Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

Vol.310:LEC大学募集停止に思う

2009年06月30日 | 大学のeラーニング
6月18日にLEC東京リーガルマインド大学が2010年度以降の募集停止を発表しました。大学の発表資料によると、

・平成21年度の入学者数は、19名(昨年29名)
・これまで、他の事業部門の黒字で学部の赤字を補填し、その継続を図るなど懸命の努力を行ってきた
・しかし、これ以上の継続は困難
・在学生の適切な修学環境の維持向上に経営資源を集中させるため平成21 年度以降、学部の学生募集を行わないことを決定した
・なお大学院は継続して存続、学生募集を行う

というものです。同じ株式会社立大学の募集停止ということでは、昨年末にLCA大学院大学が09年度からの停止を公表しておりこれで2校目ということになりました。LCA大学院大学の時は、学長の山崎正和氏が昨年まで中央教育審議会の委員長だったこともあり話題となったことを記憶しております。

実は筆者の桜美林大学院時代の修士論文がアメリカの営利大学をテーマとしたものであったため、日本の株式会社立大学の動向についてはとても気になっており、複雑な思いでこの報道を読みました。修士論文では当初日米の株式会社立大学の比較について書く予定だったのですが、アメリカの部分がどんどん膨らんでしまい、結局日本の株式会社立大学にはあまり触れずにまとめてしまいました。ちなみに筆者ができなかった点については、本メルマガでも切れ味スルドイ書評を書いてくれているナカダ君が「株式会社立大学の制度設計とビジネスモデル」という質量ともに充実した修士論文を昨年書き上げてくれています。

話しが少々脱線しましたが、今回のLEC大学募集停止については大きく2つの意見が提示されています。一つは「そもそも教育の世界にビジネスの論理を持ち込んだことが失敗の原因だ」とするもの、もう一つは「私立大学だって最近募集停止が相次いでいるのだから設置形態の問題ではない」とするものです。今回はそれらの声を比較検討してみたいと思います。

教育の世界にビジネスの論理を持ち込んだことが失敗の原因
この論調を明確に打ち出しているのが、筆者が敬愛する「内田樹」先生のBlogです。
『内田樹の研究室』2009年5月19日「株式会社立大学の末路」より
株式会社立の大学については、これは高等教育機関としては機能しないと私は最初から言い続けてきた。「教育はビジネスではない」からである。
(中略)
経営のノウハウを教える教育機関が経営破綻した場合、説明の可能性は二つある。一つは、「経営のノウハウ」を教えることを謳ったこの教育機関の経営者たちが実は「経営のノウハウ」をよく知らなかったということである。魅力的な解釈だが、私はこれをとることを自制する。私がとるのは、教育機関の経営にはいわゆる「経営のノウハウ」が適用されないという解釈である。教育はビジネスマンが来るべき場ではなかったのだと思う。そういう理解でいかがだろうか。
筆者としては、少々複雑な思いでこの主張を読んでいます。現在熊本大学で「教育ビジネス経営論」という内田先生の思想とは真逆の考え方の授業を担当しているからです。さて、内田先生は別のBlogの記事の中で、下記のようにも語っています。『内田樹の研究室』2009年1月28日「学びと暗黙知」より
「学び」というのは、「学ぶことの有用性や意味があらかじめわかったので、学び始める」というようなかたちでは始まらない。
それは商品購入のスキームである。
「学び」というのは、「その有用性や意味がわからないもの」(私たちの世界はそのようなもので埋め尽くされている)の中から、「私にとっていずれ死活的に有用で有意なものになることが予感せらるるもの」を過たず選択する能力なしには起動しない。
「実務に役立つ教育」や「現状の業務課題をもとに学習ニーズを抽出し、それを学習目標とする」といった古典的な企業内教育のプログラム設計とは真逆の事を述べています。しかし、これらの文章がとても魅力的に思えてしまうのはなぜでしょう。

実はAppleコンピュータのSteve Jobs氏も、伝説となったスタンフォード大学の卒業式スピーチの中で「点と点をつなぐ」というテーマで内田先生と同じような事を語っています。(H-Yamaguchi.net 「Steve Jobsのスピーチ、山口訳」より)
先を読んで点と点をつなぐことはできません。後からふり返って初めてできるわけです。したがってあなた方は、点と点が将来どこかでつながると信じなければなりません。
Jobsの場合も、大学のカリグラフィの授業のエピソードの後にこの「点」の話しをしているので、教育が中心のテーマであることは明らかです。いずれにせよ、効率最優先で「役に立つ事」だけを学ぶというのは、そもそも学校教育の世界には馴染まないという考え方には一理ありそうです。

設置形態と募集停止は別問題
一方、「この厳しい時代、私立大学だって最近募集停止が相次いでいるのだから設置形態の問題ではない」といった趣旨の論調を明確に打ち出している一人が、「大学プロデューサーノート」倉部さんのBlogです。

『大学プロデューサーズ・ノート 【早稲田塾】』2009年6月18日「LEC東京リーガルマインド大学も募集停止」より
今回のLEC東京リーガルマインド大学の場合は、以前(LCA大学院大学が募集停止を発表した時)に比べれば、あまりそういった(「ほれ見ろ、企業が金儲け目的で大学をやるからだ」といった)報じられ方はされていません。ここ最近、学校法人による「普通の大学」があまりにも連続で募集停止したので、さすがに「株式会社立」という点だけを責められなかったのかもしれません。
(中略)
個人的には、学校法人だろうが、株式会社立大学だろうが、良い大学は良いし、ひどい大学はひどいと考えています。学生を集められるかどうかも、設立母体とはあまり関係がないのでは。
どんな教育方針を持つ大学になるかは、関わる人達の考え方次第でしょう。学校法人であっても、見栄や、特定の誰か(政治家や行政)の都合だけで開設されたような、教育理念がすっぽり抜け落ちた大学はやまほどあります。
(  )内は筆者加筆
確かに4月以降、三重中京大学、聖トマス大学、神戸ファッション造形大学、愛知新城大谷大学、が平成22年度からの学生募集を決定しています。これらはすべて私立大学であり、そのうち愛知新城大谷大学は2004年開学、神戸ファッション造形大学は2005年開学とまだ出来たての大学です。これらの大学が設置審査を受けた頃はちょうど、規制緩和の方針を受けて設置認可の準則化が本格的に進んだ時期でもあり、株式会社云々の議論よりそちらの方が問題ありなのではないかと筆者は考えております。

ちなみに「教育理念がすっぽり抜け落ちた大学」というのは、以前同ブログの「コピー・ペーストでつくった教育理念?」(2008年11月26日)という記事の中で、公立大学である前橋工科大学が岡山大学の教育理念をコピペして作っていたという事が念頭にあったのかと思います。

多様性が必要
では、筆者はこの問題についてどう考えているのかというと、基本的には設置形態は二の次と考えています。また教育には多様な考え方が許されると信じているので、そこにビジネスの論理を持ち込むことについても否定されるべきでないと考えます(もちろん持ち込むべきでないという考えもあると思います)。

もっとも、ここで議論すべき「ビジネスの論理」というもの自体とても多様な概念です。例えば、内田先生が論じている学びについての考え方、「学びは、その有用性や意味がわからないものの中から、私にとっていずれ死活的に有用で有意なものになることが予感せらるるものを選択する能力なしには起動しない」は多くのビジネスパーソンにとって「まさに現代的なビジネスの論理」に思えるはずです。「目標に向けて最短距離を効率的に走って他者を出し抜く」といった20世紀的イメージをビジネスの論理と考えるビジネスパーソンはむしろ少数派であり、「ビジネスの論理」VS「教育の論理」と二項対立的に捉えること自体に無理があると筆者は考えています。

とはいうものの、今の日本の高等教育システムの中では、株式会社立大学の経営にはあまりにも「勝ち目」がなさ過ぎると言わざるを得ません。私立大学に比較してのメリットは「株式市場からの資金調達が可能」なことぐらいしかありません。それに引きかえ「私学助成金が受けられない」「法人税を取られる」「社会的に負のイメージが確立されつつある」などデメリットは沢山あります。結果として株式会社立で設置しても厳しい大学経営が待っていることは自明です。ビジネスブレイクスルー大学院大学のように一部大健闘している株式会社立大学がありますが、これらのデメリットを認識した上で設置を考えるというのは、経営的にみてどうなのだろうかと個人的には考えてしまうのですが、それこそ「有用性や意味がわからないものの中から、いずれ死活的に有用で有意なものになることが予感せらるるものを選択する能力」のなせる技なのでしょうか?


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vol287:平成20年度 大学教育改革合同フォーラム(その2)

2009年01月27日 | 大学のeラーニング
1月12~13日にパシフィコ横浜で開催された大学教育改革合同フォーラムに参加してきました。今回筆者は「読み書き能力」「グループ学習」「学習ポートフォリオ」「コンピテンシー」「SNS」の5つのキーワードを決めて、ブースを訪問しました。

先週のメルマガでは「読み書き能力」「グループ学習」についての取組をご報告しましたが、今回は「学習ポートフォリオ」「コンピテンシー」「SNS」について報告します。

学習ポートフォリオ
ポートフォリオとは、元々画家やイラストレーターが自分の作品を大きいクリアフォルダに入れてまとめたものを指していたそうです。教育の世界では学習者の理解の程度や思考過程の「見える化」を促進することを主な目的に、個人の学習成果物や学習履歴などを一つのファイルやフォルダにまとめて蓄積しすることを指します。日本では初中等教育の総合的な学習の時間の評価法として数年前から脚光をあびるようになってきました。最近では高等教育の世界でもこのポートフォリオの活用が盛んになってきております。昨年末に発表になった中央教育審議会の報告『学士課程教育の構築に向けて』という答申の中でも
学生が,自らの学習成果の達成状況について整理・点検するとともに,これを大学が活用し,多面的に評価する仕組み(いわゆる学習ポートフォリオ)の導入と活用を検討する。

というように、政策レベルで活用を検討することが明記されるまでになっています。今回のポスターセッションでは、宮崎学園短期大学、帝塚山大学、千歳科学技術大学、東北大学、北海道教育大学等が学習ポートフォリオについての取組を発表していました。

宮崎学園短期大では「学生の総合的診断・ケアサポートシステム」という学生の個人カルテを作成し、その中の一要素としてポートフォリオを位置づけています。単に学習の履歴を管理するだけでなく、「学生生活スキル・スタンダード」の自己診断結果等もサポートシステムの中で管理し、アカデミックアドバイスの機会に活用しているそうです。

千歳科学技術大学では、学生個々人の履修コース設定状況や受講科目の達成度を把握できる「学習カルテ」をベースに、レベルごとのプログラム等における取組状況や適性・得意とする分野を加えた「学生総合カルテ」をコンピューター上で作成し、これを教職員との対話指導の際に役立ているとのことです。

帝塚山大学では以前より運用していたTIESというeラーニングシステムをベースに「e能力ポートフォリオ」を開発。単にeラーニングでの成績や履修状況を管理するだけでなく、学生が入学時から卒業までに作成するインターンシップ参加報告書やプレゼン資料までも記録蓄積しているそうです。また、教職員や外部評価員による学習の到達度や志向・態度に関する客観的評価を自己点検できる「e能力アセスメント」も実装し、人間力や社会人基礎力等を定量的に自己点検できる仕組みを実装しています。

このように、大学での学習ポートフォリオの世界は
1)電子化が急速な勢いで進む
2)データを蓄積することが目的でなく、それらをアドバイス時に活用することが目的となっている。
3)単に学習の履歴だけでなく、ベーシックなスキルの自己点検であったり、適性であったり、学生総合的なカルテに進化しつつある

というように進んでいるといえます。

コンピテンシー
直接コンピテンシーという用語を用いている大学は少ないのですが、大学を卒業するまでに「こんな事ができるようになる」「こういう力を修得する」ということを明確に示し、それをカリキュラムと連動し運用する大学が増えています。今回のポスターセッションでは、東京女学館大学、山口大学、静岡大学等でそうした取組が紹介されていました。

東京女学館大学では学生たちのキャリア形成に必要な能力として『10の底
力』」を設定しています(詳細下記PDF参照)。
http://www.jasso.go.jp/gakuseisien_gp/documents/jireih20_011.pdf
そして、各先生方は10の内2つの底力を選び、学生がその能力を伸ばせるように考えながら授業を実施しています。学生はセメスター終了後に自己評価し、設定された底力が身についたかどうか自己評価を行います(2=身についた、1=やや身についた、0=変わらない)。それらの点数を合計し、レーダーチャートで示すことにより次セメスターで履修する科目を決める際の参考としているそうです。とてもシンプルで分かりやすい仕組みでGoodですね。

山口大学ではカリキュラムマップを作成してラーニングアウトカムを見える化する取組を実施しています。カリキュラムマップとは、GP(山口大学が教育活動の成果を通じて学生に保証する最低限の基本的な資質=Graduation Policy)の各項目をどの授業を通じて実現するかを定め、マトリクスにしたものです。カリキュラムマップの縦の行には開講している授業の一覧が、横の列にはGPの一覧が並び、どの科目を履修するどういったGPが向上するのかが一目で分かるようになっています。学生の履修選択の際に役立つのみならず、カリキュラムの改訂にも役立っているそうです。こうした取組を支援するため、教育コーディネーターを設置し、教育個人の授業改善努力をきめ細かくサポートしている点に力の入れようを感じた次第です。

静岡大学では、情報学研究科修士課程において「マニフェストに基づく実践的IT人材の育成」を実施しています。
http://www.inf.shizuoka.ac.jp/news/ggp.html
この修士課程ではID、IS、CSという3つのプログラムを実施しています。それぞれのプログラムにおいて、IT人材としてのキャリアパス、そのために身につけるべきコンピテンシー、各コンピテンシーを習得するための授業科目と課外活動、各授業科目間の関連を明示的に「マニフェスト」として示しています。これを「大学院課程で習得させる・習得する知識とスキルに関する教員と学生との間の『約束』」としているそうです。政治の世界でよく使われているマニフェストという言葉が教育の世界でも活用されていることにちょっと驚きました。しかし取組としては至極まっとうです。むしろ教育をサービス産業として捉えるとするならば、何を提供するかをきちんとユーザーに説明するのは当然のことなんですね。

SNS
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)については東京外国語大学、星嵯大学等で興味深い活用事例が展示されていました。

東京外国語大学では「e-アラムナイ協働による学生留学支援」という取組でSNSを活用しています。同大学では毎年約300人が世界32カ国1地域に海外留学するそうです。しかし、その大量の留学生の現地でのサポートは大変です。そこで、同窓会の海外支部と連携し、卒業生(英語でアラムナイ)の集合知を学生支援に活かそうというのがこの取組です。SNSを活用してeコミュニティーを作り、時間や場所を越えた情報交換を可能にしています。現地でなければ得られない情報を卒業生から得ることで、留学生の留学環境の向上に役立てているとのことです。

星嵯大学では、通信制大学の修学支援のツールとしてSNSを活用しています。普段会う機会の少ない学生同士や教員と学生のコミュニケーションにSNSを用いているそうです。在学生の約3割が活用しており、人気のコンテンツは「先生の日記」だそうです。

両大学の事例に共通しているのは、物理的に対面でのコミュニケーションが取りにくい学生や卒業生に対しSNSを活用することで学生支援を充実させている点です。今までは通学制の授業の補完としてSNSを活用する事例が多かったのですが、あまり長続きしないケースが多いように見受けられます。「会って話せば、わざわざSNSにアクセスしなくてもいいのでは」という考えから徐々に沈滞化してしまうのでしょうか?その点「会うことができない」となれば使わざるを得ない活性化するという方程式が成り立つのか?

実は筆者が院生時代から活用している通信制大学院にも有志の学生が立ち上げ運用しているSNSがあるのですが、どうも書き込むメンバーも決まっており、お世辞にも活性化しているとは言えません。単に情報交換するだけでなく、留学先での問題を解決したい等の具体的な目的が不可欠と筆者は考えております。

まとめ
以上2週間に渡り、5つのキーワードで「大学教育改革合同フォーラム」の模様をお伝えして参りましたが、いかがでしたでしょうか?これらの活動は文部科学省の金銭的な支援を受けています。ですので他大学の取組を真似して自校の教育改善に役立てることが強く推奨されています。もっと言うならば、企業だって納税者なのですから、これら大学での取組をうまく企業内教育に活用していただければと思っております。

vol.286:そろそろ授業の話しをしましょう---その1「チーム学習ゼミ」

2009年01月19日 | 大学のeラーニング
大学の教員になってはや10ヵ月。後期の授業もあとわずかとなってきました。前期は慣れないせいもあって、時間が流れがとても遅く感じていたのですが、後期に入り多少落ち着いてくると時間があっという間に過ぎ去るようになってきました。

今まで本メルマガでは、筆者がどんな授業をやっているのかをお伝えしてきませんでしたが、やっと落ち着いてきたので、自分の振り返りの意味も込めてまとめてみようと思います。今回は1年生を担当に実施した「チーム学習ゼミ」についてお伝えします。

概要
このゼミは1年生の必修科目で、15人の教員で担当しています。一クラスの履修者数は26~27人、履修者は4~5人のチームを作り、前半と後半で2つのテーマについて調査・研究を行い、その結果を発表します。

学習目標
ゼミの名称の通り、グループによる協調作業能力の習得を目指しています。グループにおける協調作業を円滑に進めるために必要と思われる、コミュニケーション能力やスケジューリング能力を実際の作業を通じて鍛えるとともに、論理的思考力、レポートの書き方、スライドを効率よく使用したプレゼンテーションの技法を身につけることを目標としています。

進め方の特徴
このゼミでは、受講生は授業時間以外にもグループで時間を調整してミーティングを行ったり、資料収集をしたりする必要があります。そうした授業外の活動を支援し、活動を「見える化」するため、GWEと呼ばれる本学内部で開発した協調学習支援Webツールを活用しています。

チーム全員参加の実現
このゼミ最大のポイントは「チーム全員参加をいかに実現するか」という点です。欠席は問題外ですが、授業に出席していてもチームのディスカッションや成果物作成に積極的に参加しないいわゆる「フリーライダー」が出現します。そうしたフリーライダーを減らし、チーム一丸となって課題に取り組ませることが学習目標を達成する上で重要です。

本年度の授業では
「協同活動のフレームワークの提示」
「全員が興味を持って参画できるテーマ設定」
「チーム学習スキルの提示」
の3つを心がけることで「チーム全員参加」を目指しました。

協同活動のフレームワーク
「協同活動のフレームワークの提示」とは活動スケジュールや検討結果をまとめる枠組みを学習者に提示し「いつまでに、何をやるのか」を明確にしてあげることです。社会人であれば、そうした事を自分達で考える事こそがチーム活動の基本なのですが、大学1年生の彼らにはまだ荷が重すぎると筆者は判断しました。

まずは「粘土からフリーハンドで彫刻を作らせる」のでなく「設計図と部品がそろっているプラモデルを組み立てさせる」ようなところから始めました。自分達で設計図を作り、部品を集められるようになるのは2年3年になってからでも遅くありません。初年次クリアすべきは決められたフレームに沿って充実した協同活動ができる事と筆者は考えています。

全員が興味を持って参画できるテーマ設定
次の「全員が興味を持って参画できるテーマ設定」これが最も苦慮しました。前半のテーマについては下記6つのテーマを提示し、そこから各班が選択するという方法をとりました。

・たばこ1箱1,000円に値上げ?
・成人が18歳になる?
・消費税率10%引き上げ?
・産婦人科医が激減している?
・日本では25%の食料が廃棄されている?
・20代の若者の約半分が国民年金未納?

選択したテーマは、
「たばこ」2チーム、
「成人」1チーム、
「食料廃棄」2チーム、
「年金」が1チームでした。

まあ、なんとかレポートをまとめ発表までこぎ着けたのですが、その発表内容は「インターネット上で意見を探してきてそれをまとめただけ」「レポートやパワポ作成がどうしても特定の人間に依存してしまう」という課題が浮き彫りになってきました。それでも、今まで知らなかったこと、考えてみなかったテーマに触れることで、彼らにとっては、なんらかの気づきがあったようです。

そこで後半は、「産能大版人生ゲーム」という変わったテーマに着手させました。来年の新入生に対し、産業能率大学での4年間の学生生活を教えるために実施するという設定でゲームを検討・開発させました。このテーマならインターネット上に答えはありませんし、Word文書を書いたりパワポを作るのが得意な人に仕事が集中することはありません。

まず上級生に「楽しかった事」「つらかった事」をインタビューさせることから開始しました。それらの情報を元にマスの文章を作り、スタート(入学)からゴール(卒業)までの間にSP(産能ポイント)をいかに多く貯めるかで競わせるゲームを製作させました。例えば「必修の授業の単位を落とす」といったマスであればSPがマイナスになるといった具合でゲームは進みます。

発表会(というか新春ゲーム大会)が1月5日の授業であったため、年末の休みにわざわざ大学に来て人生ゲームを作成するチームもありました。実際に完成した「産能大人生ゲーム」はどれも予想を超えるすばらしい完成度でした。

下記は優勝チームの作品ですが紙幣が笑っちゃうぐらいに完成度高し


次は準優勝チーム。こちらは解説書つき。しかも立体感のある盤面がリアル

またゲームを開発するプロセスで、学生達は「大学4年間でこれからどんなイベントが待っているのか」「大学生活の中で大切にしなくてはならないのは何なのか」「4年間は意外と早く過ぎていく」といったことに対して気づくことができたようで、単なる「遊び」に終わらない活動となりました。

チーム学習スキルの提示
これは前半のテーマの時に行ったのですが、基本的なグループワークのコツのようなものを実習を交えて伝授しました。例えばホワイトボードを活用したグループ討議の進め方、グループワークする時の机の並べ方、積極的傾聴、発問のスキル、などです。このあたりは社会人教育で20年飯を食ってきたので、まあなんとかなりました。

それと授業外の活動については前述のGWEというツールを活用して情報の共有を図っていたのですが、残念ながら私のクラスではあまりうまく活用できたチームはありませんでした。せいぜい発表用のパワポファイルを共有するぐらいに留まってしまったことが、eラーニングを生業としてきた筆者としては悔しい点ではありました。しかし、対面のディスカッションがきちんとできる事がコンピューター上での協調学習を推進する上で大前提になると言うことも今回改めて確認することができました。

反省
一番の反省点は、成果発表会後の振り返り時間がなく、中途半端な終わり方になってしまったことです。コルブの経験学習理論を持ち出すまでもなく、やったことを振り返り、そこから教訓を導き出すところまでやって実習型の授業は完了と考えています。そこで最終回の授業終了後、振り返りレポートを全員に書かせ、その中で活動の振り返りと教訓をまとめるようにはしています。できればそうした個人の意見をグループや教室全体で共有化したかったなあと反省しております。

今後の展開(企業内教育での活用、コンテストの実施)
この「人生ゲームづくり」は企業内教育でも応用できそうだと考えています。例えば新入社員のフォロー研修あたりで、入社から退職までの「○○株式会社版人生ゲーム」を作成させるのはどうでしょうか?

また、個人的には、この「大学版人生ゲーム」づくりを自大学や他大学でも広げ、ゼミ対抗、あるいは大学対抗の「◎◎版人生ゲームコンテスト」みたいなことをやってみたいと考えています。本記事を読んで授業の詳細について興味をお持ちになった他大学の教員の方、企業内教育担当の方、ご連絡いただければ幸いです。

世界で最も多くの人が受講したeラーニングコンテンツ

2008年07月27日 | 大学のeラーニング
その数推定600万人
YouTubeにUPされたその授業は全世界の人達に夢を持つこと、
その実現に向けて努力することの大切さを教えてくれました。

ランディ・パウシュ先生の「最後の授業」1~9


以前に一度観た時にはなかった日本語の字幕までついています。
とっても面白く、感動的で、ためになる必見の授業です。

そのランディ先生が08年7月25日膵臓ガンのためお亡くなりになりました。
享年47歳。ご冥福をお祈りしたいと思います。

僕もいつガンを宣告されても困らないように、
コナミスポーツに通って、腕立て伏せができるようにしています。

turnitin(ターンイットイン)

2008年07月03日 | 大学のeラーニング
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp1-20080701-378588.html

日刊スポーツのWebサイトによると、学生の「コピペ論文」を検出するサービスturnitin(ターンイットイン)がこの秋から日本語での対応を始めるとのこと。

確か同様のサービスを金沢工大の先生が開発したと言うニュースを以前聞いたことがある
http://www.j-cast.com/2008/05/26020566.html

そもそもコピペして楽したいと思わせるような授業が悪いのだろうか?
それともコピペする学生側に自制が足りないのだろうか?

ううう^~~~ん

vol.260:本人確認とeラーニング

2008年02月07日 | 大学のeラーニング
サイバー大学に留意事項
eラーニングに携わる人間としては年明け早々シリアスなニュースが飛び込んできました。すべての講義をインターネット上で実施しているサイバー大学が、在校生620人のうち約200人の本人確認をしていなかった等の問題により、文部科学省から留意事項を通知されました。
(文部科学省のページ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/01/08012806/002.htm

このニュースを最初に報道したのは1月21付の読売新聞でした。
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20080121ur02.htm
記事の見出しは「本人確認せず単位」。確かに本人確認できていない学生が存在したことは事実だったようですが、単位の付与に関しては事実と異なるということで、その後「怒りの会見」を吉村学長が行っています(下記「本人確認せず単位付与」は事実誤認、サイバー大学の吉村学長が会見。読売新聞社には法的手段も検討(Internet Watch 08/01/21)を参照)。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/01/21/18189.html

eラーニングの本人確認
サイバー大学だけでなく、遠隔地にいる学習者の本人確認はeラーニングや遠隔教育に常につきまとう問題です。

サイバー大学の場合は、主に入学時の本人の確認を怠ったということで今回留意事項がついていますが、これが入学後の各授業への参加者やレポートの作成の厳密な本人確認となると履行は相当難しくなります。

上記の文部科学省の留意事項の中で
「認可時の計画であるICチップ内蔵学生証でのログインによる本人確認が行われていないので、適切な方法で確実に本人確認を行うこと」
という指摘がありますが、実は本人になり代わっての替え玉受講に対してこの方法はあまり効力を発揮しません。

銀行のキャッシュカードやクレジットカードの本人確認の場合、他人に使われることを一番嫌っているのは「本人」です。こうした場合はICカード等による本人認証は効力を発揮します。しかし、替え玉受講の場合、「本人」が他人に使ってほしいと思っているため状況が逆だからです。このような状態でICカードを使っても玄関のドアに鍵を室外と室内を逆につけるようなものではないでしょうか?

では、指紋や静脈認証等の本人の身体的特徴を用いて本人確認を行う「バイオメトリクス認証」はどうでしょうか?この方式であってもログイン時のみ本人の指で認証して、後は替え玉が受講すれば無力となってしまいます。

従来の通信制大学の場合「科目修得試験」が試験会場で実施され、これが本人確認の場として機能してきました。下記のWebサイト本学短期大学通信教育課程の科目修得試験についての説明です。
http://www.sanno.ac.jp/tukyo/t_kamo.html
しかしこれとても試験に臨むまでのリポート課題等を他人がやっていたら分からないのです。

通学制だって怪しい
しかし、そこまで厳密にみると、はたして通学制の場合でも本人が勉強しているのかどうか怪しいケースは沢山あります。例えば他人の講義ノートによる学習というのはどうでしょうか?

最近UNN関西学生報道連盟の「問われる学生のモラル加盟大学内で講義ノートの使用実態調査」という記事が話題になっています。
http://www.unn-news.com/newsflsh/bunka/20080203131033.html

学生が執筆したノートを大学運営以外の者が仲介、販売(1冊500~1000円)する講義ノート屋というのがあり、何と7割以上の学生が利用したことがあるというのです。授業に出席せず、他人の講義ノートを1000円で買って期末試験に臨む通学の学生。これは「本人」が勉強したと言えるのでしょうか?

百歩譲って、試験は本人が受けているのだから良しとしても、次のようなケースはどうでしょうか?
レポート/卒論/修論作成代行サービス
卒論・レポート代行所

もちろんこれらの代書サービスのクオリティが低くて(あるいは高すぎて)本人が書いたのではない事がすぐにばれてしまうことも考えられます。

しかしここで問題にしたいのは、通学制の大学はおろか、日本の社会全体が本人確認を厳密に行わずに成り立っている部分が多いという事です。

選挙投票はどうでしょうか?
病院で提示する健康保険証はどうでしょうか?
定期券はどうでしょうか?

本人の意思で他人に使わせる場合、替え玉はそもそも防ぐことができないケースは結構あるのと筆者は考えます。

そもそもシステムを悪用した人を罰するべき
もう一つ、今回のサイバー大学の問題で思ったのは、仮に替え玉で受講して単位を取る輩が今後出たとしても、それは替え玉をたてた学生がまずに咎められるべきではないかという点です。無論、大学は公正な手段でしか単位が取得できないようにシステムを整備していくことは必要ですが、前述の通り、本人確認には限界があります。

むしろ、学生に「この授業は替え玉に受講させてもいい」と思ってしまうような、つまらなくて役に立たない授業を提供している事こそ、大学は咎められるべきではないでしょうか?

性悪説に基づきガチガチの監視システムで管理するような教育でなく、学びたい気持ちをもった学習者が自らの意思で学習を継続する性善説的な学びの場が構築できれば理想なんですが、考えが甘いかなあ~?

vol238:日本版大学Web2.0

2007年08月16日 | 大学のeラーニング
最近、CNET JapanというWebサイトで、「Web 2.0スタイルのツールが変革する大学の教育現場」という記事を読みました。
http://japan.cnet.com/special/media/story/0,2000056936,20354034,00.htm

この記事では、シートンホール大学、テキサスA&M大学、ダートマス大学メディカルスクール、等でのWeb2.0ツール活用の状況について報告しています。

しかし我が日本も負けていません。

慶應義塾セカンドライフキャンパス」で、日本で初めて大学の講義を公開
http://www.keio.ac.jp/pressrelease/070731.pdf
早稲田eスクールの快進撃で、最近やや劣勢の慶應大学がSecondlifeで攻勢をかけてきました。しかもあの電通との強力タッグを組んでの登場です。上記プレスリリースでは8月に開設と書いてあったのでSecondlife内を探してみたのですが、私は見つけることが出来ませんでした。大学の正規科目の講義のセカンドライフ内での公開は、日本の大学では初の試みということなので、楽しみですね。

大学サイトでYouTube活用 明治学院大
asahi.com>教育>大学> 記事より(2007年06月15日)
http://www.asahi.com/edu/news/TKY200706140256.html
アートディレクターの佐藤可士和(さとうかしわ)氏を起用した大学ブランディング戦略で注目を集めている明治学院大学が、大学WebサイトでYouTubeを活用しています。MG Videoと名づけられた下記サイトには、体育系の部活の試合模様から学部案内まで、様々なコンテンツがアップされています。
http://www.meijigakuin.ac.jp/video/
上記サイトには、筆者の大好きな漫画家「久住昌之氏講演会ダイジェスト(社会学科 新入生歓迎会)」なんていうのもありました。これ結構面白いですよ。

「広報人間ギケイダー」岐阜経済大学
以前「ギフレンジャー」という戦隊モノのキャラクターが登場する入試広報サイトを作り、大学界に衝撃を与えた岐阜経済大学が、「広報人間ギケイダー」というブログサイトを開設しました。とにかくオープニングFlashコンテンツのインパクトには度肝を抜かれます。まずはご覧あれ。
http://blog.gifu-keizai.ac.jp/
筆者のような40過ぎのオヤジなら「人造人間キカイダー」のパロディということがすぐ分かるのですが、最近の高校生には分からないだろうなあ。(下記がオリジナルの主題歌です)
http://www.youtube.com/watch?v=tHhgon1J-6s

このように、日本の大学もがんばっているのですが、Web2.0的なツールを使いつつも、コンテンツ自体は大学側からの一方的なメッセージ発信という1.0的な世界に留まっているという共通点があります。
しかし、筆者はそんな事はあまり気にしません。ユーザー参加型のサイトだから面白いとは限らないですし、たとえ一方的な情報発信(web1.0的)であっても、見る人にとって有益な情報が得られたり、それによって楽しめればOKですよね。
梅田望夫氏は著書「ウェブ進化論」の中で、次の10年への三大潮流の1つとして、「チープ革命」というコンセプトを掲げています。SecondlifeもYouTubeも、Blogも、個別にプラットーフォームを開発・所有していた時代には考えられないような高価な代物でした。これらの無料化により、従来の情報の送り手も、より創造性豊かなコンテンツを多くの人に配信する事ができるようになった、これだけでも凄い事だと思いませんか?

vol231:Microsoft対Google大学争奪戦

2007年06月28日 | 大学のeラーニング
最近、MicrosoftとGoogleの、教育機関向けIT支援サービス合戦が華々しくなってきました。

まずGoogleですが、今年の4月から、日本大学で全学生(約10万人)を対象に学生用メールシステムとしてグーグル社のGmailが導入されています。
http://www.nihon-u.ac.jp/news/2007/2007000001.html
メール以外でも、「Google トーク」 というチャットや通話での連絡機能。サークル,ゼミ等グループ内のスケジュールの管理ができる「Google カレンダー」、さらには、ネット上を経由してワープロ文章作成や表計算シート作成「Docs & Spreadsheets」の機能も提供するそうです。こうしたサービスはGoogle Apps Education Edition といって、ページのカスタマイズも含めて無料とのことです。
http://www.google.com/a/edu/?hl=ja

一方のMicrosoftでも、Windows Live@eduというサービスを4月から開始しています。
http://get.live.com/edu/
こちらも、hotmail、Liveチャット等同じ機能のサービスが提供されていまが、さすがに、ネットでの文書作成や表計算機能のサービスはWordやExcelが売れなくなってしまうから提供していないようです。その代わりBlogや学術論文検索、one-care serviceといったGoogle側にない機能を提供しているようです。

それって元々無料じゃない?
さて、ここまで読んできてお気づきかと思いますが、これらの機能は何も大学として全学的に導入しなくても、個人で無料で利用できるものばかりです。ではなぜ、大学として統一したシステムを導入する必要があるのでしょうか?

大学では学生の情報インフラを整備するために、莫大な投資を余儀なくされています。その中でもWeb系のサーバ周りは、金額はもとよりセキュリティ対策等の手間が大変かかるものとなっています。特に日本の大学のドメインは、攻撃を受けやすいようで、どの大学のシステム部門もアタマを悩ましています。それを無料で運用してくれるというのですから、乗らない手はないのです。さらにGoogleなりMSなりに利用する仕組みを統一すれば、学内に仕組みを持たなくても「自分の学校」の共通の仕組みのように活用できるという訳です。一方、提供するMicrosoftやGoogleにとって、潜在顧客を学生時代に「囲い込む」ことができるという大きなメリットがあります。

事務負荷の軽減という学校側の狙いと、若年潜在顧客の囲い込みというベンダー側の利害が一致して、こうした教育機関向けのIT支援サービス合戦が活況化してきたものと考えます。これからも2社だけでなく、様々なネット関連企業が学校向け無料サービスを展開してきそうですね。

例えばe-learningとか・・・

VOL222:e-learning等のITを活用した教育に関する調査報告書

2007年04月21日 | 大学のeラーニング
メディア教育開発センターで、2005年度より実施している上記調査の2006年
度版報告書が公開されました。
http://www.nime.ac.jp/reports/001/
NIMEのTOPページから上記報告書のダウンロードサイトに辿りつくのは、至
難の業なので、資料ページに直リンクを張らせていただきました。

>調査の概要
この調査は、大学をはじめとした高等教育機関でのITを活用した教育の実態
を調査しています。1,276の全国高等教育機関に調査票を送付し回答があっ
たのは915機関。7割を超える回収率だったそうです。しかも国立大学87機関
については100%の回収率ということで、本調査への関心の高さがうかがえ
ます。
各質問項目に関して、機関の種別(大学、短大、高専)、設置者別(国立、
公立、私立)、規模別(5学部以上、2~4学部、単科)でクロス集計してい
ます。

>調査の読み方「IT活用教育」と「eラーニング」のカンケイ
この調査を読む上で、唯一分かりにくい点は「IT活用教育」と「eラーニン
グ」という2つの言葉を用いている点です。同調査の附録にある「本調査で
使用する用語解説」によると、

【IT活用教育】
コンピュータやインターネット、モバイル端末等の情報技術〔IT (Informat
ion technology)〕を用いた教育を指す。以下に示す「IT 活用による授業改
善」と、「e ラーニング」「インターネット等を用いた遠隔教育」を含む。
【eラーニング】
コンピュータやインターネット、モバイル端末等の情報技術〔IT (Informat
ion technology)〕を用いて、学習者が主体的に学習できる環境による学習
形態をいう。教員がリアルタイムで指導する場合と、学習者がオンデマンド
的に学習できる場合がある。教授者と学習者の距離は問わない。

ということで、「eラーニング」は「IT活用教育」の部分集合と理解でき
ます。分からないのは、「IT活用教育」から「eラーニング」を引いた残
りの部分「eラーニングを用いないIT活用教育」に含まれるのはどの範囲
までか?という事です。たとえば、授業の中でパワーポイントを用いたプレ
ゼンを行うことも「IT活用教育」入っているような気がするものの、
【問22】「IT 活用教育にあたって、導入しているユーザー認証のシス
テムは次のうちどれですか。」
といった設問を見ると、もしかしたら違うのかなあなどとも思ってしまいます。
「どこまでをeラーニングと呼ぶか」というの議論は活用シーンや時代に
よって変化し、厳格な定義を作るのが難しい一面があるため、仕方がないと
言えばそうなんですが、ちょっと気にある点ではあります。

>IT活用教育をどのぐらい活用しているのか?
IT活用教育の導入状況については、国立大学で96.6%、公立大学で68.6%、
私立大学で83.8%で、全体では74.6%の機関で導入されているという結果が
出ています。昨年の調査(http://www.nime.ac.jp/reports/001/2005/)で
は、国立大学で76.0%、公立大学で27.0%、私立大学で48%で、全体では50.
96%の機関が導入していると回答しているため、この一年間で飛躍的に導入
が進んだと言えそうです。ただ、あまりにも伸び率が高いので、回答者側が
IT活用教育として認識する範囲自体が昨年より広がってしまった可能性も考
えられます。

>IT活用教育実施にあたっての課題
IT活用教育の実施にあたっての課題としては、
「システムやコンテンツを作成、維持するための人員が不足」(61.2%)
「教員のIT活用教育に関するスキルが不十分」(54.5%)
「eラーニング講義のシステム開発に関するノウハウが不十分」(43.8%)
といずれも人員やスキルに関する不足が課題となっているようです。熊本方
面の先生が見たら喜びそうなデータですね。
それに関連して、インストラクショナル・デザイン(ID)の導入状況に関し
て見てみると、「IDを採り入れていない」と回答した機関が69.8%に達して
いました。この数字を未導入機関が多いとみるか?それとも、既に3割もの
機関がIDを導入していると見るかは微妙なところです。(個人的には後者で
すが)

>eラーニングの導入状況
やっとメインのeラーニングの導入状況についてです。
高等教育機関全体のeラーニングの実施率は46.1%。大学設置者別では国立
大学で86.2%、公立大学で37.3%、私立大学で52.6%だったそうです。
国立が高く私立が低いという傾向は海の向こうのアメリカでも同じで、SLOA
N Consortiumの『Making the Grade: Online Education in the United Sta
tes, 2006』という調査によると、アメリカの公立大学でオンラインプログ
ラムやコースを提供している率は9割を超えているのに対し、私立では46%
にとどまっています。
http://www.sloan-c.org/publications/survey/survey06.asp
日本はアメリカに5年遅れているといわれていましたが、国立の導入率だけ
を見るとほぼ追いついたようです。

また単位認定を行う講座があるかどうかという問いに対しては、昨年16.5%
でしたが、今年は20.3%と上昇しています。そして今後は「すべての(e
ラーニング)授業科目で単位認定を行っていく」と回答した機関が35.5%に
達していることなどから、慎重な姿勢をとる機関が多いものの、今後その率
も徐々に増えていくことが予想されます。

>利用しているLMS
ちょっとドキッとしますが、製品名の実名入りでLMSの利用率の結果が公表
されています。結果については直接報告書を見てのお楽しみということで。

>全体の感想
今回の調査で印象に残ったのは、国立大学でのeラーニングおよびIT活用教
育の導入率の高さです。全体の9割を超える機関で活用している結果は、普
通の教育ツールとして市民権を得たという域に達したのではないでしょう
か?このようにeラーニングが当たり前の環境で学んできた大学生が企業に
入社してくる訳ですから、企業内教育でももっと普通に利用するようになら
ないと・・・と感じた次第です。

vol218:eLC活用事例研究会【熊本大学の巻】

2007年03月22日 | 大学のeラーニング
前々からお伝えしようと思っていたのですが、まとめる時間がなくて遅
くなってしまいました。すみません。

去る2月23日(金)に日本イーラーニングコンソシアム(eLC)の活用事
例委員会主催で、「eラーニングで学ぶeラーニング」と題して、熊本大
学大学院教授システム学専攻の北村士朗助教授に、同大学院の1年を振
り返って色々とお話をいただきました。

当日の参加者は10人弱でしたが、教育子会社の方の参加が多く、自社の
社員教育の中で本専攻を活用できないかという関心から参加されていた
のが特徴的でした。人数が少なかったことも幸いし、かなり突っ込んだ
質問も飛び出すスリリングな2時間でした。

お話の概要につきましては、後日eLCのサイトから、当日のパワーポイン
ト資料がダウンロードできるようになると思いますので、本メルマガで
は、当日盛り上がったトピックを抜き出してお伝えします。

「ないものは作るしかない」(設立のきっかけ)
「どうしてこの専攻を作ることになったのか?」
「なぜ熊本大学なのか?」
こうした疑問に対し、北村先生は以下のように説明されています。

熊本大学では平成15年度から、文部科学省の「特色ある大学教育支援
プログラム(特色GP)」として「IT環境を用いた自立学習支援システ
ム」という活動を行っていた。その中で、「サポート体制の確立」が
eラーニング推進上の大きな課題であることに気づいた。
IT面のサポートについては総合情報基盤センター等が担える。しかし教
育面でのサポートをする組織やスタッフが当時熊本大学にはなかった。
おそらくインストラクショナルデザイナーと呼ばれる人たちが、それを
担ってくれるはずだが、日本にはその人材がいない。いないのなら自分
達の大学で育成しよう!というのが本専攻設立のきっかけとなった。

筆者はこの話を聞いて、サッポロビールのミュージカルCM
「ないものは作るしかない」を思い出しました。
http://www.sapporobeer.jp/naimono/
話は全然飛びますが、このCMに出演している人達って全員サッポロビー
ルの社員の方だったって知ってました?

教授システム学の4つのIの内、IMって何を教えるの?
熊本大学では「教授システム学」を「高品質なeラーニングによる教授
システムを、開発する上で必要不可欠な関連領域「4つのI」を体系化
したもの」と定義しています。
ID=(Instructional Design)インストラクショナル・デザイン
IT=(Information Technology)情報通信技術
IP=(Intellectual Property)知的財産権
IM=(Instructional Management)マネジメント

上の3つは分かりやすいのですが、IMとは具体的には何を教えるのか?

単なる技術屋でなくマネジメントを心得た人を育てたい。それがIMにこ
められた思想である。
サスティナブルなeラーニングを目指す上で、利益とコストの話は欠かせ
ない。よってその中には「お金のマネジメント」も含まれる。また、プ
ロジェクトマネジメント、マーケティング等、様々な視点から「教育」
を捉える視座を養うのがIMのねらうところである。

といった趣旨の説明をいただきました。(本当はもっと軽い口調でしたが)

eラーニングの専門家なの?教育の専門家なの?
ISD(インストラクショナルシステムデザイン)を標榜するのであれば、
eラーニングだけができる専門家を育てても役には立たない。なので専攻
のカリキュラムはeラーニングという学習手段に限定したIDerを育てるの
でなく、トータルな教育全体が設計できる専門家を育てることが大前提。
しかし、あまり広げてしまうと、教育学や教育社会学や認知心理学等他
の専攻との差別化ができなくなってしまう。よってeラーニングを看板と
して掲げている。なお、「院生が出してきた修士論文のテーマには全て
「eラーニング」が絡んでいる」とのことです。

実際、筆者が担当している「教育ビジネス経営論」のユニットでは、
eラーニングに特化した内容はせいぜい3割ぐらいでした。教える側とし
てもeラーニングはあまり意識せず、たまたま学習の流れの中でeラーニ
ングが出てくるという感じでコンテンツを作成しました。

紺屋の白袴回避モデル
IDを教える専攻で、IDに基づいてプログラムを設計しなかったら意味が
ない。そうした観点から、本専攻では相当手間隙をかけてプログラムを
開発している。
カリキュラム間の関係(前提科目の設置)や、評価基準の明確化、科目
共通のシラバスガイドラインの設置、教育の質保証のための取り組み等
IDの知見にもとづくプログラム開発でのご苦労について説明いただきま
した。

といったところが主なトピックでした。その他詳細につきましては、後
日、日本eラーニングコンソーシアムにUPされる予定の当日資料および下
記のWebサイト(熊本大学大学院教授システム学専攻)をご覧ください。
http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/index.html

1年を振り返り
筆者も、非常勤講師という形で本専攻にかかわり、やっと1年が終わり
ました。大学職員をやりながら、講師を務め、一方で学生もやっている
という三足の草鞋状態は、なかなかハードなものがありましたが、本専
攻の立ち上げの一年目に部分的とはいえ関わらせていただいたのは貴重
な体験となりました。
来年は20人の新大学院生が入学すると聞いております。2006年の経験を
踏まえ、2007年はよりよい授業に改善しなくてはと心に誓うのでありま
した。