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マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

ぼくの大切なともだち

2008年06月13日 | 映画
 

パトリス・ルコント監督の作品じゃないか。

 現代フランスを代表する巨匠なのに、見た作品は「髪結いの亭主」だけだった。他の作品も見よう見ようと思っているうちに、いつのまにか時期を逸してしまい、見損なっていた。

 主役もこれまた、名優ダニエル・オートゥイユ。前作「そして、デブノーの森へ」では、新シャネルミューズになった女優に恋をし、翻弄される役をズシーんと演じていた。フランス映画と言えば、「ファムファタール」をやっていれば、なんとか人を呼べるという典型の作品だ。

 今回の「ぼくの大切などもだち」で、オートゥイユは、お金持ちでめちゃくちゃ美人の愛人もいる美術商を演じている。

 しかし、彼には親友がいないのが悩み。今さら、いい年したオッサンが、親友探しに東奔西走するなんて、「馬鹿じゃん」と思えるのだが、これがフランス映画のエスプリ。
 
 親友探しの手伝いをしてくれるタクシーの運転手との関わり合いにより、彼は真の友情に目覚めていくのだ。

 その目覚め方も、「マジっすか?これって、本当は小学生の時に感じる友情じゃん!」とあっ気に取られるが、ルコント監督の手にかかると、そこに成熟できない中年男の寂しさやペーソスが、上手く表現されているから不思議だ。

 日本の定年を迎えたサラリーマンも、会社をリタイヤした瞬間に、自分の人生の全てが会社だったことに気がつき、それは寂しい孤独感に耐えているはずだ。何しろ、「定年した瞬間、年賀状が全く来なくなった」と、定年した友達が愚痴っていた。気がつくと、家庭に引きこもった定年組には、親友どころか、気軽に遊びに行くお友達もいない。

 思えば、ルコント監督はそんな日本の企業戦士だったリタイア組にも、熱い勇気と優しいメッセージを送っているのかも知れない。

    これは、ちょっと深読みかもしれないけど…。


6月14日から渋谷文化村ル・シネマにて公開

監督・脚本
パトリス・ルコント

出演
ダニエル・オートゥイユ
ダニー・ブーン
ジュリー・ガイエ

ぼくの大切なともだち 公式サイト

最高の人生の見つけ方

2008年04月26日 | 映画
待ってましたのキャスティングだ!

ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンはこの作品で初共演だそうだ。いつかはこのハリウッド屈指の性格俳優の競演を望んでいた私は、このキャスティングだけで、もう大満足だった。

しかも、「ガンで余命6ヶ月」と宣告された大金持ちの実業家をジャック・ニコルソンが、しがない自動車整備工をモーガン・フリーマンが演じている。うーん、なるほど。これもまた、してやったり。ジャックにはお金や女のHな香りがぴったりだが、フリーマンにはそれが似合わない。

さて、余命6ヶ月という共通の運命を背負った二人はどうするか?

なんと、人生でやり残したことを全うするために、豪華な世界旅行に出かける。もちろん、この費用は超大金持ちのジャック・ニコルソンの驕り。

そして、人生の最後でこの二人が見つけたものは…。

 映画は病む人悩む人の救世主だと、思いっきり崇拝している私にとって、待望の傑作がゴールデンウィークを席捲する。

 何度も、書いているが、コメディの神様、チャーリー・チャップリンのある作品のエピソードを追加、上乗せする。

 ある日、家族もお金もなく、病気のために、自殺を決意した男性が、この世の見納めに、活動写真(これ、昔の映画の呼び名)を見ようと映画館に入る。この男性は、映画を見終えたら、どうやって死のうかと考えていた。しかし、目の前のスクリーンに登場する人物が自分以上に不幸であるにも関わらず、前向きに闘い、生きていく姿に感動して、男性は自殺を思いとどまった。

 これこそ、チャーリー・チャップリンの作品なのだ。


このエピソードと匹敵するのが「最高の人生の見つけ方」だ。私はこの作品で、全ての迷いを吹っ切った。ウジウジ考えるのを止めた!老後の資金のために、水道代やガス代をケチるのを止めた!

 明日は明日の風が吹く!!!!!!今日できることは今日のうちに!!!!

 そう!人間はどんな状況でもポジティブに明るく生きていこう!そうすれば、どんな人にも最高の人生が待っているのだ。

 監督はロブ・ライナー。傑作「スタンド・バイ・ミー」を世に送り出した監督だ。14年ぶりのジャック・ニコルソンと共に、30日に来日し、記者会見が行われる。しかし、私用で会見にいけない。残念でたまらない。




最高の人生の見つけかた公式サイト

監督 ロブ・ライナー
出演 ジャック・ニコルソン モーガン・フリーマン
配給 ワーナー・ブラザース
公開 5月10日より 全国ロードショー

「R-40指定の女性映画」鑑賞のススメ

2008年04月07日 | 映画
またまた宣伝です!


4月7日発売の「GRACE(グレース)」5月号の特集ページ「40代は親孝行適齢期」の中の映画コーナーに「R-40指定の女性映画鑑賞のススメ」というタイトルで映画コラムを見開き2ページに渡り、書いております。

新旧問わず、親子の愛情、確執をテーマにした8作の名作を扱っております。ここに登場してくれる作品は、私の人生に栄養とエキスと励ましを与えてくれた作品ばかりです。

その中でも、メインの2作はメリル・ストリーブ、レニー・セルヴィガー主演の「母の眠り」とヘンリーフォンダ、ジェーン・フォンダ主演の「黄昏」です。「黄昏」は映画論だけでなく、実親子であった、ハリウッド屈指の大スターヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ親子の実生活の確執にも触れております。このエピソードにも涙が誘われます。

その他に、映画ライター・瀧澤陽子のお薦めの「泣ける親子映画」として、

「恋人たちの食卓」アン・リー監督
「マグノリアの花たち」ハーバード・ロス監督
「スタンドアップ」ニキ・カーロ監督
「秋刀魚の味」小津安二郎監督
「やさしい嘘」ジュリー・ベルトゥチェリ監督
「ヤァヤァ・シスターズの聖なる秘密」カーリー・クーリー監督

のご紹介もしております。

ぜひとも、ご覧いただけると幸いです!

詳細はグレース公式サイト
です!

地上5センチの恋心

2008年03月07日 | 映画
3月7日発売の女性誌「GRACE」(世界文化社)4月号の「今月のご招待・映画」欄に仏・ベルギー映画「地上5センチの恋心」の映画コラムを書いています!


「宝石をちりばめたように輝く平凡な主婦の人生の万華鏡」というタイトルです!

ジョセフィン・ベーカーの歌とロマンス小説を愛する未亡人に、ある日思いもかけないハッピーな出来事が起こります。

「幸福を与える人は、自らも幸福になれる」そんなポジティブなロマンチックコメディです。

 主人公を演じているのがカトリーヌ・フロ。フランスを代表する演技派女優です。この作品以外にも4月公開予定の「譜めくりの女」というミステリーにも出演しています。

 「GRACE」4月号は創刊1周年記念号ということで、紙面も新鮮でますます充実しています。本誌には「39歳からのオードリー・ヘップバーン」という特集記事も載っています。オードリーファンには必見です!是非ともお買い求めいただけるとうれしいです!よろしくお願いします!
GRACE(グレース)公式サイト

 常々映画館の入場料が高いことに怒っている私ですから、どうせお金を出して映画を見るなら、見て得した気分になれる映画をご推薦したいといつも思っています。全ての映画がワンコイン(500円)で見れるようになったら、もっと映画が身近になり、よりたくさんの人たちに映画の素晴らしさが伝わり、興行収入だって伸びると思うのですが…。

 例年なら、この時期にはアカデミー賞を受賞した作品が注目されますが、今年のアカデミー賞受賞の中で納得ができたのは、今のところ「エディット・ピアフ~愛の讃歌」のマリオン・コテイヤールの主演女優賞だけでした。「「潜水服は蝶の夢を見る」のジュリアン・シュナーベルが監督賞、「告発のとき」のトミー・リー・ジョーンズは主演男優賞にノミネートされましたが、共に受賞にいたりませんでした。ジュリアン・シュナーベル監督は「バスキア」で注目してただけに、今回の「潜水服は蝶の夢を見る」ではその才能を開花させた良作だと思っていたのに残念でたまりません。

「告発の時」はイラク問題をテーマにした父と息子の物語で、今までにないイラク戦争への切り口で感動しました。主役のトミー・リー・ジョーンズの演技には脱帽。「クラッシュ」でアメリカのマイノリティにスポットをあてたポール・ハギスが監督しているからこその逸品でもありました。

 多数の賞に輝いたコーエン兄弟の「ノーカントリー」や助演女優賞を取った「フィクサー」には全く心が動きませんでした。あ、これからご覧になる方は私の感想は無視してください。好みは人それぞれですから…。

 春一番が吹き荒れ、本格的な春がもうそこまで来ています。と言っても春は新しいことの始まりの季節なので、楽しい反面不安もつきものの季節です。私もこの季節にはおつむがちょっとヤバくなります。(笑)

ですから、「地上5センチの恋心」でも見て、元気になって、前向きに生きていきましょう!お互いに。


地上5センチの恋心公式サイト

シネスイッチ銀座などで公開中!

監督・脚本
エリック=エマニュエル・シュミット

出演
カトリーヌ・フロ
アルベール・デュポンテル
ファブリス・ミュルジア
ジャック・ウェベール
アラン・ドゥテー




いつか眠りにつく前に

2008年02月20日 | 映画
 実は、映画の欠点を見つけるのが大好きな嫌~な女なんです。

 それは、あまりにも長い間映画を愛し、見続けてきたせいかもしれない。10代の頃から今に至るまでに、魂を揺さぶってくれた偉大な映画の感動が忘れられなくて、いつも心の中にこびりついて離れてくれない。だから、どうしてもそれらの傑作を超えるさらなる感動を求めて新作映画に向き合ってしまう。

 しかし、悲しいことにそんな素晴らしい映画との出会いは多分、年に1度か2度あるかないかの確率なのは、シネマディクトなら誰でも痛感していることだろう。それを百も承知で、映画という荒野を目指し、映画という至福の桃源郷を目指して、懲りずに毎日のように映画を見続けている。

 映画の作り手たちが、決して妥協しない映画作りに精励しているように、感想を述べる私だって妥協したくない。それこそ、映画に対する最高のオマージュであり感謝の気持ちの表れだと信じているからだ。

 な~んて、ちょっと、観念的なことを書いてしまったが、今年初めて欠点のない感動的な映画に出会ったようだ。

「いつか眠りにつく前に」である。いい映画に出会うと、1週間は元気で機嫌がいい。


 主役がヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリーブ、グレン・グローズと、現代の映画界を支える天才的な3大女優たちだ。しかも、ヴァネッサとメリルの若い頃を実の娘が演じている点も見逃せない。

 物語は単純だ。

「マジソン郡の橋」と「タイタニック」を思い出せば、分かりやすい。

 死の床にある老女(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の、若い頃に実を結ばなかった恋への回顧録である。混濁して意識の中で、叶わなかった恋とその恋人の名前を告白する。こんな艶々した過去のある妻を持った夫たちには気の毒な話であるが、これが女なのである。

 死の床で過去の恋人を思いながら死んでいく男の物語は、あまり聞いたことがない。

 女の恋は根が深く、執念深い。そんな女の部分を理解して、母親の死を見送るのも、同性である娘たちとだったという展開も、実にリアルで嘘がない。

 これは、女の物語であり、母と娘の物語でもある。決して、世の男性には立ち入ることのできない女の真実の物語なのである。

 鳴り物入りの文芸作品は、ややもすると、とてつもない過ちを犯して、どんどん独りよがりの方向に突っ走ってしまう。気がつくと、鑑賞者を置いてけぼり、なんて事も多々ある。

 しかしこの作品は全く違う。ベテラン女優が競演する文句無しの文芸大作品に仕上がっていて、全く欠点を探せない。

 キザな感想になってしまったけど、この作品を見た人は、きっと今の私の気持ちをわかってくれると思う。


2月23日から公開 日比谷みゆき座

監督 ラホス・コルタイ
出演 メリル・ストリープ ヴァネッサ・レッドグレイヴ クレア・ディンズ
   グレン・グローズ

公式サイト いつか眠りにつく前に

君のためなら千回でも

2008年02月07日 | 映画
 ソ連からもアメリカからも介入されなかったアフガニスタンが、こんなに平和でこんなに豊で、こんなにユーモアに溢れた国だと思わなかった。アフガニスタン国民のレジャーが大空に飛ばすタコ上げだったことも、この作品で知った。

 ここに登場する二人の少年は立場は違うが、強い友情で結ばれている。お互いに、大の映画好きでもある。おこづかいを貯めては街の映画館に通う。彼らが好きな映画がアメリカの大スター、スティーブ・マックイーンの作品だったことに、微笑んでいた。作品は「砲艦サンパブロ」と「大脱走」だったと記憶する。カブールの少年たちにとっての憧れの銀幕の大スターが、スティーブ・マックイーンだったことに、私は感涙にむせた。私の中でも、スティーブ・マックイーンはアメリカを代表する男優だと信じていたからだ。

 こんな穏やかで平和な国アフガニスタンの首都・カブールにソ連が侵攻する。すぐさま、アメリカが介入し始める。内戦の火蓋が切られるとともに、あどけない二人の少年の友情が見るも無残に引き裂かれていく。少年たちの憩いの場であった映画館も銃弾と爆弾で廃墟になってしまう。

 泣けてくる。

 戦争をテーマにした作品を見ると、その本数だけ、戦争の傷跡が心に残り、胸が痛んでならない。今公開中の日本映画「母べえ」を見た時もそう思った。平和な街の風景、明るい人々の表情を破壊する戦争を、なぜ人間は愚かにも繰り返すのだろうか。

 戦争がある以上は、戦争をテーマにした映画はこれからもずっと創られていくだろう。しかし、願わくば、戦争映画がスクリーンから消える日が来て欲しい。その時こそ、本当の意味で、世界に平和が訪れる日になるのではないだろうか。

監督 マーク・フォースター
出演アブダラ アミール
エルシャディ ババ


2月9日 恵比寿ガーデンシネマ、シネスィッチ銀座にて公開

「ラスト、コーション」

2008年02月06日 | 映画
 とにかくストーリーに興味があった。舞台は日本軍占領下の上海と香港。日中戦争だけでなく、中国人同士の内戦をも描いている点にますますそそられた。それなのに、この作品には全く戦闘シーンが登場しなかったので、更に感服していた。

 二人の立場がまるで違う男に愛される女スパイ(タン・ウェイ)の繊細な心の揺れが程よい加減に綺麗に描かれている。何よりもタン・ウェイとトニー・レオンのセックスシーンには驚嘆した。今まで見た映画の中で最高に長いセックスシーンではないだろうか。

 アクロバットのようにフレキシブルに流れ、無数に変化する体位から放つエロスは耽美と退廃に溢れている。少女のように熟し切れないが、それでいて貪欲な性への好奇心に挑む新人女優タン・ウェイ。そこに、ベテランのトニー・レオンが果敢にもタンの若い肉体を弄び、熟練した男の性戯の喜びを教え尽くす。

 トニー・レオンは綺麗ごとでは仕事しない稀有な男優なので、私はこんなトニーが大好きだ。ここまで、自分をさらけ出し、のめり込んで演じる俳優魂。というよりも、トニーの根底にある俳優哲学を叩き込まれたようで、頭が下がった。久しぶりに起承転結のあるセックスシーンの激しさと美しさと素晴らしさを満喫した。

 終盤になって、なぜこの作品には戦闘シーンが登場しないのかが、やっと理解できた。性のタブーに触れた「ブロークバックマウンテン」を世に送り出したアン・リー監督だからこそ、実は日中戦争を背景に、戦争は戦争でも普遍的な「女と男の愛という戦争」を描きたかったのかもしれない。

監督アン・リー
出演トニー・レオン、王力宏(ワン・リーホン)、タン・ウェイ

シャンテ シネ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開中



フローズン・タイム

2008年01月25日 | 映画
 時間を止めることができたら、さて何をしようか?

 過去に遡れば、止めたい恥ずかしい出来事ばかりである。が、タイムマシーンのように過去には戻れないし、未来にも行けないのがこの映画の原則。今あるこの瞬間だけ、時間を止めることができる。

 さて、何を止めようか?

 色々考え、想像してみるが、凡人の私はどうも思いつかない。時間を止めたいほどやりたいことがない知的貧弱な人間なのである。

 しかし、主人公の画家志望のベンは違う。立派に時間を止めて、自分のイマジネーションの世界を彷徨うのだ。

 ベンは失恋のショックから不眠症にかかる。1日は24時間。人の平均睡眠時間は8時間として、ベンはこの余剰の8時間を持て余す。苦肉の策から生まれたのが、ロンドンの24時間営業のスーパーマーケットで働き始めることだった。ロンドンのスーパーマーケットという設定も面白い。そこでベンと共に働く人も摩訶不思議で面白い。

 さらにベンは1日24時間の天文学的ルールを破り、時間を止める力を持ち始める。1日24時間の時間がさらに増えていく。意識が混濁した時にだけ、周りの世界が止まる。動いているのは自分だけ。虚空の人になる。
 
 すると、ベンは目に留まった美しい女性たちをデッサンし始めるのだ。縦横無尽に美を追求し、美を表現する。究極の美とは、時間が止まった世界にしか存在しない。そんな芸術家の普遍的な願望や欲望を表しているのも、この異色な「フローズン・タイム」という作品の狙いなのかもしれない。

 失恋からベンは立ち直り、新しい恋を見つける。新しい恋を見つけた瞬間、またベンに別の変化が起こる。この変化が実にコミカルでロマンチックで楽しい。

 恋は盲目と言うが、人は恋することで自然体の全うな人間に戻れるというパラドックス。何よりも映像が美しい。新鮮で「洒落た恋と芸術」への礼賛に拍手喝采!

 恋から縁遠くなっていた(ぶっちゃけ、誰からも相手にされなかった)私は、やはり全うな人間ではなかった。と、今さらながら気がつき、焦った。ということは今からでも遅くない。全うな人間になるために、より良い表現者になるために、皆さん、元気一杯恋をしましょうね!

  
フローズン・タイム公式サイト
 
1月26日~公開。渋谷Q-AXシネマにて
 
監督督 ショーン・エリス
出演 ショーン・ビガースタッフ/エミリア・フォックス/ショーン・エヴァンス/ミシェル・ライアン/スチュアート・グッドウィン /マイケル・ディクソン/マイケル・ラムバーン/マーク・ピッカリング/フランク・ヒスケス

2006年イギリス映画


新年はジョニー・デップから

2008年01月09日 | 映画
 2008年1月9日、新年早々にビッグな俳優の来日記者会見が六本木の「グランドハイアット」であった。

 その人は、あの人です。「スウィーニー・トッド」で来日したジョニー・デップです。監督のティム・バートン、製作者のリチャード・D・ザナックと一緒でした。

 実を言うと、「スウィーニー・トッド」作品そのものは、あんまり好きじゃないんです。これはマリリンの感想ですから、これから見る方は無視して、是非ご覧になってくださいね。見てこそ映画、感想は十人十色です。

 とはいいつつ、何よりもジョニー・デップは見たい。矛盾していますが、彼は本当に花のあるスターです。どんな役にも挑戦し、どんな役も見事にこなしますね。ブラッド・ピッド、レオナルド・ディカプリオ、ジュード・ロウのようなビッグスターがどうがんばっても、淘汰できない、胸にジーンとくる「負の魅力」が一杯あるんですよね。

 これは、一言で言ったら、「男の哀愁」でしょうか?「チャーリーとチョコレート工場」でジョニーを見てから、何年たつのかしら。あの時の記者会見から、ほぼ2年かな。今回のジョニー・デップはあの時のギラギラとしたダイヤモンドの輝きから、いぶし銀のような渋さを放っていました。渋い男の色気がムンムンでした。

 本来、俳優はいぶし銀からギラギラのダイヤモンドに化身していくのがスターなのに…。ジョニーはその反対でした。ますます渋みが増して、シャイで寡黙なのに、喋れば、ウィットに富んでいて。時代に逆行するジョニーの魅力に、世界の女性ファンは夢中になるんでしょうね。年をとるにつれて、益々少年のように純になっていく。

 ま、私もそんなジョニーの魅力に獲りつかれた一人かもしれません。

 「自分を動物の肉に例えたら、何の肉?」という妙な質問にも「僕は蛙の肉、それも、から揚げにした蛙の肉」と答えてくれました。大爆笑です。
 
 ま 、新年早々から、世界中の女性に愛されるイケメンを拝むことができて、映画ライターやっていて本当に良かったと思いました。やっぱ、ジョニデプはかっちょいい。満足でした。

 ところで、この会見に登壇してくれたティム・バートンの情報はたくさんありますが、マリリンは製作者のリチャード・D・ザナックにも、特に興味がありました。

 リチャード・D・ザナックは製作者としては有能な人物ですが、そのお父様のダリル・フランシス・ザナックはもっと凄い人だったんです。20世紀フォックスの
副代表までやった生粋の映画人で、アメリカの映画界では彼を知らない人はいないんです。

 往年の映画ファンなら誰もが知っていることですが、「わが谷は緑なりき」「紳士協定」「イヴの総て」の3本でアカデミー作品賞を受賞しているんです。この中で「イヴの総て」は私の大好きな作品で、ベティ・デイヴィスが主演しています。何よりもあのマリリン・モンローのメジャーデビュー作でもあります。監督はジョーゼフ・L・マンキーウィッツ。この傑作を製作したのが、ダリル・フランシス・ザナックでした。
 
 1976年、エリア・カザン監督の「ラスト・タイクーン」はこのダリル・フランシス・ザナックの生涯を描いています。ザナック役はロバート・デ・ニーロでした。この映画も良かったなぁ。エリア・カザン。懐かしい監督ですね。「エデンの東」。ジェームス・ディーンですね。夭折したあの最高に綺麗な男優を発掘したのがエリア・カザンですね。


 その血がご子息のリチャード・D・ザナックも流れているのも事実です。凄い人です。ジョニー、ティムの話も聞くことができたのですが、ちょっとおじいちゃまになったザナックの話を聞くことができたのも収穫でした。感激でした!

 その後、新年の一発目の試写、「地上5センチの恋心」(フランス・ベルギー映画)を見ました。これは大人の男女の恋のメルヘン。とても心が暖まりました。

 次は、なんと、角川映画の「カンフーくん」。あまりにもアンバランスなチョイスですが、カンフー映画が好きな私はなんとしても見たかったのです。

 主役の7歳のチャン・チャワン君はマルコメ君みたいな、くりくり頭で可愛くて、スリスリしたくなりました。泉ピン子もカンフーに挑戦。楽しい映画でした。しかし、横溢する試写状の中から、「カンフーくん」をなぜ選んだのか、未だに自分自身が理解できないのです。

 というわけで、2008年は、ジョニー・デップ、大人の恋愛メルヘン、くりくり頭のカンフーくんでスタートしました。

 今年は昨年以上にたくさんの試写を見たいと思っております。拙いブログですが、マリリンの映画感想をご参考にしていただけたら、うれしいです。

 今年もよろしくお願いいたします!


「あの胸にもういちど」と「2007年度映画クロニクル」

2007年12月30日 | 映画
 年末の渋谷に出かけた。最近、渋谷駅のハチ公口で降りると、あまりにも人の数の多さで、波に飲まれそうになり、めまいがする。学生の頃には一番大好きな街だったが、最近はあまり行きたくない場所の一つになっている。

 しかし、ハチ公口の交差点を渡りきり、東急デパート沿いにある文化村通りにまで歩くと、全くロケーションが変わる。「109」「センター街」にたむろっていたガキ共の姿が消え、一気に洒落た大人の通りに変貌するのだ。

 今唯一渋谷で好きな場所である。文化村にあるレストラン「ドゥ マゴ パリ」でコースディナーを食べた。メインディッシュはサーロインステーキ。オードブルは盛りだくさんきのこのテリーヌだった。サーロインステーキは、柔らかくて薄味、食感がよく、石ちゃんじゃないが、「まいうー!」なのだ。渋谷で私が唯一愛しているレストランだ。

 ディナーを満喫した後、夜9時30分から上映されるマリアンヌ・フェイスフルのデビュー作「あの胸にもういちど」を見た。「やわらかい手」の大ヒットで、抱き合わせの1本として公開されている。

 「やわらかい手」で40年ぶりにマリアンヌ・フェイスフルに出会い、オバサンになってもカッコいいマリアンヌのデビュー作をこの目でもう一度見たかった私は、とても満足した。

 21歳のマリアンヌはキュートでセクシーで、今の時代でも全くアナクロニズムを感じさせず、私の記憶の中にある女神マリアンヌ・フェイスフルそのものだった。愛人役のアラン・ドロンの美しさと男の色気、コケットリーにも度肝を抜かれていた。ストーリーも綿密に計算されていて、シナリオも完璧だった。二人のセックスシーンの撮り方は実にシュールでエロチックで、今の時代でも古臭くない。
 
 当時、中学生だった私は、こんなませた映画を見ていたのか…。映画館だけが娯楽で、庶民の唯一の憩いの場であった頃、子供でも大人の男女の複雑な恋愛感情や心の葛藤をスクリーンの中で考え、味わうことができた。

 それなのに、今の子供たちにとって、映画というのは、あまたある娯楽の「ONE OF THEM」になっているので、かわいそうな気がする。多種多様の娯楽が横溢し、飽和状態になっているので、それだけ選択肢は多くなっても、楽しみは希薄になっているのが実情なのではないだろうか。

 年末最後の試写となったジョニー・デップ主演の新作「スウィーニー・トッド」はティム・バートン監督の新作でもあり、かなり楽しみにしていたが、切り裂きジャックさながらのジョニー・デップの首切りシーンがあまりにもえぐく、残酷過ぎてちょっと刺激が強かった。もし、ジョニー・デップが主役でなかったら、この作品は大変なことになっていただろう。

 ウォン・カーウァイ監督の新作「マイ・ブルーベリー・ナイツ」はジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、ジャズ界の女王ノラ・ジョーンズが主演すると知って、とても楽しみにしていた。特にウォン・カーァイ監督の「花様年華」は私にとって珠玉の一本だった。「恋する惑星」よりも好きな作品だ。しかし、今回の「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、音楽や映像は斬新で素晴らしかったが、内容が今一で残念だった。

 その中で、2007年度の幕引きをしてくれる映画が40年前のリバイバル「あの胸にもういちど」だったことに感慨深く、複雑な思い。

 しかし、今年は仕事柄、例年にないくらいの数の映画を見た。今手帖を見て数えてみると、約250本。月平均では約20本の割り当てである。
 
 その中で特に心に残る洋画は

「エディット・ピアフ~愛の賛歌」「やわらかい手」「ヘアースプレー」

「ディパーテッド」「あるスキャンダルの覚え書き」「パフューム」

「フリーダムライターズ」「ルオマの初恋」「それでも生きる子供たちへ」

「ツォツイ」「イタリア的恋愛マニュアル」「オフサイド・ガールズ」

「パンズラビリンス」「インランド・エンパイア」「私の小さなピアニスト」

「ブレイブワン」「アニー・リーボヴィッツ」「ディセンバー・ボーイズ」

「アース」「ブレードランナー ファイナルカット」「いつか眠りにつく前に」

「フローズン・タイム」「ラストコーション」「潜水服は蝶の夢を見る」

「君のためなら千回でも」「ジェイン・オースティンの読書会」etc。


 邦画では

 「それでも僕はやってない」「あかね空」「さくらん」「キサラギ」

「自虐の詩」「夕凪の街、桜の国」「母べえ」「シアトリカル」「接吻」

「椿三十郎」etc。


 この中には来年ゴールデンウィークに公開予定も早々に入っているので、公開近くになったら、感想を書きたいと思っている。

 競馬と同じように、映画も追いかけているとあっという間に1年が過ぎてしまう。来年もまた、感動的作品が何本待っているのだろうか?約2時間の映画の中には、行ったこともない国、見たこともない自然、風景が映し出される。そして、何よりも世界中で生きる人々の、様々な人生とも出会える。

 暗闇の濃密な2時間の中で、未知の人々の人生の一生分を共有共感し、時には励まされ、時には笑い、時には勇気や元気をもらうことだってできる。


 だから、私は映画が大好きだ!



 




やわらかい手

2007年12月02日 | 映画
 
 協力している女性誌「グレース」(世界文化社)12月号に俳優の豊川悦司さんが、「やわらかい手」のコラムをお書きになっている。その文章は映画コラムというよりは、映画ポエムに近い。既存の映画評論家や映画ライターが書く文章とは一線を画している。作品の感想を正直なお気持ちで綴り、実に新鮮で爽やかで、心の底から暖かい気分にさせてくれる。

 私もマリアンヌ・フェイスフル主演のこの「やわらかい手」にはいたく感動した。ここで、マリアンヌ・フェイスフルと言っても、往年の映画ファンなら誰でも知っているだろうが、今の若い人たちには馴染みのない名前なので、ちょっと彼女の説明をしたい。

 マリアンヌ・フェイスフルは今から40年前には、女性シンガーだった。マリアンヌの名前を世界に知らしめたのが、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー、キース・リチャーズが作詞、作曲した名曲「アズ・ティアーズ・ゴーバイ」。この曲で彼女は大ブレイクした。その後は、ミック・ジャガーの恋人として君臨し、実生活ではドラッグに溺れ、時代の先端を行くカッコいい女、ハチャメチャな女だった。

 私とマリアンヌ・フェイスフルの出会いも今から約40年前だった。それは中学生の時の中間試験の最終日のことだった。一夜漬けの勉強でも、試験が終わったとなると、解放感に浸り、それはウキウキと楽しい気分になってくるのはどの生徒も同じだと思う。

 10代の頃からシネマディクトの私は、試験が終わった日には即行、映画館に飛び込むのが常だった。当時は、アメリカンニューシネマも全盛であったが、フランス映画もそれに負けないくらい台頭していた。アラン・ドロン、 リノ・バンチェラ、ジャン・ポール・ベルモンドなどなどの俳優陣。

 その中でも世界一美男子のアラン・ドロンの人気は、現在のブラッド・ピッド、ジュード・ロウ、ヒュー・ジャックマンなど問題にならないくらいの大人気だった。彼の主演する映画は、全て大ヒットした。私の好きな作品は「太陽がいっぱい」「地下室のメロディ」「冒険者たち」「さらば友よ」。名作ばかりであげたらキリがない。

 いつも共演する女優とスキャンダルを起こすのも世界一のプレイボーイ、アラン・ドロンの真骨頂で、共演したナタリー・ドロンは奥様になり、あのファニーフェイスのミレーユ・ダルクとの愛人関係はあまりにも有名な話だ。おまけにミレーユ・ダルクとは「愛人関係」という作品で共演しているから、そのスケールの大きさからも、本当の意味での映画全盛の「銀幕の大スター」だったのである。

 そんなアラン・ドロンの新作が来ると聞いて、私は放課後、千葉の某映画館に転がるように飛び込んだ。その映画の題名が「あの胸にもういちど」だった。アラン・ドロンと共演する今度のマドンナが、マリアンヌ・フェイスフルだと分かった時、私はびっくりした。なんとミック・ジャガー様の恋人だったからだ。ミックがこれを知ったら、どんなに逆上するのかと、子供ながらに心配した。

 スクリーンの中のマリアンヌ・フェイスフルは、均整の取れたシンメトリーな豊な胸、なだらかな曲線を描くウエストのくびれ、カモシカのように細い足の全裸を堂々とさらけ出していた。ブロンズ像のような美しいその全裸の上に、きっちりと体の線を映し出すタイトな皮のジャンプスーツを着込み、颯爽とバイクに跨っているではないか!愛人のアラン・ドロンに会いに行くためのコスチュームなのである。

 なんてカッコいいんだろう!溜め息が出ていた。このシーンだけで、私は完全にマリアンヌ・フェイスフルにイカれてしまった。女が惚れる女。それが、伝説の女神、マリアンヌ・フェイスフルなのだ。

 それから、40年の歳月が流れた。あのマリアンヌ・フェイスフルも今では61歳。そのマリアンヌが40年ぶりに主演する映画「やわらかい手」がやって来ると、宣伝部の方から試写のご案内を頂いた時、実は最初、見るのをためらった。女にとって40年の年月の残酷さは重い。あの私のミューズ、マリアンヌをどのように変えてしまっているかが心配でたまらなかった。もちろん、私だってマリアンヌと同じように年を取っている。

 その再会が恐かったが、青春時代の女神が40年ぶりに主役をやるのだから、なんとしても見るしかないと決心して、完成披露試写会場に行った。

 マリアンヌが画面に現れた。中年太りした姿に、スティーブン・キング原作のホラー映画「ミザリー」で主役した性格女優、キャシー・ベイツとダブった。

 がっかりした。夢が壊れた。これが、マリアンヌと再会した私の最初の感想だった。しかし、しかし、しかしである。マリアンヌが演じるマギーという初老の女性の生き様が画面を走り始めた瞬間、もうマリアンヌの老いた姿へのこだわりなどすっかりと消えていた。

 マギーの最愛の孫が、不治の病を患っている。オーストラリアで手術すれば、生存の可能性が出てくる。しかし、息子夫婦も祖母のマギーも莫大な金のかかる手術の費用などあるわけがない。

 そこで、マギーは孫の命を救うために、ロンドンのソーホーの風俗店で働くのである。初老の女では体は売れない。しかし、マギーには天賦の才があった。それは、彼女の「やわらかい手」なのである。マギーは男を手でイカす最高のゴッドハンドの持ち主だったのだ。たちまち売れっ子になり、彼女はあっという間に孫の手術の費用を稼ぎ出してしまう。

 ややもすると、エログロになりそうな話だが、孫の命を助けるために、連日のように風俗店に出勤するマギーの歩く姿を見ているうちに、無償の愛情の素晴らしさに誰も胸が打たれるのである。

 マギーを嫌っていた息子の嫁も、その風俗店の店主も、その健気で異色な「無償の愛」の姿に胸を打たれ、いつしかマギーを見つめる彼らの表情が、いぶし銀からプラチナの輝きに変わる瞬間の演出も見事だった。風俗店の店主・ニキとの間に芽生えるマギーの恋愛感情も素晴らしかった。

 「あの胸にもういちど」の伝説のマリアンヌ・フェイスフルだって、年を取る。当たり前だ。しかし、年をとっても、カッコいい女は永遠にカッコいいのだ。老いても風俗店で働け、ナンバーワンになれるマギー(マリアンヌ)がそれを証明してくれたのである。

 
「やわらかい手」公式サイト  http://www.irina-palm.jp/

監督:サム・ガルバルスキ
出演:マリアンヌ・フェイスフル/ミキ・マノイロヴィッチ/ケヴィン・ビショップ
12月8日公開

恋空

2007年11月19日 | 映画
 
 仕事柄、ほぼ毎日のように新作映画の試写を見ている。その全てを拝見したいのだが、体と頭は一つ。約2時間の上映時間の試写は、見ても1日に3本くらいだ。

 その中で先週はかなりいい映画にめぐり合った。ロンドンのスーパーマーケットを舞台にした「フローズン・タイム」と邦題が決まったばかりの、母と娘の感動作品「いつか眠りにつく前に」の2本だ。来年公開の映画なので、公開間近になってから、この作品の感想を書いてみたいと思う。

 平日は試写三昧だから、土日は競馬三昧に決めている。しかし、大学2年の娘が「今大ヒットしている『恋空』だけは映画ライターなら、絶対に見るべきよ」と、いつになく強く勧めたので、競馬のG1レース「マイルチャンピョンシップ」のテレビ放映前に、見ることにした。

 試写室はメディアの業界人、映画のプロの人ばかりが見ているので、座席に座る人や試写室内の風景は変わりばえしない。しかし、映画館に来る観客たちは、身銭を切って、その作品をずっと心待ちしていたわけで、その思い入れや期待感が劇場一杯に溢れる。その瞬間の現場の反応を取材するのも映画ライターの仕事だとも思っている。

 シネコンにいる「恋空」の観客は、ほとんどが女子中学、高校生ばかりだった。ポップコーンを頬張りながら、コーラをガブガブ飲んでいる。最近、劇場内が満席になっている映画は、この「恋空」くらいかもしれない。私がお薦めしている「ヘアスプレー」は空席が一杯あった。

 まだまだお尻に青いものが残っているような女子学生たちにとって、「恋空」の魅力はなんなんだろうか?とても興味が出てきた。私の隣に座った女の子は中学2年生だと言った。友達と3人で来ている。「『恋空』って、面白いのかなぁ?」と何気に私は隣の女の子に尋ねた。すると、「マジ、これ見て泣かない人いないって。見た友達が最高だったって言ったから」

 うーん。久々に映画ファンの興奮している肉声を聞いた。そうか、「恋空」はこんな女の子たちに支持されているから、大ヒットしているんだ。

 映画が始まった。なかなかストーリーは面白そうだ。新人の新垣結衣ちゃん、三浦春馬君の演技も悪くない。今の女子高生の心理を上手く掴んでいると思った。

 ただし、この作品には誰一人として、悪い人が登場しないのが不思議だった。

 ヒロ(三浦春馬)が美嘉(新垣結衣)を好きになる動機も弱い。図書館でセックスした後で、美嘉の妊娠が発覚。ヒロは学校を辞めて働き、父親になると言う。美嘉を守るためなら、人殺しだってやってやると言う。

 ここに登場するヒロと美嘉の両親の存在も不思議だった。あまりにも二人の恋に寛容なのである。結果、流産して美嘉は子供を失う。ヒロはそれ以来、美嘉から故意的に離れていくのだ。美嘉がヒロを忘れようとしていた時に、現れるのが大学生の小出恵介。この男の子も、まるごと掛け値なしに美嘉を愛し尽くす。

 美嘉の周囲の友達も、みんな美嘉に寛容的で優しい。くどいようだが、この映画には悪い人が全く出てこない。

 そして、ラストのドンデン返しには、愕然とした。まるで、韓流メロのエンディングではないか!

 ところどころ、涙を誘われるシーンもあった。隣の女子中学生は映画が始まって15分くらいで、ひっくひっく泣き始め、ラストまで泣きっきりだった。

 「恋空」を見て思った。この劇場にいる子供たちは、純粋な物に餓えているのだ。女の子なら、ヒロのような任侠気質の男の中の男の強さを求めているのだ。好きな女のためなら命も捨てる。まるで、高倉健主演の任侠映画じゃないか。

 最近の女の子は強くなったと言われるが、この映画の観客を見ていると全くそう思えない。多分、彼女たちが、この映画に魅了されるのは、今現実に生きている社会の中では、決して起こり得ない、有りえない、桃源郷のような、メルヘンのような、美しい物語が展開されるからだろう。

 だからこそ、なお一層、現代の悪い人だらけの社会背景や家族関係の歪が浮き上がってくるのである。

 「恋空」を見て、映画館を出た後、彼女たちには絵空事でない厳しい現実が待っている。それを痛いほど承知で見、束の間現実から逃避して、スクリーンの中のヒロと美嘉の純愛に陶酔するのであろう。

 まさに「恋空」のあの劇場内の空間は、彼女たちにとって、母親の子宮の中にいるように、守られ愛され慈しみられ、どこよりも安全で力強く、心地いい空間なのかもしれない。


原作 美嘉
監督今井夏木
主演 新垣結衣、三浦春馬、小出恵介

全国で公開中


 

シアトリカル(唐十郎と劇団唐組の記録)

2007年11月03日 | 映画
 70年代。新宿・花園神社の赤テントに何度出入りしただろう。

 唐十郎の「状況劇場」は私の青春時代の偶像だった。私は「状況劇場」で感性を育ててもらったと言っても過言ではない。あまたある作品の中で「ベンガルの虎」は演劇史上の最高傑作だと思っている。

 この劇団からは多くの俳優が育った。元妻の李麗仙、後に舞踊家で一世を風靡している麿赤児、根津甚八、小林薫、佐野史郎など。

 あれから、約40年。67歳になった唐十郎の芝居に対する熱は枯渇することなく、さらに加速して、当時よりもパワフルになっていた。

 ややもすると、アンダーグランド劇団は時の流れに姿を変え、メジャー路線に走ることもある。

 しかし、唐十郎はあの60年代から70年代にかけてのアグレッシブな芝居作りのスタイルを全く変えていなかった。手作りの赤テントで、芝居狂の観客のためにだけ脚本を書き、熱い演出をする。格差社会、経済至上主義が蔓延する日本の社会とは全く対極的な所で、唐独自の感性と情熱が爆裂する。ただ一つ変わったと言えば、劇団名が「状況劇場」から「唐組」になったことだけだ。
 
 「唐組」の現在の劇団員は14名。平均年齢は30歳。本作は唐十郎とこの劇団員たちが、新作を発表するまでをドキュメンタリー仕立てにしている。あえて「仕立て」という言葉を使ったのは、100%ドキュメンタリーのようでいて、映像の中にいる唐さんや俳優たちが、ちょっとだけ演技をしているのではないかという、コミカルなシーンが挿入されているからである。

 実に新鮮なタッチである。吸盤に吸い込まれたように画面から目が離せず、その魅力に獲り付かれてしまう。

 監督の大島新氏は元フジテレビのディレクターで「ザ・ノンフィクション」「NONFIX」「情熱大陸」など、画期的なドキュメンタリーを撮った方だ。そして、今病に倒れていらっしゃる日本のヌーベルヴァーグの巨匠・大島渚監督のご次男でもある。

 さすがに「蛙の子は蛙」。あの偏執狂で目をギラつかせ、異常に威勢のいい唐十郎の核心に迫った。古から役者はと言われ、お金がなくて赤貧洗うが如し状態だ。だが、芝居にかける情熱だけは誰にも負けない。そんな劇団員の日常までを密着取材し、カメラに収めた。

 この切り口に、大島新監督ご自身もまた唐十郎と同じ、「ものづくりへの偏執狂」であったことが明確になるのである。

監督 大島新
出演 唐十郎、鳥山昌克、久保井研、辻孝彦、
製作・配給 いまじん 蒼玄社
2007年12月 シアター・イメージフォーラムにてロードーショー
公式サイト http://www.theatrical-kara.jp/

ブレイブワン

2007年10月26日 | 映画
 爽やかな復讐劇である。

 恋人と散歩に出かけたDJのエリカ(ジョディ・ファスター)が、3人の暴漢に襲われ、恋人は目の前で殴り殺され、自分までも瀕死の重傷を負う。しかも、その暴漢たちは、はしゃぎながら、その様子を携帯カメラに収めているではないか!

 こんなあくどい憎々しい事件に巻き込まれたら、私だってエリカのように復讐を誓うだろう。そして、人生の全てをかなぐり捨て、3人の暴漢をボコボコ、ズタズタにし、この世から消してやるだろう!

 普通の市井の人が愛する者を奪われたある日を境に、突然殺人者に変貌するまさにその瞬間をジョディ・フォスターが爆竹が弾けたように、激烈に演じている。

 しかし、この作品は従来よくあるリベンジ映画とは一味違う。主人公が復讐を成し遂げた瞬間、いつも味わう解放感やカタルシスともどこか違う。

 古い映画だが、74年に公開された「ダーティハンター」を思い出す。ベトナム帰還兵が狩猟を楽しんでいる。だが、彼らはそれに飽き足らず、いつしか動物から人間に矛先を向け、残虐な人間狩りハンターに変貌する。悲惨な目に合う被害者は可愛い女の子。帰還兵たちに暴行とレイプを繰り返され、精神障害になってしまう。この許されない犯罪に立ち向かい、復讐を誓ったのが父親役のウイリアム・ホールデンだった。

 この映画と「ブレイブワン」はどこか通じる点がある。

 ベトナム戦争によって人格や精神が歪められた帰還兵と、セントラルパークで無軌道に殺人や暴行を繰り返す暴漢たち。時代背景は違えども、荒んでいく社会や世相の歪の中で、蛆虫やゴキブリのように自然発生し、最低極まりない極悪を繰り返す突然変異した犯罪者の色や形の原型は、ほとんど同じなのかも知れない。

 「クライングゲーム」「モナリザ」「インタビュー・ウイズ・バンパイアー」「事の終わり」などなど、私の大好きなアイルランドの監督、ニール・ジョーダンが撮っているのも納得である。ジョーダン監督は今までにないアプローチで現代のニューヨークに生きる人々の心の歪や内在する人間の残虐性を冷静に柔らかく抉り出している。

 復讐劇が実に爽やかに見えたのも、このニール・ジョーダン監督の個性的なディレクトのおかげかもしれない。

監督ニール・ジョーダン
キャスト: ジョディー・フォスター、テレンス・ハワード、
配給  ワーナーブラザース
10月27日(土)、サロンパス ルーブル丸の内他全国ロードショー


ヘアスプレー

2007年10月05日 | 映画
 お腹の底から笑わせてくれる、ミュージカル映画の到来です。

「ヘアスプレー」の映画コラムを協力している女性誌「GRACE(グレース)」(世界文化社)の11月号「いろいろ歳時記 映画」に書きました。

 この映画を見て、つまらなかったという人はいないはず。絶対に見て良かった!と、自信を持ってマリリンがお薦めいたします。

 一見ドタバタ喜劇風に見えますが、黒人差別問題にも踏み込み、一本筋の通った社会派ミュージカルに仕上げている点も素晴らしい!

 チビでオデブだって、ダンスではピカイチの主役の少女・トレーシーを演じているのが、ニッキー・ブロンスキーちゃん。コールドストーンアイスクリーム店のアルバイトの店員さんだったそうです。さすが、無名の新人がスターダムを駆け上がれるのがアメリカンドリーム。なんと1000人のオーデションから抜擢された、実力派の新星です!「ドリームガールズ」のジェニファー・ハドソンを思い出しました。

 脇を固めるミシェル・ファイファー、クリスファー・ウォーケンなどの俳優人の演技も、もちろん素晴らしいですが、マリリンはトレーシーの母親役を演じた、ジョン・トラヴォルタにスポットを当て、楽しいコラムを書いています!

 「GRACE(グレース)」の発売日は10月6日(土)。全国の書店に並んでいますので、是非、立ち読みではなくて、お買い求めていただけると嬉しいです。

どうかよろしくお願いいたしますね。

全くの宣伝でした! 


ヘアスプレー公式サイト http://hairspray.gyao.jp/

監督 アダム・シャンクマン
出演 ジョン・トラヴォルタ、ニッキー・ブロンスキー、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、クィーン・ラティファ、ザック・エフロン、ブリタニー・スノウ、アマンダ・バインズ

2007年10月20日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開

配給 ギャガ・コミュニケーションズ