以前、本メルマガでもお伝えしましたとおり、この4月から大学教員の傍ら、
放送大学の大学生になりました。放送大学にはいわゆる「通信」の授業と、
「面接授業」と言われる教室形式の集中授業があります。今週末の土日は、
この面接授業に初めて参加して参りましたので、その模様についてお伝えい
たします。
コガが今回履修した「面接授業」は「読み書きワークショップ」という科目
です。この科目のシラバスによると「『このクラスの狙いは、「新書を読ん
で、コメントし、短い書評を書いてみる』ことです。そのために、受講者は、
受講前にすでに読んでいて、気に入っている新書1冊と、これから読みたい
新書1冊をクラスに持参する必要があります。その2冊を学習材料として、
「読むこと」について考え、書評を「書く」練習をしましょう」とあります。
実は後学期にコガが担当している初年次のゼミクラスでも昨年から「新書を
読む」というワークを導入しているので、授業改善に役立つネタが探せそう
なので参加してみました。
授業は土日の2日間、朝10時から夕方17時過ぎまで、連続4コマを2日間実施
するというかなりハードなスケジュールでした。教員としてこんな科目を担
当したら死んでしまうかもと思いましたが、学生として体験すると何とも楽
しい2日間でした。
<担当教員>
本科目を担当されているのは、横浜国立大学の門倉正美先生です。コガは当
然初対面だったのですが、お話してみると共通の知人もいて、世の中狭いな
あと思った次第です。先生は普段は横国大で留学生の日本語教育等を担当さ
れているそうです。
<参加者>
参加者は全部で20人、男女比はちょうど半々といったところです。参加者の
年齢は平均すると40歳代ぐらい。下は20代前半から上は70代のおばあちゃん
までとバラエティに富む構成でした。これだけでも普段私が見ている大学の
教室風景とは異なるのですが、最も違いを感じたのは、学生の授業に対する
熱心さでした。
OECD各国での25歳以上の大学入学者の割合は平均すると22%です。それに対
して日本は1.7%しかいません。この比率がせめて10%ぐらいまでなれば、ま
じめな「大人」の大学生に影響されて、若い大学生ももっとまじめに勉強す
るようになるのではと思わせるぐらい、皆さん熱心に授業に取り組んでいま
した。
<コガが準備した新書>
新書選びは色々と悩んだのですが、気に入っている新書として、豊田義博の
『就活エリートの迷走』(ちくま新書、2010)を、これから読みたい新書は、
黒川伊保子の『怪獣の名はなぜガギグゲゴがなのか』(新潮社、2004)を選
びました。当初『就活エリートの迷走』をこれから読みたい本として考えて
いたのですが、つい授業の前に全部読んでしまい、「気に入っている本」に
急遽変更しました。後者の『怪獣の名は?』は、図書館でなんとなく本を選
んでいる際、偶然目に留まった本です。
<1日目の内容>
授業の最初の自己紹介で、氏名と住んでいると所に加え、「あなたにとって
本とは○○である」の○○を答えよという課題が与えられました。参加者か
らは、
・一番便利な情報源
・たまねぎ(目が痛くなる)
・催眠導入剤
・人生の教科書
・小島を囲む海
・心の食べ物
・違う時間、違う人とのつながるもの
等面白い回答が続出しました。ちなみに私の答えは「本とは裏庭である」で
す。読書の密やかな愉しみを表現してみました。なかなかおしゃれでしょ?
これ以外にもこの日は様々なワークを実施し、普段何気なく行っている「読
む」という行為を再認識しました。
この日の一番のポイントは「精読」でない読み方の修得です。学校教育で行
っている読みは、しっかりと読む「精読」中心ですが、日常生活においては、
自分の知りたいことだけをさっと読み取る「焦点読み(Scanning)」や、書
いてあることの要点をすくい取る「要点読み(Skimming)」の方が使う機会
が多いのです。
これらの読み方を練習し、最後の4時限目に「今日初めて読む本の内容を図
解し、90秒で他者に紹介する」というワークを実施しました。本を読み、他
者への紹介内容を考えるのに与えられた時間はたったの60分です。本当にで
きるのかなあと思ったのですが、先生に教えていただいた「点検読書」の手
法を活用すると、200ページぐらいの新書であれば、60分で要点読みと、発
表原稿と図解の作成を完了することができました。
ちなみに点検読書の方法は、アドラー・ドーレン『本を読む本』(講談社学
術文庫)に掲載されていますのでそちらを参照願います。
<2日目の内容>
二日目は「書く」ということをテーマにワークショップが進められました。
アメリカでは「書く」をテーマとしたワークショップが数多く開催されてお
り、そこで教えられている「書く」秘訣の第一歩は「書く敷居を下げる」こ
とだそうです。一例として、ナタリー・ゴールドバーグの「魂の文章術」か
ら、書くきっかけをつかむ方法を教えていただきました。これさえあれば、
メルマガでネタが尽きた時も大丈夫かもしれません。
次に行ったのは、新聞の書評を評価するというワークです。先週の日曜日に
各新聞で掲載されていた5つの書評をコピーした紙を配布し、「どの書評が
一番よかったか」を各自が発表するというものです。一番良いと回答した書
評が各自バラバラだったのが印象的でした。
そして午後からは最後のワークです。自分がすでに読んでいて、気に入って
いる新書について書評を書き、それを全員で読みあうというものです。ちな
みに最後にどの書評が一番良かったかを全員の投票で決めます。普段メルマ
ガで書評を書き続けてきたコガとしては負ける訳にはいきません。ひさしぶ
りに気合いを入れて文章を書いたのは言うまでもありません。
その甲斐あってか、最後の書評人気投票で、僅差ながら一位を取ることがで
きました。そして先生から優勝商品として新書をいただいたのでした。
ちなみにこの書評は、後日本メルマガの書評で使う予定ですのでしばしお待
ちのほど。
<感想>
本来教える立場にいる人間が、こんなところで勉強している場合ではないの
ですが、あらためて「読む」「書く」という極めて基本的なスキルを、再認
識することができました。そして来週からの授業にも十分活用できそうなお
土産をたくさん頂戴しましたし、後学期の初年次ゼミも今から楽しみになっ
てきました。
また、今回受講生の立場としてワークショップに参加し、ワークショップを
成功させる教員の資質として、取り扱うテーマに対する専門性や教員自身の
教養の広さ・深さが極めて重要であることを痛感しました。コガの場合、専
門分野の知識や教養があまりにも浅いので、今までワークショップの運営ス
キルに頼って乗り切ってきました。しかし、それには限界があります。、学
生のワークにも深みを与えるためには、教員自身のテーマに関する深い知識
が不可欠なのです。今回ご担当いただいた門倉先生は、博覧強記と申しまし
ょうか、読み書きの知識に加え、書籍や一般教養に関する深く広い知識をお
持ちだったので、とても豊かな学習空間となりました。
最後に門倉先生から、「書くとは人生を二度生きることである」というナタ
リー・ゴールドバーグの言葉を教えていただきました。出来事の振り返りが、
人生を豊かにするという考え方です。このメルマガもそんな矜持を胸に今後
も継続していきたいと思った次第です。
<文責 コガ>
放送大学の大学生になりました。放送大学にはいわゆる「通信」の授業と、
「面接授業」と言われる教室形式の集中授業があります。今週末の土日は、
この面接授業に初めて参加して参りましたので、その模様についてお伝えい
たします。
コガが今回履修した「面接授業」は「読み書きワークショップ」という科目
です。この科目のシラバスによると「『このクラスの狙いは、「新書を読ん
で、コメントし、短い書評を書いてみる』ことです。そのために、受講者は、
受講前にすでに読んでいて、気に入っている新書1冊と、これから読みたい
新書1冊をクラスに持参する必要があります。その2冊を学習材料として、
「読むこと」について考え、書評を「書く」練習をしましょう」とあります。
実は後学期にコガが担当している初年次のゼミクラスでも昨年から「新書を
読む」というワークを導入しているので、授業改善に役立つネタが探せそう
なので参加してみました。
授業は土日の2日間、朝10時から夕方17時過ぎまで、連続4コマを2日間実施
するというかなりハードなスケジュールでした。教員としてこんな科目を担
当したら死んでしまうかもと思いましたが、学生として体験すると何とも楽
しい2日間でした。
<担当教員>
本科目を担当されているのは、横浜国立大学の門倉正美先生です。コガは当
然初対面だったのですが、お話してみると共通の知人もいて、世の中狭いな
あと思った次第です。先生は普段は横国大で留学生の日本語教育等を担当さ
れているそうです。
<参加者>
参加者は全部で20人、男女比はちょうど半々といったところです。参加者の
年齢は平均すると40歳代ぐらい。下は20代前半から上は70代のおばあちゃん
までとバラエティに富む構成でした。これだけでも普段私が見ている大学の
教室風景とは異なるのですが、最も違いを感じたのは、学生の授業に対する
熱心さでした。
OECD各国での25歳以上の大学入学者の割合は平均すると22%です。それに対
して日本は1.7%しかいません。この比率がせめて10%ぐらいまでなれば、ま
じめな「大人」の大学生に影響されて、若い大学生ももっとまじめに勉強す
るようになるのではと思わせるぐらい、皆さん熱心に授業に取り組んでいま
した。
<コガが準備した新書>
新書選びは色々と悩んだのですが、気に入っている新書として、豊田義博の
『就活エリートの迷走』(ちくま新書、2010)を、これから読みたい新書は、
黒川伊保子の『怪獣の名はなぜガギグゲゴがなのか』(新潮社、2004)を選
びました。当初『就活エリートの迷走』をこれから読みたい本として考えて
いたのですが、つい授業の前に全部読んでしまい、「気に入っている本」に
急遽変更しました。後者の『怪獣の名は?』は、図書館でなんとなく本を選
んでいる際、偶然目に留まった本です。
<1日目の内容>
授業の最初の自己紹介で、氏名と住んでいると所に加え、「あなたにとって
本とは○○である」の○○を答えよという課題が与えられました。参加者か
らは、
・一番便利な情報源
・たまねぎ(目が痛くなる)
・催眠導入剤
・人生の教科書
・小島を囲む海
・心の食べ物
・違う時間、違う人とのつながるもの
等面白い回答が続出しました。ちなみに私の答えは「本とは裏庭である」で
す。読書の密やかな愉しみを表現してみました。なかなかおしゃれでしょ?
これ以外にもこの日は様々なワークを実施し、普段何気なく行っている「読
む」という行為を再認識しました。
この日の一番のポイントは「精読」でない読み方の修得です。学校教育で行
っている読みは、しっかりと読む「精読」中心ですが、日常生活においては、
自分の知りたいことだけをさっと読み取る「焦点読み(Scanning)」や、書
いてあることの要点をすくい取る「要点読み(Skimming)」の方が使う機会
が多いのです。
これらの読み方を練習し、最後の4時限目に「今日初めて読む本の内容を図
解し、90秒で他者に紹介する」というワークを実施しました。本を読み、他
者への紹介内容を考えるのに与えられた時間はたったの60分です。本当にで
きるのかなあと思ったのですが、先生に教えていただいた「点検読書」の手
法を活用すると、200ページぐらいの新書であれば、60分で要点読みと、発
表原稿と図解の作成を完了することができました。
ちなみに点検読書の方法は、アドラー・ドーレン『本を読む本』(講談社学
術文庫)に掲載されていますのでそちらを参照願います。
<2日目の内容>
二日目は「書く」ということをテーマにワークショップが進められました。
アメリカでは「書く」をテーマとしたワークショップが数多く開催されてお
り、そこで教えられている「書く」秘訣の第一歩は「書く敷居を下げる」こ
とだそうです。一例として、ナタリー・ゴールドバーグの「魂の文章術」か
ら、書くきっかけをつかむ方法を教えていただきました。これさえあれば、
メルマガでネタが尽きた時も大丈夫かもしれません。
次に行ったのは、新聞の書評を評価するというワークです。先週の日曜日に
各新聞で掲載されていた5つの書評をコピーした紙を配布し、「どの書評が
一番よかったか」を各自が発表するというものです。一番良いと回答した書
評が各自バラバラだったのが印象的でした。
そして午後からは最後のワークです。自分がすでに読んでいて、気に入って
いる新書について書評を書き、それを全員で読みあうというものです。ちな
みに最後にどの書評が一番良かったかを全員の投票で決めます。普段メルマ
ガで書評を書き続けてきたコガとしては負ける訳にはいきません。ひさしぶ
りに気合いを入れて文章を書いたのは言うまでもありません。
その甲斐あってか、最後の書評人気投票で、僅差ながら一位を取ることがで
きました。そして先生から優勝商品として新書をいただいたのでした。
ちなみにこの書評は、後日本メルマガの書評で使う予定ですのでしばしお待
ちのほど。
<感想>
本来教える立場にいる人間が、こんなところで勉強している場合ではないの
ですが、あらためて「読む」「書く」という極めて基本的なスキルを、再認
識することができました。そして来週からの授業にも十分活用できそうなお
土産をたくさん頂戴しましたし、後学期の初年次ゼミも今から楽しみになっ
てきました。
また、今回受講生の立場としてワークショップに参加し、ワークショップを
成功させる教員の資質として、取り扱うテーマに対する専門性や教員自身の
教養の広さ・深さが極めて重要であることを痛感しました。コガの場合、専
門分野の知識や教養があまりにも浅いので、今までワークショップの運営ス
キルに頼って乗り切ってきました。しかし、それには限界があります。、学
生のワークにも深みを与えるためには、教員自身のテーマに関する深い知識
が不可欠なのです。今回ご担当いただいた門倉先生は、博覧強記と申しまし
ょうか、読み書きの知識に加え、書籍や一般教養に関する深く広い知識をお
持ちだったので、とても豊かな学習空間となりました。
最後に門倉先生から、「書くとは人生を二度生きることである」というナタ
リー・ゴールドバーグの言葉を教えていただきました。出来事の振り返りが、
人生を豊かにするという考え方です。このメルマガもそんな矜持を胸に今後
も継続していきたいと思った次第です。
<文責 コガ>