Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.436:2011年度 日経MJ 教育マーケティング情報【今年の総集編】

2011年12月28日 | 教育関連マーケティング情報
今回は年末なので、2011年に印象に残った記事を5つセレクトし、今年の教
育業界の動向を振り返ってみたいと思います。



■朝市場、目覚めた──朝活族に情報発信力、「お知恵拝借」企業も期待。
■2011/01/17, 日経MJ), 1ページ

【記事の概要】
朝活族を対象としたセミナーの紹介記事です。記事では東京・丸の内の市民
講座「丸の内朝大学」の温泉トラベルプランナー講座が紹介されていました。
朝大学に通う人のプロファイルは
 30代前半の未婚女性
 大手企業勤務か専門性の高い職業に就き
 年収600万~800万円
 環境意識が高い
 周囲の情報を使いこなす能力が高い
とのことです。
こうした朝大学には企業も関心を持っており、視察に訪れていた大手食品
メーカー担当者は、「30代前半の参加者は向学心が高く、コミュニティーの
中で情報を発信・提案する人たち。この層と連携して顧客開拓のアイデアを
練り上げたい」とコメントしていたそうです。

【本記事の持つ意味を深読み~企業内教育から企業外教育へ~】
この記事では「朝」という時間の活用について特集しておりましたが、朝だ
けでなく、夜の時間でも「企業外で学ぶ」人が増えたのが今年の傾向ではな
いかと考えております。
従来の「企業内教育」では、企業が社外セミナーを紹介したり、参加費を支
援しておりましたが、これからのスタイルは、ビジネスパーソン自らが参加
する学習会を探し、自腹で参加する「企業外教育」方式に変化しそうです。
長岡先生風に言うと「学びのサードプレイス」。来年以降もますます定着し
ていくでしょう。


■きちりHCM部竹内陵氏─学生アルバイトの就活支援
■2011/04/06, 日経MJ(流通新聞), 3ページ

【記事の概要】
和風ダイニングのきちりは3月から、学生アルバイトの就職活動の支援を始
めました。外食産業では慢性的なアルバイト不足に悩んでおり、時給アップ
以外のアルバイトの応募動機向上を考えた結果、開始したそうです。関西と
首都圏の店舗で営業時間前に始めた就職支援講座には毎回20人程度の学生
アルバイトが参加しているそうです。学生アルバイトからの反響は大きく、
今後は通年で講座を開催していく予定とのことです。
また今後は外食業界以外の就職支援を充実させるため、取引先企業を対象に
したアルバイトのインターンシップや合同会社説明会の準備も進めるとのこ
とです。

【本記事の持つ意味を深読み~教室内教育から学校外教育へ~】
朝活の記事はビジネスパーソンでしたが、学生の学びの場も教室以外に拡大
しつつあるようです。この記事以外にも、学生寮を運営する共立メンテナン
スが「学生寮」の中で就職セミナーや模擬面接、英会話教室を開催したり
(2011年12月14日7ページ)、マクドナルドでもきちりと同様にアルバイト
の就活支援をしたり(「マクドナルド、人材育成、世界目線で──豪モデル
に従業員定着策」2011年9月2日 15ページ)といった動きがあります。現時
点では就活支援という限られたテーマですが、今後「社会人基礎力」全般に
わたる学びが教室外で展開されていくかもしれません。それらが大学内の教
育とうまく連携していくと大学教育は今よりもっと面白くなりそうですね。

■学研HDと市進HDが提携、教材の共同開発も。
■2011/05/13, 日経MJ(流通新聞), 9ページ

■教育関連企業、異業種と連携、授業でiPad活用──栄光、ベネッセ。
■2011/05/16, 日経MJ(流通新聞), 9ページ

【記事の概要】
似た内容の記事のため、まとめてご報告します。
前者の記事では、学研と市進が授業の手法を相互に提供するほか、幼児~小
学校低学年を対象とした英語教育コンテンツなど教材の共同開発も目指すと
いった提携の内容が掲載されていました。
後者の記事では、栄光がリンクアンドモチベーションと高校生向けの新型塾
「モチベーションアカデミア(http://www.m-academia.co.jp/)」を開校す
る件と、ベネッセコーポレーションとソフトバンクグループによる東北被災
地の小・中学校向けの電子教育事業開始の件が掲載されていました。

【本記事の持つ意味を深読み~教育事業者間の提携が進む~】
少子化の影響等により、小中等教育の学習塾マーケットでは合従連衡の動き
が激しくなっており、毎月のように同業種間の提携の記事が掲載されました。
こうした提携の動きは社会人教育の分野でも進んでおり、「ベルリッツ、能
率協会と提携、ビジネス英語講座開発」(2011年6月8日 9ページ)という記
事もありました。
同じマーケットの教育事業者が提携したり、初中等教育の事業者と社会人教
育の事業者が提携したり、教室とeラーニングという異なるメディアの教育
事業者が協力したり、提携・連携のタイプは様々です。人口が減少する中、
業界内での合従連衡や統合は今後ますます進んでいくことと思われます。そ
してその波は近い将来大学にも押し寄せてくると思われます。

■パルコ、テナントに「接客大会」─売り場「チーム力」重視
■2011/08/31 日経MJ 6ページ

【記事の概要】
パルコでは自社ファッションビルに入居するテナントを対象に、接客の技
術・スキルを競う「接客大会」を始めました。その特徴は「チーム力」を
テーマにしている点です。一般的な「接客大会」では、各テナントが選抜し
た販売員による個人戦が多いのに対し、パルコはテナント単位のチーム戦で
す。さらに、勝ち進むごとにメンバーを入れ替えるとボーナス点を加算する
独特のシステムを採用することで、チーム力を重視しています。「売り場で
一人だけが輝くのではなく、全員が技術・スキルを高めて売り場全体を輝か
せる」のがその理由です。
ちなみに優秀賞はJR渋谷駅の広告看板で自社ブランドを大々的に宣伝でき
る権利と大盤振る舞い。また接客大会の後は「テナントごとのまとまりが出
て雰囲気が一段と良くなった」とのことです。

【本記事の持つ意味を深読み~コンテスト型人材育成施策~】
接客大会はルミネの「ルミネスト」が嚆矢となりますが、コンテストでの好
成績を目指し、人材育成と職場風土の活性化を図るのはなかなか良いアイデ
アですね。接客コンテストだけでなく営業スキル大会を営業所対抗で実施す
るなど様々な応用が考えられそうです。今まで「研修の企画・実施」が人材
育成部門の中心的な仕事でしたが、こうしたコンテストの企画のように「社
員が自ら学ぶ」きっかけを作ることに部門の役割を広げていく必要があるの
ではないかと感じた次第です。

■国会図書館が電子本を貸す日──有料でデータ開放
■2011/07/08, 日経MJ(流通新聞), 1ページ,

■育て電子書籍、民間団結、「長尾構想」に先手
■2011/07/25, 日経MJ(流通新聞), 1ページ,


【概要】
まず7月8日の記事から。1994年に『電子図書館』という本の中で現在の電子
書籍の世界を予言し、そして現在国会図書館(NDL)館長になった長尾氏
が、NDLの蔵書を電子書籍にし、それを電子書籍流通のプラットフォーム
にしてはどうかという「長尾構想」をぶち上げました。当然ではありますが、
出版業界各社からは、貸し出しの場合の利用料金が低すぎるなどと、反発が
広がっていきました。それらの反論に対し長尾氏は

・電子書籍の流通プラットフォームを一元化すれば利用者の利便性は向上
・米グーグルは出版社に対し有償で実施予定だが、NDLは無償で実施
・さらにNDLは電子化や保存のコストも負担する

等のメリットを語っています。貸し出しの方法としては、「同時期に1人に
だけ無料で貸す」のと「同時に何人かに有料で貸す」という2つの方法を検
討しているそうです。

こうした『長尾構想』に触発される形で、民間企業の動きがここに来て活性
化しています。それらについて書かれたのが7月25日の記事です。
まず「VHS対ベータ」の頃からの宿敵であったソニーとパナソニックが電
子書籍で提携を開始しました。さらにそこに楽天や紀伊国屋書店までもが協
力し、電子書籍を売る仕組み作りを行っています。

前述のNDLの動向だけでなく、AmazonやGoogleといった外資企業に市場を席
巻されてしまう恐れもあるわけで、急ピッチで提携協力の方向が進んでいる
ようです。その象徴が、電子書籍の規格の統一に向けた動きです。こちらも
長年のライバル、大日本印刷(DNP)と凸版印刷が中心となって発足した
「電子出版制作・流通協議会」が「電子書籍交換フォーマット」設定し、現
在複数の規格が存在する日本語コンテンツのフォーマットの変換を容易に行
えるよう仕組みを整備しつつあります。

【本記事の持つ意味を深読み~電子書籍を活用した学び~】
数十年後、2011年は大震災の年と同時に「電子書籍元年」として語られてい
るかもしれません。そう考えてもおかしくないぐらい今年は電子書籍に関す
る業界の動向が賑やかでした。引き金になったのは、スマートフォンの爆発
的な普及です。コガも最近ついにiPhone4Sを購入し、無料で購読できる産経
新聞を毎日読んでいます。自由自在に文字の大きさを変化させたり、読む場
所を指でサッと動かしたり、スマートフォンで文字を読むことに新鮮な驚き
と便利さを感じています。

この電子書籍の動きですが、今後5年間で最も成長すると考えられているコ
ンテンツジャンルが「医療・学問・語学・資格・就職・参考書・辞典」とい
った教育の分野なのです。特に通信教育の近辺で電子書籍を活用しようとす
る動きが活性化しそうな気配です。

しかし、電子化の反動でしょうか?「高級ノート、人生の宝箱──長く使っ
て、大切に残す」(2011年11月16日 20ページ)という記事によると、「モ
レスキン」など高級ノートや手帳を愛用する人も増えているそうです。
かく言うコガも、現在はiPhoneのスケジュール帳を使いこなすことができず、
高級ではありませんが紙の手帳を使っている有様です。いずれにせよデジタ
ル・アナログ双方のイイトコドリをし、個人学習のメディアとして電子書籍
が普通に活用される日も近いかもしれません。

以上5つの記事からあえて共通点を抽出するとしたら「境界の喪失」という
ことではないかと考えます。

企業の内と外
教室の内と外
教育とイベント
異なる事業者
デジタルとアナログ

これらの間にあった境界が曖昧になって混ざり合い、何か新しい世界が生ま
れつつある年、それが2011年だったのではないかと考えます。

来年はどんな一年になるのでしょうか?

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