**本記事は2011年10月2日に配信したメールマガジンのバックナンバーです**
早いもので10月に入りました。後期授業も開始され、まだ体がなれていませ
んが、授業の日々に帰るのであります。
さて、先月はキャリアを指導する事の難しさについてお話をいたしました。
現在は、過去最悪と言われる就職難の時代です。そんな中で、学生と世代の
違う教員が何を語るのか?そこで今回は、キャリア指導の際のスタンスにつ
いてお話しします。
教育と言えば、素朴に考えれば誰かの知識を誰かに与える事。覚えるのが頭
であることから、「頭にたたき込んでおけ」というようなメタファーが使わ
れています。ある知識を持っている人から、持っていない人に与える事とも
言えるでしょう(専門的に教育について語る場合には、上記メタファーは、
間違っていませんがごく一部になります)。
では、キャリアについて考えた時、学生達に何の知識を与えるのでしょうか。
この疑問を考えた時に、問題になるであろう点が思いつきます。それは、伝
えるべき知識というものはあるのか? という点です。こちらに関しては、
少なくとも「ない」とは言えないかと思います。仕事や業界に関する知識、
先人達がつまずいてきた様々な罠については伝えるべきでしょう。先日大学
時代の後輩がこのような事を申してました。
「飲み会の席などで、無礼講というが、本当の無礼講は見たことがない」
こういったある種の儀礼的な事はたくさんあるでしょう。この例は、かなり
フランクな話ですが、ビジネスマナーや常識問題、業界、業種に類する話題
は、知っていて当然のものはたくさんあるかと思います。それらは、当然伝
えるべき知識だと言えるでしょう。
一方、我々は(少なくとも私は)、仕事について無知であると思っています。
それは、世界中には多種多様な仕事があり、一つや二つの仕事を経験したぐ
らいで「仕事とは」を語るのは、あまりに少ないサンプルから語り過ぎてい
ると思うからです。
たとえば、私ハシモトは営業の経験があります。
しかし、営業職ではなかったので、毎日毎日営業をしているという気持ちを
理解する事は出来ません。
また、アルバイトとして、ファーストフードで働いていました。
しかし、正社員ではなかったので、正社員の気持ちはわからないのです。
もちろん、全くわからない訳ではないですが、それでも知らない事の方が遥
かに多いのです。キャリアは幅広く、学生の希望も幅広い。それをすべてフ
ォロー出来ないということを、自覚する必要があると思っています。
実は、上記以外にも、与えられた知識は役に立つのかと思う点もあります。
いかにエントリーシートや履歴書を書くか、面接時の振る舞いなどについて
は、餅は餅屋な気がします。テクニックの分野については、昔の経験を語る
ことはあまり意味がないので、ビジネスマナーの講師やキャリアコンサルタ
ントなどに依頼するのが妥当と考えます。
そこで、教員としてしなければいけないこと何でしょうか。
一つの可能性としては、「プロセスコンサルティング」ではないかと思って
います。プロセスコンサルティングとは、キャリア・アンカーを提唱してい
るマサチューセッツ工科大学のエドガー・H・シャイン教授が提唱している
支援のための方法論です。
通常、コンサルティングとは、コンサルタントがクライアントに対して「知
識やノウハウを伝授する」というメタファーや「医者が患者を診断し処置す
る」というメタファーで語られていましたが、シャイン教授は、「クライア
ントが自ら問題を解決するために、よりよいプロセスがとれるように支援す
ること」がプロセスコンサルタントの役割であるとしています。
これをキャリアについて言い換えるならば、学生が自らの進むべきキャリア
に気付けるように、また進めるように、内外の情報収集(業界情報や自分自
身のこと)や意思決定のプロセスが適切なものになるように支援する事だと
言えます。
この場合、必要な事は最低限の知識と、学生からの圧倒的な信頼です。コン
サルタントとして最も大切なことは、クライアントから信頼を得る事です。
この人とだったら問題を解決出来るだろうという期待こそが最も重要です。
その意味では、キャリアを支援する際に必要なことは、学生から「この人と
将来のことを一緒に考えればうまくいくかも知れない。そして、(ナイーブ
な)内面をさらけ出しても大丈夫だろう」という信頼や期待を得ることにな
ります。
はて、書いてみて、あまりのハードルの高さに驚きました。
少なくとも、出来ているという話ではありません。がんばらなければという
話であります。
なお、このことは、様々な専門を持つ方々に一つの示唆があるかと思います。
それは、なにも多種多様な業種を知らなくとも、正しいプロセスを歩めるよ
うに支援することはできると思うからです。学生との信頼関係という部分は、
教員としての専売特許ともいえるかと思います。その意味で、教員としてキ
ャリアを支援することの意味はあるのだと思っています(なお、大学におい
て、教員がどこまでキャリアを支援すべきかには、議論があります)。
最後に、「支援」をするということは、知識を「伝える」のとは、かなりの
違いがあるかと思います。そこで、参考にしている文献を紹介して終わりに
します。
・エドガー・H・シャイン(2002)
『プロセス・コンサルテーション』白桃書房
・エドガー・H・シャイン(2009)
『人を助けるとはどういうことか』 英治出版
(文責:ハシモト)
早いもので10月に入りました。後期授業も開始され、まだ体がなれていませ
んが、授業の日々に帰るのであります。
さて、先月はキャリアを指導する事の難しさについてお話をいたしました。
現在は、過去最悪と言われる就職難の時代です。そんな中で、学生と世代の
違う教員が何を語るのか?そこで今回は、キャリア指導の際のスタンスにつ
いてお話しします。
教育と言えば、素朴に考えれば誰かの知識を誰かに与える事。覚えるのが頭
であることから、「頭にたたき込んでおけ」というようなメタファーが使わ
れています。ある知識を持っている人から、持っていない人に与える事とも
言えるでしょう(専門的に教育について語る場合には、上記メタファーは、
間違っていませんがごく一部になります)。
では、キャリアについて考えた時、学生達に何の知識を与えるのでしょうか。
この疑問を考えた時に、問題になるであろう点が思いつきます。それは、伝
えるべき知識というものはあるのか? という点です。こちらに関しては、
少なくとも「ない」とは言えないかと思います。仕事や業界に関する知識、
先人達がつまずいてきた様々な罠については伝えるべきでしょう。先日大学
時代の後輩がこのような事を申してました。
「飲み会の席などで、無礼講というが、本当の無礼講は見たことがない」
こういったある種の儀礼的な事はたくさんあるでしょう。この例は、かなり
フランクな話ですが、ビジネスマナーや常識問題、業界、業種に類する話題
は、知っていて当然のものはたくさんあるかと思います。それらは、当然伝
えるべき知識だと言えるでしょう。
一方、我々は(少なくとも私は)、仕事について無知であると思っています。
それは、世界中には多種多様な仕事があり、一つや二つの仕事を経験したぐ
らいで「仕事とは」を語るのは、あまりに少ないサンプルから語り過ぎてい
ると思うからです。
たとえば、私ハシモトは営業の経験があります。
しかし、営業職ではなかったので、毎日毎日営業をしているという気持ちを
理解する事は出来ません。
また、アルバイトとして、ファーストフードで働いていました。
しかし、正社員ではなかったので、正社員の気持ちはわからないのです。
もちろん、全くわからない訳ではないですが、それでも知らない事の方が遥
かに多いのです。キャリアは幅広く、学生の希望も幅広い。それをすべてフ
ォロー出来ないということを、自覚する必要があると思っています。
実は、上記以外にも、与えられた知識は役に立つのかと思う点もあります。
いかにエントリーシートや履歴書を書くか、面接時の振る舞いなどについて
は、餅は餅屋な気がします。テクニックの分野については、昔の経験を語る
ことはあまり意味がないので、ビジネスマナーの講師やキャリアコンサルタ
ントなどに依頼するのが妥当と考えます。
そこで、教員としてしなければいけないこと何でしょうか。
一つの可能性としては、「プロセスコンサルティング」ではないかと思って
います。プロセスコンサルティングとは、キャリア・アンカーを提唱してい
るマサチューセッツ工科大学のエドガー・H・シャイン教授が提唱している
支援のための方法論です。
通常、コンサルティングとは、コンサルタントがクライアントに対して「知
識やノウハウを伝授する」というメタファーや「医者が患者を診断し処置す
る」というメタファーで語られていましたが、シャイン教授は、「クライア
ントが自ら問題を解決するために、よりよいプロセスがとれるように支援す
ること」がプロセスコンサルタントの役割であるとしています。
これをキャリアについて言い換えるならば、学生が自らの進むべきキャリア
に気付けるように、また進めるように、内外の情報収集(業界情報や自分自
身のこと)や意思決定のプロセスが適切なものになるように支援する事だと
言えます。
この場合、必要な事は最低限の知識と、学生からの圧倒的な信頼です。コン
サルタントとして最も大切なことは、クライアントから信頼を得る事です。
この人とだったら問題を解決出来るだろうという期待こそが最も重要です。
その意味では、キャリアを支援する際に必要なことは、学生から「この人と
将来のことを一緒に考えればうまくいくかも知れない。そして、(ナイーブ
な)内面をさらけ出しても大丈夫だろう」という信頼や期待を得ることにな
ります。
はて、書いてみて、あまりのハードルの高さに驚きました。
少なくとも、出来ているという話ではありません。がんばらなければという
話であります。
なお、このことは、様々な専門を持つ方々に一つの示唆があるかと思います。
それは、なにも多種多様な業種を知らなくとも、正しいプロセスを歩めるよ
うに支援することはできると思うからです。学生との信頼関係という部分は、
教員としての専売特許ともいえるかと思います。その意味で、教員としてキ
ャリアを支援することの意味はあるのだと思っています(なお、大学におい
て、教員がどこまでキャリアを支援すべきかには、議論があります)。
最後に、「支援」をするということは、知識を「伝える」のとは、かなりの
違いがあるかと思います。そこで、参考にしている文献を紹介して終わりに
します。
・エドガー・H・シャイン(2002)
『プロセス・コンサルテーション』白桃書房
・エドガー・H・シャイン(2009)
『人を助けるとはどういうことか』 英治出版
(文責:ハシモト)
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