Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.498:休刊にあたって(ナカダ)

2014年02月18日 | お知らせ


書評コーナーを担当しているナカダでございます。執筆陣の1人として、私
も休刊の辞を述べさせていただくこととなりました。どうぞよろしくお願い
します。

さて、私の拙い書評が初めて掲載されたのは2006年10月のことになります
(第1回目に取り上げたのは柴田元幸氏の『翻訳教室』でした)。それから7
年半。途中、約1年半の休筆(?)期間を挟みつつ、延べ59本の書評(だけ
じゃなくて、マンガ評、ラジオ評、映画評)を寄稿させていただきました。
第496号でハシモト先生が「執筆陣に加わって3年だがあっという間だった」
と述べていますが、私も全く同感であります。

この7年半を私の実人生でいうと29歳から36歳にあたります。おそらくこの
年代、キャリアプラニングの教科書的には、着実な実務能力を養い、幅広い
経験を積み、自分の仕事の軸を確立するべき時期にあたるのでしょう。しか
し、私がこの7年半の間にやってきたことといえば、「引っ越した」「フル
マラソンで4時間切れた」「燧ケ岳に登った」など、すぐに挙がるのは私的
な事柄ばかりで、仕事面で「こんなことをやってきた」と言える出来事はあ
まり多くありません。同年代の社会人なら当然培っているはずの基礎的な土
台をしっかり固めないまま、30も半ばを過ぎてしまったのではないかという
若干の不安があります。

今さらこんなことを考えるに至ったきっかけに、宮崎駿の『風立ちぬ』があ
ります。といっても、映画の中身そのものではなく、主人公が飛行機の設計
をする際、片手で器用に扱っていた計算尺がそのきっかけにあたります。私
が幼少の頃、父が自宅で計算尺を使っていた記憶がおぼろげながらにあるの
です。そこで昨年末に帰省した際、まだ家にあるのかと父に聞いてみると、
机の引き出しからHEMMI No.149Aというポケットサイズの計算尺を引っ張り
だしてきました。かつて中堅のゼネコンで土木エンジニアをしていた父が、
入社後すぐに買ったものだそうです。父いわく「当時(1970年前後)3,000
円ぐらいした」そうなので、おそらく給料の1割ぐらいしたはずです。若き
日の父は、土木工事の現場で来る日も来る日も、この計算尺を使って道路や
ら造成地やらの図面を引いていたのでした。私の幼少期の記憶は、おそらく
父が家に持ち帰った仕事を片付けていたときの姿でしょう。

しかし、父の勤めていた会社はバブル期の過大投資のために、バブル崩壊後
は長らく厳しい経営状況にありました。主力銀行に債権を放棄してもらった
り、人員のリストラを進めたりと経営再建努力は続けていましたが(父も土
木工事の現場から営業部門に配置転換されました)、私が大学を卒業して間
もなく、民事再生法を申請することになりました。要は倒産したわけです。
その後、父は別の小さな会社に拾ってもらいましたが、結局、エンジニアと
して職業人生を全うすることは叶いませんでした。

それでも45年前に買った仕事道具を捨てずに持っているということは、エン
ジニアとしての自分の職業人生に、ある種の矜持があるのかもしれません。
単に机の引き出しに入れっぱなしになっていただけかもしれず、そもそも電
卓が普及して以降はほとんど使わなかったはずなのですが、「父にとって計
算尺は、単なる設計道具ではなく、自分のキャリアの象徴であった」として
おいた方が話としては綺麗なので、息子としてあえてそのようにさせていた
だきます。

翻って私はというと、父の計算尺に相当するものはなかなか思い当たりませ
ん。私以外の執筆陣はそれぞれ「eラーニングビジネス」「インストラクシ
ョナルデザイン」「人材育成」など、自他ともに認める専門領域を持ってい
ますが、私は教育研修業界に10数年も身を置きながら、そのような依って立
つ軸をいまだに確立できていない状態です。

このように頼りないキャリアアンカーをかかえつつ、間もなく40代を迎えな
ければならないわけですが、それでも7年半にわたって59本も書評を執筆し
たことは、肝心の中身はさておき、ある種の達成感があるのは事実です。改
めましてこのような場を与えていただいた編集長の古賀さん、何よりもこれ
まで素人の拙い書評に目を通していただいた読者の皆様に、心より感謝申し
上げたいと思います。誠にありがとうございました。またどこかで皆さんに
お会いできることを楽しみにしております(厳密に言えばこれが最後じゃな
くて、あと1回書評の担当が残っております)。

ちなみに父に「計算尺って片手で使える?」と父に聞いてみたら「そりゃ無
理やわ」とのことでした。まあ「風立ちぬ」はフィクションですからね...
<文責 ナカダ>

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