Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.495:反転授業について想う事

2014年01月06日 | ニュースのキーワード

2013年日本のeラーニング界を回顧すると、「MOOC」と「反転授業」が二大
キーワードであったとコガは考えております。MOOCについては、昨年本メル
マガで3回も取り上げていました。

vol.480 MOOCとOCWの違い
vol.487:「PC Conference2013 東京」参加体験記
vol.490:ウェブで学ぶ
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/s/MOOC を参照)
しかし反転授業については一度も取り上げてこなかったので、この機会に考
えてみたいと思います。

■反転授業(Flipped Classroom)とは
反転授業は、現在大学教育や社会人教育よりも予備校や初中等教育において
注目・実践されているようです。その推進の在り方も、中央官庁のTOPDOWN
的な押し付けでなく、現場の小中学校の先生や予備校の先生が色々と知恵を
出し合い、実践し、知識を共有するというCommunity Of Practice(実践コ
ミュニティ)が形成され、草の根的な展開を見せております。
そんな反転授業の実践コミュニティの一つに「反転授業の研究」があります。

インターネットサイト「反転授業の研究?思索と実践の記録」
http://flipped-class.net/wp/
facebookグループ
https://www.facebook.com/groups/hanten/

ここでの反転授業の定義は「最初にe-learningで知識をインプットし、その
後、教室のアクティビティで知識をアウトプットする学習法である」とあり
ます。また反転授業と予習の違いについては、「従来の予習では、理解度が
低いため、教室で結局、授業をやらなくてはならず、グループワークの時間
を確保できなかったが、動画講義で予習させることによって理解度を上げる
ことができるようになり、教室で最初からグループワークをできるようにな
った」と説明しています(上記サイト「反転授業と単なる予習との違いは何
」2013/12/6より)

■反転授業2つのスタイル
朝日新聞(2014/1/4)の記事「家で動画見て予習、『反転授業』試行へ
で、武雄市での「反転授業」の紹介がありました。
新聞記事の補足という形で、上記の「反転授業の研究」サイトに反転授業の
2つのスタイルが紹介されています(http://goo.gl/NOHBhh)。

新聞で取り上げられていたのは「創造的反転授業」というスタイルで、動画
講義で学んだ知識をベースにして、教室ではプロジェクトやグループワーク
など創造的作業、協働作業を行い、21世紀型スキルの向上を目指します。こ
れは学力が高い高校で導入される方法だそうです。その一方で、動画講義を
受けた後、教室で習熟度別に問題演習し、分からない生徒を教師がサポート
する「補習型反転授業」というスタイルもあり、こちらは学力が低い高校で
導入されるそうです。

■企業内教育での取組み
さて、予備校や初中等教育で盛り上がりを見せている「反転授業」ですが、
企業内教育ではどうでしょう?実はコガの過去20年間の経験の中で、「反転
授業」的な企業内教育の方法が実は2回ほど登場しています。

その1「ジョイント研修」(1980年代後半~90年代中盤)
まだeラーニングなど存在しなかった頃、集合研修の事前に関連したテーマ
の通信教育を受講するという「通信教育+集合研修」パターンで実施された
研修のスタイルがありました。「知識」獲得の部分を通信教育が担うことで、
集合研修での講義時間を削減し、その時間を活用しグループディスカッショ
ン等で知識の現場への応用を考えさせ、集まった時間を有効活用するという
ものです。

しかし、この方式は広く普及しませんでした。理由は、当時の通信教育学習
システムのハンドリングの悪さにあったとコガは考えています。すなわち、
・開講日が月初に固定している。
・レポートの提出から添削されたレポートの返却までに時間がかかる
・リアルタイムで履修者の学習状況が把握できない
・集合研修直前の受講者の追加やキャンセルがしづらい
等の理由です。
ちなみに現在の通信教育システムでは大分改善されていると思います!(^^)!。

その2「ブレンデットラーニング」(2000年~2006年)
これは、上記の通信教育の部分がeラーニングに変わったものです。ネット
を活用した仕組みのため、教材の配送等の手間もなく、学習管理や採点がリ
アルタイムで行えるため「ジョイント研修」のネガな部分がかなり解消され
ました。しかし、この方法もあまり普及しませんでした。その理由について
かの認知心理学の大家であるロジャー・シャンクが大変面白い事を書いてお
ります。それを現在東京大学にいらっしゃる藤本徹先生が2006年当時に翻訳
した文章が下記サイトにありますのでぜひごらんください。

Another Way教育・学習、シリアスゲーム、留学生活のブログ
「ブレンデッドラーニングと聞いたら逃げろ」(2006/11/6)より 
http://anotherway.jp/archives/000793.html

また、シャンクの文章を受けて藤本先生も当時以下のように述べています。
==========================================================
ブレンデッドラーニング」は、新しい教育手法でもなんでもなく、eラーニ
ングと言っても売り文句としてあまり効かなくなったので、その代わりの売
り文句として登場したにすぎない。「ブレンド米」や「ブレンドコーヒー」
のように、「ブレンド」という言葉は、単品では売れないクオリティの低い
ものを混ぜてラベルを張り替えて売る時によく利用される。eラーニング業
界がブレンデッドという売り文句に飛びついているのは、ブレンドしないと
売れない商品ばかりがあふれていることを示しているようにも見える。質の
悪いものはいかにブレンドしても最高級品にはなり得ず、よくある「最高級
品風」ブレンドでしかない。「~風」というラベルをつけて聞こえを良くす
ることは簡単だが、そんなことではユーザーの目はごまかせない。そもそも
ブレンドしていること自体が売りになる状況というのは、どこかおかしいの
である(上記ブログよりの引用)。
==========================================================

■で「反転授業」はどうなる?
あくまでも個人的な見解ですが、少なくとも企業内教育において「反転授業」
はあまり浸透しないのではないかと考えています。一番の理由は、「よい講義
であれば、それが知識伝達の内容であっても生で聞きたいと思う学習者が多い
と思われるし、よくない講義であればそもそもインターネットで観てまで学習
はしたくない」からです。

上手な先生の講義をライブで聴講して味わうことのできる知的興奮というの
は、ショートケーキに例えればイチゴの部分な訳でして、そのもっともオイ
シイ部分をインターネットの講義に代替してしまうのは、せっかくの新鮮な
イチゴを砂糖と一緒に煮詰めてイチゴジャムにしてしまう行為のようなもの
ではないかとコガは考えております。

また、忙しいビジネスパーソンはどんなメディアであれ事前学習は嫌がるも
のです。もしどうしても事前に学習させたいのであれば、集合研修の開始時
間を午後からとし、その代り朝一番に必ず研修会場に集合させ、研修スター
ト前の午前中に講義動画を学習する時間を設ける方が現実的かと思います。

みなさんは「反転授業」どう思われますか?
<文責 コガ>

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