Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol.480 MOOCとOCWの違い

2013年06月02日 | オープニング


今年に入り日本でもオンラインで講義を無料公開する大学の動きが活発にな
ってきました。東京大学がオンライン講義配信を9月から開始すると表明し
たのに続き、先月京都大学も講義の無償配信を表明しました。こうした動き
の背景には、米国においてMOOC(Massive Open Online Courses)とよばれ
る大規模公開オンライン講座を提供するサービスがスタートしたことが挙げ
られます。主なMOOCのサービスとしては、スタンフォード大学発祥の「Cour
sera」(コーセラ)と「Udacity」(ユーダシティ)、ハーバード大やMITが
開始した「edX」(エデックス)等があります。なお、東京大学はCoursera
を、京都大学はedXを用いるそうです。両校が違うシステムを使うあたりは、
お互いのライバル心のせいかなあ?などと思ってしまいました。

しかし、大学が講義をインターネットで無料配信すること自体に新規性はあ
りません。今から10年以上前にMITにてOpen Course Ware(OCW)が始まり、
日本でも2005年からJOCWの連絡会が発足し、現在に至っています。そうした
動きと今回のMOOCブームの最大の違いは運営の仕組みにありそうです。OCW
の頃は、アメリカでは財団からの寄付、日本では個々の大学の努力が運営の
ベースにありました。一方、今回のMOOCは大学外の組織が運営しています。
それによって大学が事業継続のために背負う重荷は格段に少なくなっており、
より多くの大学が、継続して良質な授業を公開できる可能性が高くなりまし
た(「公開できるようになりました」とはあえて言いません)。

また学習面でも、OCWが単に講義を「視聴する」だけだったのに対し、MOOCの
サービスはオンラインのテストがあったり、学習者間のコミュニケーションが
あったりと、かなり学びの仕組みが整っているといった相違があります。それ
と受講修了者には「修了証」を発行するようになった点も大きな違いです
(もっともこの部分を有償にすることでMOOCを運営する企業は収益をあげよう
と目論んでいるようですが)。

さて、ここまで書いたところで、どうも自分の書いている内容に自信が持て
なくなったので、他のメルマガ執筆陣にMOOCについての意見を聴いてみまし
た。彼らからの意見を集約すると『参加大学が増えれば増えるほど運営費も
増えるはずで、受講そのものは無料である以上、どうやって資金調達するか
は難問。果たしてあと3年もつかな』というものでした。

そのココロは
ただ講義動画を配信するだけなく、オンライン上で様々な学習支援を実施す
ると飛躍的に手間がかかってしまい、修了証を発行することで得る収益ぐら
ではペイしない。さらに、講義動画の垂れ流し方式と異なり、履修者が増え
るほどこの手間は比例して大きくなる。

その昔、講演会でK大学のO先生を呼び、超満員大好評のビジネスセミナー
を開催したことがある。その講演を録音しオンデマンドで流したところ、
平均アクセス時間は10秒であった。「良い講義が廉価でonlineで視聴できる
から嬉しい、受講し続けよう」という奇特な人はそんなに多くない。

などだそうです。

しかしこの程度の考察なら、以前のeラーニングブームとその後の凋落を経
験した者であれば誰でもできます。それなのになぜ今MOOCなのか?技術的に
はOCWの頃とそんなに変わっていないオンライン講義配信がどうして注目を
集め、それに対しベンチャーキャピタリストからの投資を得る事ができるの
か?そんな疑問を抱きつつ昨日大学教育学会のシンポジウムに参加したとこ
ろ、東大の山内先生がMOOCについて講演しているではありませんか?何とい
う偶然、そして幸運。

山内先生によると、米国でMOOCが注目を浴びている背景には、高額になりす
ぎたアメリカの大学の授業料の問題があるそうです。アメリカのMOOC関係者
曰く「我々はこのテクノロジーを活用することで、大学教育の質を向上しつ
つ、そのコストを下げていかなくてはならない」。MOOCに寄せる期待の背景
にはこうした米国社会の要請があるようです。

アメリカで高等教育授業料が高騰すると、そのしわ寄せは「学生ローンの増
加」を生みます。「貧しいを理由に高等教育学習機会を失うことがないよう
に」というのがアメリカの高等教育政策の根本にあります。従って学費がい
くら高騰しようとも、学生の家庭が支払い可能な額との差額は、主に学生
ローンで補填されます。その結果、アメリカの学生は平均35,000ドルの借金
をかかえて卒業するそうです。そして国としての学生ローンの返済残高は1.
1兆ドルにも達してしまいました。そのうち11%が支払い滞納というのです
から、かなり深刻な社会問題です。そうした社会問題を解決する社会インフ
ラとしての期待がMOOCのブームに繋がっているのかもしれません。

以前コガは本メルマガで「eラーニング12年周期説」というのを提唱したこ
とがあります(VOl.441参照 http://goo.gl/EcsS3)。この周期はコンピ
ュータを活用した講義配信にもあてはまるのではないかと考えております。
奇しくも今から12年前の2001年は、MITがOCWを発表し、複数の財団から資金
提供を受け始めた年です。
(JOCWサイト『OCWの歴史』http://www.jocw.jp/OCWHistory_j.htm」参照)
なので今回のブームが一過性のものに終わらないことを願っています。
しかし、もしこの試みが成功した場合、現在の大学という仕組みや組織は極
めて大きな変革を余儀なくされるのでしょうね(文責 コガ)。

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