Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

ティーチング・ポートフォリオワークショップセミナーこぼれ話

2008年08月13日 | ティーチング・ポートフォリオ
食事
企業内研修のの醍醐味はお食事ですよね?
これはティーチング・ポートフォリオワークショップセミナーでも同様です。2日目と3日目は美味しい弁当がでました。また夕食は任意参加ですが地元の美味しいお店で情報交換兼懇親会となりました。

1日目の夕食は、機構の近くにある招来菜館という四川料理のお店でした。
http://www.shourai.co.jp/
食事後にワークがあるので、ビールは1杯だけという禁欲的な夕食でした。とても美味しい四川料理をたらふくいただいたのですが、なぜか勘定は一人2000円で足りてしまいました。大人数で食べると中華は安くていいですねえ。

ちなみに2日目は国分寺駅近くのボンジョルノというイタリア料理屋さん。桃の冷製パスタ(バジリコ風味)は絶品でした。この日は、かなりTPが完成したこともあり、ワインとビールを飲んでしまった。
http://kokubunji.shop-info.com/buongiorno/

さらに2軒ハシゴして、ホテル到着は0時過ぎ、0時までの提出課題が遅れてしまったことは言うまでもありません(メンター様ごめんなさい)。

機構の建物
ガラス張りの評価を建物でも表現しようということで、建物全体がガラスで覆われています。しかしその関係で冷房の効果が悪い部屋もあったりと大変だそうです。しかしこのビルの目玉は「シンドラー社製のエレベーター」です。なにを隠そう筆者は、大学時代にエレベーターボーイのアルバイトをしていたこともあり、エレベータマニアなのです。今回シンドラー社製に乗車できたのは結構うれしかったのでした。

ちなみに、本件とは全く関係ありませんが、「エレベスト」というエレベータマニアのための本に最近はまっています。
エレベスト―日本初のエレベーター鑑賞ガイド
梅田 カズヒコ
戎光祥出版

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ティーチング・ポートフォリオワークショップセミナー参加記2

2008年08月13日 | ティーチング・ポートフォリオ
前回に引き続き今回もティーチング・ポートフォリオWSSについてです。今回はWSSの中身についてお伝えします。

ワークショップセミナーの進め方

さて、私が参加したTPWSSですが、下記のような流れで開催されました。

事前課題
TPWSSの3日間という限られた時間の中で、根拠となる資料にもとづき教育業績をまとめるためには、事前に資料を整理したり、自分の教育活動を振りかえることが重要です。これは結構手間のかかる作業でして、早い人でも3時間ぐらい、私の場合はだいたい6時間ぐらいかかりました。事前に送付されてくる設問に対して、必要事項をまとめ、TPWSSの1週間ぐらい前に提出します。

セミナー
初日は午後から開始する3日間の宿泊研修となります。今回会場となったのは、東京都下の小平市に大学評価・学位授与機構(以下機構と略)の会議室でした。冒頭に1時間ぐらい説明があった後はほとんどど個人の作業時間となります。

昼間は会議室で作業を行います。とってもゴージャスでゆったりとした会議室だったので作業に専念することができました。リラックスして作業ができるように、飲み物やお菓子を豊富に用意していたいた事も良かった点です。
会議室での作業は18:00で終了。その後皆で夕食を食べ、各自の宿泊ホテルに戻って夜の作業が始まります。2日とも0:00提出締め切りとなっており、それまでに1校と2校を提出します。

メンター
今回3人のメンターが各自2~3人の受講者を担当し、メンタリングを実施しました。定期的なメンタリングは初日のWSS開始直後、二日目午前中、三日目午前中、と3日間のうち3回です。それぞれ事前課題や1校、2校をもとにメンターと相談します。

このTPWSSではメンターの役割が非常に重要です。私に対しては書き方の指導というよりは、学習者の気づいていない自分をいかに引き出すかというメンタリングしてくれました。多分メンターがいなかったらカタチだけのTPが完成し、あまり面白いセミナーに感じなかったと思います。学習者の自己省察を促進できるかどうかはメンタリングにかかっているといって過言ではありません。そういった重圧かかる仕事のため、メンターは3人とも最終日は端から見ても相当お疲れの模様でした。3日間どうもありがとうございました。

一緒に学習する仲間
今回昼間の作業中は、各自黙々とTPを制作していたため、あまり話す機会がなかったのですが、セミナー後の夕食会等で意見を交換したり、完成したTPを相互に参照できたのが大変有意義でした。参加者はバラエティに富んでおり、国立大学、高専、私立大学の教員や教育センターの方がいらっしゃっていました。ただ少し残念だったのは、関東近辺の大学からの参加者が私一人だったことです。どうもFDの世界は西高東低の傾向があるようで関東では今ひとつ盛り上がっていないのが気がかりです。

TPWSS自体への感想
冒頭にも述べたように、本当に素晴らしい3日間の経験をさせていただいたというのが率直な感想です。実のところ、私はこうした自分振り返り系のキャリアデザイン研修や自己開発セミナーは今まで苦手でした。しかし今回素直に研修に向き合うことができたのはいくつかの理由があったと考えています。

第一はメンターの能力が高かったことです。今回3人ともメンタリングスキルの高さはもとより、TPや高等教育に関する造詣が深かったので全幅の信頼を置いてアドバイスに耳を傾けることができました。

第二は参加者の属性です。高等教育の教員という共通の職業に就きながら、皆別々の大学から参加していました。また文系・理系・国立・私立・高専とバラエティに富んでいました。多分このぐらいの距離感が良かったのだと思います。

これが同じ大学の教員同士だと、ちょっと照れてしまって研修に没頭できなかったろうし、逆に違う業界の人同士のキャリア研修だと、結局お互いの仕事を理解しあうのに時間を取られてしまい、ベースを理解した頃には研修が終了してしまうだろうからです。

第三は、TPという「モノ」を成果物として完成させるところです。私の場合10ページのTPを作成しました。根拠資料を含めると50ページ以上になると思います。こうした自分の作品を完成させるところが研修の充実感を増大しました。

TPへの感想
最後になりますが、ティーチングポートフォリオ自体の感想を述べたいと思います。今回のセミナーを通じ、TPは組織にとっても個人にとっても大変有益なツールになると確信しました。

しかし、作成する良さが作成してみないと分からないところに、TPの最大の弱点があります。多くの教員のTPに対する初期反応は、「なんでそんな面倒なものを作成しなければいけないんだ・・・しかもこの忙しい時期に」といった感じになると思います。よって導入に際しては、ある程度学長のトップダウンで推進することが必要かと考えます。そのためにはまずは学長・学部長クラスにTPを広めていくこと、実際に作らせていくことが必要です。

それともう一つの問題点は、絶対的なメンター不足です。今回3人のメンターの方のおかげでTPWSSが成立しましたが、現在TPのメンターができるのは日本にはおそらくこの3人しかいないのです。TP作成時に3~5人に1人はメンターが必要となります。学習者同士でのクリティークを導入するなどを通じてメンターの負荷を軽減していくということも考えられますが、メンター数をいかに確保するかが日本でのTP普及の最大の課題だと考えます。

以上2回のBlogに分けてティーチング・ポートフォリオワークショップセミナーについてお伝えして参りましたがいかがでしょうか?

少しでも興味をお持ちになった方はまずは、P.セルディン(2007)氏の『大学教育を変える教育業績記録』玉川大学出版部をお読みになることをオススメします。
大学教育を変える教育業績記録
P.セルディン
玉川大学出版部

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ティーチング・ポートフォリオワークショップセミナー参加記1

2008年08月13日 | ティーチング・ポートフォリオ
暑い日が続きますね~。

8月6~8日の3日間、大学評価・学位授与機構の開催した「ティーチング・ポートフォリオワークショップセミナー」(以下TPWSSと略)に参加してきました。
筆者は今まで20年以上企業内教育の世界で飯を食ってきた関係上、何百という研修会に参加してきました。今回のセミナーはそれらの中でもベスト3に入る素晴らしいものでした。

私は「素晴らしい音楽や映画は、言葉で説明できないから素晴らしい」と常々考えていました。それはセミナーも同じなのかもしれません。しかし、なんとか皆さんにこの素晴らしさを説明しようと頑張ってキーボードをたたいてみたいと思います。

ティーチング・ポートフォリオって何?

ティーチング・ポートフォリオ(以下TPと略)については、2008年現在下記の2冊が日本語として出版されています。

ティーチング・ポートフォリオ―授業改善の秘訣
土持 ゲーリー法一
東信堂

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大学教育を変える教育業績記録
P.セルディン
玉川大学出版部

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また、Webで入手できる論文としては
杉本均(1997)「アメリカの大学におけるティーチング・ポートフォリオ活用の動向」『京都大学高等教育叢書2巻』pp.14-30
があります。
http://hdl.handle.net/2433/53623

セルディン(2007: p.3)によると、

「TPとは教育業績を記録する資料の集合であり、一人の大学教員の教育活動について最も重要な成果の情報をまとめたもの」とされています。

建築家や写真家等が、自分が今まで創ってきた作品の代表作をまとめたものをポートフォリオとよぶそうです。これを教育に応用したものがTPと云うわけです。今回のTPWSSは「3日間で、メンターと周りの学習者の協力を得て、TPを完成させる」という極めてシンプルなゴールを目指しすセミナーでした。

TPが登場した背景

さて、WSSの内容を説明する前に、もう少しTPのことをお話ししたいと思います。

TP自体は元々カナダで登場した後、アメリカに渡って広く活用されるようになった手法です。現在アメリカとカナダの2000以上のカレッジや大学でTPが活用されているそうです(セルディン2007: p.4)。

この背景には80年代後半から90年代にかけてのアメリカの大学の教育改革の動向がありました。当時のアメリカの大学は経営の悪化から授業料を値上げするという悪循環に陥っていました。当然社会や学生からは、提供する教育の効果についての説明責任がより厳しく求められるようになり、その解決策の一つとしてTPが採用されるようになったそうです。

また、従来の研究中心であった教員の仕事を教育重視にシフトするためには、優れた教員の実績を評価する必要がありました。しかし学生のアンケート方式による授業評価や同僚による授業参観だけでは、教育活動のほんの一側面しか見ることができません。より公正に客観的な資料に基づいて教員個々の教育業績を判断するために、TPは最適な手法だったのです。

TPをつくる目的

筆者は大きく2つの目的があると考えています。第一は上記アメリカと同様「大学がよき教育活動を公正に評価するためのツール」としてです。

「大学教育の質の向上が重要」という主張に対し、反対を唱える人はまずいないと思います。しかし、ほとんどの大学は教育の質向上を推進する仕組みを持っていません。教員採用にしても「研究業績」が最優先で、「教育業績」といっても、どこでどんな科目を教えたかぐらいしか記入しません。また大学教員になってからの教育活動についても、そもそも活動が可視化されていなければ評価はできません。そのような事から、多くの大学では、良い教育実践を行う教員がいたとしても、あまり評価に反映されていないのではと考えています。

昨今企業においても「タレント・マネジメント」の重要性が叫ばれていますが、大学も同様で、教育活動の視点から教員のタレント(才能)をマネジメントすることが求められており、その強力なツールとしてTPへの期待が高まっています。

第二は、「教員が自分の教育活動を自己省察し、よりよい仕事をして自分の生活(人生)を豊かにしていくためのツール」としての目的です。

このTPWSSの参加前、筆者は、前者の大学組織の導入目的でのみTPを捉えていました。しかし実際にTPWSSに参加し、自分のTPを作成する過程で、『TPは「組織(大学)」のためでなく、自分のために作成するから意義があるのだ』とTPに対する考え方が180度変わりました。自分の活動を振り返り、メンターや他の参加者からの意見を聴くことで、単に教育活動レベルでの改善でなく、教育に対する理念や、大げさに言うと自分の生き方にまで非常に大きな示唆を与えてくれのがTPWSSのプロセスだからです。

TPは、単に今までやってきた教育活動を羅列し、それを根拠となる資料で証明する(Whatの明確化)だけでに留まりません。一番重要なのは、そうした教育活動を「自分はなぜやってきたのか?」背景となる自身の教育理念やフィロソフィー(Why)を明確にし、それとの関係で教育活動を意味づけしていく点にあります。

勘のよい企業内教育の関係者の方なら「はは~ん」とお気づきになったことと思いますが、こうした視点でみるとTPWSSは、企業で30歳や40歳の社員を対象として実施される「キャリアデザイン研修」によく似ているのです。

社会における大学の環境が変わり、大学教員に求められる仕事が変化する中、教員のQOLを向上するという意味からもTPを作成するプロセスが求められていると言えるのです。

さてちょっと長くなったので、続きは次回のブログでお伝えします。