連休最後の月曜日は一日中雨が降っていたので音楽を聞いて過ごしていた。
テオ・アンゲロプロス監督の「エレニの旅」のサントラ盤。作曲は、アンゲロプロス作品の常連であるエレニ・カラインドルー。「永遠と一日」も「ユリシーズの瞳」も彼女のスコアによるものである。
「エレニの旅」は、1919年から1949年のギリシャが舞台。ロシア革命の勃発が1917年、革命を逃れオデッサから逆難民となって帰国したギリシャ人たちの悲劇を、エレニというひとりの女性の目を通して描く大作である。
映画の中では、アコーディオンが重要な役割を演じるが、カラインドルーの作品も、この楽器の哀愁をおびた音色をたくみに使いながら、ストリングスやピアノ、ハープなどをからませてゆく。その音楽は、映画全編をつらぬく灰色に曇った欧州の空に、あまりにも哀しく響きわたる。
アンゲロプロスはこの作品について次のように語っている。「無垢から情熱的な悲劇へ。私のどの映画よりもこれは、人の運命への哀歌だ」。
ひとつの村が水没してゆくシーンは、人々の悲劇に戦慄をおぼえつつも、言いようのない情景の「美しさ」に胸をうたれる。水はすべてを流し去りながら、人々に再生の生命力を与えてくれる。闘争から諦念、そして再生へ。
水は、この映画にとって重要な役割を演じる。オキナワで戦死するエレニの夫が最後に妻に書き送った手紙。これがこの映画のテーマであり、カラインドルーの音楽も、まさしくこの最後の言葉のような響きをもっている。雨の日にこの音楽を聞くと、それをますます強く感じる。
“君が手を伸ばして葉に触れ、水滴がしたたった…。地に降る涙のように”