Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

009  e-learning award2014フォーラム参加記

2014年11月26日 | セミナー学会研究会見聞録


2014年11月12(水)~14(金)に開催されたe-learning award2014フォーラムに、半日だけ参加することができました。大学教員になって6年目、授業期間中の平日に開催されるイベントには全く参加できなかったのですが、12日は研究日で授業が無く、しかも都内で打ち合わせの予定があったので、そのついでに午後の3つの講演のみ拝聴してきた次第であります。今回は講演の概要と感想をお伝えします。

■その1 2014e-learning 大賞受賞 ドリコム えいぽんたん!(代表取締役社長 内藤 裕紀)の記念講演
今回の2014e-learning 大賞を受賞した「えいぽんたん!」というスマートフォンアプリの英語学習ソフトについて、開発のコンセプト等をプレゼンいただきました。
えいぽんたん! http://eipontan.smacolo.jp/
「えいぽんたん!」の特徴は
1)ソーシャルラーニング、2)ビッグデータ、3)ゲーミフィケーション、の3つに集約されます。
1)ソーシャルラーニング
「えいぽんたん!」はソーシャルラーニングプラットフォーム『smacolo(スマコロ)』で学習者のコミュニティを作り、SNSの環境で楽しく勉強出来る仕組みになっています。そしてゲーム仕掛けの課題に対し、チームになって取り組むイベントが盛り込まれており、学習意欲の維持向上を図っています。
2)ビッグデータ
現在iOSだけでも70万以上のダウンロードがあり、それらの大規模データを活用することで、個々の学習者英語のレベルにあったコンテンツ配信を実現してるそうです。
3)ゲーミフィケーション
えいぽんたん!はソーシャルゲームでは当たり前になっている、ユーザーの興味を持続させるための様々な要素を取り入れています。例えば問題に正解すると自分のキャラが成長したり、期間限定のガチャがあったり、アイテムをゲットして成長を早めたりといった事を学習の中に取り入れているそうです。

その結果、「えいぽんたん!」はスマホアプリの教育カテゴリにおいて、2013年は連続してトップ10を維持し続けるロングヒットとなっているとのことです。

■~大手前大学「俳句 -十七字の世界-」講座の舞台裏(株式会社D.E.S. 専務取締役 浦畑 育生 氏)
大手前大学でのeラーニングコンテンツ開発・運営を支援するD.E.S(デジタル・エデュケーション・サポート社)の取り組みについての発表でした。
大手前大学のeラーニングは、
2008年立ち上げ
2010年通信教育課程でのコンテンツ開発
2014年MOOCでの授業「俳句 -十七字の世界-」配信と反転授業の実施
と着実に進化し続けています。詳細については、下記より講演資料がダウンロード可能なのでそちらを閲覧願います。
http://www.digital-edu.co.jp/award2014/seminar.html
今回紹介のあった「俳句 -十七字の世界-」講座の受講者は、テーマの特徴から50~60代が多かったそうです。でも受講者のうち俳句知らない人が7割もいたそうです。ちなみに申込みに対し25%が修了したということです。これはMOOCという学習スタイルを考えると相当高い数値です。

■2つの講演を聞いての感想
ドリコム社の「えいぽんたん!」は、ソーシャル、ゲーミフィケーションといった、昨今のネットビジネスやアプリの世界でおなじみの言葉がでてくる一方で、D.E.S社の発表はARCSモデル等、オーソドックスなIDの世界に準拠した教材作りをPRしており、対照的な発表内容となっていました。
おそらく10年前であればD.E.S社のアプローチも新鮮味を持って市場に迎えられたと思います。しかし、多くの人IDに準拠した教材作りの重要性を認知している今日、その点を今更強調されても当たり前にしか思えなかったというのが正直な感想です。もちろんIDの考え方や手法の有効性を否定するつもりも更々ありません。ドリコム社の教材作だって結局はIDの世界の原理原則で説明がつくと考えています。しかし学習者やeラーニングの導入を考えるユーザーへのアピールという点ではドリコム社のプレゼンの方が効果を期待させる内容に思えました。

皆さんはどうお考えになりますでしょうか?

■反転学習の新たな展開—高等教育からMOOCへ  東京大学情報学環 教授 山内 祐平 氏
ひさびさに山内先生の講演を拝聴しました。
反転授業は2012年にコロラド州のクリントンデール高校でスタートしたそうです。スポーツの大会等で授業を欠席せざるを得ない高校生をなんとかしたいということで、授業ビデオをiPadに保存して渡したところ、大成功したことから広まったそうです。クリントンデール高校では、学力の低い学生の授業にこの方式を用いたところ、落第率が61%から10%に減少したとのことです。これらの事例から分かるように、元来反転学習は、学習困難層の学生の底上げの目的でスタートしました。
こうした反転学習は「完全習得学習型」と呼ばれ、ブルームの提唱するマスタリーラーニングの考え方を背景にもっています。すなわち、学習過程において形成的な評価を加え、それによって理解していない学習者を手厚くサポートし、全員が修得していくことを目指す考え方です。
一方で「高次能力学習型」とよばれる反転学習のスタイルもあります。これは対面学習を基礎修得でなく応用の世界にもっていくスタイルの反転学習を指します。たとえば東京大学で実施しているVisualizing Tokyoという講座では、授業の前の映像で、第二次世界大戦後の焼野原となった東京から70年代までの東京の復興・都市化の流れを知識学習します。そして対面学習では、その後現在に至るまでの東京の姿を『可視化』するため映像コンテンツを制作するという課題に取り組むそうです。
講演後にコガは以前から気になっていた下記の質問をしてみました。
「eラーニングで授業相当のコンテンツを予習させた場合、大学設置基準(21条 http://goo.gl/1DZ0RK)で定められるところの「予習の時間」「授業時間」のどちらに含まれるのか?」
それに対する山内先生の回答は、法解釈上の回答は別として「本質的にはそもそも不毛な議論」というものでした。「本来授業の単位は学習者のパフォーマンスで議論すべきであって、いつどこでどのような方法で何時間学んだかということを問題にするのはおかしい。今は過渡期なのでそういうことは仕方がないが、今後普及していくにしたがって、そうしたことも問題にならなくなると思われる」といった趣旨の回答をいただきました。

【感想】
今回の山内先生の講演を聞き、反転授業やアクティブラーニングといった新たな方法論(Methodology)が普及することで、既存の大学教育の枠組みを再考する必要がでてきたことを実感しました。そこでこんなモデルを作ってみました。
「大学授業の構成要素とそのトレンド」
Contents
講義の内容は専門知識だけでなく、汎用スキルの育成等の必要性が増大している。
Methodology
講義タイプの授業だけでなく、アクティブラーニング、反転授業、PBL、インターンシップなど様々な形態が普及しつつある。
People
教授者、学習者ともに多様性が増している。
Place
アクティブラーニングスタジオ、ラーニングコモンズ、といった物理環境の変化に加えて、eラーニングをはじめとした、バーチャル空間での学習が増えている。
Time
授業時間の厳格化、特に授業外の学修時間の確保が課題となっている。

特に後半のPeople、Place、Timeについては、「大学の先生が、教室で、90分の授業内で教える」ことを前提とした制度が存在すると、新しいContentsを教えたり、新しいMethodologyを導入する上での阻害要因になっていくのではと思った次第です。特に学修時間という計測しやすい指標のみで成立している現在の単位制度は、相当腰を据えて議論する必要があると考えています。

007 JSET参加から-反転学習やらMOOCSやら

2014年10月25日 | セミナー学会研究会見聞録


「最後に参加したのは何年前?」

JSET(教育工学会)の全国大会は毎年9月の中旬に開催されます。コガはここ数年その時期に、
後学期の履修ガイダンスやら授業の準備やら遅めの夏合宿やらが入ってしまうため参加できないでおります。
そこで、全国大会参加皆勤賞を続けるシバタ先生に参加報告記をお願いした次第です。

シバタ先生寄稿いただきありがとうございました。

>>>>>>>>>>>ここからシバタ先生の記事>>>>>>>>>>>

去る9月19日から21日、岐阜大学で開かれた日本教育工学会(JSET)全国大会。さまざまな発表がされましたが、
ここでは最近なにかと喧しいMOOCについて触れたいと思います。

MOOC(Massive open online course)とは、インターネットを用いた大規模公開オンライン講座のこと。
スタンフォードの授業が無料でどこでも受講できる的な、一連のアレでして、世界で何百万人が受講しているそうです。
日本でも東京大学をはじめ、ひとかどの教育機関がコンテンツ提供に参加し、
またさまざまなひとかどのベンダーがプラットフォームなどの下支えをしています。

ここまで来ると、日本のeラーニングビジネス史に触れてこられたひとかどの方は、ピンとくることでしょう。

「すぐに誰も受けなくなるってば」

ハイ。eラーニングの草創期、海外から「100コース500万円。全社員全コース受け放題」みたいなeラーニングに飛びついた先進企業が、
ふたを開けてみたら「年間受講者3人」みたいな話はよく聞いたものです。それを思うとMOOCも二の舞ではないかという発想です。
しかもMOOCは対個人でして、日本ではB2Cのeラーニングの成功例を(なんとか受験ドリル以外では)聞いたことがないゆえ、なおさらです。

さて、前置きが長くなりましたが、JSET。MOOCからみのいくつかのセッションの中でも
東大 荒優先生の「MOOC受講者の多様性を考慮した教育効果分析観点の提案」は出色でした。
「MOOCは修了率が低い(5%とか)から役に立たない」という例の批判に対し、
「誰でも無料で登録できる(半分はアクセスすらしない)中で、
登録者を分母にした数字で評価するのは妥当ではない」という主張です。全く同感です。

先述の通り、MOOCの多くは「ひとかど」の人が、「ひとかど」の受講者向けに行っているものであって、
例えば新小岩(いえ、麻布十番でもいいのですが)の駅の横で、ノーベル賞受賞前でまだ市井の知るところでなかった
京大・山中教授がiPS細胞の辻説法をしても、1000人の通行人のうち5人しか最後まで聞かなかったからと言って、
ではiPS細胞はイケてないかというとそんなことはないわけです。

つまり、MOOC側が、「このコースは、再生医学が失禁するほど好きで、かつ、河合塾偏差値64以上とったことある人以外はムリだから、
無料だとはいえ申し込まない方がいいですよ」的な注意書きをしなかった、
あるいは書いてあっても受講者が「どうせタダだから」と読みもせずにポチッと申し込んだかであって、
そんな中で来た「受講者」を分母にして、その中身の評価文脈で受講率を論じても意味がないというわけです。

さて、ではその5%はどういう人で、MOOCでは何がもたらされているのか。

まず、そもそもエリート向けであることが見て取れます。そして、その学習意欲旺盛な秀才君達に、
BOOKOFFはもちろんのこと、図書館やネットでも入手できず、かつ垂涎の知的情報がもたらされます。
「修了したら図書券」みたいな動機づけなどは最初から不要です。
では、大学は何のために大きな予算を投じてそんなことをするのか、という疑問に行き着きます。
さる人からお聞きしたところでは、その奇特な「ひとかどの受講者の情報」を手に入れること。
そしてその国家としての金の卵たちに、さらにすげー世界を知らせ、山のてっぺんを上げる刺激を与えることなのだそうです。

MOOCがそもそもそういうフレームで行われているとしたら、市井のモノ共がそれを使って反転学習なんぞを安易に考えると、
一瞬先にはまたあの地獄が待っていることにすぐ気づきます。

続きはまた。
<文責 柴田>

004:シバタの初年次教育学会参加記

2014年09月07日 | セミナー学会研究会見聞録


新生メルマガへの小職の初寄稿は、9/4-5、奈良の帝塚山大学で行われた初年次教育学会参加記です。
最近、学生本人の主目的ではない内容(医学部学生にIDを教えるとか、看護学科の学生に実習時のお作法を教えるとか)をもう少しイケてるものにしたいなと、思っていたところ、古賀センセイからの情報でこの大会を知り、会員でもないのに馳せ参じました。大会テーマは「初年次教育における自己表現:表現から実現へ」です。

■「学生を能動的にするハイブリッド型授業」ワークショップ
さて、まず参加したのは、関西大学教育開発支援センター 三浦真琴先生の「学生を能動的にするハイブリッド型授業」ワークショップ(以下、W/S)。30人ほどの参加者です。前段は先生のミニ講義、後半はグループ作りと2つほどのグループワーク体験でした。言わば、W/Sの作り方のW/Sという体に違いないのですが、出色は三浦先生からの、このW/S流行りにおける「前提」への警鐘でした。
「この中で、学生時代、ワークショップ型授業を受けたことのある方」
冒頭の三浦先生の問いかけに、「ある」と答えたのはお1人で、それもデザイン系のご出身。いわゆるフツーの学部出身ではゼロでした。この問いかけから
「私たちは、学習者中心と言いながらも、自分が経験したことのないことを教員目線で組み立てている、と言うところに立つのです」という新鮮かつ強烈なメッセージが届きました。
また後半のW/S体験(詳細はネタバレになるので割愛)では、「グループワークがうまくいかないのは、グループ分けと自己紹介ゲームさえやればワークの準備ができたと思う教員の誤解から」という金言が飛びます。
うむ。我が授業を振り返り、「自己紹介をしたから知り合えた『はず』、力を合わせる『べき』」といった教員の妄想で段取りを進めてはいなかったか、ヒヤッとする時間でした。
Active learnerを作るための2時間でしたが、三浦先生の「わざと教えない。教えるものと教えないものを緻密に取捨選択する」「問いすら与えない。問いを立てさせる。その経験を通じ、問いを与えられた時にその構造を考えられる力がつく」といった骨太のメッセージをたくさんいただきました。

■記念講演「シンプルプレゼンのすすめ」(ガー・レイノルズ)

午後からは記念講演、関西外大ガー・レイノルズ先生の「シンプルプレゼンのすすめ」です。
元アップル社でジョブズの下、ガンガンプレゼンを行ってきたガー先生、TED Tokyoなどでもお馴染みの氏のそれは圧巻の90分でした。

ものすごく突飛なことがあったわけではありません。比喩、良い実例、悪い実例、投げかけ、ピア討議、動画、、、。プレゼンの手法で言われていることを、実に確実かつ見事にやってのけた、と申しましょうか。例えば実例では、ビルゲイツのイケてなかった時代とイケてる時代のスライドを並べてみたり、ゴア元副大統領が政治家を辞した後いかにプレゼン上手になったかなど、リアルなShow meに心揺さぶられます。

2つの大きなメッセージは、「間」と「ストーリー」です。禅を参考にしたプレゼンの「間」はことさらに訴求点を浮かび上がらせてくれます。そして訴えたいことは物語に乗せることで、より分かりやすく相手に伝わります。

参考:『プレゼンテーションZen』 ガー・レイノルズ著(ピアソン・エデュケーション、2010年)

■自主学習力のパラドクス
さて、午前午後を通じ疑問に思ったことが1つありました。授業・プレゼンの事例はどれも「価値観」「社会問題」といった、情意系の学習目標を掲げるものでした。
しかし、現実には「法律の条文」とか「骨の名前」など、知識の細切れを覚えねばならない科目もたくさんあります。最後の質問タイムでガー先生に「知識系の授業の組み立てのヒントを!」とお聞きしたところ、やはり、「それ(知識系の学習項目)は授業外のグループ学習で修得し、教員はその中で解決できなかった部分に対応する」というお答えをいただきました。それは「本や友人のノートや、過去問見ればわかるような授業をやらない」という三浦先生のメッセージとも通底していました。言わずもがな、反転授業のソレにつながっていく主張です。

うーむ。その自主学習力ありきの授業なのか、自主学習を促すための授業なのか、あるいはそのサンドイッチか。どんな学生・受講者を前提にするかで、そのさじ加減も実効性も雲泥の差という「例のパラドクス」を胸に帰路につくのでした。
<文責シバタ>

001:反転授業は札幌で

2014年08月12日 | セミナー学会研究会見聞録


久々の原稿ということで緊張しております。
Learning Tomatoとしての第一号は、話題のMOOCについての受講体験記となります。

■素直になれるコンテンツ
長年教育研修の仕事に携わってきた影響で、コガはあらゆる教育を素直に受講する事ができない体になってしまいました。純粋な受講者として履修しようと思っても、つい「あっこの教え方自分の授業にも使えそう」とか、「自分だったらこういう風にコンテンツ作るのだけどなあ」等等、つい提供者目線で教育コンテンツを観察してしまうのです。

しかし、今回履修したMOOCプロバイダgacco(http://gacco.org/)の提供する『オープンエデュケーションと未来の学び』はとても素直な気持ちで履修することができました。年を取りコチコチに乾燥した私の心の中に素直な気持ちが芽生えてきとは到底思えないので、今回履修したコンテンツの作りが非常によくできていたためと考えるのが妥当そうです。

■教材の内容と構成
さて、この講座、単にMOOCとは何かを学習するのでなく、オープンエデュケーションという概念の中でMOOCを位置づけ、その現状と未来について体系的に学習できる内容となっています。全体は以下の4週に分かれています。

Week1 オープンエデュケーションとは何か
Week2 MOOCとは
Week3 オープンエデュケーションが進む背景と課題
Week4 オープンエデュケーションが変える学びと社会

各週に10~15分の講師映像+PowerPoint+ナレーション(テキスト表示)教材が5~6用意されており、それぞれに2問の理解度クイズが出題されます。また2週目と4週目には記述式レポートがあります。理解度クイズ(配点60点)とレポート(配点40点)の得点合計が57点以上となると本科目合格となります。

正直申しますと、理解度クイズの難易度はあまり高くありませんでした。国語的なセンスがあれば、内容が分からなくとも正答が分かる問題も多かったので、授業動画を全く閲覧しなくても、もしかしたら合格できたかも知れません。私が放送大学の科目履修でよく使う作戦です。

しかし、今回はすべての講義コンテンツを閲覧した上でクイズにチャレンジしました。手を抜かずに学習したくなる教材の品質が確保されていたからです。

■学習方法の特徴
履修者の理解度に合わせ、複数の学習方法が選択できることも今回のコンテンツの魅力向上に貢献していました。各週のコンテンツは
(1)重田先生の音声+動画の映像
(2)説明スライド(パワーポイント)
(3)上記パワーポイントスライドをダウンロードできるPDFファイル
(4)重田先生の音声の字幕

から構成されています(下記画像参照)。



じっくり学びたい人は、(1) (2)を中心に通常のeラーニング学習スタイルで学びます。ある程度前提知識があり、テキパキと学修したい場合は、(4)を読み、分かり辛いところだけ(1) (2)に戻るといった方法で学習することも可能です。さらに後で復習したい場合は(3)を活用する、といった具合に様々な学習スタイルでの学びを可能にしています。コガはテキパキ学習スタイルをとっていたのですが、字幕の読んでいるところをクリックすると、その字幕部分の(1)重田先生の音声+動画の映像にジャンプしてくれる機能があり、これがとっても便利で、学習のストレスを軽減してくれました。

また各週のコンテンツ以外に学習者のディスカッションボードが設定されています。コンテンツの中で、このディスカッションボードの活用を促したり、学習プロセスの中で活用を義務付けたりしていないのですが、かなり多くの発言とディスカッションが進行していました。

一般にeラーニングでのディスカッションボードは学習者間の相互作用や協調学習の観点、教える側と学ぶ側の距離を縮めることを意図して設置されます。しかし提供側の思いとは裏腹に、学習者が自発的な意思に基づきディスカッションボードを活用するケースは極めて稀です。なので、このコースでのディスカッションボードの活用頻度は、従来のeラーニングではちょっとありえない現象だったのです。その理由は一体なんだったのでしょう?

つい語りたくなるようなコンテンツだったからなのか?
元々学習している人の問題意識が高かったからなのか?
MOOCの世界は従来のeラーニングとは異なる学び手の意識が萌芽しているからなのか?
とても興味深い点です。

■北海道での公開講座
最後に8月8日に札幌学院大学で開催されたでの公開講座の概要をお伝えします。この公開講座はMOOCでの学習の「補習講座」という位置づけで開講されました。従いまして前半は、MOOCでのコンテンツを履修しての質疑応答、ディスカッションがあり、後半は最終レポートをグループで検討するという内容となっていました。

ちなみに最終レポートの内容は

オープンエデュケーションが広まる世界に生きるある架空の人物のストーリーを想像し、その人生にオープンエデュケーションがどのように関わっていくかを書いて頂きます。自分とは異なる主人公を設定し、その主人公が何らかのオープンエデュケーションのサービスを使い、そこで得た学びが主人公の人生を良くするストーリーを書いて下さい。

というものでした。最終レポートにはどういった観点で採点するかという基準(いわゆるルーブリック)も示されており、さらに、そのルーブリックを用いて他の学習者のレポートを評価するというアクティビティが、科目修了のための要素となっていました。オンライン学習では他の学習者の存在が希薄になってしまいがちです。そうした欠点を補い、学びを社会構成主義的なものに高めていく上で有効なアクティビティと言えます。

さて公開講座の報告に戻りましょう。
この検討グループのメンバーを決める際に使ったアイスブレイクが秀逸だったので紹介します。まず受講者全員に弁当の醤油入れのようなボトルを渡します(写真参照)。このボトルの中には匂いを発する飲食物が入っています。匂いにはカルピス、香辛料、ハーブ等いくつかの種類があります。同じ匂いのボトルを持っている人同士がグループワークのメンバーです。自分のグループのメンバーを探すため、全員で匂いを嗅ぎ合います。私は4人のメンバー中、1人だけ探し当てることができました。探し当てられなくても、最後にボトルに貼ってあるナンバーを、とある方法で計算すると自分のグループがわかる仕組みになっています。



そんな我々「カルピスフレーバー」チームが考えた最終レポートのストーリーは、千葉の勝浦に住む元サーファーのママが、子育てひと段落した後に、MOOCで環境問題の学習をしたことをきっかけに、海岸の美化清掃を行う活動を開始し、それが全国的な活動に広がっていくというものでした。他チームのユニークでかつありそうなストーリーを作りMOOCの活用を考え・発表していました。

■まとめ
公開講座については、意識の高い参加者が多かったので「補習」という位置づけより「発展学習」の場として位置づけた方が、満足度が高かったかなあと感じました。ただ参加者の雰囲気は、集まってみないと分からないので企画する側としては大変かもしれません。MOOCでの学習の途中で、「このコースに関連して、あなただったらどんな公開授業を受けてみたいか」といった内容のレポートを書かせてもよいかなと思った次第です。

いずれにせよ北海道まで行く価値のある公開講座でした。
ちなみにこの『オープンエデュケーションと未来の学び』の履修者数は7200名
平均年齢45.9歳。8割以上が短大卒以上の学歴だったようです。

vol.491:第1回河合塾FDセミナー2013参加報告記

2013年11月04日 | セミナー学会研究会見聞録
2013年度第1回河合塾FDセミナー

「教員の協働を促すアクティブラーニング学びの質保証をいかに実現するか」

日時:2013年10月12日(土)
ところ:河合塾麹町校
http://www.kawai-juku.ac.jp/info/active/
昨年に引き続き、今年も河合塾さんのアクティブラーニングセミナーに参加
して参りました。昨年の模様は、本メルマガバックナンバー「vol.466:第2
回河合塾FDセミナー2012参加報告記(http://goo.gl/NJFQKC)をご覧くださ
い。

■第1部 「2012年度大学のアクティブラーニング調査」結果報告
<概要>
まず、セミナーの最初に資格系(医歯薬学等)を除く2,231学科を対象にし
た「2012年度大学のアクティブラーニング調査」の結果の報告がありました。
昨年までの調査項目に加え、本年度は「深い学びにつなげる科目間の連携」
の有無や、「学びの質保障に向けた複数教員科目の設計や拓かれたゼミが実
施されているか」等を調査しています。評価の視点としては、「学科の目標
と科目の目標の連携」、「人に科目がつくのでなく、科目に人が付く体制が
できているかどうか」などを調査しています。結論としては、学生に獲得さ
せるべき能力の明確化がない限りAL科目はオモシロイ授業で終わってしまう。
学科が目標を組織的に設定し、ルーブリック等で明示化していくことが望ま
しいとしている。

<コメント>
今回の調査で「ゼミを外部から検証可能にし、開いているか」という項目が
新たな視点として追加されました。卒論に取り組む専門ゼミは量的にも質的
にも最高のAL科目としてカリキュラムに取り組まれている。であるならば、
そこで行われていることがゼミ外に認知される仕組みがあるべきだというの
が河合塾での論拠です。

しかし、多くのゼミは閉鎖的になっており、教員同士でも他の教員のゼミの
活動に対して首を突っ込んだり、そこに批判はおろかアドバイスすることす
ら、あまり行われていないのが現状ではないでしょうか?

コガの勤務校では昨年より複数教員により卒論の審査を研究計画段階、中間、
最終の三段階で実施することになりました。コガも審査に加わっているので
すが、他のゼミの学生の研究内容を見るのは大変新鮮です。指導教官のゼミ
に対する考え方や指導方針が各自の研究に色濃く反映されており、多様だか
らです。こうした多様性というのは、ゼミならではの特徴であるとコガは認
識しております。

ですので、ゼミを開くことには大賛成です。しかし、開いた後に、異なるこ
と(方法論等)をやっているゼミを是正し、単一的なゼミの形に矯正するの
は反対です。ゼミの多様性を共有し、その上で受容することこそが、大学の
学びを豊かにする源泉であるとコガは考えます。なにはともあれ、ゼミを開
き「隣のゼミは何する人ぞ」という現状を改めることは大事です。

■第2・3部 事例報告とグループ討議
<概要>
第2部と3部では事例報告がありました。第2部は名古屋学院大学経済学部、
第3部は立命館大学国際関係学部の事例報告でした。

名古屋学院大学の事例の中では「実践型教育手法」の話が参考になりました。
当初、座学で基礎を習得した後、応用というステップでALを行っていたそう
ですが、最近座学での基礎積み上げ教育についていけない学生が増えたため、
この流れを180度転換しました。まず最初に身近な経済問題の現場を体験し、
そこで基礎なくして現場の問題解決ができないことを知る。その後で基礎教
育をしっかり学ぶという「応用」→「基礎」の流れがこの「実践型教育手
法」です。

立命館大学国際関係学部の事例では、1年生のゼミ等複数教員担当授業にお
ける内容の平準化に向けて、教員向けのガイドラインを作成している点が興
味深かったです。特に2回生で実施しているGSG(グローバル・シミュレー
ション・ゲーム)という授業の取り組みに感銘を受けました。この授業はか
つて特定の教員の努力で実施されていたそうです。しかし、12年よりクラ
ス数増加に伴い、担当教員も増やしたところ「個人の努力」だけでは回らな
くなりました。そこでガイドラインを作成し、各教員が一定のレベルで授業
の運営ができる体制を整えたとのことです。

<コメント>
コガは前後期あわせて現在年間14の科目を担当しています。恐ろしいことに
そのうち10科目が複数教員担当授業で、そのうち4科目で科目担当主任を実
施しています。科目担当主任になるとシラバスの作成に始まり、授業で用い
る資料やパワーポイントの作成、全クラスの印刷教材の指示、さらには各担
当教員へ授業内容の説明を行ったり、授業後のフィードバックをまとめたり
と、単独で担当する科目の2~3倍の手間がかかります。かといってこの調整
や裏方業務で手を抜くと、担当している教員全員に迷惑がかかり、最終的に
は学生に提供する教育の質が低下してしまうので、責任は重大です。まあ今
のところは個人的な努力でこの部分をカバーしているのですが、このあたり
にもう少し組織的な支援があってもいいのではないかと思う今日このごろな
のでした(せめて手当ぐらい欲しい~~)

■第4部 河合塾からの提言と立教大学経営学部 BLPの紹介
<概要>
河合塾からの提言は大きく2つです。最初の提言は、学部や学科の教育目標
をより具体的なものにしようというものです。なぜなら、現状ほとんどの大
学において学部や学科の教育目標がただの目的(アウトカム)レベルの表記
に留まっており、そのためAL科目の目標が焦点の定まらないものになってい
るからです。そこでこれからの大学は「入学してきた学生に最低限でも○○
の能力を身につけさせ送り出すこと」といったミニマムスタンダード的な発
想でアウトプットを明確にする必要があるというのが第一の提言です。

第二の提言は、「ネットワーク型学び」の提言です。科目間の連携を密にし
て「ネットワーク型学び」を実現することが、教育目標の達成や、高次のAL
を実施に不可欠です。しかし、多くの大学では科目間の連繋が希薄です。そ
こで教員の協働体制を確立し、科目間の連携を図ることで「ネットワーク型
学び」を実現しようというのが第二の提言です。

こうした河合塾の提言を受け、立教大学経営学部でのBLP(ビジネスリーダ
シッププログラム)の紹介がありました。BPLでは1年次後期のBL1に始まり、
BL2、BL3、BL4と3年次まで、スキル強化とプロジェクト活動が交互に推進
されるAL科目となっています。当初は発表者である日向野氏個人の努力で始
まった科目であるが、現在は学科の組織的活動として推進されるようになっ
ている。成果としては、立教大学全学科のカリキュラムの中でもっとも評価
の高いプログラムとして学生から評価されているそうです。

<コメント>
学部の教育目標を、アウトプットを明示したより具体的なものに変えていく
という点については、半分Agree、でも半分は納得できないというのがコガ
の偽らざる思いです。専攻によっては数値のような具体的なアウトプットを
教育目標として掲げにくい分野もあるからです。実際、後半の立教大学の日
向野先生からは「リーダーシップ開発の教育目標は定量化しづらい」といっ
た発言がありました。このあたりはインストラクショナル・デザイン的にも、
根源的な課題が横たわっていそうなのであまり深追いはしませんが、大学も、
アクティブラーニングの浸透に伴い、今まで避けてきた「適切な教育目標の
設定」という議論に、そろそろ本腰を据えて取り組まなくてはならなくなっ
てきたようです。

■まとめ
今年のセミナーは、昨年より「組織」や「協働」がキーワードとして強調さ
れていました。事例等でも教員個々のAL運営能力より、組織としてガイドラ
インや仕組みを作ってALを実施してく点に力点が置かれていました。以前大
学の認証評価機関の一つで働いていた知人がセミナーに参加していたので、
その辺りの感想を聞いてみたところ、下記のような趣旨のコメントが返って
きました。

「確かに組織的に取り組んでいると認証評価の面では有利である。しかし、
現実には、教育は教員個々のインストラクションの技量に負う部分が大きい
ので、組織の仕組みがきちんとできているからと言って、現場で良いALが実
践できているという確証はない。サッカーでフォーメーションや戦術がきち
んとしていても、結局個の力がなければ勝てないのと同様、教育でも個の教
員の力は大事である。組織的取り組みが必要なことは言うまでもないのだが、
それは必要条件であって決して十分条件ではない。形ができていること=質
保証ではないことを常に考えなければいけない」


よいAL実践には、「組織」と「個」両方が高い次元でそろう必要があるとい
うことなのだと思いますが、みなさんはどう思われますでしょうか?
<文責 コガ>

vol.487:「PC Conference2013 東京」参加体験記

2013年09月08日 | セミナー学会研究会見聞録


「暑い夏に、教育についての熱い議論をかわす」

CIEC(コンピュータ利用教育学会)の「PC Conference2013」が2013年8月
3日~5日の日程で開催されました。本年度の開催校は東京大学駒場キャンパ
スです。神奈川県在住のコガにとって出張せずに参加できる学会は非常にあ
りがたかったです。しかも学会開催期間が前学期の試験期間に被っていたの
で本当に助かりました。実際には業務の都合上2日間しか学会に参加できな
かったのですが、今回コガが関心を持った講演等についてお伝えします。

なおこのカンファレンスは、毎年論文集や発表資料をすべてwebサイトで公
開しています。興味をお持ちになった方は下記の大会サイトをクリックして
みてください。
http://gakkai.univcoop.or.jp/pcc/2013/papers/index.html

>■【基調講演1】教育イノベーションを問う:東京大学の試み
(山内祐平 東京大学)

【概要】
過去10年の山内研究室を中心とした教育イノベーションの取り組みについて
の講演です。04~06年にかけては携帯電話を活用した『親子でscience』。
07~09年は、MITのTEALを参考につくった駒場アクティブ・ラーニング・ス
タジオ(KALS)での様々な教育実践。10~12年は、facebookを活用したソー
シャルラーニング「Socla(ソクラ)」プロジェクトの実践。13年以降は
MOOC(Massive Open Online Courses)を利用した反転授業の実践。その時
代の先端メディアを活用して新しい学びの形を常に追求しています。といっ
ても流行だけを追い回しているだけではありません。ポイントは「キーワー
ドに振り回されない」こと。ある教育実践を行う前提として「それが学習者
の利益になっているか」「持続的な展開が可能か(研究で終わらない)」
「局所最適解になっていないか」を常に意識してきたということです。

【コメント】
山内先生のグループでは、2004年から2012年の9年間続いたベネッセ先端教
育技術学講座(BEAT)を中心に様々な取り組みや情報発信を実践してきまし
た。今回ご紹介いただいた4つの取り組みは、その膨大な活動の中の一端に
すぎません。BEATでは、52回の公開研究会「BEAT Seminar」、学習理論や学
びに関する最先端の情報を届けてきたメールマガジンBEATING(全106号)、
また今回発表いただいた4つのプロジェクト以外にも、POD Castを用いた
「なりきりEnglish!」プロジェクトや、データマイニングの技術を学習に活
用した「学習ナビ」等の先進的な実証実験も行っています。

残念ながらBEATの活動は2012年度で終了してしまいましたが、その貴重な資
産はすべて下記のWebサイトに残っています。
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/archives/beat/index.html
これは大変貴重なアーカイブです。52回のセミナーの記録をこれだけ詳細に
残すというのは至難の業ですし、様々なプロジェクトについては、その成果
をまとめた学術論文もあり、このサイトから全て閲覧可能となっています。
おそらく「未来の学習のありかた」ということを「学ぶ」上で、最も有益な
日本語サイトの一つです。ぜひアクセスしてみてください。ちなみに2005~
2006年のセミナーの記録の中にコガも何回か登場しております。

>■【基調講演2】「MOOCのインパクトと高等教育の未来」 
重田 勝介(北海道大学)

【概要】
昨年より全米の大学業界を震撼させているMOOCの現状と今後の動向について、
現在日本で一番詳しい重田先生より講演いただきました。詳しい講演内容に
つきましては、スライドが下記のWebサイトでシェアされているのでそちら
を参照願います。
http://www.slideshare.net/katshige/moocs-24339144
MOOC((Massive Open Online Courses)は、大学の外にあるサービス事業者
によって運営されています。最大の事業者であるCourseraはベンチャーキャ
ピタル等から6000万ドルもの資金を集め、現在80大学400以上のコースを運
営しています。延べの登録者は400万人にも達しているそうです。東大でも9
月から「From the Big Bang to Dark Energy(ビッグバンから宇宙の終わ
り)」という科目をスタートしていますが、予約だけで4万人を超えており、
そのほとんどが日本以外からの申込みということです。

【コメント】
MOOCについては、以前本メルマガでも取り上げましたが(vol.480 MOOCと
OCWの違いhttp://goo.gl/F6hD6b)、重田先生の講演を聞き、尋常ではない事
が起きているのだなあということを改めて実感しました。と同時に「MOOCの
コース修了率は10%と低めだ」という事を聞き、その先行きに不安も感じまし
た。まずは百聞は一見にしかず、コガも早速「From the Big Bang to Dark
Energy」を登録したのですが、まだイントロダクションのビデオ1本しか見
ていません。うーん。

>■【イブニングセッション】プレゼンテーションの授業を通して考える,
気づきと学び(角南 北斗)

【概要】
CIECのPCカンファレンスには、イブニングセッションというのがあります。
これは参加者が対話やグループワークをする中で学びを深めていくタイプの
セッションでして、軽食やビールを飲みながらきわめてゆるく開催されます。
今回は内容はもとより、東京大学駒場キャンパスのアクティブ・ラーニング
教室(21 KOMCEE~理想の教育棟)を使ってイブニングセッションが行われる
ということでしたので興味津々で参加しました。教室の特徴としては、壁一
面がホワイトボードになっていたり、長方形でない組み合わせタイプの机が
あったり、廊下側の壁面がガラス張で、から学習風景が見えるといったとこ
ろが印象に残りました。

さて、セッションの内容ですが、日常的な出会いの場面をプレゼンテーショ
ンの機会として捉え直し、どう自分のことを相手に伝えるか、相手の情報を
引き出すかといったことを自分のオリジナル名刺を作成して体験学習すると
いうものでした。参加者は大学の教員から学生まで様々というのもCIECなら
ではの特長です。

【コメント】
角南先生のセッションは、すぐ自分の授業やゼミで応用できそうな内容を紹
介いただけるので、毎回参加するのを楽しみにしています。ちなみに今回の
セッションの内容は「プレゼンのプ」(http://p.booklog.jp/book/71176
という電子書籍で紹介しています。なんとこの本の価格は100円です。ぜひ
みなさん購入しましょう。

>■【自由研究】教養教育科目における自学学習と講義の振り返り実践報告
(佐賀大学 藤井俊子)

【概要】
佐賀大学では2011年よりラーニングポートフォリオを導入しています。それ
を「教育デジタル表現」という教養科目で、授業時間外での自学学習課題の
実行を促すために活用しており、その活用方法と効果について発表いただき
ました。システムはMoodleのフィードバック機能を用いており、多くの大学
ですぐに活用できるものです。最大の成果としては、ポートフォリオを活用
することで、個人ワークの実施のエビデンスが自動的に保存される点です。
授業時間外の学修時間の確保が叫ばれる中、そのエビデンスを確保する上で
参考となる取組でした。

【コメント】
この発表以外にも何件かeポートフォリオに関する発表があったのですが、
あまりうまくいっていないという報告がありました。また発表を視聴してい
た某大学のキャリアセンターの職員の方からも「本学も高いお金を払って
eポートフォリオシステムを構築し全学導入したが見事に失敗した」との報告
もありました。そのような中、単独の科目での活用ですが、しっかり授業時
間外の学習時間を確保し、それを可視化しているという点でeポートフォリ
オの可能性を認識しました。コガも自学のポートフォリオの立て直しをなん
とかせねばと考えていたので大変参考になる発表でした。

>■【まとめ】
コガがeラーニングという仕事から離れて今年で6年目になります。その間SN
Sが流行ったり、MOOCのような新たなサービスが出たり、世の中は変化し続
けています。そうした変化に対応することも重要ですが、山内先生が基調講
演でおっしゃっていたように「キーワードに振り回されない」ことの重要性
をますます感じた2日間でした。<文責 コガ>。

vol.483:ラーニングコモンズをめぐる冒険(大学教育学会第35回大会参加記)

2013年07月15日 | セミナー学会研究会見聞録

(写真は名古屋大学ラーニングコモンズ紹介Webサイトより)

■ラーニングコモンズとは

企業の人材開発に関わっている方にはあまり馴染のない言葉かも知れません
が、最近、大学では「ラーニングコモンズ(以下LCと略)」という言葉が
話題となっています。「多様な利用形態や学習スタイルに対応するために、
学習支援サービス、情報資源、設備を総合的にワンストップで提供する学習
支援空間(日本私立大学協会 教育学術オンライン(http://goo.gl/7wO1H)
より引用」というのが一般的な定義のようです。当初は情報支援サービス
の利便性から図書館の一角にLCを設置するケースが多かったのですが、最近
は図書館以外に設置する大学も増えています。
6月8日~9日に東北大学で開催された大学教育学会第35回大会では、このLC
に関する発表や情報交換の場が数多くありました。そこで今回のメルマガで
は、本大会でのLC関連の発表を整理し、大学ごとに取り組み状況をまとめて
みました。

1)名古屋大学の取り組み(近田政博先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://lc.nul.nagoya-u.ac.jp/
名古屋大学のLCは、入口脇にタリーズコーヒーのある中央図書館の中に2009
年オープンしました。同大学の図書館事務部はパート・派遣社員等含め総勢
55名、さらに図書館付属の研究開発室もあり充実した組織体制になっています。
LCには、共同学習スペース、大学院生によるサポートデスクなどがあります。
開設以降、約10%図書館の利用者が増加したそうです。しかし、箱ものを作っ
たからといって利用が劇的に増えるものではないので、学習の中でいかに図
書館を活用すべきかをPRするために教員向けのポスターチラシ等を作成し、
授業と連動した活用を促進しているそうです。

2)三重大学の取り組み(長澤多代先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://goo.gl/GiJNr
学士課程の在籍者数6,142名と国立大学としては比較的規模の小さい大学で
すが、PBLを導入した授業科目が学士課程の科目のうち37.5%を占める等、
様々な教育改革を推進していることで有名なのが三重大学です。附属図書館
は3階建てで、

1F コモンズエリア(話してもOK)
2F Quietエリア(静かにひそひそ、PCもOK)
3F silentエリア(PCのタイピングもNG)

と階ごとに学習の目的に応じた制限を設定しています。また図書館に隣接す
る情報科学館という建物内には6つのPBL演習室があり、台形型の机、可動
式のホワイトボードなどを設置しているそうです。また同館2FにLCのエリ
アを設け、PCステーション、グループ学習スペース等を設けています。そう
したLC内での学生の学びの実態について、現在観察調査を実施しています。
それによるとオープン当初は学生が慣れていないためか、LCなのに黙って勉
強している、せっかくの可動式の机を動かさないで使う等の状況が観察され
たそうです。

3)東北大学の取り組み(米澤誠先生のラウンドテーブルでの報告より)
http://goo.gl/KZIvF
東北大学のLCの特徴は、アフォーダンス(アフォーダンスについての解説は
http://goo.gl/cBzzXを参照のこと)を意識して設計されている点にありま
す。つまりLCという空間にいることで、学生の自主学習やグループ学習を自
然に誘発するような設計となっています。東北大学で最初にLCを立ち上げる
際、最も反対したのは法学部の先生方だったそうです。「静かに六法を開き
勉強するのが、正しい図書館での学びの在り方だ」という固定観念が法学部
の先生には強かったそうです。しかし、実際ふたを開けてみると、法学部の
学生が最もLCを活用し、法律の判例などをグループで学習しているそうです。

4)同志社大学の取り組み(清水亮先生の自由研究での発表より)
http://goo.gl/Ou4Ze
同志社大学では2012年に良心館という3F建ての日本最大級のLCをオープン
しました。設備のみならずサポート体制など、現在考えられるLCの機能と
サービスをほぼすべて網羅した大変素晴らしい施設となっています。以前よ
りPBL等の学生が主体的に取り組む授業を積極的に取り入れている大学なので、
こうしたLCの空間が生きてくるのだと思った次第です。上記URLをクリック
すると同大学のLCのパンフレットがダウンロードできますので、ぜひ参照願
います。

5)大阪大学の取り組み(堀一成先生の自由研究での発表より)
http://goo.gl/mWabl
大阪大学の豊中キャンパスにあるLC「コモンズ・スペース」を、教員・図書
館員・TAがどのように協働して運営しているかについて報告いただきました。
図書館では、レポートの書き方講座やプレゼン講座を、教員・職員・TAが協
働して運営しているそうです。90分×3回の講座で、年々履修者は増加して
いるとのことです(H24年は105人)。教員が教材開発、職員が広報・事務処
理を担い、TAが講師や講師補助を担当と、見事な協働&分業体制が確立して
います。またレポートの書き方以外にも、論文の書き方、文献の読み方、プ
レゼン入門等を実施しているそうです。こうした協働はLCという空間ができ
たことにより実現できた面もあるそうです。

6)千葉大学(竹内比呂也先生の自由研究での発表より)
http://alc.chiba-u.jp/concept.html
千葉大学ではアカデミック・リンクというコンセプトのもと、アクティブ
ラーニングスペース・コンテンツラボ・ティーチングハブの3つの機能を用
いて、主体的学びの実現を目指しています。今回の発表では、図書館に隣接
する新設のN棟に設置したアクティブラーニングスペースが学生に与えた影
響をアンケート調査で明らかにし、報告いただきました。図書館での学習に
好ましい場所は?という質問には、静寂エリアを選択した学生が27%だっ
たのに対し、会話可能なエリアを選択した学生は40.6%であったそうです。
また静寂エリアで一人で勉強している学生であっても、分からないことがあ
ると会話可能なエリアに移動して仲間に質問するなど、コモンズ内において
学習のスタイルを柔軟に変えて空間を活用する状況が見られたそうです。
また「シーンとした図書館よりガヤガヤしている方が行きやすい」と回答す
る学生もおり、LCの登場がインセンティブ・デバイド(LCのような施設を作
ることにより、学びに対する意欲の格差がさらに広がってしまうという問題)
の軽減にも貢献していることが分かりました。さら学生がホワイトボード何
かを書き込んで学習している姿が、他の学生に対し、勉強に対する意欲を喚
起している実態も明らかになったそうです。

7)大正大学(小幡誉子氏の自由研究での発表より) 
http://goo.gl/2u110
学生数も少なくキャンパスも狭小、LCを設置するには不利な環境の中で理想
的な実践を行っているのが大正大学です。設置にあたっては、教務・図書
館・キャリアセンターの若手職員と教員が協働で検討し、その後の管理・運
営を行っています。もともと「大学が狭く、学生の居場所がない。学生同士
がキャンパス内でコミュニケーションをとる場所がない」という課題を解決
するためにLCづくりに着手した点が、大きな特徴となっています。「従来の
図書館は敷居が高くて近づけない」と考える学生でも入りやすい場所にする
ため、LCの中にはコンシェルジュを置き、学習の相談のみならず、就職支援
等も行っているそうです。ちなみにLCは図書館とは別の場所に設置している
そうです。

■感想・コメント
ラーニングコモンズの「コモンズ」とは本来「入会地(いりあいち)」とい
う意味だそうです。入会地とは村落共同体の中で、みなが共同で使う土地の
ことです。LCでの共同体の構成員には、学生だけでなく、職員や教員を含め
た学びに関する様々なステイク・ホルダーが含まれます。今回発表後のディ
スカッションの中で、東北地区の大学図書館協議会のメンバーの方が「協議
会の打ち合わせでLCを使用した際、LCを考えている我々自身が今までそれを
使ったことがないことに気が付いた」と述べていたのが大変印象的でした。
学生だけでなく、教員や職員、場合によっては、大学の外の人も含めてこの
空間を使ってこそ、本来の意味でコモンズになるのではないかと思った次第
です。そして、多くの大学の話から、LCの設置・運営に関するポイントは

・設備を作っただけではだめ
・教員と様々な部門の職員の協働が重要
・教員の中の学習観を変える

という点にあることを認識しました。

+「天板が白く、長方形でない机」
+「可動式のホワイトボード」
+「ビビッドな色のおしゃれな椅子やソファ」
+「透明な仕切り」
+「白い壁」

といったハード面さえ整えば、LCは出来上がり!というイメージが先行して
いますが、実はそうした設備より、当たり前ですが人や組織が大事なのです。

といった事を書きつつ、10年前にeラーニングの導入で色々と検討を重ねて
いた際も似たような事を言っていたのを思い出しました。
(文責:コガ)

vol.479:第9回通信教育制度研究会参加記~行為の体系としてのオンライン大学を考える~

2013年05月19日 | セミナー学会研究会見聞録

2013年5月11日に開催された第9回通信教育制度研究会に参加しました。この
研究会は月1回のペースで開催されており、主として大学通信教育に関連し
て毎回1人の発表者が問題提起を行い、それについて皆がディスカッション
するという方法で進められます。研究会の概要については2012年7月1日発行
の本メルマガ「vol.457:通信教育制度研究会に参加してきました」にてお伝
えしておりますので、詳細はそちらをご覧ください。
Vol.457:通信教育制度研究会に参加してきました

さて、今回参加した研究会は「通信制オンライン大学の現状と将来展望-グ
ランドデザインから学生募集まで:実務者が語る本音」というタイトルで、
ビジネス・ブレークスルー大学(以下BBT大学と略)の宇野令一郎様と新垣
円様にご発表いただきました。量・質双方の面で横浜家系ラーメンの如く大
変濃厚な発表内容だったため、そのすべてをお伝えすることはとてもできま
せん。そこで例によってコガが興味を持った部分にフォーカスしてお伝えし
たいと思います。

1)フェニックス大学の成熟
BBT大学の話に入る前にオンライン大学の現状というマクロなお話しがあり
ました。その中でアメリカのオンライン高等教育を語る上で欠かせないフェ
ニックス大学の近況についての報告がありました。大学院時代の修士論文で
フェニックス大学を中心としたアメリカの営利大学について研究していたコ
ガにとっては、非常に関心のある領域です(ちなみに現在コガが乗っている
ロードバイクも「フェニックス」という商品名だったりします!(^^)!)。

フェニックス大学はアポログループという会社が経営しているのですが、そ
の株価は、あのリーマンショックの後も上がり続けました。当時は「教育ビ
ジネスは強いなあ」などと思っていたのですが、その後2010年以降株価は下
落し、現在17ドル程度と低迷しているそうです(ピーク時は89ドル)。また、
この大学は全米200か所以上にキャンパスを設置して通学制の大学も展開し
ていたのですが、2013年に115のキャンパスを閉鎖し、現在ピーク時の半分
の112キャンパスを残すのみとなっているそうです。その理由としては、オ
ンライン大学間での競争激化、高いドロップアウト(退学者)率、教育ロー
ンのデフォルト率がマスコミで喧伝された等が挙げられています。

コガの個人的な推測としては、これはオンライン大学だからとか営利大学だ
からというのでなく、アメリカにおける大卒学生のエンプロイアビリティの
低下が原因ではないかと思っております。最近では東部の有名校を卒業して
も就職が決まらない学生が普通にいるようです。さらには高い学費と学生
ローンが追い打ちをかけます。アメリカの大学は授業料と寮費で年間5万ド
ルぐらいかかることも普通なので、ほとんどの学生は学生ローンを組んで就
学します。従って卒業時に1000万円近くのローンをかかえる学生も少なくあ
りません。返済のあてがあるのなら良いのですが、こうも就職難が続くと、
そのリスクを負ってまで大学に進学する人は少なくなる筈です。その影響は、
まずステイタスの低い大学群に現れるので、フェニックス大学の凋落につな
がったのではないかとコガは考えています。

2)9割が社会人学生
OECDの調査によると、大学入学者のうち25歳以上の人はOECD加盟国の平均で
21.1%、それに対し日本は2.0%と10倍以上の開きとなっています。社会人
大学生の比率が低いことは国の諮問機関である中教審でも課題として認識し
ており、「(日本は諸外国と比較して)中等教育修了後ただちに高等教育に
進学する者の割合が高く,一旦就職等した後に高等教育に進学する者の割合
が非常に低い」(中央教育審議会 大学規模・大学経営部会(第5回) 配
付資料 資料3-1 大学における社会人の受入れの推進について(検討試
案)平成21年12月1日http://goo.gl/yTH8r より)としています。

そんな日本の一般的な大学の状況とは対照的に、BBT大学はすべての学習が
オンラインということもあり、社会人学生が9割近くを占めているとのこと
です(平均年齢30歳)。また入学生のうち、高卒は50%で、学士25%、大学
院卒4%という構成となっており社会人のリカレント教育の場としても有効
に機能しているようです。
オンライン教育であることに加え、ビジネスパーソンとして必要な知識やス
キルを教えていること、つまり「器」だけでなく「中身」が社会人のニーズ
に合致していることが、この高い比率の背景にあるようです。もっとも学長
の大前研一氏としては、数は少ないものの高校卒業したばかりの若者を中心
にグローバルリーダーとして活躍する人材に育成したいという思いがあるそ
うで、その辺りは理想と現実のギャップがあるのかもしれません。

3)オンラインディスカッションへのこだわり
今回の発表を聞いていて最も感銘を受けたのは、BBT大学の「オンラインデ
ィスカッションへのこだわり」です。現在オンラインディスカッションとい
えば、掲示板に文字を書き込む形式だけでなく、複数人による音声チャット、
はたまた複数人によるテレビ会議システムなど、様々な方法が考えられます。
しかしBBT大学では「書くことをベースとしたオンラインディスカッション」
にこだわっているそうです。それは、書くことによって論理的思考力を養う
ことに加え、オンライン上の発言やアドバイスが、未来必要になった時にい
つでも引っ張りだせるからだそうです。実際卒業生であっても、年額12,000
円を支払えば、BBT大学のシステムにログインでき、かつて在学していた時に
学習していたコンテンツや、オンラインディスカッションのスレッドを閲覧
するサービスも提供しているそうです。

現在、大学教育の質保障の議論のなかで、学習のアウトカム(成果)をどう
測定するか、そしてそれを証明していくかが大きな課題となっています。従
来の大学ですとその人の学びの軌跡は「成績証明書」という無味乾燥なペー
パーでしか他者に示すことができませんでした。しかしオンライン教育の場
合、すべての学習アクティビティ(テスト、ディスカッション、閲覧時間、
質疑応答など)がLMS上にログとして保存されます。こうしたログを個人の
学びの記録として整理し、ゆくゆくはそれを第三者に示すことができるよう
になったとした時、学習アウトカムのエビデンスとしてかなり強力なツール
になるのではと思った次第です。

4)特区832号の適用とその課題
BBT大学は、構造改革特区のみで認められた特区832という特定事業の枠組み
で運営されている大学です。特区832とは「地方公共団体が、その地域内に
おいてインターネットのみを利用して授業を行う大学の設置を促進する必要
があると認める場合には、当該大学の教育研究に支障がないと認められる場
合に限り、インターネットのみを利用して授業を行う大学の設置に当たって、
大学設置基準等に規定する校舎等の施設に関する基準によらないことを可能
とする」規制緩和の措置のことを指します。通信制大学では、収容定員に応
じて校舎等の施設の面積が決められています(大学通信教育設置基準第10条
http://goo.gl/nsKpG)。通信制であってもスクーリング等の面接授業にお
いて校舎を使うからというのがその背景にあるようです。ただし、すべての
教育活動をオンラインで実現できるとするならば、その限りではないという
のが、特区832の考え方です。

しかし、特区832を遵守するため、現実には奇妙な事が起こっているそうで
す。今回発表の際に見せていただいた1枚の写真がその状況を見事に映し出
していました。その写真では、ラウンジのような部屋で数名の学生が大型モ
ニターで放映されている授業を視聴しています。モニター横には「ON AIR」
と書いた赤いランプが点灯している防音ドアがあります。その防音ドアの向
こうはスタジオで、今まさに学生が視聴している授業を収録しているのです。
15回の最後の授業ということで、学生は先生に会いに来ているのですが、
特区832の規定があるため「リアル」な授業を受けることはできず、インター
ネット配信している授業動画を壁一枚隔てたラウンジで視聴しているのです。


結びにかえて「スクールと学校の違い」
最近桜美林大学の舘昭先生が、『IDE現代の高等教育(550号)』の「アメリ
カの大学組織」という論考の中で、「学校」と「スクール」の違いについて
非常に示唆に富む内容を執筆されています。学校という字の「学」の冠の部
分は建物の草ぶき屋根の象形であり、また校という字も「教育の場・学びや、
陣営で大勝のいるところに設けられた柵」という意味で、「学校」は施設・
入れ物の意味として認識されます。一方のスクールは、スクーリングという
言葉があることからもわかるように、場所というより「授業や教育課程」と
いった知的な「組織的行為」としての意味が主で、「入れ物」としての意味
は従なのだそうです。

この論考を読み、オンライン大学とは、ICTの力を活用し「入れ物」として
の学校という呪縛から脱し、「行為の体系」としての大学組織を目指す試み
だったのではないかと考えるようになりました。とすると問題の本質は特区
832でなく、そもそも大学設置基準の中で校地や校舎を規定する意味にある
のではないでしょうか。今回の研究会は、「通信制大学かつ株式会社立かつ
オンライン大学」という非常にニッチな世界がテーマとなっていましたが、
そこで議論した内容は、もしかしたら日本での大学の在り方を本質的に問い
直すような普遍的な意味を持っていたのではないかと参加から1週間経って
思うようになりました。

なお同研究会は今後も月1回のペースで実施していくそうですので、興味の
ある方は下記のWebサイトをご確認願います。次回は6月15日だそうです。
通信教育制度研究会

<文責 コガ>

vol.472:第8回「まなばナイト」参加記

2013年02月11日 | セミナー学会研究会見聞録
とき:2013年2月9日 19:00~
ところ:品川 富士通ラーニングメディア 品川ラーニングセンター 
10階 「CO☆PIT」
http://www.manabanight.com/event/manabanight8

■「まなばナイト」とは?
先日、メルマガ執筆チームのシバタ氏と一緒に第8回の「まなばナイト」に
参加して参りました。「まなばナイト」とは、熊本大学大学院 教授システ
ム学専攻(以下GSISと略)の修了生が2か月に一度ぐらい開催している参加
型ワークショップです。eラーニングの今と未来を、アカデミックな見地も
交えながら一方通行の講演だけでなく、ドリンクとおつまみをつつきながら、
参加者皆でワイワイ考える場だそうです(参考 まなばナイトfacebookペー
ジ http://www.facebook.com/manabanight)。

コガとシバタはGSISの開学時から「教育ビジネス経営論」という科目を一緒
に担当し、教える身でありながらこの専攻からとても多くのことを学んでお
ります。そもそもコガにとって、この専攻で非常勤講師を担当したことが、
現在の大学教員になるきっかけにもなっていた訳でして、熊本方面には足を
向けて寝ることができないぐらい恩義を感じています。そんな熊本大学GSIS
の一期生であるU氏から「まなばナイトで講演してほしい」と依頼されれば、
断る訳にはいきません。ましてやコガは本年度でこの科目の担当を引退する
ことになるので、みなさんにお別れのご挨拶をさせていただく意味でも講演
を快諾させていただきました。とは言うものの、一人では心細いので、シバ
タ氏に声をかけて2人で登壇することになったのでした。

■テーマ「私が実務家教員になっても・・・・」
「まなばナイト」の趣旨は、「eラーニングの今と未来を考える場」となっ
ているものの、コガ自身最近すっかりeラーニングから遠ざかってしまって
いるため、大したお話しができそうもありませんでした。そこで、ちょっと
話の視点を変えさせていただき、社会人が大学院で学んだ後のキャリアチェ
ンジ~特に大学教員になること~をテーマに色々とお話しすることで許して
いただくことにしました。
当日は以下の3つの内容をお話ししました。

0)「実務家教員」概論
一般論としての「実務家教員」について簡単にレクチャーしました。「実務
家教員」が求められる背景として、第三段階教育の考え方をお話しし、そこ
で求められる教員像について私なりの考えを披露しました。内容を要約しま
すと、かつての「実務家教員」は専門分野の高度かつ最先端の知識や実践に
役立つ知識を伝えればよかったのですが、最近の「実務家教員」に求められ
るのは、社会人基礎力の養成やキャリア教育といった汎用的ビジネス教育で
あったり、学内のFDの担当といった大学業務の忠実なる運用者であったりと
変わりつつあるといったことを話しました。

1)コガ・シバタの現在・過去・未来?
二人はそもそもなぜ実務家教員になったのか? 以前は何をやっていたの
か? 今の主たる仕事は何か? これからどういった方向に向かおうとして
いるのか?等について、日テレの「おしゃれイズム」風?に話すつもりだっ
たのですが、コガの方はかなりグダグダになってしまいました。シバタ先生
の発表は女医さんや看護師のタマゴ達との2ショット写真満載の「現在」が
眩しすぎました。

2)そうだ、シバタさんコガさんに聞いてみよう!
メルマガで最近好評の「ハイブリッド教員の ふぁかるてぃ相談室」を生放
送で挑戦してみました。当日出た質問としては、「アカデミックな質問」
「ご自身のキャリアに関する質問」「職場の悩み」「eラーニングビジネ
ス」と多岐にわたっていました。その中でコガの印象に残ったのは、とある
教育ベンダーの営業の方からの「自分の考えやどんな研修を実施してほしい
かをはっきり話してくれない企業の人材開発担当者がいて困っています。ど
うしたらよいでしょうか」という質問です。

すかさずシバタ氏からの回答は
「そりゃ、願ってもないお客さんじゃないですか!あなたのやってみたい研
修の提案がどんどんできるまたとない機会と考えましょうよ。で、その際一
つだけ注意したいのは、その提案をあなたが考えたのでなく、相手の無口の
担当者があたかも考えたように提案をしつらえることです。そうすれば相手
の手柄にもなりますし、双方ハッピーになれるじゃないですか?むしろ生半
可な知識でどうでもいい些末な事に一々注文をつけてくるクライアントに比
べれば神様みたいな人材開発担当者ですよ。大事にしてください」
というものでした。
さすが生放送でもシバタ先生の回答は切れまくっていました。

■まとめ
まなばナイトでは、GSISのボスである鈴木克明先生が毎回クロージングのお
話しをいただくことになっています。我々2人の天衣無縫・荒唐無稽な話を
終始神妙な顔つきで聞いてらっしゃったので、卒論の口頭試問を受ける学生
のように戦々恐々とそのお話しを聞いておりました。アカデミックキャリア
の教員も現在は色々と外で実務をこなすのが普通になっているし、学内では
予算の獲得等で実務に奔走しているので、実務家教員ばかりがそうした大学
教育の変化に対応しているわけではないというご指摘をうけました。確かに
最初のコガの概論が実務家教員擁護(自己弁護?)に偏った内容だったので、
的を射たコメントでした。集まった皆さんも終始積極的に参加いただき、コ
ガとしても学ぶところの多い一夜でした。次回はぜひ参加者側で参加したい
と思った次第です。<文責コガ>

vol.470:人材育成学会 第10回年次大会 参加記

2013年01月13日 | セミナー学会研究会見聞録
年を跨いでの報告となってしまいますが、今回のメルマガでは昨年12月9日
に立教大学池袋キャンパスで開催された「人材育成学会 第10回年次大会」
での発表について報告します。

会場校はコガが28年前に卒業した大学です。今回久しぶりに年の瀬の母校を
訪れ、昔と変わらない1号館やチャペルの佇まいに感動しました。一方で昔
「山小屋」と呼ばれた部室のあった界隈は取り壊され、新しい教室棟がいく
つも新設されていました。そして、それら新旧の建物がうまく調和し魅力的
なキャンパス空間を形成していました。大学というのは、教える内容はもち
ろんのこと、物理的なキャンパスを上手に設計し、それを存続していくこと
がとても重要だという事を思い知らされました。

さて、本題の学会です。今回のテーマは「女性のキャリアを考える:企業と
学校教育の連携」ということで、同大学の教授でマスコミでも有名な香山リ
カ先生の基調講演が行われる等、大変充実した内容となっておりました。今
回は大会テーマにちなんで、2名の女性研究者のキャリア教育に関する発表
についてご報告いたします。

>ゼミ活動を用いたキャリア教育の一考察
>(小泉京美 相模女子大学)
【概要】
学生時代に達成感を経験し自己効力感を高めることが、キャリア形成に影響
を与え、学生の就職活動にも良い影響を与えるという仮説のもと、小泉先生
がゼミで実践されているプロジェクト型授業の内容とその成果について発表
いただきました。

ゼミは3年生が16人、4年生が14人という構成です。今回発表のあった活動は
「就活シミュレーション」「コンテスト参加」「ボランティアプロジェク
ト」等です。これらの活動の中で圧巻だったのは、2011年に挑戦したJATA
(日本旅行業協会)主催のビジネスコンテストです。この年のコンテストの
テーマは、東日本大震災の復興支援の一環として、世界の国々から受けた支
援に対して日本を代表して、感謝の意を表す活動を提案するというものでし
た。小泉先生率いる相模女子大のチームは、子ども用車椅子をリユース・リ
サイクルして、タイの身体障害児に送り届ける企画を立案し、見事優秀企画
に選出されました(関連サイトhttp://goo.gl/5J0va)。

さらに企画立案に留まらず、昨年の2月に車いすをタイに送り届けることま
で実践しています。そして4年になっても継続してプロジェクト活動に参画
している学生は、3年生で終了した学生よりも内定率が高くなっているとの
ことです。

【コメント】
小泉先生のゼミの取り組みについては、学会の前から気になっていました。
昨年12月に開催された社会人基礎力グランプリの関東地区大会において見事
優秀賞を受賞し、関東代表として決勝大会に駒を進めていたのを知っていた
からです(https://www.kisoryoku.net/grandprix/ 参照)。同予選会には
コガの研究室のお隣さんであるK川先生の学生が参加しておりまして、その
時の相模女子大のプレゼンについて「気合いが違う、取り組んでいることレ
ベルが違う」と絶賛していました。

小泉先生は元航空会社にお勤めになっており、社会人大学院を修了後、大学
教員になられた実務家教員です。元の仕事の経験や、大学院時代に築いたネ
ットワークを授業に活用し、学生のキャリア教育を充実させている点がとて
も参考になりました。コガは最近「実務家教員」を研究テーマとして考えて
いたところでしたので、その意味でも大変参考となる研究発表でした。

>肯定的な自己資源の育成を目的にしたキャリア教育プログラムの実践報告
>(稲垣久美子 明治大学)
【概要】
稲垣先生はご自身が担当する「キャリアデザイン」という科目の中で、自己
肯定感を向上させることを目的としてポジティブ心理学に基づき開発された
心理教育的介入プログラムを実施しました。本発表では、導入したプログラ
ムの詳細とその効果について報告いただきました。

従来の心理学が「心の病を治す」という「疾病モデル」であったのに対し、
ポジティブ心理学は、人が生まれながらにして持っている「自分らしさ」や
「強み」に着目し、それを伸ばすことで最善な人間機能のありかたを研究す
る比較的新しい学問領域だそうです。

授業で実施したワークは、筑波大学の小玉先生が開発した「肯定的な心理資
源を育成する心理教育プログラム」を、稲垣先生が「キャリアデザイン」と
いう15週の科目授業に収まるよう工夫し、実践したものだそうです。この科
目の対象者は大学1,2年でクラスサイズは約20人とのことです。授業は

 「モジュール1:自分らしさの点検」(1~7週)
 「モジュール2:仕事と社会の理解」(8~12週)
 「モジュール3:未来の自分に向けての行動計画」(13~15週)

の3つのモジュールから構成されており、ポジティブ心理学に基づき開発さ
れた心理教育的介入プログラムはモジュール1で実践したそうです。具体的
には毎回の授業で1つのワークを実施、各回とも「レクチャ→個人ワーク→
4~5人のグループワーク→振り返り」というステップで授業を実施したとの
ことです。

授業の効果測定については、授業の初回と最終回に4つの尺度(ホープ尺度、
自尊感情尺度等)に基づいた調査を学生に実施し、その変化について検定を
実施しています。概ね有意な向上を示す結果がでたそうですが、一部の尺度
に関しては、初回の値が高く最終回との差が認められなかったとのことです。

【コメント】
稲垣先生が実施したワークの中で個人的に面白いなあと思ったのは、「セル
フトーク・ワーク」です。自分が折々に体験する出来事に対して、無意識に
つぶやいている言葉を“セルフトーク”と呼ぶそうですが、本ワークは、自
分のセルフトークを発見(意識化)することで、自分の考えの癖に気づくと
いう狙いがあるそうです。

発表の中で気になったのは、こうした選択科目のキャリア教育を履修する学
生自体は、一般的に真面目なので、授業内のワークに真剣に取り組むから成
果が出やすいのではないかという点です。コガの大学のように必修でキャリ
ア科目を導入しているケースでこのようなワークを導入したらどうなるか?
とても気になるところです。

ちなみに、稲垣先生も元企業で人材育成の仕事をなさっていた実務家教員で
す。3年前に本学会で発表されているのを拝聴して以来、様々な研究会等で
よくお会いし、情報交換をさせていただいています。アカデミックなキャリ
アにおいても修士号を3つも取得している凄い女性です。コガとしては今後
とも色々とご指導いただきたい方の一人です。
<文責 コガ>