(C)Taku
「終わりのない世界=ラングストン・ヒューズ自伝 Ⅲ」
わたしは、軽やかに降る雪のなかを、ゆっくりと歩いていったが、それらの雪は、ちらばり舞う雪片となってパリの屋根という屋根を蔽い、ひらひらと落ちはじめていた。わたしが、ギャルリィ・ラファイエットとサン・ラザール駅のところを通って、モンマルトルに行けるわずかに傾斜している坂道を見あげたとき、街路は、いとももの寂しかった。その道筋にある小さなクラブやバーでさえも静かであった。みんないったいどこにいるのだろう、とわたしは思った。新年の最初の時間だというのに、このとても古いパリの都市は、なんと静かなんだろう。
昨年は、わたしはクリーヴランドにいた。一昨年は、サン・フランシスコにいた。その前の年は、メキシコ・シティにいた。その前の年は、カルメルにいた。カルメルにいた前の年は、タシケントにいた。次の新年がやって来たとき、わたしはどこにいるだろうか、と思った。そのころまでに、戦争になるだろうか…大きな戦争に? ムッソリーニやヒットラーは、わたしたちのほうにかれらの飛行機を向けるため、エチオピアやスペインでの武力行使を完了しているだろうか? 文明は滅ぼされるだろうか? この世界は、本当に終わりを告げるだろうか?
「わたしの世界は、そんなことはない、」と、わたしはひとりごとを言った。「わたしの世界は、終わりを告げないだろう。」
だが、世界というものは…すべての国家や文明は…必ず終わりを告げるものだ。モンマルトルの古めかしい家々のあいだに降りしきる雪の夜、わたしはじぶんに何度も言いきかせた。「わたしの世界は、終わりを告げやしない、」と。
だが、どうしてわたしに、そんな確信がもてようか? わかりやしないことだ。
しばし、わたしは、目を見はった。
(訳・木島 始)
「終わりのない世界=ラングストン・ヒューズ自伝 Ⅲ」
わたしは、軽やかに降る雪のなかを、ゆっくりと歩いていったが、それらの雪は、ちらばり舞う雪片となってパリの屋根という屋根を蔽い、ひらひらと落ちはじめていた。わたしが、ギャルリィ・ラファイエットとサン・ラザール駅のところを通って、モンマルトルに行けるわずかに傾斜している坂道を見あげたとき、街路は、いとももの寂しかった。その道筋にある小さなクラブやバーでさえも静かであった。みんないったいどこにいるのだろう、とわたしは思った。新年の最初の時間だというのに、このとても古いパリの都市は、なんと静かなんだろう。
昨年は、わたしはクリーヴランドにいた。一昨年は、サン・フランシスコにいた。その前の年は、メキシコ・シティにいた。その前の年は、カルメルにいた。カルメルにいた前の年は、タシケントにいた。次の新年がやって来たとき、わたしはどこにいるだろうか、と思った。そのころまでに、戦争になるだろうか…大きな戦争に? ムッソリーニやヒットラーは、わたしたちのほうにかれらの飛行機を向けるため、エチオピアやスペインでの武力行使を完了しているだろうか? 文明は滅ぼされるだろうか? この世界は、本当に終わりを告げるだろうか?
「わたしの世界は、そんなことはない、」と、わたしはひとりごとを言った。「わたしの世界は、終わりを告げないだろう。」
だが、世界というものは…すべての国家や文明は…必ず終わりを告げるものだ。モンマルトルの古めかしい家々のあいだに降りしきる雪の夜、わたしはじぶんに何度も言いきかせた。「わたしの世界は、終わりを告げやしない、」と。
だが、どうしてわたしに、そんな確信がもてようか? わかりやしないことだ。
しばし、わたしは、目を見はった。
(訳・木島 始)