Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

009  e-learning award2014フォーラム参加記

2014年11月26日 | セミナー学会研究会見聞録


2014年11月12(水)~14(金)に開催されたe-learning award2014フォーラムに、半日だけ参加することができました。大学教員になって6年目、授業期間中の平日に開催されるイベントには全く参加できなかったのですが、12日は研究日で授業が無く、しかも都内で打ち合わせの予定があったので、そのついでに午後の3つの講演のみ拝聴してきた次第であります。今回は講演の概要と感想をお伝えします。

■その1 2014e-learning 大賞受賞 ドリコム えいぽんたん!(代表取締役社長 内藤 裕紀)の記念講演
今回の2014e-learning 大賞を受賞した「えいぽんたん!」というスマートフォンアプリの英語学習ソフトについて、開発のコンセプト等をプレゼンいただきました。
えいぽんたん! http://eipontan.smacolo.jp/
「えいぽんたん!」の特徴は
1)ソーシャルラーニング、2)ビッグデータ、3)ゲーミフィケーション、の3つに集約されます。
1)ソーシャルラーニング
「えいぽんたん!」はソーシャルラーニングプラットフォーム『smacolo(スマコロ)』で学習者のコミュニティを作り、SNSの環境で楽しく勉強出来る仕組みになっています。そしてゲーム仕掛けの課題に対し、チームになって取り組むイベントが盛り込まれており、学習意欲の維持向上を図っています。
2)ビッグデータ
現在iOSだけでも70万以上のダウンロードがあり、それらの大規模データを活用することで、個々の学習者英語のレベルにあったコンテンツ配信を実現してるそうです。
3)ゲーミフィケーション
えいぽんたん!はソーシャルゲームでは当たり前になっている、ユーザーの興味を持続させるための様々な要素を取り入れています。例えば問題に正解すると自分のキャラが成長したり、期間限定のガチャがあったり、アイテムをゲットして成長を早めたりといった事を学習の中に取り入れているそうです。

その結果、「えいぽんたん!」はスマホアプリの教育カテゴリにおいて、2013年は連続してトップ10を維持し続けるロングヒットとなっているとのことです。

■~大手前大学「俳句 -十七字の世界-」講座の舞台裏(株式会社D.E.S. 専務取締役 浦畑 育生 氏)
大手前大学でのeラーニングコンテンツ開発・運営を支援するD.E.S(デジタル・エデュケーション・サポート社)の取り組みについての発表でした。
大手前大学のeラーニングは、
2008年立ち上げ
2010年通信教育課程でのコンテンツ開発
2014年MOOCでの授業「俳句 -十七字の世界-」配信と反転授業の実施
と着実に進化し続けています。詳細については、下記より講演資料がダウンロード可能なのでそちらを閲覧願います。
http://www.digital-edu.co.jp/award2014/seminar.html
今回紹介のあった「俳句 -十七字の世界-」講座の受講者は、テーマの特徴から50~60代が多かったそうです。でも受講者のうち俳句知らない人が7割もいたそうです。ちなみに申込みに対し25%が修了したということです。これはMOOCという学習スタイルを考えると相当高い数値です。

■2つの講演を聞いての感想
ドリコム社の「えいぽんたん!」は、ソーシャル、ゲーミフィケーションといった、昨今のネットビジネスやアプリの世界でおなじみの言葉がでてくる一方で、D.E.S社の発表はARCSモデル等、オーソドックスなIDの世界に準拠した教材作りをPRしており、対照的な発表内容となっていました。
おそらく10年前であればD.E.S社のアプローチも新鮮味を持って市場に迎えられたと思います。しかし、多くの人IDに準拠した教材作りの重要性を認知している今日、その点を今更強調されても当たり前にしか思えなかったというのが正直な感想です。もちろんIDの考え方や手法の有効性を否定するつもりも更々ありません。ドリコム社の教材作だって結局はIDの世界の原理原則で説明がつくと考えています。しかし学習者やeラーニングの導入を考えるユーザーへのアピールという点ではドリコム社のプレゼンの方が効果を期待させる内容に思えました。

皆さんはどうお考えになりますでしょうか?

■反転学習の新たな展開—高等教育からMOOCへ  東京大学情報学環 教授 山内 祐平 氏
ひさびさに山内先生の講演を拝聴しました。
反転授業は2012年にコロラド州のクリントンデール高校でスタートしたそうです。スポーツの大会等で授業を欠席せざるを得ない高校生をなんとかしたいということで、授業ビデオをiPadに保存して渡したところ、大成功したことから広まったそうです。クリントンデール高校では、学力の低い学生の授業にこの方式を用いたところ、落第率が61%から10%に減少したとのことです。これらの事例から分かるように、元来反転学習は、学習困難層の学生の底上げの目的でスタートしました。
こうした反転学習は「完全習得学習型」と呼ばれ、ブルームの提唱するマスタリーラーニングの考え方を背景にもっています。すなわち、学習過程において形成的な評価を加え、それによって理解していない学習者を手厚くサポートし、全員が修得していくことを目指す考え方です。
一方で「高次能力学習型」とよばれる反転学習のスタイルもあります。これは対面学習を基礎修得でなく応用の世界にもっていくスタイルの反転学習を指します。たとえば東京大学で実施しているVisualizing Tokyoという講座では、授業の前の映像で、第二次世界大戦後の焼野原となった東京から70年代までの東京の復興・都市化の流れを知識学習します。そして対面学習では、その後現在に至るまでの東京の姿を『可視化』するため映像コンテンツを制作するという課題に取り組むそうです。
講演後にコガは以前から気になっていた下記の質問をしてみました。
「eラーニングで授業相当のコンテンツを予習させた場合、大学設置基準(21条 http://goo.gl/1DZ0RK)で定められるところの「予習の時間」「授業時間」のどちらに含まれるのか?」
それに対する山内先生の回答は、法解釈上の回答は別として「本質的にはそもそも不毛な議論」というものでした。「本来授業の単位は学習者のパフォーマンスで議論すべきであって、いつどこでどのような方法で何時間学んだかということを問題にするのはおかしい。今は過渡期なのでそういうことは仕方がないが、今後普及していくにしたがって、そうしたことも問題にならなくなると思われる」といった趣旨の回答をいただきました。

【感想】
今回の山内先生の講演を聞き、反転授業やアクティブラーニングといった新たな方法論(Methodology)が普及することで、既存の大学教育の枠組みを再考する必要がでてきたことを実感しました。そこでこんなモデルを作ってみました。
「大学授業の構成要素とそのトレンド」
Contents
講義の内容は専門知識だけでなく、汎用スキルの育成等の必要性が増大している。
Methodology
講義タイプの授業だけでなく、アクティブラーニング、反転授業、PBL、インターンシップなど様々な形態が普及しつつある。
People
教授者、学習者ともに多様性が増している。
Place
アクティブラーニングスタジオ、ラーニングコモンズ、といった物理環境の変化に加えて、eラーニングをはじめとした、バーチャル空間での学習が増えている。
Time
授業時間の厳格化、特に授業外の学修時間の確保が課題となっている。

特に後半のPeople、Place、Timeについては、「大学の先生が、教室で、90分の授業内で教える」ことを前提とした制度が存在すると、新しいContentsを教えたり、新しいMethodologyを導入する上での阻害要因になっていくのではと思った次第です。特に学修時間という計測しやすい指標のみで成立している現在の単位制度は、相当腰を据えて議論する必要があると考えています。

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