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日々の暮らしから

「街中の案山子」「庭にいます。」から更にタイトル変更します。

山本周五郎著「日本婦道記」を読んでいる。

2009-11-19 06:49:25 | 本・映画・テレビドラマ・絵・音楽
長らくやっている読書会の次回課題図書。
欠席がちだったので、推薦者はだれか知らない。
こんなことがないと、生涯よむことがなかったであろうから、他薦図書を読む機会があることはいいことです。

山本周五郎氏は、「赤髭診療譚」などを読んだくらいの記憶。映画化されたものをみたことも。
さて,この本は昭和18年頃、婦人雑誌掲載用に書かれた物語とか。よって、短編集。
昭和18年です。
戦時下。
言論統制もあった頃かと思いをはせます。
後日書かれた物語で、平和主義をくちにするだけで拘束される時代、とか読んだこともあるし。
検閲がある時代、その時代に表現者であることは、どんな意識になるものか、想像したりしている。

で、この本、タイトルもそのとおり、武士道ならぬ婦人道を説いている。
登場する女性はみな芯があって強い。
徳川時代前期のまだきな臭さが残っている江戸幕府の殿様の下級武士の家がよく出てくる。
夫は主君のために戦にかり出される。その留守家庭をいかに守るか、夫亡き後、家名を貶めずに子供を立派な跡継ぎにするために、いかに窮乏に絶えて頑張るか。
留守家庭に、いかに夫の親族といえども、敵味方になるかもしれないときは、夫留守の間も自分の夫の立場を守り、交わりを絶つか。

夫は主君と家のため。
妻は夫と家のため。
嫁は自分を捨ててでも姑の意に沿うようにあるべし。
何よりもお家断絶にならぬように、立派な後継ぎを育てるのが良き嫁。

わかりやすい道徳本。
どんな人たちがこの手の本を読んだのだろうか、と思いめぐらす。
戦争中、本当に食うや食わずの人は本を買う余裕もないでしょう。
すこし余裕のある女学生も読んだのかしら。
ウチの母は女学校時代風船爆弾を作る工場に学徒動員だったらしい、とお隣さんから聞いたことがある。
戦時色一色の時代。
あるいは、これから国民総動員へと結集させようとココロしていた時代だったのだろうか。
戦後うまれだから、昭和の16年と18年、そして20年の違いは判らない。
けれども、「銃後の守りを堅くするべし」の流れに沿うように書かれた物語だと判る。
ああ、その時代はこんな話が、こんな思考の形が溢れていたのだと推測すると、出征する夫や息子を見送る時の姿勢にも自己コントロールが働くのだろうな、と思ったり。

ああ、そのような本の出版から幾星霜。
今は溢れるように婦人向けの本も出版されている。
出版が自由になったからといって、かつての本よりも、今が格段に上とは言いがたいのは確か。
自由は手放したくないけれど、自由であれば軽薄にもなるということを今の私たちは知っている。