Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol:219eLC活用事例研究会【日本郵政公社の巻】

2007年03月30日 | 企業視察
去る3月15日(木)に日本イーラーニングコンソシアム(eLC)の月例カ
ンファレンスにて、日本郵政公社郵政大学校副校長の村越直政様より
「郵政大学校でのeラーニング導入」について、導入の背景や苦労なさっ
た点を中心にお話いただきました。
詳細につきましては、当日発表資料が後日eLCのWebサイトよりダウン
ロードできるようになると思いますので、そちらをご参照願います。

開催日: 2007 年3月15日
場 所:東京八重洲ホール
発表者:日本郵政公社 郵政大学校 副校長 村越直政様
参加者: eLC会員約30名

■研修のねらい
平成19年10月の郵政民営化に向けて様々な経営革新が続く中、現場の郵
便局幹部および役職者のマネジメント能力の向上が大きな課題の一つと
なっています。今まで郵便、貯金、保険等の各分野において専門スキル
を発揮していた職員が、郵便局の局長に昇任すると同時に、それら3事
業を包括してバランス良くマネジメントできるよう、昇任にあたり新た
に膨大な知識を習得する必要があるからです。

今回紹介する「郵便局eラーニング講座」は、そうした郵便局のマネジメ
ントに必要となる業務知識の基本を体系的に学習し、現場で起こる様々
な問題に対して適切かつ迅速な意思決定ができるようになることを目的
に開発されました。

■膨大な量の知識をeラーニングで効率よく学習
本講座の学習内容を紙のテキストで作成すると、役職者用で514ペー
ジ、管理者用で671ページになったそうです。従って、集合研修では
とても消化しきれません。また、分厚いテキストをだけ配布しても、ど
こに何が書いてあるか分からず、それだけで学習意欲が減退してしまい
ます。

そこで、効率的な学習を可能とするため、eラーニング化に着手し、知識
体系の「見える化」と、自分の理解度を確認できる「テスト」を実現し
ました。
■3年間の試行錯誤
第一回は平成16年度に実施しました。その際は、169名の修了者(修了率
38%)に留まりました。この数字は提供側として決して満足できる数
字ではなかったということです。

そこで翌年は修了者増のためにCD-R教材を併用してeラーニングを提供し
たところ、1,056名の修了者(修了率86%)にアップしました。さらに
平成19年度は、eラーニングコースのみで実施することとし、学習システ
ムを全面リニューアルし、修了者3,653名(修了率83%)と一気に受講
の拡大に成功しました。なお、この人数は業務として強制的に受講させ
たものでなく、すべて任意で勤務時間外に受講したものということです
から驚異的です。

■学習者の期待と目指すべき機能
まず、学習者の分析をしたところ、今までの担当職務によって得意な分
野に大きなバラツキがあったことが分かりました。熟知している分野も
あれば、全く初めて学ぶ分野もあります。そこで、講座の仕様としては
「得意なところから学習できる」、「知識の体系が見やすい「目次」で
見える化」、「どの学習画面でも画面の目次から読みたい章・節・項が
自由に開ける」を心がけたそうです。

さらに、「規定」等の関連する参考資料へのリンクの仕組みの実装、学
習の理解度や進捗状況の把握ができるよう、理解度確認テストを節単位
で細かく実施コースレビューで自由に意見が書き込める等の機能を実装
したそうです。
■開発時に苦労した点
1.仕様書づくりと入札
教材の中身については、それぞれ専門分野の人が執筆したとのことです。
その原稿を学習しやすくするため、村越様は学習システムに盛り込むべ
き機能の仕様を考える役割を担いました。仕様を確定するにあたっては、
様々なeラーニングシステムを見て、それらの機能を一覧にし、なるべく
多くのベンダーが入札できるよう、各社が共通で持っている機能を中心
に仕様を作成したそうです。

しかし、こうした最適な学習システムかどうかの判断を、1人のユーザー
担当者が行うには限界があり、どうしても仕様漏れが出てしまいます。
村越様は入札当時を振り返り、「仕様を準備する際に、受講者のニーズ
に適合しているかeラーニングの仕様をチェックするのに役立つ業界推奨
ガイドブック(チェックリストのようなもの)があればありがたかっ
た」とお話になっていました。

2.機能とコンテンツのバランス
教材開発と学習機能設計が同時に進んでいたため、学習システムが出来
上がってきた段階で、システムに合わせて教材原稿に手直しが必要にな
る場合があります。他方、教材に合わせて、学習機能の変更の必要もで
てきます。しかし仕様変更すれば納期とコストがオーバーしてしまいま
す。そうしたジレンマの中、村越様は、教材執筆者と外部システム開発
委託先の板ばさみとなって色々なご苦労をされたそうです)。

「開発においては、教材の中身を考える人、学習システムの基本仕様を
設計する人の他に、受講者の使い勝手をよくするために教材とシステム
の両方の改善をアドバイスできる第三のグループが必要」とお話になっ
ていたのが印象的でした。

■運用後の声
1.ID、パスワードの変更
受講者からの要望として、「最初にもらったメールを毎回ログイン前に
開き、IDとPWを入力するのが苦痛」。自分が覚えやすいIDやパスワード
に変更できるようにして欲しいという声が多かったそうです。

2.メンテナンス時間
朝の5:30~6:30をシステムメンテナンス時間に設定していたところ、
意外にも、その時間に勉強したいという声が多かったそうです。今回のe
ラーニング講座は、就業時間中に学習できない決まりだったため、その
時間にメンテナンスすればよいではないかということだそうです。始ま
ってみないとなかなか分からない受講者のニーズです。

3.受講者の評価
結果として、修了した受講者からは5300センテンスものコースレビュー
の意見が集まったそうです。本コースへの期待の高さがうかがえる反応
です。上記のような要望もありましたが、概ね受講者からの感想は良好
だったようです。しかし、コースレビューはログインでき、実際に修了
できた人しか回答していないので、実際にはシステムへの不満が隠れて
いるとお話になっていました。

■まとめ
ユーザーとしての本音の意見が聞けた大変素晴らしい発表でした。組織
の中と外の間で板ばさみになり、参考となるようなガイドブック等もな
く、まさに試行錯誤でeラーニングを推進しなくてはならない教育担当者
としてのご苦労を実感することができました。

vol212:オートバックス様eラーニング視察記

2007年02月08日 | 企業視察
「あなたが知ってるeラーニングの導入企業事例は?」というクイズがあったら、
一位になるのは、おそらくオートバックス様の事例ではないでしょうか?
「車は好きだけど勉強苦手な若手社員がどうしたら勉強してくれるか」を考慮し、
現役のDJをナレーターに起用し、ビジュアルな表現を多用したエンターティメン
ト性の高い教材は、リリース当時、多くのeラーニング関係者に衝撃を与えました。

しかし、教材の派手な部分にばかり関心が行ってしまい、作成に至る背景や、実
際に作成したものをどう浸透させているのか等の部分はあまり知られていません。

日本eラーニングコンソーシアムの活用事例委員会では、昨年12月にオートバッ
クスセブン様の教育研修を企画運営している株式会社カーライフ総合研究所を訪
問し、こうした運用の面に関しても色々とお話をうかがってまいりました。
今回のメルマガではその視察記をお伝えします。

訪問日: 2006 年12 月 18 日
場所:株式会社カーライフ総合研究所
発表者:ラーニングサポートグループ 石井幸雄様
参加者:活用事例委員会メンバーを中心に 11名

概要
株式会社カーライフ総合研究所は株式会社オートバックスセブンの100%子会社で、
フランチャイズ(FC)店に対して教育研修サービスを有償で提供しています。現
在オートバックスセブン様のFC店舗数は約500店、およそ13,000名の従業員が働
いています。eラーニングを導入したのは1999年。元々先進的なことが好きな社
長が導入を決定し、当時オートバックスに転職したばかりの石井様が急遽eラー
ニング導入を担当することになったそうです。

eラーニング導入目的の明確化
石井様が最初に手がけたのは「eラーニング導入の目的を明確にする」ことでし
た。オートバックスセブン様ではeラーニング導入の目的を下記の4点にまとめて
います。

1.教育機会の改善
eラーニングにより研修会場に通わなくても店舗の学習を可能とし、受講機会を
大幅に拡大する。

2.教育に関するコストと時間の削減
店舗で学習することにより、研修会場までの移動時間やコストなどを削減する。

3.OJT任せの教育内容の改善と基本知識の平準化
eラーニングによって基本知識学習部分を平準化し、OJTの補完ツールとして使う。

4.人から学ぶ体質から自ら学ぶ体質への転換
eラーニングによって待ちの教育から自ら進んで学ぶ体質への変換する。

ブレンディング
当時はブレンディングという便利な言葉はなかったそうですが、店舗でのeラー
ニング学習で基礎知識を習得し、集合研修では技能を修得するというブレンディ
ングの考え方で研修体系全体を見直したそうです。

eラーニングの導入により、集合研修の日数を短縮し各FC店に請求する受講料を
安くすることが可能になった、入社1年目はeラーニング中心で基礎教育、2年目
以降に長く働いてくれる目処がたってから集合研修を実施することにより、教育
の投資効果を向上することができたということです。

eラーニング導入に関して、「eラーニングの導入だけを考えてはだめ」というア
ドバイスをいただきました。全体の研修体系の中で、eラーニングをどう利用す
るのかが大事ということを改めて認識しました。

コンテンツ開発
開発当初のコンテンツのコンセプトで「最低5年間は内容の変更をしない」とい
うお話しを今回聞きました。冒頭で述べたような凝った作りのコンテンツを開発
するには莫大なコストがかかります。コストを回収するためには多くの従業員に
受講してもらう必要があります。

しかし、すぐに陳腐化してしまうような知識では、教材開発費の減価償却が終わ
らないうちに使えないコンテンツになってしまったり、開発後のメンテナンスコ
ストが追加投資として必要となってしまいます。そこで比較的内容の変化の少な
い、オイルの基礎、バッテリーの基礎といった製品知識を習得する上で基礎とな
る知識を体系化しコースを開発したということです。

教材は2~3時間で1コース。合計10コースを作成し、全てのコースを修了し
た人には「カーライフアドバイザー」というグループ内の資格が授与されるとの
ことです。なおeラーニングのコンテンツの場合、集合研修で同じ内容を教える
のに比べると、時間は3分の1で済むとのことです。つまり6時間の集合研修内容
であれば2時間のコースで学習可能だそうです。

運用
どう「自ら学ぶ風土」を醸成していくか、前述のグループ内資格である「カーラ
イフアドバイザー」を普及浸透するために、様々な施策を実施しています。資格
取得者には資格の認定証やバッジ、はたまたカーライフアドバイザの焼印が入っ
た「お菓子」までが記念に授与されるそうです。また、学習推進の雰囲気作りと
して、受講を促す様々な文書を配信したり、情報を開示し、同僚や他店舗との競
争を促すといった地道な努力を継続しています。

そうした学習者の進捗管理や、eラーニングだけでなくすべての研修の受付から
履歴の管理ができるシステムとしてALMS(Autobacs Learning Management Syste
m)があります。当初はベンダー製のLMSを色々と物色したものの、自社に必要な
機能をもったシステムがなかったため自社開発したそうです。

導入効果
既に導入から8年が経過しており、学習者にも店舗にも、普通の学習手段として
eラーニングが定着しているという印象を受けました。しかし、ここまで定着す
るのに3年はかかったということです。

受講者の学習後の感想としては、「お客様に自信を持って説明できるようになっ
た」「自分の知識の再確認ができた」等があったそうです。また、経営者や店長
の声としても『OJTでは理解できなかった「土台となる知識」を得られた』等良
好なアンケート結果となっています。

現在まで延べ提供コース数は153,000コース、カーライフアドバイザーの数も13,
200名にのぼっているとのことです。新規導入のため、集合研修を実施した場合
との比較では、eラーニングの導入によって教育コストはおよそ1/4、教育時間
も1/3になったということです。

一番興味深かったのは「eラーニングの導入によって集合研修の参加者が増加し
た」というデータです。eラーニングにより集合研修の日数が短くなったこと、
それに伴い受講料が安くなったこと、eラーニングで実施する科目分の余裕がで
きたため新しい集合研修のメニューを増やすことができたことなどがその要因と
お話になられていました。加えて、一番大きいのはeラーニングを通じて「自ら
学ぶ風土」がグループ全体に浸透してきたからではないかと推察しています。

今後
今後のオートバックスセブン様でのeラーニングの方向性として、以下の5点を
あげてらっしゃいました。

1.他社のeラーニングコンテンツを活用
自社制作が困難なもの(マネジメント等)は他社のコンテンツを活用したいとの
ことです。

2.知識教育はすべてeラーニングで
商品知識の教材は、仕入先メーカーが開発してくれるとありがたいという意見が
ありました。

3.衛星通信利用からインターネットへ
今年の4月1日までにWebに乗せ替える予定とのこと。

4.海外進出に対応(多言語化)
すでに台湾やフランス等に進出しているので、そこでの教育に使いたいとのこと。

5.人に関するシステムの統合
LMSと人事・給与等のシステムとの統合をはかりたいとのこと。

お話の中で、「基本はOJTにおきたい。次の課題はOJTの再構築」とおっしゃって
いたのが印象的でした。ベースの部分をeラーニングや集合研修で学習し、それ
を現場で応用できるようになるにはやはりOJTが欠かせません。また石井様は
「ノウハウは500の店にある」という考えから、現場の声を今後どう吸い上げ
ていくかも次の課題として掲げていました。

「単にeラーニングのことだけを考えない」

人材育成システムだけでなく、人事システムや学習風土の革新まで視野に入れた
オートバックスセブン様での取組みには、大変に感銘を受けました。

ちょっと宣伝

こうしたeラーニングの成功企業への訪問活動等、日本におけるeラーニングの普
及と推進のために設立された特定非営利法人日本eラーニングコンソーシアムで
は、現在正会員を募集中です。詳細は下記サイトまで
http://www.elc.or.jp/