Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.364:厚生労働省 平成21年度「能力開発基本調査」を読む

2010年06月20日 | 調査・アンケート
今週はネタがないなあ~と火曜日まで嘆いていたら、とある雑誌で平成21年度の「能力開発基本調査」(厚生労働省)が発表されていることを発見しました。早速ネットで調べ読んでみたところ、これが実に興味深い調査結果なのです。やった~~ネタ発見!

「平成21年度能力開発基本調査結果の概要」2010年3月23日


この調査は昨年平成21年10月1日~12月11日に調査を実施し、平成20年度の各企業での能力開発の実態を調査したものです。平成20年というのは9月にリーマンショックが勃発し、前期まで好景気に沸いていた経済が一瞬にして危機的状況になった年です。今回の調査ではそのあたりの影響が如実に表れています。今週号ではこの調査から5つほど興味深いデータをピックアップし考察してみたいと思います。なおページ番号は上記Webサイトからダウンロードできる「主な調査結果(PDF:285KB)」という冊子のページ番号です。
激減する教育訓練費(p.7)
企業が教育訓練に支出した費用の労働者一人当たり平均額(費用を支出している企業の平均額)は、OFF-JTでは1.3 万円、自己啓発支援は0.4 万円となっています。これを過去2年間の調査と比較すると、

Off-JT
平成19年度調査 2.2万円
平成20年度調査 2.5万円
平成21年度調査 1.3万円

自己啓発
平成19年度調査 0.7万円
平成20年度調査 0.8万円
平成21年度調査 0.4万円

となっており、上昇基調であった教育訓練投資が不況の影響から一転して下
落していることが分かります。とは言ってもこの結果はまだ序章に過ぎませ
ん。教育予算の決まる前年度末はリーマンショック前で好調な経済状況であ
ったにも関わらず、結果としてOff-JTも自己啓発も半減しているからです。
当初は前年並みに教育予算を組んでいたにも関わらず、未曾有の危機に直面
したため、下期の予算を有無を言わさずに凍結したのが21年度調査(つまり
平成20年)の状況だとすると、最初から不況真っ只中だった平成22年度調査
(つまり昨年平成21年の実態)の結果は相当深刻な事態に陥っていそうです。

選抜から全体へ(P.8)
正社員の中でどの範囲の労働者の能力を高める教育訓練を重視するかという
問いに対し、
・労働者全体を重視
・労働者全体を重視するに近い
・選抜した労働者を重視するに近い
・選抜した労働者を重視

の4点で尋ねたところ、ここ数年来の「選抜重視」傾向が、一転し「労働者
全体重視」の傾向に変化しました。

「労働者全体を重視」+「労働者全体を重視するに近い」を選択した率の合
計の経年変化をみてみると

平成17年度調査 61.8%
平成18年度調査 52.9%
平成20年度調査 40.4%
平成21年度調査 54.8%

となっており、20年から21年の変化が色濃く表れています。更に「労働者全
体を重視する」のみの回答比率では
平成17年度調査 14.8%
平成18年度調査 12.1%
平成20年度調査 10.7%
平成21年度調査 20.0%
とその傾向が顕著になっています。

以前本メルマガvol.355「2010年2月~3月中旬の日経MJの教育業界関連マー
ケティング情報」で、「今回のリーマンショックに端を発する不況下では、
現場力をUPするため『コアから周辺へ』教育の重点がシフトしつつあるので
はないか」と書いたことがあります。今回実際の数字を見てコガの読みも満
更間違いではなかったと認識した次第です(下記URL参照のこと)。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/e8ced0bc24d6223e6852535b24b4fe38

自己啓発を行った労働者の落ち込みが顕著(p.10)
正社員に対してOFF-JTを実施した企業の比率が
平成19年度調査 77.4%
平成20年度調査 77.0%
平成21年度調査 68.5%
と一気に下がりました。

ではその分の能力開発を自己啓発で補っているのかというとそうでもありま
せん。個人に対して行った調査によると、自己啓発を行った正社員の比率は
平成19年度調査 56.3%
平成20年度調査 58.1%
平成21年度調査 42.1%
とOFF-JT以上に下落しているのです。

不景気の時は資格取得等の自己啓発が伸びるとよく言われますが、今回はそ
んな余裕もない程の不況だったということでしょうか。本調査では自己啓発
における問題として、多くの人が「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」
や「費用がかかりすぎる」をあげています。つまり、
不況→人員削減→一人あたりの労働量UP→忙しい→勉強時間が取れない
という流れがあり、自己啓発をしない(できない)正社員が増えたのではな
いかとコガは考えております。

重視されるOJT?(p.9)
OFF-JTもだめ、自己啓発もだめ、となると残された能力開発手段として「OJ
T」に期待が高まるのは当然かもしれません。正社員に対する教育訓練の方
法にとして重視するのは「OJT」?それとも「OFF-JT」?と尋ねたところ、
「OJT」を重視する又はそれに近いとする企業割合は70.8%でした。その一方、
「OFF-JT」を重視する又はそれに近いとする企業割合は29.2%でした。

「やっぱり」と思ったのも束の間、物事はそう簡単ではありませんでした。
時系列でみると「OFF-JT」を重視する又はそれに近いとする企業の割合が
年々高まっているのです。
平成18年度調査 23.3%
平成20年度調査 25.6%
平成21年度調査 29.2%
さらに今後の傾向を尋ねたところ、「OFF-JT」を重視する又はそれに近いと
する企業割合は33.6%に達しています。

このように重視する傾向にあると回答しながら、現実には実施率が低下して
いるOFF-JT、今後の動向が気になるところです。

自発性が鍵
個人に対して行った調査の結果、正社員が希望している職業人生の実現に向
けた職業能力開発の方法として「自発的な能力向上のための取組みを行うこ
とが必要」が47.2%と最も高いという結果になりました。これに対し「会社
が提供する教育訓練プログラムに沿って能力向上を図る」と回答した比率は
わずか10.1%に留まっています。

会社に依存した能力開発に期待しないで自発的に勉強しなくてはいけないと
いう意識の高まりが見られるものの、現実には自己啓発を行った正社員の比
率が急激に下落しています。これは景気のせい、それとも?

まとめ
「OFF-JT」重視、「選抜教育から底上げ教育へ」等の方向性を掲げながらも、
不況の影響から能力開発施策の縮小とその方向性の転換を余儀なくされてし
まう企業の能力開発施策。そんな状況に対し、働く人々はある種「諦め」に
も似た意識を持ち始めたのではないかと今回の調査結果を読んで感じました。
ある意味これは正しいスタンスとコガは考えます。企業が丸抱えで実施して
きた人事・能力施策から離れ、個人はもっと主体的に自己啓発をデザインし
ていくべきと考えるからです。

しかしこの傾向が進行すると、本学やライバルのJMAMさんが踏襲してきたB2
B、あるいはB2B2Eの企業内教育事業モデルは縮小し、新たな事業モデルの探
索が必要になるのでしょうね。厳しい世の中だなあ。

vol.360:大学における人事評価制度(事務職員・教員)実態調査報告書

2010年05月24日 | 調査・アンケート
大学を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。そのような中大学の「人」を巡る問題がクローズアップされ、教職員の人材育成と評価の仕組みを再構築する大学が増えてきています。

産業能率大学では2006年に「大学職員人事制度実態調査」を実施、大学職員の人事評価や人材育成の仕組みの現状を明らかにしました。今回2009年の調査では、職員に加え「教員」に対する人事考課制度の導入状況も調べました。
今週はそのサマリーとコガのコメントを紹介したいと思います。なお調査報告書(冊子)をご希望の方は、産業能率大学総合研究所東日本事業部(電話:03-5200-1721)にお問い合わせの程宜しくお願い申し上げます。

産業能率大学 調査報告書一覧:大学における人事考課制度実態調査



調査の概要

調査対象:全国の国公立・私立大学 計699法人に調査票を郵送
調査機関:平成21年7月~8月
回収状況:266法人(回収率32.3%)
回収内訳:国立37法人、効率31法人、私立158法人


大学職員に対する人事考課制度についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
・大学職員を対象とした人事考課制度を導入していると回答した大学は62.4%となっており、前回調査の40.7%を大きく上回った。
・人事考課制度の導入目的として「人材育成」と回答した大学は80.1%となっており、前回調査の71.3%を大きく上回った。
・人事考課制度における課題については、「適切な目標設定が難しい」「フィードバックが適切に行われていない」等、具体的な運用時の課題を挙げる大学が増加している。
・現在人事考課で重視する点として、最も多かった回答は「仕事に対する取り組み姿勢・態度」(72.3%)であったが、2006年調査では86.2%であったので、その比率的は減ってきている。
・一方、人事考課で今後重視する項目としては「成果創出プロセスにおける行動、発揮した能力」が一位、「業務上、結果として現れた成果」が二位となっており、態度より行動や成果を重視する傾向が高まっている。

【コメント】
大学職員を対象とした人事考課制度が導入段階から運用段階に移行し、より現実的な課題を挙げる大学が増えてきたようです。それらの解決には「管理者の考課能力の向上」が必要なことは言うまでもありませんが。しかし「目標設定」や「目標自体のあり方」に課題があると回答する大学が多いことから、人事考課制度導入時に人材マネジメントのあり方について根本的な議論がなされなかったことによる歪みが課題の根底にあると考えます。

職員に対する人材育成についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
職員の能力開発・人材育成についてどのように実施しているかを尋ねたところ、計画的な育成制度(研修制度)(51.3%)、各職場におけるOJT(47.8%)が一位と二位の回答結果となっており、前回調査結果はあまり変化はありませんでした。

また今回あらたに「職員一人あたりの自己啓発援助の年間補助予算額」を尋ねたところ、

9,999円以下=28.3%
~19,999円=13.1%
~29,999円=7.6%
~39,999円=4.1%
~49,999円=1.4%
50,000円以上=13.1%
その他   =32.4%
という結果になりました。

【コメント】
自己啓発支援制度については約3割の大学が導入しているという回答結果でした。しかし、「制度があること」と「制度が活用されていること」の間には大きな乖離があります。コガが企業内教育の世界にいた頃の経験では、こうした支援制度を使う社員の比率は全社員の3~5%に留まり、人材育成部門が「学習して欲しいと思う社員」はそこに含まれず、企業の意図する人材開発支援が機能していないケースを数多くみてきました。こうした傾向は大学職員の人材育成でも見られるものと推察しています。

教員に対する人事考課制度についての調査結果要約
【主な調査結果概要】
・教員に対する人事考課制度を導入している大学は39.8%で、「導入を検討中」の22.1%と合わせると6割が導入に前向きであった。

・人事考課制度の導入目的では
「教員の質の向上」(77.9%)
「研究業績の向上」(65.0%)
「教育方法の改善・向上」(62.1%)
の順となった。

・教員の1次評価を行うのは
「学部長」(39.3%)
「学科長、コース主任」(20.0%)
「学長」(13.6%)
の順となった。

・人事考課制度における、量的評価項目として現在実施しているものは、
「学内委員会活動」(62.9%)
「発表論文数」(57.1%)
「科研費の取得(50.0%)
「担当コマ数(45.0%)
の順となった。

・人事考課制度における、質的評価項目として現在実施しているものは
「授業方法の改善」(54.3%)
「FDの促進」(41.4%)
「テキスト・教材の開発、改善」(29.2%)
「シラバスの改善」(25.7%)
「新たな授業科目・教育プログラムの改善」(18.6%)
の順となった。

・教員に対する人事考課を実施していない大学に対し理由を尋ねたところ
「制度・仕組みを構築するのが難しい」(54.9%)
「評価基準そのものがない、または曖昧」(53.5%)
「評価者を決めるのが難しい」(45.1%)
「組織風土に合わない」(33.8%)
「教員からの反発」(29.6%)
の順となった。

【コメント】
今回の調査で一番興味深かったのが、人事考課制度における「量的評価項目」として「学内委員会活動」が最も多くの大学で設定されている点です。
一般に大学教員の役割は「教育、研究、社会貢献、管理運営」の4つとされています。「どの役割が一番重要か」を教員に問うと「教育」か「研究」のどちらかで意見が分かれる筈です。しかし「どの役割が一番重要でないか」を問うと、「管理運営」を選ぶ教員がダントツで多いと考えます。「学内委員会活動」はこの管理運営の役割に入るのですが、この一番重要度の低いと見なされている活動がどうして最も多くの大学で評価項目として設定されているのでしょうか?

「学内委員会活動」は、教員から見れば「面倒」な仕事以外の何物でもないものの、大学組織にとってはとても重要な仕事です。その活動に多くの時間を割いている教員に対しては、他の教員から「そんなに委員会活動にコミットしているのであれば、せめて人事考課では評価してあげなくては」というコンセンサスが得られやすく、その結果多くの大学で量的評価項目に加わっているのではないかとコガは推察しています。

しかし、量的評価の項目の中に「教育の質」に関する活動が含まれていないのが個人的にはかなり気になります。また、本メルマガでは紹介しませんが、この量的・質的評価項目については国公立と私立で設定されている項目の順位がかなり異なっており、非常に興味深い調査結果になっています。詳細については、ぜひ報告書冊子をお取り寄せいただきご確認いただければ幸いです。

「大学における人事評価制度実態調査報告書」(冊子)のお問い合わせ先
産業能率大学総合研究所東日本事業部(電話:03-5200-1721)

vol.358:大学教育に関する職業人調査─第1次報告書・・・その3

2010年05月09日 | 調査・アンケート
東京大学大学経営・政策研究センターの「大学教育に関する職業人調査─第1次報告書」について、今週は第二部の「大卒社員編編」の中から、コガが興味を持った部分を中心にお伝えいたします。今回は、「社会人大学院」と「大学時代」に関する質問の中からピックアップしてお伝えしたいと思います。なお報告書は下記のWebサイトよりダウンロード可能です。
http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/

■社会人大学院に関する質問
◆◆半分の人が大学院に興味を持っている!◆◆
社会人を受け入れる『修士課程』の大学院に対する考えを尋ねたところ、

機会があれば修学したい・・・14.8%
関心はある・・・33.7%
興味はない・・・50.0%
その他・・・1.4%
という回答結果となりました(p.160)。

【コメント】
平成21年度の学校基本調査によると、日本の大学院生数は263,989人。そのうち社会人大学院生の数は約2割の54,642人です。教職大学院等の社会人向けの学位課程が新設されているにもかかわらず、修士課程、博士課程、専門職学位とも入学者数は、ここ数年横ばいの状態が続いています。

しかし驚くことに、この調査では「機会があれば修学したい」が14.8%、「関心がある」を合計すると半分近くの人が社会人大学院に関心を寄せているのです。

さて視点を変えて、日本の労働力人口は何人ぐらいかご存じでしょうか?
総務省の調べによると6,601万人もいるのです。
この調査では、全従業員に対する大学卒の割合の平均が26.3%とあるので、

6,601万人×0.263=1,736万人

の大卒労働力人口がいると推定されます。つまり、半数の人が関心を持っているにも関わらず、現実には

54,642人/1,736万人=0.3%

の人しか社会人大学院に進学していないのです。マーケティング的に言うと、AIDAモデルのDまで到達している人が1,736万人の14.8%、=256万人もいるのに、そのうち5万人しか最後のA=購買活動(ACTION)に辿り着いていないという、極めてもったいない状況にあると言えます。

◆◆阻害要因の一位は費用?それとも時間?◆◆
では、大学院に入学するのに何が大きな障害になっているのでしょうか。下記の5つの項目に対し、「決定的な障害」と回答した率は、

自分の要求に適合した教育課程がない・・・14.0%
勤務時間が長くて十分な時間がない・・・54.1%
職場の理解が得られない・・・31.8%
費用が高すぎる・・・52.4%
処遇の面で評価されない・・・23.7%
という回答結果となりました(p.171)。

【コメント】
大学院に限らず、昔から社会人の自己啓発の阻害要因は
「金がない」
「時間がない」
「(学習に関する)情報がない」
の3つが定番でした。今回の調査でも「費用」と「時間」に関する項目が阻害要因として上位にランクされています。
しかし、社会人大学院に限らず、何か新しいことをやろうとすれば必ず「費用」と「時間」は阻害要因になるものです。それでも新しい事にチャレンジするのは、それに取り組む事でのメリットが阻害要因のマイナスを上回ると思えるからです。では、社会人大学院に入学することのメリットを大卒社員の人達はどう考えているのでしょうか?

◆◆キャリアチェンジのためと考える人は少ない◆◆
大学院に入学する目的を6項目掲げ、それぞれについて重要度を尋ねたところ、「非常に重要」と回答した人の率は、

現在の仕事を支える広い視野・・・38.2%
先端的な専門知識・・・35.1%
現在の職務に直接必要な知識・・・34.1%
現在とは違う職場・仕事につくための準備・・・20.4%
人的なネットワーク・・・27.1%
という回答結果となりました(p.165)。

【コメント】
意外だったのは「人的なネットワーク」という項目がやや低かった点です。確かに最近は社外ネットワークを作るためだけであれば様々な勉強会やカフェなどが増えているので、そういった場所に参加した方が安いし負荷も少ないからかもしれません。しかし社会人大学院を修了した実感で言わせてもらうと、修論を書き終える辛さ」を共に味わった同志を持つというところに大きな価値があるようにも思えます。
また、「現在とは違う職場・仕事につくための準備」を重要視する人が少ないのは、日本の産業界における修士という学位の価値の低さを物語っているようですね。アメリカだったらこの項目が一番になりそうです。

■まとめ
関心の高さに比べて、実際に進学する人の少ない社会人大学院。コガとしては阻害要因を取り除くより、「進学するメリット」をもっと具体的に打ちだしていくことが重要と考えます。その際、従来の資格ビジネスのように「転職に有利」や「高収入への一歩」といった即効性のあるメリットを打ち出すのでなく、「現在の仕事を支える広い視野」を身につけるためにどんなカリキュラムを用意しているのかを魅力的にアピールすることが勝負の鍵と言えそうです。

■大学時代に関する質問
さて、最後に大学時代の授業等について尋ねたのが以下の質問です。

◆◆意味のあったと思う授業は◆◆
まず、大学時代の授業で意味があったと思うことを挙げてもらったところ

確実に学問の基礎を教えてくれた・・・47.3%
社会や現実との関わりから学問の意義を教えてくれた・・・41.6%
自分自身や将来やりたい事を考えるきっかけになった・・・36.7%
将来に役立つ実践的な知識や技能を教えてくれた・・・33.1%
教え方がうまかった・・・14.1%
資格の取得に役立つ情報やテクニックを教えてくれた・・・13.7%
最先端の研究成果を披露してくれた・・・12.1%
という回答結果となりました(p.184)。

【コメント】
資格取得に関するテクニック論等でなく、基礎的な部分をしっかり教えてくれる授業に意味を見いだす。実際に社会に出てからこうした回答をしていただけるというのは大学教員にとって何より嬉しい回答結果です。しかし、今回の調査で率の低かった「教え方がうまかった」「資格の取得に役立つ情報やテクックを教えてくれた」「最先端の研究成果を披露してくれた」等は、そもそもそういった授業を受けた人が少なかったため低くなったとも解釈できそうなので喜んでばかりはいられませんね。

◆◆出身大学の教育体制に対する評価◆◆
卒業した大学の教育体制に対して、『学生の教育に対する配慮』『学術的な水準』『就職指導、実習・インターンシップの機会』『勉学のための施設』、『学生生活のための環境』5つの側面を評価してもらっています。調査報告書ではそれを、国立、公立、私立、の設置形態ごとに集計しているのですが、設置形態でやや差のついた結果がありましたので紹介します。

『学術的な水準』について尋ね「大変満足」と回答した人の率は

国立・・・18.8%
公立・・・15.3%
私立・・・10.6%

『勉学のための施設』について尋ね「大変満足」と回答した人の率は

国立・・・15.0%
公立・・・18.3%
私立・・・19.3%

『就職指導、実習・インターンシップの機会』について尋ね「大変満足」と
回答した人の率は

国立・・・6.4%
公立・・・8.0%
私立・・・9.5%

【コメント】
ある程度予想できる結果となりました。しかし、いずれの設置形態においても『就職指導、実習・インターンシップの機会』に関しては満足度の度合いは低く、この項目だけ「少し不満」と「不満」を合計した率が50%を超えていました。就職状況が厳しくなる中、キャリア支援に関するニーズが高まっていることを考慮すると、この項目に対する今後の評価の推移が気になるところです。

◆◆大学時代の経験で重要なのは「友人との交流」◆◆
大学時代の勉強や生活について10の項目を掲げ、それぞれが現在の仕事や生活にどの程度重要であるかを尋ねたところ、「とても重要」と回答した人の率は

友人、先輩、後輩との交流・・・48.7%
アルバイト・・・30.7%
読書・・・38.4%
高校卒業時の学力・・・32.9%
クラブ・サークル活動・・・25.9%
語学の学習・・・23.7%
授業に関連した学習・・・18.2%
研究室での経験・・・16.7%
教員との交流・・・15.1%
卒業論文・卒業研究・・・12.0%
となっています(p.197-98)

【コメント】
「授業に関連した学習」や「卒業論文」など学業に関連した項目が軒並み20%以下というのが、大学教員としてはかなりショックでした。それにしても先週号でお伝えしたように仕事では8割の人が全く使用する機会がないと回答している「語学」が、学業に関する項目のうち一番高い23.7%だったのがやや不思議な点ではあります。もっとも仕事で使わなくとも、海外旅行等私生活では必要な場面が増えてますからね。

◆◆大学は職業にすぐに役立つ教育をすべきなのか?◆◆
最後に『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』という点について、自分が経験した大学教育に対する評価と将来のあり方について尋ねた結果を紹介したいと思います。

まず回答者の経験として、大学は『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』ことに成功しているかどうか尋ねたところ、

成功している・・・4.5%
ある程度成功している・・・41.4%
成功していない・・・52.9%
無回答・・・1.2%

という結果となりました。一方、大学の将来のあり方として『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』ことが重要かどうかを尋ねたところ、

極めて重要・・・39.0%
ある程度重要・・・48.0%
重要ではない・・・10.8%
無回答・・・2.2%

【コメント】
この設問では他にも、『専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる』『専門にこだわらない、幅広い教育を行う』『専門分野の理論を深く教育する』という3つの項目についての自らの経験と将来について尋ねています。4つの項目の中で、自らの体験上、最も成功していないと考える人が最も多いのが、『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』でした。一方で『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』を将来「重要でない」と回答した人の率=10.8%は、4つの項目の中で最も高い比率になっています。大学教育に対し、職業に役立つ教育を期待していない人が比較的多いようです。

ちなみに将来のあり方で極めて重要と回答した率が一番高かった項目は『専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる』でした。

■おわりに
さて、3回に渡って一つの調査報告書を紹介して参りましたがいかがでしたでしょうか?コガもまだまだ読み切れていない部分が多く、粗いコメントばかりになってしまい申し訳なかったのですが、少しでも多くの方がこの調査に関心を持っていただき、実際の報告書を読んでいただければ幸いです。

vol.357:大学教育に関する職業人調査─第1次報告書・・・その2

2010年04月18日 | 調査・アンケート
東京大学大学経営・政策研究センターの「大学教育に関する職業人調査─第1次報告書」。今週は第二部の「大卒社員編編」について、コガが興味を抱いた部分を中心にお伝えいたします。報告書は下記のWebサイトよりダウンロード可能です。
http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/
また前週お伝えした「調査の概要」と「人事担当者編」につきましては、下
記のバックナンバーをご覧下さい。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/407c708b41adc91f30be613404029675

■「大卒社員編回答者の属性」
この調査は全国の事業所をランダムに抽出・調査票を送付し、1事業所あた
り「人事担当者1 名」+「5 名の大卒社員(人事担当者からランダムに配布)」に協力をお願いする方法で調査を実施しています。大卒社員の有効回収数は25,203票となっています。

回答した大卒社員に就職した年を尋ねたところ、約8割が1990年以降に入職したと回答、回答者の74.2%が男性でした。また採用の枠については55.7%が新卒採用、37.5%が中途採用、残りがその他となっています。

現在の勤務先での職種は
・一般事務(34.2%)
・営業・販売職(17.6%)
・サービス職(7.1%)
・技術職(17.4%)
・専門職(14.8%)
・その他、無回答(8.9%)
となっています。
その他の回答者の属性については、報告書の1章と2章をご覧下さい。

さて、大卒社員に関する調査報告書のボリュームは前回の人事担当者に関する報告の3倍以上もあります。そこで今回は、「採用」「現在の仕事に関する質問」「仕事の必要な能力と学習」の3つに関する質問の中からピックアップしてお伝えしたいと思います。

■採用に関する質問
◆◆卒業した大学は評価されるが成績は評価されない◆◆
現在の職場に採用された際、下記の5つの項目のうち何が評価されたかを尋ねた結果、「非常に評価された」と「評価された」と回答した率の合計は、

・学部・大学院卒業時の専門分野・・・46.6%
・卒業した大学・・・42.8%
・人的なネットワーク・・・37.4%、
・大学での成績・・・29.5%
・サークルなどでの実績・・・19.8%
となっています(p.120)。

【コメント】
「学部・大学院卒業時の専門分野」と「卒業した大学」というのは、大学入学前に決定する事項です。とすると、採用される際に最も評価されるのは高校までの学力や進路に関する希望ということになってしまいます。アメリカのように大学生の転校が多かったり、レイトスペシャリゼーションといって、入学後数年してから専攻を決定するのであれば、上記の項目を採用時に重視するのも理解できます。しかし、入学時に学部が決定し、転校や転部が少ない日本においてこれら項目を大学の学業やサークルの実績以上に重視するのは、大学教育への期待の低さを物語っていると言えそうです。

しかし、W.spenceの「シグナリング理論」そのまんまの調査結果ですね。

◆◆現在の仕事を選んだ理由は「たまたま」である◆◆
現在の仕事を選ぶ際、下記の4つの項目のうち何を重視したかを尋ねた結果、「よくあてはまる」と「ある程度あてはまる」と回答した率の合計は、

・大学入学以前から興味をもっていた・・・・・・27.7%
・大学在学中にだんだんと興味をもった・・・・・33.3%
・就職運動を通じて、はじめて興味をもった・・・51.1%
・ほかの仕事でも構わない・・・・・・・・・・・57.7%
となっています(p.126)。

【コメント】
「ほかの仕事でも構わない」が57.7%と一番多いのは、今週号のオープニングで紹介した内田先生のコラムの正しさを証明しているのかなと思ってしまいました。きちんと目的意識を持って入社している人よりも実際は「なんでも構わなかったのだけれども、たまたま今の会社になった」等の理由から入社する人が多いのかもしれません。しかしそう考えると、現在コガが非常に苦労している学生のキャリア支援や就職対策にどれだけの意味あるのだろうかと考えてしまいました。

■現在の仕事に関する質問
◆◆仕事で英語を常に使っている人は全体の2~3%に過ぎない◆◆
仕事上での英語の使用状況を『情報の収集』『専門的な文書、論文などの吸
収』『顧客、組織内での対応』の3つの場面について尋ねたところ、「ほと
んど使わないと回答した率は

・情報の収集・・・81.1%
・専門的な文書、論文などの吸収・・・82.8%
・顧客、組織内での対応・・・85.2
という結果となりました。ちなみに「常時活用する」と回答した人の率は3つの場面ともに2~3%に留まる結果となっています(p.97)。

【コメント】
コガが大学生の頃「これからの国際化社会を生き抜くためには英語は必須だ」という事が言われていました。「国際化」という言葉が「グローバル社会」に置き換わったものの、現在も英語の重要性に異を唱える人は少ないと思われます。しかし、コガが大学を卒業してから四半世紀が経ち、社会や経済のグローバル化が進展したにもかかわらず、仕事で常に英語を使っている人は2~3%に過ぎず、100人中80人以上は全く使っていないのです。そんなに使用頻度の低い「英語」というスキルを大学教育の中で必須科目として教え続けていくことに意味があるのでしょうか?むしろ対人能力や問題解決能力等のより必要性の高いソフト・スキルの育成に力を入れ、英語については、卒業後「必要に迫られた時」にeラーニング等で学べるような仕組みを国として整備しておく方がより効率的だと思うのですが、皆さんはどうお考えになりますか。

◆◆6割の大卒社員が学生時代の専門知識を生かした仕事をしていない◆◆
◆◆一方で、7割が現在の仕事を自分の能力を生かすうえで満足と回答◆◆

これまでの職務経験について『大学・大学院時代の専門知識・技能を生かしてきた』いう項目に対し「よくあてはまる」と回答した人は9.4%に留まっています。「ある程度あてはまる」を入れた肯定的な意見でも39.2%です。

その一方で、現在の仕事が『自分の能力を生かすうえで』満足かと尋ねたところ、「非常に満足」と回答した人は10.3%「満足」と回答した人は58.0%で、全体の7割近くが満足しています。これは『処遇上の満足度』『生活の質のうえでの満足度』といった他の項目が、「非常に満足」と「満足」を合わせてもそれぞれ50.6%、49.1%と5割程度の満足度に留まっていることを考慮するとかなり高い満足度と言えそうです(p.105)。

【コメント】
6割の人が「大学で身につけた専門知識や技能」を活かせない仕事をしているにも関わらず、「自分の能力を生かす上で仕事には満足している」という結果から、「大学教育以外で培ってきた能力を仕事で発揮している」という状況が推察されます。先ほどの英語に関してもそうですが、この調査報告書の結果からは「大学教育で学んだ事は仕事に活かせないし、そもそもあまり期待していない」という事実が浮き彫りになってきたように思えてなりません。そして、この事実に対して大学教員として真剣にに目を向けないとまずいと感じた次第です。

■仕事の必要な能力と学習
では、現在仕事に必要な能力は一体どういうものであり、それをどのように獲得しているかを調べたのが下記の項目です。

◆◆一番はコミュニケーション力◆◆
下記の7つの項目について、現在の仕事を行う上で「とても必要」な能力であると回答した率は、

・仕事に関係する専門的・理論的知識・・・62.6%
・特定の学問分野の中心となる考え方・知識・・・28.6%
・一般的な教養・・・45.5%
・統計や数学的推論などの数量的能力・・・21.3%
・わかりやすい文章を書く・・・48.2%
・人とのコミュニケーション・・・79.0%
・論理的な考え方・・・44.8%
となっています(p.144)。
【コメント】
『IDE現代の高等教育』という雑誌の 2010年4月号で、コガの桜美林時代の恩師である潮木守一先生が「第三段階教育の登場と大学教員の変貌」という大変興味深い論文を執筆しています。潮木先生は
「現代の労働の主流になったのは、金融商品をはじめ各種製品を販売する販売職であり、『笑顔労働』、『感情労働』だという。これらの職種に共通する特徴は、笑顔を絶やさず、顧客の反応を敏感に察知しながら、弁舌さわやかに説得力をもって商品説明ができる能力である」そして、「朝から晩まで図書館の片隅で、しかめっ面をしながら博士論文をまとめてきた人間に、どうしたら感じよく笑顔で顧客に対面するスキルを伝えることができるのだろうか。それはキャリア・モデルとしては、悲劇的な不適合であろう」
と、社会が求める教育ニーズとそれを提供する大学教員の資質のミスマッチを鋭く論じています。結局突き詰めていくと、ここが大学教育における最大のネックなのではないかとコガも感じております。
「人とのコミュニケーション力」を上手に教えることは従来の大学カリキュラムの中では決して中心的なテーマではなかった筈です。強いて言えば専門科目やゼミを実施するプロセスで副次的に培われる能力といった認識がおそらく近いと考えます。
では、今後社会のニーズに応えるため、そうした能力の開発をどう推進していけば良いのでしょうか?

◆◆仕事に関連した学習の方法と費用◆◆
では、そうした「大学」では学ぶことの難しい(そもそも大学で学ぶとは考えていない)能力を、大卒社員の方はどうやって学んでいるのでしょうか。それについての質問が下記となっています(pp.152-159)。

(1)学習方法
「書籍などを読んだ」が68.1%で断然多く、次いで「各種講習会、セミナーに参加」(45.6%)、「勤務先の主催する講習等」(37.5%)、「通信教育」(11.6%)という順番になっています。ちなみに「大学院、専門職大学院に入学」はわずか0.4%でした。(P.152)

(2)学習内容
ではどんな事を学んでいるのか、その学習内容を尋ねたところ、「仕事に必要な専門的知識」が75.8%で圧倒的に多く、次いで「幅広い知識・技能」(37.3%)、「資格獲得のための準備」(29.3%)といった順番になっています。ちなみに「外国語能力」は4.6%とあまり多くありません。

(3)学習にかける費用
この1年間に行った仕事関連の学習に要した1か月の平均費用について尋ねたところ、「1万円未満」が63.0%、次いで「1~2万円台」が16.3%、この2つ、つまり3万円未満が全体のほぼ8割を占めています。

【コメント】
学習方法の中に「インターネット」というのがないのがやや気になりました。おそらくここでの「学習」というのは、まとまった知識を体系的に学ぶフォーマルな学習形態の事を指しており、仕事で分からない事があった時にネットで検索して知識獲得するといった学習方法はここでの「仕事関連の学習の方法」には含まれないものと考えられます。コガの実感からすると、そういったインフォーマルな学習方法がここ数年最も増加していると思うのですが、皆さんはどうお感じになりましたか?

さて、やや長くなりましたが、今週はこのぐらいにして、次回は大学時代の学びに関する設問について、まとめて行きたいと思います。

vol.356:大学教育に関する職業人調査─第1次報告書・・・その1

2010年04月10日 | 調査・アンケート
2010年3月30日の読売新聞(関西版)によりますと、2011年の春から全国の大学、短大に、キャリア教育が義務づけられることになったそうです。確かに、大学の就職内定率が就職氷河期以来の落ち込みを見せる中、大学として「就業力」を向上するための支援を充実させていくことは喫緊の課題といえます。

しかし、ここで冷静に考えなくてはいけないのは、大卒の学生は入社した企業で実際にはどんな仕事を任され、会社からはどういう能力を期待されているのかを「憶測」でなく「事実」に基づいて考えてみることではないでしょうか。今回ご紹介する「大学教育に関する職業人調査─第1次報告書」(東京大学大学経営・政策研究センター、2010年2月)は、現在企業が大学教育に求めるものについて、人事担当者と大卒社員の二つの側面から調査した大変貴重な資料とっています。全体は278ページというかなりのボリュームで、「人事担当者編」と「大卒社員編」の二つで構成されています。

今回は調査の概要と、第一部の「人事担当者編」について、コガが興味を抱いた部分を中心にお伝えいたします。皆さんも興味を持たれましたらぜひ下記のURLよりダウンロードしてみてください。
http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/100312shokugyojin.pdf

◆◆◆調査の概要◆◆◆
この調査の特筆すべき点は2つあります。第一は、単に人事担当者へのアンケートに終わらせず、実際に現場で働く大卒社員にもアンケートを実施している点です。具体的には、全国の事業所をランダムに抽出、調査票を送付し、1事業所あたり「人事担当者1 名」+「5 名の大学卒業者(人事担当者からランダムに配布)」に協力をお願いする方法で調査を実施しています。有効回収数は人事担当で8,777票、大卒社員25,203票となっています。なお調査実施手順の詳細については資料のpp.2-7を参照願います。

第二は、今回調査対象とした事業所の従業者規模を30人以上1,000人以下の民営事業所としたところです。本報告書の「事業所」定義は

物やサービスの生産活動が行われる基本的単位であり、工場、営業所、本社などを指す統計上の概念のことである。たとえば、A 企業を想定した場合、a 東京本社、b 名古屋支店、c 広島工場、d 福岡支店、といった個々の生産単位である、a~d が事業所に相当するものである。

となっています。こうした事業所単位の調査を実施することにより、
・大企業の本社人事部に聞いただけでは分からない現場の実態
・今まで大学生が行くことの少なかった小規模事業所での状況
の2点を明らかにしています。特に小規模事業所での状況については、大学進学率が5割を超える昨今、学生の就職先の選択肢としてそれらを視野に入れることが必須となりつつあるため、そうした企業での大学教育に求めるニーズを把握する上で、この調査の意義は高いと言えます。

ちなみに、回答事業所について本所・支所の別をみると、「単独事業所(この事業所のみ)」が30.7%、「本所・本店」が32.4%、「支所・支店、営業所、工場」が32.0%で、ほぼ均等に分かれており、回答事業所の常用雇用者員数は99人以下が全体の7割強を占めるとのことです。

◆◆◆第一部「人事担当者編」◆◆◆
■全従業員に占める大卒者の割合は思ったより少ない
回答事業所の全従業員に対する大卒者の割合をみると、10%未満が35.7%で最も多く、大卒者の全従業員に対する割合の平均は26.3%でした。また20歳台の従業員に対する大卒者の割合でみても、その平均は29.3%と3割以下となっています。

ここ3年間で大学学部卒の従業員の増減はどうなのかというと、「変わらない」が40.2%で最も多いものの、「増えた」が24.1%で「減った」の9.4%を上回っており、増加傾向にはあるようです。また、長期的な人事政策としての考えを聞いたところ「減らしたい」と回答した事業所が2.2%なのに対し、30.1%の会社が大学学部卒社員を増やしたいと回答しています。ただ気がかりなことに、この質問に対しても6割の会社が「変わらない」と回答しています。

【コメント】
大学進学率が5割を超えたと言ってもそれは最近の話であり、日本の多くの職場では「大卒者」は少数派なのだという事実に改めて気づかされました。また最近の動向および今後の長期的な展望については「増えた・増やしたい」が減った・減らしたい」よりは多いものの、「変わらない」という企業の比率が多い点が気がかりです。今後、大卒の若者が増加する中、小規模の企業や事業所が彼らを採用しない限り、たとえ景気が上向きに転じたとしても慢性的に続く可能性が高いからです。

■成長の可能性ってなんだろう?
さて、少ないながらも徐々に採用が増えている大卒社員ですが、大卒採用に際しての重視する点について尋ねたところ、「非常に重視」と「重視」に回答した項目の比率は下記のようになりました(カッコ内は非常に重視すると回答した比率)。

1.学部の専門分野・・・57.7%(17.6%)
2.大学での成績・・・44.6%(2.2%)
3.卒業した大学・・・29.3%(1.7%)
4.サークルなどでの実績・・・43.2%(3.9%)
5.成長の可能性・・・84.3%(48.2%)

【コメント】
「成長の可能性」が突出して多いですね。他の項目は具体的で客観的に示すことができますが、「成長の可能性」だけは具体的に示すことができず、その評価も主観的にならざるをえない項目です。エントリーシートや面談のやりとりの中から「将来伸びそうだ」といった判断をするのだと思いますが、その判断の拠り所となるのは、結局1~4の項目ではないでしょうか。過去や現在を充実して生きてきた人間でないと、将来に成長の可能性を見いだすことは不可能だからです。

しかしこの「成長の可能性」というのは、コガもAO面接を担当する際、常に悩んでいる項目の一つです。伸びしろの大きそうな学生さんに入学してもらいたいという切実な願いがあるのですが、いくら過去の実績や面接時の人柄から推し量ったとしても、予知能力でもない限り彼や彼女の未来は分からないからです。

もし「ここを見れば一発で成長の可能性がわかりますよ」というコツをご存じの方がいらっしゃいましたら、こっそり教えてくださいネ。

■読み書き能力以外は評価されない大卒採用者
ここ5年ほどの間に採用された大卒者に対する評価として

・対人関係能力
・読み書き能力
・外国語の能力
・論理性
・人格的な成熟度

の5つの項目について「とても高い」と「やや高い」「やや不足」「非常に不足」「無回答」の5段階で尋ねました。「とても高い」「やや高い」とを合わせた比率=Aと、「やや不足」「非常に不足」とを合わせた比率=Bを比較してみたところ、以下のような結果となりました(左の数字がA、右の数字がBです)。

・対人関係能力  39.0% < 46.0%
・読み書き能力  44.6% > 41.2%
・外国語の能力  26.5% < 55.5%
・論理性     42.1% < 43.4%
・人格的な成熟度 30.3% < 55.5%

【コメント】
なんと読み書き能力以外すべての評価でBの方が上回っています。特に「外国語の能力」と「人格的な成熟度」では大差でBが上回っており、これは大学生教員として反省せねばならない結果となっています。

ただし外国語の能力に関しては評価が低いものの、「大卒社員編」で興味深い調査結果がでています。それについては次週お伝えいたします。

■現在の大学教育に対する評価と将来のあり方
まずこの設問では現在の大学教育に対する評価を、

・専門分野の理論を深く教育する
・専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる
・職業にすぐに役立つ教育をおこなう
・専門に拘らない、幅広い教育を行う

の4つの項目について、「成功している」「ある程度成功している」「成功していない」「無回答」の4段階で尋ねています。

「成功していない」と回答した率でみてみると、
・専門分野の理論を深く教育する(24.0%)
・専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる(27.8%)
・専門に拘らない、幅広い教育を行う(43.1%)
・職業にすぐに役立つ教育をおこなう(59.4%)

となっており、特に『職業にすぐに役立つ教育をおこなう』(59.4%)について社会は厳しい見方をしていることが窺えます。

次に、同じ4項目に関しての大学教育の将来のあり方について、「極めて重要」「ある程度重要」「重要でない」「無回答」の4段階で尋ねています。その結果「極めて重要」と回答したのは、

(1)専門分野の理論を深く教育する(36.3%)
(2)専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる(52.6%)
(3)職業にすぐに役立つ教育をおこなう(32.2%)
(4)専門に拘らない、幅広い教育を行う(31.4%)

となっております。

【コメント】
現在の成功と将来のあり方の組合せには微妙なズレがあるようですね。一番気になるのは「職業にすぐに役立つ教育をおこなう」という項目です。現状は「成功していない」と評価する回答が多いものの、将来の大学のあり方として「極めて重要」と考える回答はそれほど多くありません。即戦力となる人材は求めていても、その育成を大学には期待していないということなのでしょうか?

一方、将来のあり方で極めて重要という回答が一番多かったのは「専門の基礎となる基本的知識や考え方を確実に身につけさせる(52.6%)」です。こうした基本的な知識や考え方を「成長の可能性」の源と捉えているのかもしれません。

昨年の6月、中央教育審議会では「職業教育に絞った別の高等教育機関」を創設する方針を打ち出しました。上記の調査結果を見る限り、仮にこういった機関が設立されても、実は企業の人事担当者のニーズから乖離しているように思えるのですが、皆さんはどうお感じになりますでしょうか?

次週は、第二部の「大卒社員編」についてまとめていきたいと思います。

vol.266:ICTを活用した教育に関する調査報告書(NIME2007年度)

2008年03月21日 | 調査・アンケート
昨年『VOL222:e-learning等のITを活用した教育に関する調査報告書』
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/981b8aef15ab3bf92fb93a8c035296dd
で取り上げたNIMEの調査報告ですが、2007年度版の調査報告書が、下記のWebサイトよりダウンロードできるようになりました。
http://www.nime.ac.jp/reports/001/

ちなみに2006年度版のデータは
http://www.nime.ac.jp/reports/001/2006/
2005年度版のデータは
http://www.nime.ac.jp/reports/001/2005/
にあります。

基本的な調査の枠組みや調査項目はぼぼ例年と同じなのですが、今年度版の特徴は「ITを活用した教育からICTを活用した教育へ変更」と「FD(ファカルティ・ディベロップメント)の重視」の2点であると筆者は考えております。

ITからICTへの変更については、『昨年度の本調査における「IT」と同義であるが、本年度調査では「コミュニケーション」の概念を重視し、教育関係の各種国際機関においても広く定着している「ICT」を用いた』(p.6)としています。

またFDの重視については、『本年7月の大学等設置基準の改正により、学士課程においても、教育内容等の改善のための組織的な研修及び研究の実施の義務が明文化されたところである』(p.42)という高等教育界の動向を受けてのことと推察されます。

調査報告書はPDFファイルで154ページにも及ぶ膨大なものです。よって本メルマガでは、筆者が読んで特に興味深かった点のみ触れさせていただきます。ご興味をお持ちになった方は、ぜひダウンロードして通読されることをオススメします。

ICTを活用した教育
ICTを活用した教育活用の実施率は75.8%で、昨年とあまり変わっていません。ただし公立大学では、昨年度に比べ68.6%から84.9%へ16.3ポイント増と大幅に増加しているようです (p.7)。

ICT活用教育の取り組み方針については、「ICT活用教育のためのFD(ファカルティ・ディベロップメント)の実施」が15.2ポイント増、「ICT活用教育の人材の育成」で13.7ポイントの増と、人がらみの項目の伸びがが目立ちます(p.9)。

その背景には実施上の課題があります。ICT活用教育を実施する際の課題では、「システムやコンテンツを作成、維持するための人員が不足していること」(58.7%)、「教員のICT活用教育に関するスキルが不十分であること」(51.9%)、「eラーニング講義(授業を含む)のシステム開発に関するノウハウが不十分であること」(43.9%)と、人やノウハウがらみの課題が上位ベスト3を占めているからです(p.19)。

また、ICT活用教育の導入デメリットにおいても、「コンテンツの作成など、教員の授業の準備の負担が増した」(56.2%)、「システムの維持、管理で負担がかかった」(50.6%)、「対面授業と比べて、コストがかかった」(18.7%)と人的負荷、あるいはそれを外部に委託することによるコスト負荷をあげる回答が多くなっていることにも、人・ノウハウ面での欠如の影響が色濃く反映していると言えます(p.22)。

今回の調査では、ICT活用教育の要は人や組織がらみの課題をいかに克服するかという点が明らかになったと言えます。

FDの視点
そうした人や組織がらみの課題の中心にあるのが、教員の教育力向上です。今回の調査では、教員がICTを活用して効果的な教育が実施できるようなるために、どのような施策(FD)を機関として行っているかを調査しています。

実施内容の比率の多い順では、「教員全員を対象にしたFD講習会等(ICT活用を含む)の開催」(54.0%)、「教員に対するマルチメディア教材の制作に関する支援」(38.1%)、「ICT活用を含む効果的な授業事例の紹介」(29.3%)などがあげられています(p.45)。そして今後の支援要望でも、「ICTを活用した効果的な教育のヒント・ノウハウの提供」(53.0%)及び「教員に対するマルチメディア教材の制作に関する支援」(50.2%)が過半数を超え、次いで「ICT活用を含む効果的な授業事例(国内)の紹介」(48.4%)等が上位を占めています(p.48)。

これらICT活用教育に関する人・ノウハウがらみの課題は、個々の大学の努力だけでは中々進まない部分なので、NIMEのような組織が各大学を支援していくことが必要なのだと言うことを感じさせる調査結果となりました。

eラーニング
高等教育機関におけるeラーニングの実施率は、昨年度(46.1%)より5.0ポイント増加し51.1%と半数を超えています。その授業形態を聞くと、「対面授業とeラーニングのブレンド型の授業を行っている」(79.6%)、「自習用教材として提供している」(72.0%)、「eラーニングによる履修のみで修了できる講義、授業がある」(24.7%)となっており、ブレンド型や自習用教材としての利用が大勢を占めていることが窺えます(p.56)。
しかしeラーニングによる授業を単位認定している科目があると回答した機関は20.7%に留まっており、普及はしてきたものの、一般の教室授業とは別物という位置づけが続いているようです。

ラーニング・マネジメント・システム(LMS)
各大学にLMSの導入状況とどのシステムを導入しているかを聞く、毎年筆者が楽しみにしている調査項目です。今年の大きな特徴は、Moodleの大躍進です。現在LMSを利用している高等教育機関のうち、Moodleを利用し
ていると回答した率は、
・2005年 6.5%
・2006年20.7%
・2007年30.5%
と一つだけ大きく伸びています。オープンソースであることのコスト優位性、イギリスのオープンユニバーシティーでの導入等から一気に高等教育機関でのデファクトLMSになろうとしているようです。

事例
後半は10の高等教育機関での取り組み事例が紹介されています。どれも興味深い事例でありますが、中でも「東京歯科大学における新しいe-Learning(p.98)」は新規性を感じました。教育内容については専門性が高くてわからないのですが「系統科目・統合テーマの有機的連携」というコンセプトは高等教育機関のみならず、企業内教育でも応用が効きそうです。詳細についてはぜひ本文をご覧ください。

まとめ
半数以上の高等教育機関でeラーニングが実施されており、9割近くの機関でICTが教育に活用されているという事実から考えると、高等教育機関においてはeラーニングが「普通の教育手段」として定着しているのだなあと改めて実感しました。近年、企業を上回るペースで高等教育機関でのICT活用教育やeラーニングの導入が進んでおり、両方の教育に携わる身としては複雑な心境を抱いたのでした。

vol.265:企業内教育の予算調査結果の調査

2008年03月14日 | 調査・アンケート
そろそろ次年度予算も確定し、来年度の研修計画をあれこれ思案している企業内育担当者の方も多いかと思います。そこで、今回のメルマガでは、企業内教育の算について考えてみたいと思います。まずは、筆者の知りうる範囲で企業におけ教育研修投資に関する様々な調査結果についてレビューし、それらを米国企業の修投資の実態と比較しつつ問題点を考えてみたいと思います。

企業と人材
http://www.e-sanro.net/sri/books/kigyou_jinzai/index.html
調査母数が少ないため、実態を示しているかどうかやや不安な面があるものの、唯一毎年継続して企業内教育の予算についての調査を実施しているのが「企業と人材」誌(産労総合研究所)の「教育訓練費用実態調査」です。毎年年末ぐらいの号で調査結果を特集しているのですが、2007年度は調査の特集を組まれた号が見あたりませんでした。ちなみに昨年の特集によると、2005年度の従業員1人当たりの教育研修費は、大企業で35,197円、中小企業が50,372円ということです。普通に考えると大企業の方が多そうなのですが、たまたま教育熱心な中小企業が回答者に多く含まれていたからでしょうか。

労政時報
https://www.rosei.jp/about_jiho
労政時報は、昭和5年創刊、70余年の歴史を重ねた人事・労務全般を網羅した専門情報誌で、学術論文の引用にも多く使われています。2005年の8月26日号『教育・能力開発の最新実態』という特集の中で、「教育・研修・能力開発費用の実態」という調査結果を公表しています。元々人事労務全般を取り扱う雑誌のため、その後同様の調査が実施されているかどうかは不明です。ちなみに2005年の調査での教育訓練費は月額1,541円。12倍すると18,492円です。

業績主義時代の人事管理と教育訓練投資に関する調査(H12年8月)
http://www.jil.go.jp/kisya/daijin/20000808_02_d/20000808_02_d.html#gaiyou
ちょっと古いデータですが、日本労働研究機構(現、独立行政法人労働政策研究・研修機構)の調査結果です。この調査では、実際に訓練に必要となる直接費用と、訓練によって従業員が実働できないことによる機会ロスによる費用の合計として教育訓練費を算出しています。ちなみに直接費用が平均4.67万円、教育訓練期間の機会費用は3.77万円、合計8.44万円ということです。

Works人材マネジメント調査「2003 Part3 人材デフレ下の能力開発」
http://www.works-i.com/flow/survey/index.html#3
リクルートワークス研究所の調査も調査母数が多いのでお勧めです。
2003年度の調査で教育投資額に関するデータがありますのでご覧ください。
全体の平均では下記のようになっています。

経営層----18.9万円
管理職層---13.5万円
中堅社員層--10.1万円
若手層---- 8.3万円
新人-----17.7万円

上記報告書では業界別、従業員別での一人あたり投資額の違いも報告されておりますので、ご自身の業界とベンチマークしてみてはいかがでしょうか?
また「能力開発総予算のうち外部機関にアウトソーシングした率」も掲載されておりました。ということで、先ほどの数値にこの率をかけると、実際に外部へ流出するコスト( )となります。

経営層----78.3%(14.8万円)
管理職層---72.8%(9.83万円)
中堅社員層--68.1%(6.88万円)
若手層----63.1%(5.24万円)
新人-----52.9%(9.36万円)

教育研修投資に関する基礎調査(産業能率大学&ASTD)
実は本学でも10年前に、ASTDと協力し「教育研修投資に関する基礎調査」を実施しました。内容は日本、米国、欧州、カナダでの研修費用の比較や、研修配信方法や評価の方法についての比較調査です。企業内教育の実態を多国間で比較した調査というのはそれまで存在せず、おそらくこの調査以降も存在していないと思います。ということで大変貴重な調査データなのですが、日本での調査データは67社しか集まらず、さらに回答者のうち従業員1,000人以上が48社も占めていたため、大企業に偏った調査結果となっています。この調査での研修投資額は一人当たり 53,137円となりました。一方で全世界の平均は77,088円で、ガックリした記憶があります。

平成18年就労条件総合調査結果の概況
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/06/kekka3.html
国の調査としては、厚生労働省の「平成18年就労条件総合調査結果の概況」があります。労働費用に関する調査データの中で「現金給与以外の労働費用」という項目があり、その中に「教育訓練費」があります。これによると月額1,541円、年額でも18,492円にしかなりません。これを従業員別で見ると

1,000人以上 2,259円(年 27,108円)
300~999人 1,635円(年 19,620円)
100~299人 991円(年 11,892円)
30~ 99人 668円(年  8,016円)

となっており、100人以下の企業では、1,000人以上の企業の1/3以下の教育訓練費用しかないことが分かります。

MOT社内教育に関するアンケート調査(2005年)
http://www.mot.gr.jp/upload/MOT%BC%D2%C6%E2%B6%B5%B0%E9%C4%B4%BA%BA1.pdf
三菱総合研究所の実施した調査です。役員・従業員数100人以上の上場企業(東証2部、ジャスダック、東証マザーズ、ヘラクレス含む)311社の人事教育部門責任者の回答に基づくデータとなっています。この調査よると、従業員一人あたり年間教育研修費用は、平均78,731円と、上記厚生労働省調査の2.9倍になっています。しかし内訳をみてみますと、「最大値200万円」というのもあり、実際には約6割の企業が5万円未満のようで、中央値は35,000円となっています。

まとめ
本メルマガVol.214「再び米国企業の研修予算」でもご紹介しましたが、Bersin &Associates社の調査による米国での年間の社員一人あたり研修コストは、$1,273。$1=102円で計算すると約13万円。最も低い企業でも$519(52,938円)と日本のそれを大きく上回っています。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/f18bf8cc950bc6369c73d300848c11e2

また、2006年のASTDの調査でも、社員一人あたり研修コストは$1,040、Fortune500企業平均では$1,320となっています。もっともこれらの費用には、企業内教育部門の人件費等の内部コストが含まれているので、純粋な外部流出費用は上記のうち4割ぐらいになるそうです。だとしても今回ご紹介した日本企業の教育訓練費用の調査のほとんどを上回る投資額となっていますよね。

先日東京大学の中原先生のBlogに「企業内教育とお金」という記事をみつけました。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2008/03/post_1175.html

以下が多分中原先生が一番言いたかったことだと思うのですが、

思うに、「日本ほど、教育に多くを期待しながら、そこにお金をかけない国は珍しい」。一言でいうと、「やい、教育、この問題何とかせい!、金は出さないけど、頑張れ」。そうした風潮は企業内教育であろうと、公教育であろうと、そう変わらない。


私も基本的には同感です。しかし、今回こうして様々な調査データを並べてみて、「もしかしたら我々は国レベルでも、はたまた個々の企業レベルでも、一体いくら企業内教育に投資しているのかすら把握していないのでは?」という疑問が沸き起こってきました。

会社によっては人事教育部門が、他の部門で実施している教育の実態や予算すら把握していないケースも多いと聞きます。また営業部門の教育であれば、教育費でなく販売促進費の枠の中で行われている等の実態もあり、調査数値以上に教育投資している可能性も捨てきれません。さらに、金額に出にくいOJTやワークプレイスラーニングにかける労力はどう研修投資として明らかにできるのか、課題は山積しています。

まずは正確な研修投資実態把握のスキーム(予算項目の定義、提出回収方法等)が必要なのだと感じた次第です。しかし、厳密に算出しようとすればするほど、調査の負荷が大きくなり、ただでさえ集めにくいデータがますます集まりにくくなるというジレンマがあります。

現在最も有効と思われる手段は、人材投資促進税制の制度を利用する企業のデータを分析することではないかと考えています。こうした制度を人材育成の活性化策だけでなく、ぜひ教育訓練投資の実態把握のためにも活用できるようになればと考えております。経済産業省サマお願いいたします。

人材投資促進税制について
http://www.meti.go.jp/policy/jinzai_seisaku/jinzaitoushi_zeisei.htm

vol211:「大学職員を対象とした人材育成」実態調査報告書

2007年01月31日 | 調査・アンケート
2006年7月に産業能率大学で実施しました「大学職員を対象とした人材育成」実態調査の報告書の概要が、本学Webサイトに掲載されております。
http://www.sanno.ac.jp/research/univ_hrd.html

【調査について】
全国の国公立・私立大学系679法人を対象にアンケートを配布し、214法人より回答をいただいております。ご協力いただきました大学の皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。
調査内容としては、職員に対しての人材育成施策の実施状況、人事考課制度の導入状況、人事考課制度と目標管理制度の連動等です。

詳細の報告書につきましては、本学企画広報室宛にお問合せください。

学校法人産業能率大学 企画広報室
TEL.(03)3704-9040

vol152:組織主導による通信研修実態調査」5

2005年06月11日 | 調査・アンケート
 過去4回に渡って報告してきました「組織主導による通信研修実態調査」です が、今回は最終回ということで、調査全体の総括をご報告いたします。

 組織主導による通信研修は54.1%の企業で実施している。  
筆者の感覚としては3割ぐらいに企業に留まっているのではと思っていたため、 この結果は意外でした。実施目的としては「階層別」「部門別」に必要な知識やス キルを高めるためという回答が多く、企業の中での階層や役割ごとの「基礎教育」 のツールとして幅広く活用されていることが明確になりました。

 対象は若手から管理者層まで  
活用形態としては「昇進・昇格連動型」「職能資格制度連動/役割・職務等級制度 連動型」が多く、そうした形態の中では内定者・新入社員~管理者層まで幅広い層 で導入されている傾向が見受けられました。

 学習内容はマネジメント系が多い  
上記の階層別の活用においても「テーマ特定型」においても、マネジメント系の テーマの実施率が高い結果となりました。企業の人事制度と連動した形で通信研修 を活用し、階層や役割ごとに必要なマネジメントスキルの育成している姿がうかが えます。  また、計数感覚や経営戦略・マーケティングといった経営のフレームワークを学 習する項目や、コンプライアンスやビジネス関連法規といった今日的なテーマにつ いて今後の活用予定が増えている点も今回の調査で明らかになりました。

これからのキーワードは「ブレンディング」と「コンピテンシー」  
集合研修と連動して活用する形態~いわゆる「ブレンディング」は、現在のとこ ろ新入社員研修での活用は多いものの、リーダー・管理者といった階層ではそれほ ど多くありません。しかし、それらの階層においても今後の活用予定は肯定的な回 答が増えている。また、現在はコンピテンシーそのものの人事制度への導入率が2 割弱と低いため、コンピテンシー連動型通信研修の実施率も低いのですが、今後、 人事制度の中での活用が高まるにつれて、実施率が高くなるものと期待されます。  

以上5回に渡りご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?詳細の報告書 が欲しい方は、本学アドバイザーまでお申し付けください。

vol151:「組織主導による通信研修実態調査」4

2005年05月25日 | 調査・アンケート
前回は組織主導型の通信研修の8つの活用形態のうち、前半の4つについて
報告しましたが、今回は、残りの4つの活用形態、すなわち「部門特定型」「テー
マ特定型」「集合研修連動型」「資格取得型」について調査結果を報告します。

部門特定型・・・2割以下の活用状況
これは、営業部門、生産部門といった特定の部門で組織的に通信教育を活用する
形態ですが、「活用している」に「あてはまる」「ややあてはまる」といった肯
定的な回答をした企業はおおよそ2割以下という結果となりました。
 しかし、前々回お伝えした「組織主導による通信研修の目的」という設問で
「部門ごとに求められる知識やスキルを高めていくため」という選択肢に肯定的
な回答した率が78.8%と2番目に高かったことを考慮すると、実際には活用され
ているものの、回答者である人材開発部門が全社の実施状況を把握しきれていな
い可能性もあります。

テーマ特定型・・・コンプライアンスはこれからのテーマ?
 これは、経営戦略や事業戦略を遂行する上で必要となる特定テーマを学習さ
せる通信研修の受講形態ですが、肯定的な回答が多かったのは「マネジメント
(37.2%)」「計数感覚(29.7%)」「経営戦略・マーケティング(27.8%)」
といったテーマでした。
 意外に少なかったのは「コンプライアンス(17.3%)」「ビジネス関連法規
(14.4%)」。しかしこれらについて今後の活用予定以降を聞いたところ、各々
「コンプライアンス(33.1%)」「ビジネス関連法規(29.0%)」と大幅に増え
ているため、今後伸びるテーマと考えられます。

集合研修連動型・・・新入社員研修での活用多し
 いわゆる「ブレンディング」という形態ですが、階層別にみていくと、新入社
員研修での活用に肯定的な回答をしている率が41.7%と最も高くなっていました。
内定者教育に通信研修を活用し、それと連動した新入社員集合研修を実施すると
いう流れが想定されます。
 また、今後の活用予定では、幅広い階層での活用を予定している回答が多く、
今回のミニネタでご紹介した「研修期間の短縮化傾向」と相まって、今後ますま
す活用率が高まるものと予想されます。

資格取得型・・・2割以下の活用状況
 会社が取得を奨励している資格について、
  a)受講料を援助している
  b)受講料+資格試験受検料を援助している
  c)受講料+資格試験受検料援助し+合格時に祝金や手当てを支給
の3つで聞いたところa,bともに6割の企業が肯定的な回答をしています。しか
し、cに対して肯定的な回答をした企業は約3割にとどまりました。

 また、53の代表的な公的資格を掲げ、それについての奨励状況を聞いたとこ
ろ、Best5は、衛生管理者、危険物取扱者、電気主任技術者、社会保険労務士、
TOEICの5つでした。中でも衛生管理者は一定数以上の労働者を雇用する事業所
では、衛生管理者を置くことが法令上義務付けられていることもあり、52.1%の
企業が奨励しているという結果がでました。

 以上活用形態ごとの状況を2回に渡りご紹介してきましたが、次回は総括とい
うことで今回の調査のまとめをご報告したいと思います。