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005 『活躍する組織人の探究』を読んで思った事

2014年09月19日 | eラーニングに関係ないかもしれない1冊


『活躍する組織人の探究』 大学から企業へのトランジション(東京大学出版会 2014)

社会人教育の世界から大学教育の世界に移住して、今年で7年目になりました。この7年間、「シャバ」の世界で役に立つ人材を大学で育てたい、そのために大学で何をどのように教えるべきか、あるいは教えずに学習してもらうにはどうしたらよいか試行錯誤してきました。しかし単に実践するだけでは、その実践が正しいのか間違っているのか分かりません。そこで毎年1回はどこかの学会で教育実践を発表し、他者からの助言をいただくよう努めてきました。

しかしながら、本質的なところで「本当にいいのかなあ?」という思いが拭えぬままに実践を継続してきました。その要因の一つとして、大学教育~社会人教育の接続に関しての研究が今まであまり存在せず、実践内容をアカデミックな知見から演繹的に検証することが難しかったことが挙げられます。
今回ご紹介する『活躍する組織人の探究』は、この分野にアカデミックな検証をいれた研究書です。しかも編者はこの分野を代表する東西の両横綱 東大の中原淳先生と京大の溝上慎一先生です。2人は7月に開催される「大学生研究フォーラム」で絶妙なコンビを組んでフォーラムを企画・運営しておりまして、そうした蓄積もこの本に多く反映されております。

さて、本書の中身ですが、誤解を恐れずに簡単にまとめると「企業に入ってから役立つ大学の勉強、大学時代の過ごし方、大学時代の意識の持ち方を、大規模なアンケート調査をベースに実証的に研究したもの」と言えます。

まず2章と3章が予備知識編となっています。2章では採用から新入社員教育あたりまでの人材マネジメントに関する先行研究について中原先生が簡潔にまとめています。3章は溝上先生が、昨今の大学教育や大学生事情についてまとめています。2章で特筆すべきは、25ページという決して長くない本文に対し、なんと9ページにもわたる参考文献リストが存在することです。つまりこの章には古今東西の採用~新入社員育成までの研究がギューーーーーッと濃縮されているのです。コガ的には、2章だけ(もっと言えば参考文献リストだけ)でもこの本を購入する価値は十分にあると考えます。
4章は本書の核ともいえる大学生活と仕事生活に関する調査の記述統計が示され、続く5~7章ではそのデータからの分析がまとめられています。5章は「就職時」6章は「入社・初期キャリア形成期」7章は「初期キャリア以降の成長課題」といった時系列に即した分析結果の並びになっています。そして8章がまとめの章となります。

本書の結論をおおざっぱにまとめると
「就職後の組織適応にポジティブな効果を与えるためには、
・大学時代に将来への見通しを持つこと
・周りの大学生だけでなく、異質な他者との関わりを持つこと
・豊かな人間関係を重視した大学時代を過ごすこと

が重要である」

となります。それらがどのようにデータで実証されたのか、そうした意識や行動をとることが、将来何に繋がるのか等は、ぜひ本書をお読みになってご確認ください。

最後にコガが本書を読んだ後も疑問に思っていることをまとめたいと思います。それは「社会(会社に非ず)に役立つ人材」ってどういう人なのかということです。本書の7章では、「企業で躍進する」ことを「革新的な行動をとれる人材」と定義しています(p.156)。しかし、そもそも革新的な行動をとれる人材だったら、企業の中でがんばるより、独立して起業を目指すのではないでしょうか?企業がそうしたイノベーション人材を求めていることは分かりますが、もし「イノベーティブで躍進している」ような奴らばかりだったら組織は成り立たないのも自明です。サッカーで11人のFWをピッチに立たせるようなものだからです。

とすると、日本中の大学が「活躍する人材」を一つの型(イノベーション人材とかグローバル人材とか)に定め、それをゴールに大学のカリキュラムを作る事って果たして正しい事なのでしょうか。多くの大学が右へ倣えで「イノベーション人材」とか「グローバル人材」ばかりを目指したら、一体この国はどうなってしまうのでしょうか?

大学教育において多様なゴールが認められるのであれば、それぞれに合った多様な教え方や教育内容が存在するはずです。さらに入学してくる新入生のレディネスによって教え方や教育内容を変化させていく必要がでてくるとなると、大学教育というのはゴールも手段も個別具体的にならざるのでしょうね。

とはいうものの、どこかに軸足を置いて、実証的に研究しないことには、一歩も先に進むことはできません。そうした意味で本書が果たした役割というのは大変大きなものだと思います。ぜひご一読のほどを。
<文責コガ>
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