設立されたそうです。

例えば、大学4年生が、夏前に実施される教員採用試験を受験し、その後9
~11月に実施される教員認定試験を受験し、両方に合格すれば、教職課程を
履修していなくても、卒業後4月から小学校の教員になれるのです。

18歳の時に「先生になりたい」と思った人しか先生になれない仕組み自体、
相当問題があるとコガは考えます。こうした制度があるお陰で、一般企業に
勤めた後、小学校の先生になることも可能となります。大学3年の終わりに
なって真剣に職業のことを考えた時に初めて「教師」という選択肢がでてき
ても手遅れにならずに済みます。

地元の国立大学の教育学部出身の先生ばかりがいる小学校より、元サラリー
マンの先生が混じっている小学校の方が、教える側の多様性の面からも望ま
しいとコガは考えます。ぜひこういった本の内容が世の中に浸透して欲しい
と思った次第です。