Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.440:Apple Special Event January19,2012

2012年01月30日 | e-Learning業界動向


本来月末は日経MJの教育マーケティング情報をまとめる週なのですが、最近
面白い記事が少なく、また企画自体マンネリ化してきたので、しばらくお休
みします。代わりに、今月はコガが久しぶりにワクワクしたApple Special
Eventについてお伝えします。

実は、こんなにeラーニングでワクワクしたのは14年振りのことです。
1998年にサンフランシスコで開催されたASTDのカンファレンスに参加し、
様々なeラーニングのソリューションを目の当たりにして、「これから企業
内教育に凄いことが起こるぞ」とワクワクしたのを鮮明に覚えています。ま
あ実際にはあまり凄いことは起こらなかったのですが。。。。

さて、話を今に戻しましょう。1月19日、教育に関する新製品発表をテーマ
としたApple Special Eventがニューヨークのグッゲンハイム美術館で行わ
れました。その模様はApple社のアメリカのサイトで視聴することができま
す。

Apple Special Event January19,2012

今回のイベントでは下記の3つの製品について説明しています。
その1「ibook2」
その2「ibook Author」
その3「iTunes U」

まだ日本語訳がアップされていないようなので、今回のメルマガは、このイ
ベントの翻訳+解説+コガの感想みたいなものまとめてみました。上記サイ
トと合わせてご覧いただければ、今回Appleがリリースした教育向けのソリ
ューションのワクワク感がおわかりいただけると思います。

■イベント全体の概要および問題点の明確化
イベントの最初に登場するのは、VPのPhiles schiller氏です。話は脱線し
ますが、この人の顔を見ると、つい広島弁で話し出すのではないかと思って
しまいます。その理由は下記のサイトにあります。

「広島弁吹き替えプロジェクト公式サイト」

なので冒頭の部分だけちょっと広島弁風に翻訳してみました・・・

「わしらAppleは、会社できた時から、こがいに教育のことばっか考えてき
たで。ほいじゃけぇ今回の発表はぶち重要なんよ」

といった感じでしょうか?
広島の方添削お願いします。<(_ _)>


さて、本題に入ります。appleが教育ビジネスにとって必要と考えているの
は、「teaching」「Learning」「Student Achievement」の3つに対する深
い理解と洞察です。

そしてiPadは登場以来、教育の分野で特筆に値するほど利用されています。
例えば高校では生物や化学のテストに、K12の生徒には世界とコミュニケー
トするツールとして活用され、先生や親から絶賛の声をいただいています。

しかしアメリカの高校生は様々な課題を抱えています。例えば高校入学者の
うち卒業できるのは70%だけです。OECD生徒の学習到達度調査(PISA)にお
ける読解、数学、科学の三分野でのアメリカのランクは、それぞれ17位、31
位、23位と散々たる状況です。(ちなみに日本の2009年の結果は、読解8位、
数学9位、科学リテラシー5位)こうした状況を改善すべく、教師や教育委員
会はたゆまない努力をしています。

この後、現場の先生や教育委員会の人などが登場するビデオが流され、学校
教育の課題について滔滔と語り始めます。そして皆の教育に対する願いは
「Student engagement」にあると宣言し、冒頭の部分は締めくくられ、今日
の本題の一つ目であるiBook2についての説明に入ります。

【補足1】
Student engagementとは、学生が勉強に対してワクワク感を持って主体的に
取り組む様子のことで、日本語に訳しにくい言葉です。参考=「学生エン
ゲージメント」(http://goo.gl/m7m8q 京都大学高等教育研究開発推進セ
ンター)

1■テキストブックの再発明=iBook2(7分より)

今までの本(アメリカの高校で使われている教科書)は
not Portable ポータブルでない
not Durable 丈夫でない
not Interactive インタラクティブでない
not Searchable 検索性がない
not Current 内容のアップデートが難しい
not Great Contents 内容がつまらない
といった欠点がありました。

【補足2】
はて、ここで我々日本人の頭には?マークが飛び交います。だって教科書は
iPadよりは軽いし(Portable)、教科書は落としても壊れない(Durable)
けれど、iPadは壊れるよねえ~などなど。
実はこのくだりを理解するにはアメリカの高校教科書の実態を知っておく必
要があります。私も今回調べてビックリしたのですが、あちらの教科書は例
外なく厚く(300~400ページでハードカバー付)、そのため値段も高価で、
1冊60~100ドルぐらいするそうです。だから大抵の生徒は新品の教科書を
購入するのでなく、先輩からボロボロの教科書を譲り受けて使うのだそうで
す。そして重い教科書は持ち歩くのは大変なので、つい学校に置いていって
しまう。その結果、予習や復習をしなくなるため学力が下がるという状況が
起きているようです。

(参考)アップルが電子書籍で最初に教科書を狙う理由(Blog)

それらを解決するのがiBookという訳で、このあとRoger Ronser氏が登場し
てデモを交えた製品説明を開始します。

【補足3】
デモを見ていただければ、英語が分からなくともiBookのだいたいの機能を
理解できると思います。コガが今回の機能の中で一番ワクワクしたのは、
ノートテイキングです。教科書の中のテキストを選択し、別ページにタイト
ルを入れて保存するだけで、デジタル版の単語カードのようなものができて
しまうのです。その他の機能は「マルチメディアでお勉強」ができるという
レベルからあまり進化しておらず正直なところ新鮮味はありません。しかし、
そこはAppleです。同じマルティメディアでも見せ方や操作感がとってもス
マートでかっこいいのです。この辺りが「Student engagement」を向上させ
るキモかもしれません。

そして最後に再びフィル氏が登場し、iBook2の特徴を以下の5点にまとめま
す。
1)ゴージャスでスクリーン一杯に展開される本
2)インタラクティブなアニメや写真や動画が埋め込まれた本
3)素早く流れるような操作感
4)本にアンダーラインを引いたり、ノートが作成できたりする
5)検索性のよさ
6)章のまとめや、スタディーカードがある

なおこのiBooks2は、Apple Store無料でからダウンロード可能です。

2■iBooks Authorの紹介(22分から)
次にインタラクティブなibook2のコンテンツを作成するためののソフト
「iBooks Author」についての紹介が始まります。

ここでもロジャー氏が23分から31分までデモで説明してくれます。ポイント
は「マルチメディアやインタラクティブな機能を盛り込んだ教科書が簡単に
作れますよ」という点と、このソフトは無料ですという点にあります。さら
に完成したらiBookStoreにパブリッシュ(公開)可能で、デリバリー面での
サポートがあることを説明しています。

再度フィル氏が登場し、iBooks Authorの特徴を以下の4点にまとめます。

1)誰でもインタラクティブなBookが作成できる
2)綺麗なテンプレートつき
3)マルチタッチウィジェットや写真や動画も入れ放題
4)iBookStoreで配信

iBooks AuthorもiBooks2同様、Apple Store無料でからダウンロード可能です。

【補足4】
教育コンテンツ作成のオーサリングソフトというと、今まで
Authorware(オーサーウェア マクロメディア社)
ToolBook(ツールブック SumTotal Systems社)
などがありましたが、どちらも高額で、あまり普及しませんでした。

では無料だと爆発的に普及するかというとそうでもありません。かつてマイ
クロソフト社が、PowerPointと動画を同期結合し、簡単にeラーニングコン
テンツを作成することのできる"Microsoft Producer" という製品を無料で
提供していましたが、あまり普及しませんでした。久しぶりにMicrosoft
Producerのページを覗いてみたところ、ダウンロードページのリンクは切れ
ていました。
Producer 2003

コガがかつてeラーニングに携わっていた時、自大学のeラーニングシステム
用のコンテンツを生成するオーサリングソフトの検討に関わったことがあり
ます。しかし、このオーサリングソフトの開発というのはとても難しく手間
がかかり、割に合わないものだという事を痛感しました。
作成できるコンテンツの自由度を高くするとオーサリングソフトの操作は複
雑になり、そんなに面倒ならば既存のWebページ作成ソフトでコンテンツを
開発してしまおうという事になってしまいます。逆に「こういうコンテンツ
しか作れません」というオーサリングソフトにすると、操作はシンプルにな
るものの、似たような仕様のコンテンツしか作成できなくなってしまうから
です。
今回Appleが目指したのは、後者のオーサリングソフトだと思うのですが、
今後多くなるであろうユーザーからのニーズ(こんなコンテンツ作りたいの
だが・・・)にどの程度対応するか注目したいと思います。

■まとめと感想
この後、ピアソン、マグロウヒル、ハートコートなど、米国の主要教科書業
者が電子書籍化に積極的に取り組み始めている話と、もう一つの目玉である
iTunesUについての話が続きます。後者については今までもあったのですが、
それをアプリケーション化した点と、今後大学だけでなく高校教育の世界に
も展開する点が新しい情報でした。

最後に、iBooks2やibooks Authorに対するいくつかの素朴な疑問と回答をコ
ガの独断と偏見でまとめ、この2つのソフトの意味や位置づけを考えてみた
いと思います。

1)他のタブレットPCでは使えないのか?
おそらくNGでしょう。これはAppleによる教育ソリューションの囲い込み戦
略だからです。教育コンテンツ作成(ibooks Author)、教育コンテンツ配
信(iTunesU)、教育コンテンツ閲覧(iBooks2)をAppleがトータルで掌握
し、その世界に触れるためにはApple製品を使っていることが前提となる。
これがAppleの目指す教育マーケットの姿だと思います。モデルとしては音
楽配信の時のビジネスモデルの展開に似ていますね。でも音楽配信の時も、
WindowsPC用のiTunesソフトウェアを提供しているので、今後の展開によっ
ては、譲歩してくる可能性もあるかもしれません。

2)iBooks2での閲覧や途中のクイズの学習履歴は管理できないのか?
これもないと思います。今回のiBook2は、高校の授業という利用シーンが極
めて明確になっています。とすると、先生や学習管理者とのインタラクティ
ブな機能は、電子上で行わなくても教室でface to faceで行ううので不要と
いう発想ではないかと思われます。従来のLMSを中心としたeラーニングでの
利用シーンの想定(遠隔でいつでもどこでも学習できる)とは明らかに異な
るようです。

3)果たしてStudent engagementは向上するのか?
難しい質問です。教科書の上の図版が動き出したり、文字で書かれている章
末クイズがインタラクティブになることだけで、果たして生徒の学習に対す
る興味や動機付けは向上するのでしょうか?
コガの考えとしては、iBook2に既存の教科書を変えるだけでなく、教科書の
変化に合わせて教室授業も変えていかないとStudent engagementの向上は期
待できないと考えています。
ibooks2は「より楽しく効果的に知識を伝達する」という点を追求したコン
テンツプラットフォームと言えます。東大の中原先生風に言うと「導管モデ
ル」的な設計思想の域を脱していません。(導管モデルについては中原、長
岡(2008)『ダイアローグ 対話する組織』(ダイヤモンド社)を読んでく
ださい。手っ取り早く理解したい方は、以下のサイト(JMAM『人材教育』の
中原淳連載Vol.1~3をご覧下さい)http://goo.gl/6dzyD
なので、一層のStudent engagementを求めるためには、他の学習者や教員と
のコミュニケーションの場が不可欠であると考えます。

4)高校生にiPad2持たせるとどうなるのか?
「無くす(盗難も含む)」「壊す」「売ってしまう」
おそらく大半の高校の先生はこれらを懸念する筈です。コガの大学では1年
生にPCを購入させていますが、毎年前学期の内に紛失する学生がいます。ま
た一番やっかいなのは「壊す」でしょう。最近画面の割れたiPhoneをそのま
ま修理に出さずに使っている学生をよく見かけます。iPadがそうならない保
証はどこにもありません。そして一番の懸念が「売ってしまう」ことです。
そもそも誰がiPadの最初の購入費用を負担するのか分かりませんが、ヤフオ
クのようなサイトでiPad2が大量に出回ようになるのではと懸念します。

5)で、コガは何にワクワクしたのか?
冷静に考えると、iBooks2の普及には沢山の課題もありそうです。しかし、
iBooks2のデモを見たとき、何か今までとは違う事が起こりそうな予感がし
ました。iBooks2は教育工学的には80年代のマルチメディアの世界にあえて
留まり、教育の方法論のエッジを狙っていません。しかし、その一方で教材
の見た目と使い易さ追求するため、あらん限りの高度な技術を投入していま
す。今まで貧乏な教育工学研究者が手を出せなかったこの愚直な方向性が、
もしかしたら今後のeラーニングのブレイクスルーになるのではないかとコ
ガは考えています。

みなさんはどうお考えになりますでしょうか?
(文責 コガ)

vol.390:”Who moved my e-learning” e-LearningWORLD の10年(後編)

2011年01月02日 | e-Learning業界動向


2001年から続いていたeラーニング業界の夏の風物詩「e-LearningWORLD」が、
来年度より『教育ITソリューションEXPO』に吸収され、10年の歴史に終止符
を打つことになりました。そこで前回より、私の記憶とネットの検索からe-
LearningWORLD の10年の軌跡を追っております。今回は2005年のe-Learning
WORLD以降について振り返っていきます。

■e-LearningWORLD2005
本メルマガバックナンバー『vol.156:e-Learning world2005を振り返る』
上記Blogのバックナンバーを見て最初に目に飛び込んできたのが「クリッ
クアンケート」という文字です。この頃は毎週「クリックアンケート」をメ
ルマガに掲載し、読者との双方向性を確立しようと努力していました。
それはそうと、このバックナンバーのクリックアンケートの結果が「e-Lear
ningWORLDに『行かない・行けない』=46%」となっていた事を裏打ちするか
のように、この年は実際の来場者数も前年と比較して減少しています。

2005年のe-LearningWORLDで一番印象に残っているのは、Expoの中身でなく、
下記のBlogのコメントです。
トロッコ蜜柑@eラーニング研究所Blog
当時はまだ学生だったHさんの、「e-Learningworldはe-Learning業界の同窓
会です」という的確な指摘に「一本取られた」と思ったものです。

さて、Expoの中身はというと、前年あたりから翳りが見え始めた企業向けの
出展内容が少なくなり、学校教育向けの製品やサービスが多くなってきまし
た。2004年に文部科学省が発足した“現代的教育ニーズ取組み支援プログラ
ム”いわゆる現代GPの中で、「ITを活用した実践的遠隔教育e-Learning」が
取り上げられ、採択された大学に予算がつくようになったことも影響してい
たものと思われます。

しかしExpo全体の閑散感は否めませんでした。ネットでこの年のe-LearningWORLDの
所感を書いたBlogを検索したところ、maonekoblogというblogサイ
に下記のような記述がありました。
「e-learning world2005 レポート」
これほど盛り上がっていないイベントも珍しいというほどあまり活気がある
とはいえない感じを受けました。まあ、今回は学校教育者向けになっている
のに、平日開催しかしないという日程の立て方にも問題があると思います。
当時の関係者の誰もが反論できないコメントだったと思います。

■e-LearningWORLD2006
本メルマガバックナンバー『vol192:e-Learning WORLD2006総括の総括
さらに閑散としてきてしまったe-LearningWORLD、この年の私のBlogでは、
書くのが面倒になってしまったのでしょう。他人の書いたBlogを紹介してそ
れを批評するという手抜きをやっていました。中でも、やはりトロッコ蜜柑さんの
eラーニングワールドは、過疎地の夏祭りです」という記事が圧巻でした。
ぜひご一読のほどを・・・

なぜこんな暴挙に出たのかというと、2006年は久しぶりに産業能率大学が出
展し、終わった頃には疲れ切っていたためなのです。出展を再開したのは、
この年本学で開発したタラレバeラーニングが日本eラーニング大賞奨励賞を
受賞したためです。

喜び勇んで出展するとタラレバeラーニングの評判はまずますで、いくつか
の商談もいただきました。しかし結局成約に至ることはありませんでした。

当時のeラーニングは「安く、大量の受講者に学習を展開できるツール」と
いう認識がかなり定着しておりました。これは、2003年頃にeラーニングで
コンプライアンス教育を実施するのがプチブームとなった際、eラーニング
=効率化のためのツールという認識が確立してしまったためではないかとコ
ガは考えております。

そんな状況を打破すべく「これでもか!」というぐらい凝った作りのeラー
ニングを開発し、eラーニングを学習効果向上のツールとして認識してもら
おうと考えたのが「タラレバeラーニング」でした。「多少開発コストが高
くとも、学習者の満足度が高く効果が期待できるコンテンツであればマーケ
ットに受け入れられるはずである」そう信じてリリースしたタラレバeラー
ニングでしたが、我々の思うような未来を拓くことはできませんでした。

ちなみに現在も産能大のWebサイト上で細々と公開しております(ただし産
業能率大学総合研究所のTOPページからは決して行き着くことはできません
のでご了承のほど)。
TARA-REBA eラーニング公開サイトへようこそ
当時を懐かしんで、タラレバを弄っていただければ幸いです。

■e-LearningWORLD2007
本メルマガバックナンバー『vol237:日本の夏、e-Learning World2007の夏
この年は出展社が前年160社から85社と一気に減りました。また上記のBlog
にも書きましたが、F社、H社といった大手ベンダーが出展しなかったことも
あり小さいブースが多くなりました。ということで、寂しい雰囲気が一層増
してきました。

ただし、物見遊山の来場者が減ったためか、出展している企業の方に聴くと、
真剣な客が増えたという回答が多く、見た目とは裏腹に実のある展示会だっ
たのかも知れません。

ネット上を色々と検索しておりましたら、「多田勉部長のBlog」にこの
年のe-LearningWORLDに関する記事がありました。
eLearninワールド2007終了
eLearningワールド2007が先週無事終了したようです。
特に、目新しい話題もなく?
どうも、毎年、参加者や出展者が少なくなっているようです
(中略)
2003年といえば、私も説明員で参加していました。とてもにぎわってい
たものです。この様子を見て、eLearningのマーケットは当面安泰
だと思ったものなんですが、栄枯盛衰は世の常です。
とやはり衰退ぶりを嘆く声が。。。
個人的にこの年のe-LearningWORLDで一番記憶に残っているのは、フォーラ
ムでの寺田佳子さんのプレゼンです。あんなに上手にIDや学習評価について
プレゼンできる人は日本にそう多くはない筈です。特にこの年の寺田さんの
プレゼンは鳥肌が立つぐらいに凄かったです。もう一度観てみたいなあ。

■e-LearningWORLD2008
本メルマガバックナンバー『e-Learning World & Conference2008展示会視察記
この年からコガは大学教員となり、勤務地も神奈川県の奥地になったことか
ら、あまり都心に出掛けなくなりました。人里離れたキャンパスで普段仕事
をしていると、久々の都心と刺激あふれるカンファレンスに参加しただけで
活気を感じてしまうため、この年のe-LearningWORLDに対してあまり寂寥感
を抱かなかったことを憶えています。

この時期、オープンソースの学習管理システムであるMoodleがかなり大学に
浸透し、さらに現代GPも終わってしまうこともあり、システムベンダーにと
って大学が魅力のないマーケットになりつつありました。さらには個人の
マーケットではFREEの風がこの頃から吹き荒れており、キャッシュポイント
が見えない状況になってきました。加えて、この年の9月に起こったリーマ
ンショックにより、企業内教育研修市場が一気に冷え込み、eラーニング市
場の縮小に拍車がかかってしまいます。「学校市場」「個人市場」「企業内
教育市場」、eラーニング業界は三方塞がりの状態になってしまったのです。

■e-LearningWORLD2009 とe-LearningWORLD2.0
本メルマガバックナンバー
vol.317:e-Learning world2009参加記
vol.373:e-Learning World2.0に行ってきました【後編】』


本メルマガの執筆方針として「あまり悪口を書かない」ことを心掛けてきま
した。上記のバックナンバーを久しぶりに読み返してみると、その執筆方針
を遵守するために「苦しい文章を書いているなあ~」と当時の自分を同情し
てしまいました。必死に良いところや、自分の興味、つまり大学教育との接
点を探して書いているのが分かる文章なのです。

この2年を含め、終盤のe-LearningWORLDでは、デジタル・ナレッジさん、ネ
ットラーニングさん、キバンさん、等が大きいブースを出していました。発
足当時は日立やNECといった大手ベンダーが大きいブースを出していたこと
思い出すと、業界の勢力図も大分様変わりしました。で、もちろん大きい
ブースが出せるというのは、それなりのビジネスの裏付けがあるからと推測
できますし、もしかしたらこの10年で、漸く適正なサイズのビジネスマーケ
ットに落ち着いてきたのかも知れません。

■これからのe-Learning world
さて、これからのe-LearningWORLDおよびeラーニングの世界はどうなってい
くのでしょうか?

下記のURLは、2010年の教育ITソリューションEXPOの様子について報告され
ているサイトです。
http://www.edix-expo.jp/ja/About-EDIX/2010-Photo-Highlights/
「343社が出展、11,152名の教育関係者が来場」とあります。昨年度の写真
を見ると「えっ何この人混み!」という印象ですが、これでも来場者数は
e-LearningWORLDの全盛期に敵わないのです。そう考えるとe-LearningWORLD
のピーク時というのは、やっぱり凄かったんだなあと改めて思います。

単独開催ではなくなりましたが、ぜひ教育ITソリューションEXPO内で新たな
学びに向けての展示や提案を続けていってもらいたいと願っております。
(既に次年度の紹介サイトもできておりました)

最後に、最近本メルマガのコラムや書評で大活躍のシバタ氏が、2007年の教
育システム情報学会のパネルディスカッションで以下のような趣旨の発表を
行っています。

「『eラーニングをビジネスにするために』への道"Why e-learning?"に答えよう」より
乙:勉強したいのに時間がない、学校が遠い、仕事をやめられない
甲:だったら本読めよ!
乙:いえいえ、本ではダメなのです。
甲:なぜ?PCなくても、時間なくても、金なくても勉強できるよ!メニューも沢山あるし。
乙:いえいえ、eラーニングでなくては、、。
甲:だから、なぜ?
乙:質問とかできるし。
甲:キミが先生に質問したところ、見たこと無いよ。
乙:討議とかできるし
甲:キミの発言、聞いたことないよ。
乙:とにかく、eラーニングなんです!
我々は「誰の」「何を」解決するためにeラーニングを使うのか?
その問いに対する答えをこの10年間で本当に探すことができたのでしょう
か?次の10年を歩み始めるにあたり、もう一度原点に戻ってWhyの解を探し
続けていきたいと思います。

vol.389:”Who moved my e-learning” e-LearningWORLD の10年(前編)

2011年01月02日 | e-Learning業界動向


ついに来るべき時が来てしまいました。2001年から続いていたeラーニング
業界の夏の風物詩「e-LearningWORLD」が、来年度より『教育ITソリューシ
ョンEXPO』に吸収され、10年の歴史に終止符を打つことになりました。詳細
は日本イーラーニングコンソシアムの「2011年の『eラーニング ワール
ド』開催ならびに特別後援について
」をご覧下さい。


そこで今回と次回で、私の記憶とネットの検索からe-
LearningWORLD の10年の軌跡を追ってみたいと思います。

■e-LearningWORLD以前
最初にe-LearningWORLDが始まる前のことを少し述べておきたいと思います。
eラーニングとは呼んでいなかったものの、90年代の後半あたりから
e-Learning WORLDの萌芽とも言えるイベント等が始まっていました。例えば、
日本イーラーニングコンソシアムの前身であるTBTコンソーシアムがカンファ
レンスを数回実施しています(確か外苑前のTEPIAで実施)。また日本パー
ソナルコンピュタソフトウェア協会(現 社団法人コンピュータソフトウェ
ア協会)が、「COM JAPAN(現在のCEATEC JAPAN)」という展示会の中で、
eラーニング(当時はWBT)関連の展示やカンファレンスセッションを設けて
いたのを覚えております。

業界が本格的に動き始めたのは、経済産業省が後ろ盾となりALIC(先進学習
基盤協議会)というeラーニング推進のための組織が発足した2000年からで
す。ネットで検索したら、なんとALICの第一回のキックオフ説明会の案内が
まだIPAのサイトに残っていました。
先進学習基盤協議会(ALIC)第1回キックオフ説明会のご案内


ALICが主催するかたちで、この年の暮れにe-Learnig forum2000というイベ
ントが明治記念館で開催されました。このイベントはe-Learnig world併設
のe-Learnig forumの出発点です。このイベントの開催案内もネット上に残
っておりまして、当時のALIC事務局で、激務で死にそうになっていたOさん
の名前まで掲載されたままになっていました。
e-Learning Forum 2000 開催のご案内

このように、e-LearningWORLDは2001年に突然始まった訳でなく、それ以前
にいくつかの胎動があり、それらの動きが一気に2001年の夏に開花したもの
だったのです。

■e-LearningWORLD2001~2004
当時のe-LearningWORLDの模様は本メルマガでもお伝えしていたのですが、
残念なことにそのバックナンバーの原稿が現在紛失しております。もしかし
たらかつての同僚のマツモト2.0君がデータをどこかに保存してくれている
のかもしれないのですが、今回は私の記憶とネット上のデータを元に振り返
ってみたいと思います。

【2001年】
最初のe-LearningWORLDの年。この年、産業能率大学と日本能率協会マネジ
メントセンターは時を同じくしてeラーニングのサービスを開始した事もあ
り、両組織ともe-LearningWORLD出展しています。とにかく展示会場ではパ
ンフレットがすぐ品切れになる等、eラーニングに対する来場者の関心が高
かったことを記憶しています。ちなみに、e-LearningWORLD 2001で唯一検索
されたのが下記のサイト、シスコさんのブースでコンパニオンをしていた方
の写真です。
http://homepage2.nifty.com/hanage/akiaki/index.htm

そうそう、なぜかシスコ社のブースがとても大きかったのが印象的でした。
ちなみにこの年はe-LearningForumへの参加が無料でした。コガは当時東京
海上HRAに在籍していた北村さん(現 熊本大学)と一緒にこのForumで
"Who moved my e-learning"という題目で講演しました。当時ベストセラーだっ
た「チーズはどこに消えた」の原題"Who moved my Cheese?"をもじった題
目なのですが、「第一回のe-Learning WORLDでいきなりeラーニングを消し
てどうするんだ!」とある人に叱られたのを憶えています。色々理由をつけ
てその題目で講演してしまったのですけど、何を話したのか今になるとあま
り記憶していないのですよねえ。とにかく3日間フォーラムとExpoを行き来
して、猛烈に疲れたことだけは鮮明に憶えておりますです。ハイ

【2002年】
この年の模様は、NET Next Educaiton ThinkさんのWebサイトに
e-LearningWORLD2002体感レポート」という記事で残っていました。


当時はNTT-X社(現NTTレゾナント)がこの業界で最も勢いがあったのを
覚えています。そしてPDAに対応したeラーニングソリューションなども提供
していたのですよね~。コガも当時SONYのCLIEというPDAを使っておりまし
た。「PDAって何?」という方もいらっしゃると思いますが、スマートフォ
ンから通話機能とネット接続機能を奪い、指でのタッチインターフェースを
なくしたデバイスを想像していただければ、それが当時のPDAです。そう考
えると下火になったのも当然かも知れませんね。

【2003年】
出展社数も来場者数も過去最高となり、e-Learning WORLDにとってピークの
年となりました。この年の記録は、mediatexさんのサイトに残っていました。

うわー懐かしいです。この年のExpoポスターのデザインはスーパーマンをも
じった「スーパーeラーニングマン」だったのです。そしてeラーニングも単
に学習を配信・管理するだけの仕組みを越えて、企業のHRM全般を管理する
スーパーなツール、つまりeHRMのプラットフォームとして進化しようとして
いました。考え方は悪くなかったのですが、残念なことに一般に普及するこ
とはありませんでした。

【2004年】
この年の記録は、前述の北村さんのBlogに残っていました。私や、現在専修
大学で活躍されている望月先生の写真が残っておりました。6年前の出来事
ですが、かなり昔の話のように思えるのは年を取ったせいなのかなあ?

この年から本学がExpoに出展しなくなったこともあり、代わりに「e-Learning
WORLDノベルティ大賞」というのを企画し、写真のように北村さんと勝手
に盛り上がっていました。ちなみに写真に写っている色白の好青年ミヤウチ
君は、こうしたクダラナイ事ばかりをやっている上司に愛想をつかし、翌年
から別の部署に異動。現在は立派な学習教材開発者として産能の第一線で活
躍しております。メデタシメデタシです。

ということで、今回のメルマガではe-LearningWORLD2004までの歴史をざっ
と振り返って参りました。次回は2005~2010までを振り返っていきたいと思
います。関係者の皆さんで「e-LearningWORLDにはこんな思い出がある」と
いうエピソードがございましたらぜひ教えていただければ幸いです。

vol.373:e-Learning World2.0に行ってきました【後編】

2010年08月28日 | e-Learning業界動向
2010年7月28~30日の日程で、今年もe-Learning World2.0が東京ビックサイトで開催されました。今週号では、30日に展示会場内のオープンステージで開催された『大学教育改革プログラム』の模様についてお伝えいたします。

今回の発表では、文部科学省が大学教育改革のために推進している「質の高い大学教育推進プログラム」「大学教育・学生支援推進事業」「大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム」の3つの事業に採択された大学の中から7つの大学に登壇いただきました。発表された大学およびテーマは下記の通りです。

1. 大学教育推進プログラム
◆関西学院大学
社会起業家養成の革新的教育プログラム開発
◆九州工業大学
自学自習力育成による学習意欲と学力の向上
◆東京医科歯科大学
コンピュータによる診療模擬実習の展開

2. 学生支援推進プログラム
◆東海大学
大学、同窓会、保護者の三者一体による学生の就職力向上支援
◆明治大学
共感力・自己表現力の養成によるクォリティ志向型人材育成

3. 大学教育充実のための戦略的大学連携支援プログラム
◆金沢大学
大学コンソ-シアム石川を中心とした共通の教養教育機関とICT教育支援
体制の構築
◆桃山学院大学
実践力のある地域人材の輩出~大学連携キャリアセンタ-を核にして~

ちなみにこれらの発表の資料は、下記のGPポータルサイトにて公開されております。
http://gp-portal.jp/index.htm

本メルマガでは、関西学院大学、九州工業大学、東海大学、金沢大学、の4つの事例についてお伝えいたします。

◆関西学院大学
社会起業家養成の革新的教育プログラム開発

【発表内容】
関西学院大学人間福祉学部 社会起業学科での取り組み事例についての発表です。社会起業学科というのはちょっと珍しい学科ですが、同学科では社会起業能力を構成する能力として「福祉マインド」「起業実践能力」「マネジメント能力」「対人関係能力」の4つを定め、その養成のため実践的なカリキュラムを推進しています。

具体的には正課外で様々なプログラムを展開しており、それを実践教育支援室という組織がサポートしています。そうした活動の多くは学生が主体的に立ち上げたものだ多いそうです。それらを支援し、正課の教育と連動させたカリキュラムにしていくため本プログラムを推進しました。

実践教育支援室の支援の内容としては、ホームページ、ブログ(SNS)を立ち上げ情報の共有を促進したり、フェアトレード品の販売活動の拠点として実験店舗(COCOCHI)を学外に設置したり、学生の取り組む様々なプロジェクトごとに教員や現役の社会起業家がメンタリングを行ったりとなっています。

Blogのポータルサイト
http://www.hnpo.comsapo.net/portal/kgssc/portal.index
COCOCHIのサイト
http://www.hnpo.comsapo.net/portal/cocochi/portal.index

【コメント】
学生が自発的に行う活動に対し、大学が支援する理想型の取り組みができているのだなあと羨ましく拝聴しました。おそらく社会起業学科という学科の特性上「自ら何か社会に役立つことをしたい」と思う学生が多く、学生の主体性を前提とした取り組みが成立するではと思った次第です。

コガの実感としては、自発的に人の役立つ仕事に関わりたいという学生は徐々に増えているような思えます。しかし全体からするとそういう学生はまだまだ少数派なので、問題は「自発的に動かない学生」をどう動かすかだと考えています。

「ロバを水飲み場に曳いては行けても、水を飲むかはロバの気分次第」
自発的に水飲み場に歩いて行くロバだけが大学に入学してくれれば、楽なんですけど・・・・せめて連れて行ったら水を飲んでくれ~。

◆九州工業大学
自学自習力育成による学習意欲と学力の向上

【発表内容】
少子化、高校教育および入試の多様化により、多様な学力の学生が入学するようになってきています。こうした状況から基礎学力の低い学生にレベルを合わせると学力の高い学生は物足りなくなってしまう等の弊害が発生しています。また、入学時の成績は卒業時の成績とあまり相関がないものの、1学年終了時の成績と卒業時の成績は相関があることから、初年次教育の充実が学士力向上の鍵と考えられています。これらのことから九州工業大学では、学力に対応した習熟度対応型学習指導を実施しています。

具体的には、習熟度別授業、学習コンシェルジェでの個別指導、スモールステップ型eラーニング、チャレンジ学習やワークショップ等を行っています。これらにより、学力の低い学生への補習、学力の高い学生に対してのトップアップ企画を実施し、全体としての学力向上を目指しているそうです。
特に「学習コンシェルジェ」は図書館の一角にブースを設置し、数・物・英・情の専任講師と,大学院生が常駐し学生の質問に回答しているそうです。質問回答のノウハウを蓄積し、将来は大学院生だけで対応可能にしたいとのことです。

【コメント】
確かに、コガの勤務校でも入学生の学力のバラツキには悩まされております。しかし実際に習熟度別クラスを展開しているのは現時点では英語のみとなっています。その他国語、数学(算数)、コンピュータリテラシーについては入学前に実施するプレースメントテストの結果から、成績下位の学生にのみ補習クラスを受講させています。これだけ運営するのも恐ろしく大変なのに、九州工業大学さんでは英語5段階、数学3段階の習熟度クラスを実施しているとのこと。組織として推進するのは、教員への説得が大変だったと思われます。

◆東海大学
大学、同窓会、保護者の三者一体による学生の就職力向上支援

【発表内容】
学生の就職力向上のため、東海大学では、キャリアカウンセラーの増員等様々な施策を展開しているのですが、中でも、同窓会や保護者と一体となった就業支援というのが特徴となっています。

就業支援については、いまだに「大学でやることか?」という批判的な意見も多いそうですが、就活を通じて学生は成長しますし、昨今の厳しい雇用情勢を考慮すると、大学が就活を支援する意義は大いにあると言えます。しかし、大学単体での取り組みでは不十分です。そこで、東海大学では大学、同窓会、保護者の三者一体による学生の就職力向上支援を実施しています。

具体的には、同窓生、企業人の協力による模擬面接会や、同窓生と学生の懇談会の場を設定し、学生と社会人との接点を創出しています。また保護者に対しては、全国15箇所で保護者会を実施、「保護者版のキャリアサポートガイド」を作成し、就職活動に際し、保護者は何をしたらよいのか、何をしたらいけないのかを啓発しているそうです。

【コメント】
規模の大きい大学の場合、卒業生のネットワークを学生支援や大学教育力向上のために活用していくのは大変メリットのある施策だと感じました。特にOBを活用した懇親会の実施というのは、なかなか良い企画だと思います。普段同世代の気の合う仲間同士でしか話す機会のない彼らにとって、上の世代と話す機会を体験することで、コミュニケーションスキルの向上に役立つと考えられるからです。

また、保護者向けの啓も大変効果的な活動と考えます。コガも2年生のキャリアの授業で、自分の両親にキャリアのインタビューをしレポートにまとめるという課題を出しているのですが、普段あまり真剣に話し合うことの少ないキャリアに関して、親子がフランクに話し合う機会を作ることは、就業感を醸成するする上でとても重要なプロセスだと痛感しております。

今回作成された「保護者版のキャリアサポートガイド」はぜひ一度見てみたいですねえ。

◆金沢大学
大学コンソ-シアム石川を中心とした共通の教養教育機関とICT教育支援体制の構築

【発表内容】
大学コンソーシアム石川は、石川県内の全ての高等教育機関(大学、短期大学、高等専門学校)が連携して、教育交流・情報発信・調査研究等を行い、高等教育の充実・発展及び地域社会の学術・文化・産業の発展に寄与することを目的として設立されました。

大学コンソーシアム石川のWebサイト
http://www.ucon-i.jp/

今回の事業ではその活動を飛躍的に強化することを目的に、
・e教育支援センターの設立
・ポータルサイトの立ち上げ
・石川シティカレッジの運営
・共通評価機関の設立
といった活動を実践しています。

e教育支援センターでは、ICT教育の支援、eラーニングコンテンツ作成支援、システムの管理等を主に実施しています。またコンソーシアムに加盟する大学のみならず社会人も聴講できる「石川シティカレッジ」で開講される授業の質向上に関わる仕事も実施し、ここでの授業をデジタルコンテンツ化して
インターネットで配信をしています。

e教育支援センターの業務としてちょっとユニークなのは「いしかわ教育者人材データベース」です。これは各高等教育機関に在職していない非常勤講師、退職教員、PDなどの情報を集めたデータベースです。県内企業や自治体での講演・審議会等の人選にも役立つDBになっているとのことです。

「いしかわ教育者人材データベース」
https://www.ucon-i.jp/ekyouiku/contents/jinzai.html

【コメント】
ICT活用教育については、立ち上げの費用以上に、運用のコストや手間がかかるのが難点となります。GPの予算等でeラーニングを始めたものの、予算がなくなると縁の切れ目とばかりに、活動が沈静化してしまう大学も少なくありません。大学コンソ-シアム石川では、個別の大学が単独で運用するのは大変なICTのインフラを立ち上げ・運用し、個々の加盟校の負担を軽減しています。サスティナブルなeラーニングにとって一番大事な点ですね。

◆まとめ
今回発表した7つの大学以外も含め、平成22年度 大学教育改革プログラム合同フォーラムは、平成23年1月24日、25日に開催予定とのことです。楽しみですが、後学期試験や入試とバッティングしないかが不安です。詳細につきましては、GPポータルのイベント情報に告知されるそうです。お楽しみに。

vol.372:e-Learning World2.0に行ってきました【前編】

2010年08月28日 | e-Learning業界動向
2010年7月28~30日の日程で、今年もe-Learning World2.0が東京ビックサイトで開催されました。コガの勤務校では今年から授業の回数が増えた関係で試験期間が8月までずれこみ、開催期間中に行けるかどうか不安だったのですが、なんとか最終日に行くことができました。

e-Learning Worldも回を重ねること今年で10回目。しかし2003年をピークに規模も来場者も少なくなっているのも事実です。実際、過去10年の展示会と比較してみると、

参加企業・団体の推移(ブース数)
2001年・・・101社
2002年・・・179社
2003年・・・216社
2004年・・・148社
2005年・・・128社
2006年・・・160社
2007年・・・ 85社
2008年・・・116社
2009年・・・ 63社
2010年・・・ 38社

3日間の来場者数
2001年・・・17,421人
2002年・・・25,976人
2003年・・・27,401人
2004年・・・26,300人
2005年・・・24,057人
2006年・・・24,319人
2007年・・・20,874人
2008年・・・16,852人
2009年・・・14,956人
2010年・・・ 9,669人

と、今年ついに10,000人を割ってしまいました。

こうした減少の理由について「企業で普通にeラーニングが使われるようになり、あえて展示会に足を運ぶ人が少なくなったため」と説明する人がいます。しかし、7月初旬に開催された第1回の「教育ITソリューションEXPO」では210社が出展し、併設のブックフェア・デジタルパブリッシングフェアとの合計で71,489名が来場したことを考えると、減少の理由としては少々弱いですね。
http://www.edix-expo.jp/

コガは、多くの人が「たぶんツマラナイだろう」と自己判断し、行くのを止めてしまったためではないかと考えています。しかし、いざ会場に足を運んでみると結構面白い展示がたくさんありました。中でも富士通ラーニングメディアさんとSATTさんの展示コンセプトは唸らせるものがあり、今回はこの2社が展示していたe-Learning2.0的な世界を紹介させていただきます。

◆e-Learning 2.0を自社で具現化=富士通ラーニングメディア

今回富士通ラーニングメディア(以下FLMと略)さんでは「Knowledge C@fein SaaS」という人材育成ソリューションを展示していました。どこが2.0なのかを尋ねたところ、単に教育部門がeラーニングを配信して学習させるだけでなく、社員同士が教え合うことを支援するためのツールを統合的に提供している点とのこと。この説明だけでは新鮮味に欠けるのですが、FLMさんは「まずは自社でツールを使い、その良い点、反省点を正直に情報発信している」ところが凄いのです。

具体的には、自社内で実践しているブラザーシスター制度の中でSNSを利用した事例を紹介しています。詳しくはFLMさんの『人材育成最前線 第9号』をご覧下さい(下記URLよりDL可)。
http://jp.fujitsu.com/group/flm/services/catalog/education/regular/

特筆すべき点は、うまくSNSを利用できた新人だけでなく、SNS上であまり発言できなかった新入社員のコメントも掲載しているところです。例えば

「SNSの投稿を、業務として行ってよいのか分からず抵抗があった、まわりからみるとSNSは遊んでいるように見られそうで投稿しづらかった」

といった具合です。これらの声を振り返り、どうSNSをブラザーシスター制度の中で有効活用すればよいかをきちんと提言している点が素晴らしいのです。

また、FLMさんのブースでのミニプレゼンでアクティブラーニングを創発する新しい学びの場「CO★PIT」の紹介がありました。「CO★PIT」とは、学びを支援する新しいオフィス内学習環境の提案で、東京大学の駒場ラーニングスタジオ(http://www.kals.c.u-tokyo.ac.jp/)の企業版といった感じでした。単にWeb上のツールだけを提供するのでなく、オフィスそのものを変革することで組織の学びの活性化を目指している点がとても新鮮でした。ちなみにこの「CO★PIT」は8月上旬に品川インターシティーに完成するということです。ぜひ見学してみたいですね。

◆クリス・アンダーソンも真っ青~LMSのフリーウェア~SATT
SATTさんでは以前からAttain3というLMSをオープンソースで提供していましたが、この度「Smart Force」という新しいLMSをフリーウェアで提供開始しました。
http://satt.jp/
Attain3との大きな違は、よりオブジェクト指向が強化され、メニューを機能単位で搭載できるモジュールシステムを採用したということです。これにより、以前のAttain3では機能を追加する場合は全体を構築し直す必要がありましたが、Smart FORCEではモジュールごとに設計・構築が可能になったとのことです。

また細かい改良点としては、MacOSに対応したり、インターフェースに統一感が出たり、開発環境がAdobe FlashからAdobe Flexに変更したりと色々とあるようです。しかし何と言っても、オープンソースからフリーウェへの転換が一番大きい変化です。会場でSATTのHさんに、なぜオープンソースからフリーウェアに変更したのかを聴いてみました。

一言で言うとオープンソースの場合「発散」はあるけど「発展」がなかったということです。当初SATTさんでは、Attainをオープンソース化することで、Linuxのようなコミュニティが形成され、ユーザーのコミュニティがソフトを育てていくような姿を理想としていたそうです。しかしダウンロード数は伸びても、一向に発展がない。そこで今回フリーウェアにし元のソースの改変に制限を加えました。その代わり、先ほど述べたようにモジュールの追加が楽になったため、LMS本体に手を加えるなくても、使い易いモジュールを増やすことで機能を強化できるようになりました。今後はユーザーと一緒になってこうしたモジュールを増やしていく考えのようです。そうしたことを推進ため、自由すぎるオープンソースからユーザーとの接点が継続するフリーウェアに変えてたそうです。

いずれにせよ、LMSをフリーソフトで提供する会社は世界でSATTさんしかありません。この大胆なビジネスモデルが成功することを心から応援しております。

次回はe-Learning World2.0の会場内で開催されていた「大学教育GP」の発表を中心にお伝えします。

vol.349:ソーシャルメディアからソーシャルラーニングへ

2010年02月23日 | e-Learning業界動向
数年前からネットの世界では「ソーシャルメディア」という言葉が頻繁に用いられています。この言葉が出る前はCGM(コンシューマー・ジェネレーテッド・メディア)という言葉も使われていました。両方とも「ユーザーによる情報発信、ユーザー同士の繋がりを促進するメディア」の事を指す用語でして、具体的には掲示板、Blog、SNS、You Tube等の動画投稿サイト、最近ではTwitterなどが代表的なソーシャルメディアとして挙げられます。しかしこれらのサイトにアップされている情報がすべて「ユーザーによる情報発信」かというとそうでもなく、BlogやYouTube、Twitterをマーケティングのツールとして活用する企業も多く、本当に「ユーザーだけか?」と言われるとやや心許ないところがあります。

いずれにせよ急成長するソーシャルメディアをコミュニケーションチャネルとして活用したいと思うのは企業にとって自然な成り行きと言えます。そして、さらに自然な成り行きとして、ソーシャルメディアを「学習」のツールとして活用できないかと考える人はたくさんおりまして、やはり数年前から「ソーシャルラーニング」という言葉が使われるようになってきています。

eビジネスからeラーニング
Web2.0からeラーニング2.0
ソーシャルメディアからソーシャルラーニング
麦からサッポロビール

実に自然な流れですね。ITの世界で流行した言葉は、必ず形を変えて教育・学習の世界に出現するという法則があるようです。先ほど出たCGMという言葉も、もう少しと普及していればCGL(コンシューマー・ジェネレーテッド・ラーニング)とかLGC(ラーナー・ジェネレーテッド・コンテンツ)とか出現したかもしれません。

で、この「ソーシャル・ラーニング」ですが、その定義についてちょっと疑問に思ったので今回取り上げさせていただきました。

まず「ソーシャル・ラーニングとは」でググると一番最初に登場する有限会社クックさんのサイトでは以下のように定義しています。

「ソーシャルラーニングとは
『eラーニング+SNS+Q&Aサイト=ソーシャル』つまり
1.教師、学習者同士の交流ができ、
2.疑問に思っていることがすぐに解消でき、
3.教材を簡単にインターネットに配信できる
学習システムです」
http://www.cook99.jp/slearning/index.html

次に「POLAR BEAR BLOG」さんのBlogでは

「何かを教える/教わるという場合に、従来のように『先生/生徒』という役割を明確化・固定化した形で行うのではなく、集団の中にいる全員が教える・教えられるという関係を持って行うことを、仮に『ソーシャル・ラーニング』と呼んでみたいと思います」とし、具体例としてBlog、Q&Aサイト等を挙げています。
http://akihitok.typepad.jp/blog/2007/11/post_024f.html

そして、きよみハッチングスさんは

「『インフォーマル・ラーニング』の部類に入り、特にヒューマン・インターアクションを中心とした学び方で、コラボレーションや共有をしながら学んでいく方法である。~中略~ アメリカでは、SNS、ブログ、Wikis等の『ソーシャル・メディア』の利用の高まりとともに、『ソーシャル・メディア」を利用した学習を総称して『ソーシャル・ラーニング』と呼ぶ人達が増えている」と定義しています(日本イーラーニングコンソーシアムWebサイトより)。


共通しているのは
1)集団で学び合う形態である
2)情報通信技術を用いた学習形態である

の2点です。
さて、今回コガの疑問の発端となったのは下記のアンケートです。
Masie center
http://masieweb.com/survey/jan10

韓国のHyunkyung Leeさんという方がソーシャルラーニングの実態をリサーチするために実施しているアンケートなのですが、気になったのは下記の設問の選択肢5)と6)です。

【設問】What types of Social Learning activities does your organization offer? [Select all that apply]
(あなたの組織ではどんなタイプのソーシャルラーニングを提供していますか?あてはまるものを全て選択)

1)Internal Social Networks/Media for learning
(学習用の社内ソーシャルネットワーク/メディア)
2)External Social Networks/Media for learning
(学習用の社外ソーシャルネットワーク/メディア)
3)Collaborative Documents (wikis, blogs) for learning
(wikis, blogs等の学習用コラボレーティブドキュメント)
4)Discussion Boards for learning
(学習用ディスカッションボード)
5)Projects with Multiple Learners
(多様な学習者によるプロジェクト)
6)Classroom-based collaboration or group projects
(教室でのコラボレーションもしくはグループプロジェクト)

情報通信技術を用いない対面状況でのコラボレーションもソーシャルラーニングの範疇に入れてしまうことについて皆さんどう思われます?集合研修や学校教育の中ではずーっと昔からグループ討議とか普通に実施していました。
それを今更「それはソーシャルラーニングの一形態です」なんて言われてもちょっと困りますよね。「かき氷ください」と注文したのにお店の人が「フラッペですね」と聞き返してくるような違和感をコガは感じるのですが。

最近東大の中原先生が「ワークショップとは言わないワークショップ」というコラムをBlogに書かれていました(下記URL参照)。
http://www.nakahara-lab.net/blog/2010/02/post_1646.html

ソーシャルラーニングも全く同様で、上記のアンケートのように対面状況でのアナログオンリーな活動をソーシャルラーニングの範疇に含めてしまうと、実は世の中「ソーシャルラーニングと言わないソーシャルラーニング」だらけなのです。
やはり新参者の言葉なのだから、ちょっとは遠慮してそこまで範囲広げるのは止めようよ。せめて対面状況であっても何らかの情報通信技術を活用しているものだけをソーシャルラーニングと呼びましょうよ。とコガは提言したいのでした。

さてさて、言葉尻を捕まえてのイチャモンはこれぐらいにして、ソーシャルラーニングに関連した役立ちそうなサイトを最後に紹介したいと思います。

SPY
http://spy.appspot.com/
例えばシンポジウム等の会場でTwitterをバックチャネルとして活用する際、ツイートされている文章をリアルタイムで会場に映し出してくれるツールです。ツイートがある度に画面を自動更新してくれます。別にハッシュタグを設定しなくても、キーワードを決めておけば、それに引っかかるツイートを表示してくれるようです。半角スペースで区切ればand検索もできるみたいです。
「ようです」「みたいです」と少々語尾が自信なさげな理由は、コガが試したところうまく表示される場合とそうでない場合があったためです。
これはTwitterのサーバーの問題?
それともこのSPYというサービスの不具合?
よく分かりませんが、「対面状況でITCを活用したソーシャルラーニング
(うーん回りくどい表現)」を実施するには使えそうな予感のするツールです。メルマガ読者の方でSPYを活用された方がいらっしゃいましたらぜひ使用後のコメント等をいただければ幸いです。

vol264:英語は無料でeラーニング

2008年03月08日 | e-Learning業界動向
1月ほど前に読んだ週刊アスキー連載のコラム「著作権という魔物(岩戸佐智夫氏)」にこんなことが書いてありました。

もはやアフィリエイトとアドセンス収入を得るしか、今後の読み物は存在しえないのではないか?
という話を取材の中で聞いた。

読み物や写真、動画は言わばおまけのような形でしか、存在しえないのではないかと言うのである。
正直言ってなるほどと思った。多分そうなのかもしれない。



R25等のフリーペーパーの増加、ページの大半が広告で占められている有料雑誌、ほとんどのWebページが広告収入によって成立しているという事実、それらの現実を受け入れると「コンテンツ=グリコのおまけ」というのは確かにうなずける説ではあります。

あらゆるコンテンツの「おまけ化」が進む中、教育事業を生業とする者としては「お願い!教育だけは」と思っていたのですが、最近そうでもなくなってきています。元来インターネット自体が知識を獲得するツール=eラーニングなので、有料でコンテンツを配信すること自体に本来無理があるのかも知れません。

なにはともあれ、今週は「英語教育」をテーマとした気になる3つの無料コンテンツについてご紹介したいと思います。

NHKラジオビジネス英会話
パソコンやインターネットが普及する前から、無料で学習可能という点ではNHKの教育放送は無料コンテンツの老舗なのかもしれません。

「でも、本当はテレビで支払っている受信料にラジオの受信料が含まれてるから、有料なのでは?」と思い調べたところ、放送法32条下記のような記述がありました。

第32条 協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。


回りくどい表現ではありますが、そもそも受信料は、視聴しているかどうかでなく、受信設備を保有しているかどうかに課せられており、ラジオは受信設備に含まれないという解釈のようです。実際にはラジオ放送を運営するための資金はテレビの受信料から充当されていると思われますが、受け手からすると無料であることには変わりありません。

前置きが長くなりましたが、最近NHKラジオ英会話にちょっとした異変が起きています。それは下記のサイトの存在です。

「NHKビジネス英会話」(音声配信サイト)
http://www.nhk.or.jp/gogaku/english/business/index.html

インターネットでラジオ英会話の放送を配信しているのです。Webサイトには「3月までは試験的なもの」と書いてありますが、先日購入したビジネス英会話のテキスト3月号によると「(4月より)インターネット放送で同じ音声が聞けます!」となっており、どうも継続してネットでの放送配信を続けてくれるようです。

筆者はこの英会話番組を8年ぐらい聞き続けているのですが、現在住んでいるマンションに引っ越してからはAM放送の電波が入りづらく困っておりました。インターネットなら音は綺麗だし、何より留守録音のセットを忘れてもOKというメリットは計り知れません。

残念なことに上記のネット配信では
1)デジタルファイルのダウンロードが不可
2)公開は2週間まで(前週の放送を毎月曜日にアップ)
という制限があります。

とは言っても、イヤフォン端子からアナログ音声をアウトプットし、それをMDや再度パソコンにインプットすることで放送の録音は可能です。さらには某ツールを利用すると、直接デジタルファイルとして保存できないこともないようです。

今までAMという音質の悪さ、録音の手間等の足かせがありましたが、このインターネット配信によって、大いに無料英語教育コンテンツとしての価値を高めたと言えます。テキストも月350円で入手できますしね。

Pod Casting
3月2日現在のiTunes Music Storeの「トップPodcast」によると

第一位:英語でキャリアアップ(東京大学&ベネッセ)
https://blog.benesse.ne.jp/berd/blog/eigodecareerup/
第三位:Brain Foods 英会話(Station81.com)
http://station81.com/main.asp
第七位:日常英会話(Station81.com)
http://station81.com/main.asp
第八位:English as a Second Language Podcast(ESLPod.com)
http://www.eslpod.com/website/
第十位:南美布のStep up with TOEIC(日経デジタルメディア)
http://nikkei.hi-ho.ne.jp/toeic_podcast/

とベスト10以内に英語学習用コンテンツが5つもランクインしています。この他にもCNNの英語ニュースとCNN student Newsが10位以内にあるので、実際には10位中7つが英語教育のコンテンツといえそうです。

そんな中、今話題なのは第一位の「英語でキャリアアップ」です。おそらく英会話の教育機関の中には「こんなの無料で公開されたら商売あがったりだよ~」と嘆きの声を上げている組織もあるかもしれません。上記サイトには音声のPodCastingだけでなく、iPodQuizeを用いてのインタラクティブな確認テストまで用意されてています。

少し前までの英語PodCastingは、Netラーニング社のEnglish Aya Podのように、機能を限定することで無償版と有償版を切り分けていました。
http://www.ayapod.com/index.html

しかし、最近「すべての機能が無償」の傾向に拍車がかかっているように思えます。もちろん無料の代わりにバナー広告等で他の商材を紹介するアフィリエイトを実施したり、今後有償化を想定しているサービスもありますが、同じ教育事業者からみると「どうやって儲けているのだろう」と不思議な気がします。いずれにせよ、学習者にとっては嬉しい状況であることは確かです。

無料学習コミュニティiKnow
http://www.iknow.co.jp/
さらにグリコのオマケを進化させ「グリコ自体が無い上に、おまけの品質が格段に向上している」英語学習サイトを発見しました。簡単に説明すると英語学習システムにSNSがくっついたようなサイトです。

これだけなら普通にありそうなのですが、すべてのサービスが無料の上に、英語学習部分の作りが大変丁寧にできているのです。筆者は仕事柄多くののeラーニングコンテンツやシステムを見てきましたが、このiKnowの学習設計のクオリティは相当に高いです。

さらにコンテンツの量にも驚かされます。このサイトには、TOEICチャンネル、トラベルチャンネル等7つのチャンネルがあり、それぞれにコースが設定されています。3月3日現在45コースが受講可能です。そして各コースにはiKnow,Dictation,Mobile,BrainSpeedの4つの学習アプリケーションが用意されています。

各アプリに用意されたレッスンは10~15分前後で終了するので、スキマ時間に学習するのに最適です。基本的には徹底的に単語を覚える。覚えた単語の意味が即座に理解できることを意図して開発されているようです。単語の意味を問う問題で選択肢の中に「該当なし」というのがあるところが、筆者のお気に入りです。

このサービスの最大の不安は、「どこから収益を得るのか」という一点だけです。今のところベータ版ということもありSkypeのバナーがあるだけなのですが、今後優良なスポンサーが付き、サービスが継続してくれることを願っています。

まとめ
百聞は一見にしかずと言いますが、まず、実際に上記のサイトにアクセスし、コンテンツを受講していただければと思います。その上で「やっぱり無料のものは限界があるよね」と思うのか、それとも「これ本当に無料でいいの?」と思うのかをご確認ください。確認結果を下記のサイトでクリックいただければ幸いです。
http://clickenquete.com/c/q.php?CQ0000639R0000323C0fc4

vol.256:eラーニング2007年の振り返りと08年の展望

2007年12月29日 | e-Learning業界動向
毎年この時期のメルマガで、その年を振り返りや翌年のトレンド予測をする特集企画を組んでおりましたが、今年は気が進まず2007年最終号まで何も企画を考えてませんでした。

気が進まなかった理由は、「eラーニング」という言葉で括れる出来事が少なくなってきてしまったためと自分に言い聞かせていたのですが、むしろ筆者の関心がeラーニングの外側に向かっているためかもしれません。あるいは単に面倒だったからかも・・・。

などなど、もやもやした思いで年の瀬を過ごしておりましたら、先日日本eラーニングコンソーシアムの月例カンファレンスで、デジタル・ナレッジ社の小林建太郎氏が「2008年eラーニングのトレンドを占う“e-LearningConference2007Winterのアンケートから見える来年のeラーニング動向”」という願ったりの内容の発表をされていました。そこで今回はその発表内容をベースに07年の振り返りと来年の展望を試みたいと思います。

e-Learning Conference 2007 Winter
12月のイベントとしてすっかり定着してきたe-Learning Conference Winterですが、今年は12月6日(木)~12月7日(金)の日程で青山学院大学総合研究所ビルで開催されました。地味に開催告知されていたにも関わらず、参加者は去年の1.2倍以上に増加し(ユニーク来場者数)大好評だったそうです。また受講者アンケートで、「大変満足」「満足」と回答したも全体の9割以上(昨年は7割弱)にのぼったとのことで、質・量ともに大成功のカンファレンスだったと言えます。

なぜ集客が増え、満足度が向上したのか
最大の成功要因は、e-LearningConference企画委員・実行委員の皆様が夏のフォーラムのアンケートデータ等を分析し、受講者の関心がありそうなテーマに絞り込んでカンファレンスの企画を立案・実施した点にあります。

と同時に、今回の受講者属性の変化も見逃せません。まず受講者の所属企業の業種ですが、かつては情報通信関連企業が大多数を占めていたのに対し、年を経るにつれて様々な業種に分散する傾向がでてきたとのことです。また、現在の仕事も「e-Learning導入の推進をする」から「e-Learningを活用する」人の割合が増大しており、「いかに導入するか」から「どう継続活用していくか」に受講者の関心がシフトしつつあるとのことです。

これらの傾向は、eラーニングがより一般的なツールとして全業種に浸透してきたことを物語っているのかもしれません。こうした動向を背景に、eラーニングがブームとして語られていた時に参加していた物見遊山的な受講者が減り、真剣に活用を考えるユーザが残ったため、聞く方もより実践的なスタンスで臨むようになり満足度が向上したものと思われます。


eラーニング関係者以外の参加者
こうしたカンファレンスの場合、どちらかというとeLCに加盟している企業の関係者等が多く参加しているものと思ってましたら、なんと参加者の68%がeLC非会員だったそうです。eLCのメルマガやWebサイトでこのカンファレンスの情報を知り参加したそうですが、eラーニングに対する関心の裾野の広がりを感じさせますね。


2008年eラーニング5つのトレンド
こうした受講者アンケートデータより小林さんは来年のeラーニングのトレンドを下記の5つにまとめています。
・トレンド1・・製造業・サービス業が堅調
・トレンド2・・人事・研修担当者の活動が活発
・トレンド3・・社内研修のeラーニング化が加速する
・トレンド3・・社内研修のeラーニング化が加速する
・トレンド5・・更に豊富な導入事例が要求される
(本当は6つでしたが、最後の一つはeLCのWebサイトの宣伝っぽかったので割愛しました・・・ごめん小林さん)。

これらのトレンドに、筆者なりの解釈を加えて説明してみたいと思います。

★トレンド1・・製造業・サービス業が堅調
従来eラーニングの普及を牽引してきた情報・通信産業や金融業界から、製造業・サービス業でのeラーニングの普及が加速するであろうという予測です。ここ数年、特に製造業において教育投資を増大している印象があり、その結果集合研修の需要が急に大きくなっています。しかし集合研修だけで教育を実施するには限界があるため、eラーニングの出番が益々増えることが予想されそうです。


★トレンド2・・人事・研修担当者の活動が活発
昔は様々な会社で、eラーニングの導入に際しての「情報システム部門VS教育部門」バトルを見てきました。運用後の仕事をどちらの部門が引き受けるかでこじれ、その争いの渦中に我々のような教育ベンダーが仲裁に入るという事もよくありました。しかし最近はそういうバトルもなくなり、技術的な面でのサポートを除き、多くの企業で人事・研修担当者がイニシアティブを取りeラーニングを推進するようになってきました。


★トレンド3・・社内研修のeラーニング化が加速する
社内規定集の徹底や労務管理知識など、集めて研修で実施しても講義一辺倒になりがちな知識付与型の学習にはeラーニングを積極的に活用していく傾向が見受けられます。効率化という視点だけでなく、個々人の知識レベルに合わせて学習ができるメリットが受け入れられているようです。


★トレンド4・・経営・マネジメント、営業・マーケティングが堅調
かつてはeラーニングというと「IT」「資格」「語学」が売れ筋テーマの御三家と言われてきました。しかし、最近では経営・マネジメント、営業・マーケティングが堅調とのことです。本学のeラーニングは、ひねくれ者の筆者がセンター長を担当していたこともあり、「IT」「資格」「語学」のテーマには手を出さない方針でやってきました。なので、他所が御三家コンテンツを諦めて、経営・マネジメント系のコンテンツにシフトしてくるとまずいんだけどなあ~。そうなったら逆に資格系のコースを開発しようかしら・・・。


★トレンド5・・更に豊富な導入事例が要求される
これは今に始まったことではありません。一般に教育担当者はeラーニングのない頃から他社事例を欲しがる傾向にあったと筆者は感じています。
 しかし、他社事例ばかり集めても自社で成功するとは限りません。企業それぞれ必要とされる知識やスキルも異なりますし、学習環境も異なります。異なるコンテキストの中にeラーニングの事例だけ真似ても成功する確率は高くはありません。他社事例を収集するよりも、自社の人財上の課題をきちんと分析する事に時間と労力をかけるべきではないかと個人的には考えています。事例集めはそれからでも遅くはありません。

以上小林さんの分析にタダ乗りする形で2008年トレンドを考察してみました。いかがでしたでしょうか?

皆様および小林さんよりのコメントをお待ちしております。

vol220:日立とSabaが提携

2007年04月05日 | e-Learning業界動向
4月4日、株式会社日立製作所とサバ・ソフトウェア社が戦略的な人材マネジ
メントサービスに関し、提携することで合意したそうです。
(下記はのニュースリリース)
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2007/04/0404.html
上記によると、日立製作所では、Saba社が提供するHCMパッケージソフトウ
ェア「Saba Enterprise Suite」を活用し、人材戦略の立案支援から運用ア
ウトソーシングまで含めた戦略的な人材育成を支援するサービスの提供を4
月5日から開始するそうです。

HCMのソリューションということでは、Oracle(People soft)、Sum Total
(Docent)等と並んで有名なSaba社ですが、今回のアライアンスによって、
HCMやLMSの市場が一段とhotになりそうな気配です。

vol207:2006年私家版eラーニング十大ニュース

2006年12月28日 | e-Learning業界動向
2006年最後のメルマガなので、今週は私家版eラーニング十大ニュースをお送り
します。「eラーニング業界的なネタ」「産能大的なネタ」「私的なネタ」の3
つに分けてセレクトしてみました。

eラーニング業界的なニュース
(1)SNSブーム
Mixi等のソーシャルネットワークサービスが出現し、それが知らないところで学
習コミュニティの支援をするようになりました。これは凄いことだと思います。
2006年のクリスマス現在、Mixiでの学びに関連するコミュニティの数は
「学校」---125931件
「サークル・ゼミ」---149150件
「学問・研究」---45467件
となっており、合計30万を超えています。無論これらのコミュニティ全てが学び
に関連するものではないし、活性化している確証もありません。しかしそんな事
を差し引いても凄い数ですよね。

企業に目を向けても人事教育部門が知らないところで、SNS内に続々とコミュニ
ティが立ち上がっています。例えばMixiの「会社、団体」カテゴリで、キーワー
ド「内定者」と入力し「○×生命2007内定者」といったコミュニティが山ほどリ
ストアップされます。その数なんと約3,000件。ぜひあなたの会社もあるかどう
か確認してみましょう。、

これは従来の教育というカテゴリには入らない動きかもしれませんが、学び手側
のコミュニケーションのあり方を確実に変容させつつあると思います。

(2)脳トレ系ブーム
いわずと知れた、ニンテンドーDSから始まったブーム。最近は脳トレ系の書籍も
多数出版されており、やらないと不摂生をしているような気にさえなってきます。
私は今までDSの脳を鍛える大人のトレーニングと、川島 隆太 監修の『日本地図
脳ドリル―元気脳練習帳』を購入しました。しかし、両方とも長続きせず、未だ
活性化しない脳のままとなっています。来年こそは・・・

(3)eラーニング人材養成
青山学院大学のELPCO、熊本大学の教授システム学専攻、日本eラーニングコン
ソーシアムのELP(E-Learning Professional)、そして以前本メルマガでもご紹
介した書籍「企業内人材育成入門」と、ちょっとしたeラーニング人材養成ブー
ムとなっています。
「教える人の専門性の開発に初めてスポットライトがあたった」この現象は、e
ラーニングの普及が日本の教育業界にもたらした最大の功績ではないだろうかと
個人的には考えています。従来とは異なる配信方法での教育・学習を考える時、
今まで自明だったことを再考しなくてはならなくなります。その結果として教育
全般の再構築が促進され、質の向上に寄与するからです。そうした再考・省察を
組織で推進するコア人材として、前述の機関で学習した人達が活躍してくれるも
のと信じております。 

産能大的なニュース
(4)TARA-REBAeラーニング
2006年、日本elearning大賞の奨励賞を受賞しました。個人的にも賞をいただい
たのは小学生時代「イトーヨーカドー小田急相模原店子供オセロ大会」で三位に
入賞して以来の出来事だった事もあり、大変うれしかったです。本学としても
「eラーニング次の一手」を模索していた時期だったので、それを外部の人に認
められたことは大変励みになりました。
TARA-REBAeラーニングの詳細につきましては
http://www.hj.sanno.ac.jp/elearning/tarareba/
をご覧ください

(5)ケータイスタディビジネス常識AtoZをリリース
ずーっと着手しなくては、と考えていたモバイルラーニングにやっと踏み出すこ
とができました。以前、熊本大学の鈴木先生から、近年の教育工学の知見の一つ
として「枯れた技術を使え」ということを教えていただきました。ケータイを活
用したドリル形式の学習というのは、2000年ごろから存在していたのですが、最
近やっと良い意味で「枯れ」てきたと思っています。まだ始めたばかりですが、
この分野かなり期待しています。
(6)パーソナルスキル超入門コースリリース
11月にリリースしたコースです。上記のTARA-REBAeラーニングを開発したおかげ
で、コンテンツ開発者のスキルが向上したため、今までのSANNO KNOWLEDGE FIEL
Dのコースウェアより、かなり「イイカンジ」に仕上がりました。コミュニケー
ション等のパーソナルスキルはどこまでeラーニングで学ぶことができるのか?
手前味噌ですが、ある程度まではイケたかなと自負しております。

個人的なニュース
(7)新メンバー松本2.0の加入
私の所属するeラーニング開発センターのメンバーは、昨年まで本学のeラーニン
グ事業立上げの時からのメンバーばかりでした。この春、新メンバー松本2.0君
の加入により、今までのメンバー間に蔓延していた単一的な思考にユラギが出て
きました。これからも朱に染まらず、我々オールドメンバーに刺激を与え続けて
ほしいと願うのでした。

(8)Sanno e-Learning Magazine200号突破
11月に本メルマガが200号を突破しました。個人的にはこれが一番嬉しいニュー
スかもしれません。子供の時から日記すら満足に続けることができなかった人間
が、7年間もメールマガジンを続けてこれたのは全て読者の皆様のおかげです。
ありがとうございました。これからも続けます。
(9)熊本大学での授業担当&コースウェア開発
普段の仕事とは全く異なる学習者を対象に、初めて用いるプラットフォームでの
eラーニングコース開発を体験することができ大変嬉しく思っています。折角の
機会でしたので、携帯MP3プレーヤーでの聴取を前提とした講義音声+パワポ(P
DF)、インタビュー映像によるケーススタディ、ネット上の素材のリンクでの教
材開発等の学習方法にチャレンジすることができました。しかし、品質はともか
く、開発の工数だけは結構かかってしまったなあ~。

(10)ミンツバーグの『MBAが会社を滅ぼす』の翻訳本出版
最後はやや地味なのですが、今まで18年間企業のマネジメント教育に関わってき
た人間として、この書物はトン単位で刺激的なものでした。現在2/3まで読み
終わったところですので、年明け第二弾のメルマガぐらいでご紹介できるのでは
ないかと思っています。
年末年始に読む本をまだ決めていない方は超お勧めです。