2020@TOKYO

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■かわいそうなぞう

2007-07-21 | ■エッセイ
  
  全英オープンが始まった。今日は、そのことを書こうと思っていたのだが、とんでもないニュースが飛び込んできた。以下、ロイターが伝える記事の全文である。記事のタイトルは、「ドイツの動物園職員、動物の食肉処分で訴えられる」。

  ベルリン、18日 ロイター ) ドイツ東部のテューリンゲン州にある動物園の職員が、園内の動物を射殺し、食肉として販売していたとして、市長が同職員を提訴した。市長執務室の広報担当者によると、問題となっているエアフルト動物園では、長年にわたりシカなどの動物が職員により無許可で殺害・販売されていたという。訴えはすでに州検察当局の管理下にある。ツァイト紙は同動物園の職員の話として、園内の動物の数は減少を続けており、「何らかの対応が行われるべき時だった」としている。また、現地の動物愛護団体は、今日の事件が氷山の一角であると主張。エアフルト動物園をはじめテューリンゲン州内で動物を扱うすべての施設に対し、管理方法の見直しを求めている。

  動物園の職員が、飼育している動物を撃ち殺し、食肉業者に売り払う。にわかには信じられない光景だが、旧ユーゴ紛争、湾岸戦争のときなどには、動物園の動物を兵士の食糧に供したという話を聞いたことがある。平時であれ戦時であれ、肉食性の人々の発想は凄まじい。

  以下は孫引きである。上野動物園百年史によると、第2次世界大戦中の昭和18年8月から9月にかけて、食糧難による餌の不足、また空襲などにより檻が破壊されて動物が逃げ出すことを防止するため、ライオン、トラ、ヒョウ、インドゾウなど14種、27頭が処分されたのだと言う。

  このときの話は、「かわいそうなぞう」という題名で、小学生の教科書に載った。以下も他所の記事からの孫引きをまとめたもの 。「かわいそうなぞう」の主人公、ぞうの花子の死から2年たって、再び1頭のインドゾウが日本にやってきた。戦争は終わっていた。2度と戦争を起こさない誓いをこめて、このゾウは、再びはな子と命名された。花子が逝ったあとに現れたはな子は現在60歳。井の頭公園にある小さな動物園でひっそりと生きているそうだ。敗戦から現在まで、はな子は何を見てきたのだろうか? 孫引きはここまで。

  クヌートという名前を覚えているだろうか?去年の冬、ベルリンの動物園で生まれた白クマの名前である。母親が育児放棄をしたことから、動物園の職員が親代わりになって育てた。そのかわいい仕草が人気を呼び、日本のテレビ局も何度かクヌートの映像を流していた。

  クヌートがいるベルリンの動物園は、ヨーロッパでも最大規模を誇るもので、私もそこに行ったことがある。ベルリン国立歌劇場でハイドンの「月の世界」、ベルリン・ドイツ・オペラでワーグナーの「タンホイザー」を見るためにこの地を訪れた際、1日時間が空いたので、1人で動物園をうろついていた。海外の動物園に行ったのはこれが最初で最後。何はともあれ、スケールの大きさに驚かされた。それまで、私はベルリンに大きな動物園があることも、その近くの駅が「動物園駅」という名前であることも知らなかった。この動物園の存在を知ったのは、ホテルのベッドの中だった。

  7月11日のコラム「空港」に書いたように、悪天候の中ワルシャワからベルリンに入った私は、Hotel Palace Berlin に投宿した。現代的な五つ星のホテル。白を基調とした室内のインテリアはシンプルで清潔、私が好むドイツの美質溢れるホテルである。ワルシャワからの強行軍が疲労に拍車をかけ、私はすぐにベッドに沈んだ。

  翌朝、異様な物音が遠くから聞こえ、意識が次第に覚醒していった。目を開いてみると、白いレースのカーテンから淡い早朝の光が差し込んでいる。次の瞬間、私は完璧に覚醒し、ベッドから飛び起きた。意識の外でかすかに聞こえていた物音、それは無数の動物たちの吠え声だった。ライオン、ゾウ、トラ、カバ、サイ…、それかどうかは分からないながら、とにかく無数の猛獣たちが昇ってくる朝日に向かって吠えているのである。やがて甲高い鳥の声が聞こえ、慌てて窓の外を見ると、通りを1本隔てたところに、Berlin Zoologischer Garten ベルリン動物園があった。

  後になって調べたところによると、この動物園には約1,500種、14,000匹の動物が生息しているそうである。それがどれほどの量なのか、比較の物差しがないのだが、彼らの朝の雄叫びだけは、大自然の目覚ましアラームとして私の記憶に刻まれている。
  
  

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