マリリンの映画日記

エッセイスト瀧澤陽子の映画ブログです!新作映画からオールドムービーまで幅広く綴っております。

いつか眠りにつく前に

2008年02月20日 | 映画
 実は、映画の欠点を見つけるのが大好きな嫌~な女なんです。

 それは、あまりにも長い間映画を愛し、見続けてきたせいかもしれない。10代の頃から今に至るまでに、魂を揺さぶってくれた偉大な映画の感動が忘れられなくて、いつも心の中にこびりついて離れてくれない。だから、どうしてもそれらの傑作を超えるさらなる感動を求めて新作映画に向き合ってしまう。

 しかし、悲しいことにそんな素晴らしい映画との出会いは多分、年に1度か2度あるかないかの確率なのは、シネマディクトなら誰でも痛感していることだろう。それを百も承知で、映画という荒野を目指し、映画という至福の桃源郷を目指して、懲りずに毎日のように映画を見続けている。

 映画の作り手たちが、決して妥協しない映画作りに精励しているように、感想を述べる私だって妥協したくない。それこそ、映画に対する最高のオマージュであり感謝の気持ちの表れだと信じているからだ。

 な~んて、ちょっと、観念的なことを書いてしまったが、今年初めて欠点のない感動的な映画に出会ったようだ。

「いつか眠りにつく前に」である。いい映画に出会うと、1週間は元気で機嫌がいい。


 主役がヴァネッサ・レッドグレイヴ、メリル・ストリーブ、グレン・グローズと、現代の映画界を支える天才的な3大女優たちだ。しかも、ヴァネッサとメリルの若い頃を実の娘が演じている点も見逃せない。

 物語は単純だ。

「マジソン郡の橋」と「タイタニック」を思い出せば、分かりやすい。

 死の床にある老女(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)の、若い頃に実を結ばなかった恋への回顧録である。混濁して意識の中で、叶わなかった恋とその恋人の名前を告白する。こんな艶々した過去のある妻を持った夫たちには気の毒な話であるが、これが女なのである。

 死の床で過去の恋人を思いながら死んでいく男の物語は、あまり聞いたことがない。

 女の恋は根が深く、執念深い。そんな女の部分を理解して、母親の死を見送るのも、同性である娘たちとだったという展開も、実にリアルで嘘がない。

 これは、女の物語であり、母と娘の物語でもある。決して、世の男性には立ち入ることのできない女の真実の物語なのである。

 鳴り物入りの文芸作品は、ややもすると、とてつもない過ちを犯して、どんどん独りよがりの方向に突っ走ってしまう。気がつくと、鑑賞者を置いてけぼり、なんて事も多々ある。

 しかしこの作品は全く違う。ベテラン女優が競演する文句無しの文芸大作品に仕上がっていて、全く欠点を探せない。

 キザな感想になってしまったけど、この作品を見た人は、きっと今の私の気持ちをわかってくれると思う。


2月23日から公開 日比谷みゆき座

監督 ラホス・コルタイ
出演 メリル・ストリープ ヴァネッサ・レッドグレイヴ クレア・ディンズ
   グレン・グローズ

公式サイト いつか眠りにつく前に

君のためなら千回でも

2008年02月07日 | 映画
 ソ連からもアメリカからも介入されなかったアフガニスタンが、こんなに平和でこんなに豊で、こんなにユーモアに溢れた国だと思わなかった。アフガニスタン国民のレジャーが大空に飛ばすタコ上げだったことも、この作品で知った。

 ここに登場する二人の少年は立場は違うが、強い友情で結ばれている。お互いに、大の映画好きでもある。おこづかいを貯めては街の映画館に通う。彼らが好きな映画がアメリカの大スター、スティーブ・マックイーンの作品だったことに、微笑んでいた。作品は「砲艦サンパブロ」と「大脱走」だったと記憶する。カブールの少年たちにとっての憧れの銀幕の大スターが、スティーブ・マックイーンだったことに、私は感涙にむせた。私の中でも、スティーブ・マックイーンはアメリカを代表する男優だと信じていたからだ。

 こんな穏やかで平和な国アフガニスタンの首都・カブールにソ連が侵攻する。すぐさま、アメリカが介入し始める。内戦の火蓋が切られるとともに、あどけない二人の少年の友情が見るも無残に引き裂かれていく。少年たちの憩いの場であった映画館も銃弾と爆弾で廃墟になってしまう。

 泣けてくる。

 戦争をテーマにした作品を見ると、その本数だけ、戦争の傷跡が心に残り、胸が痛んでならない。今公開中の日本映画「母べえ」を見た時もそう思った。平和な街の風景、明るい人々の表情を破壊する戦争を、なぜ人間は愚かにも繰り返すのだろうか。

 戦争がある以上は、戦争をテーマにした映画はこれからもずっと創られていくだろう。しかし、願わくば、戦争映画がスクリーンから消える日が来て欲しい。その時こそ、本当の意味で、世界に平和が訪れる日になるのではないだろうか。

監督 マーク・フォースター
出演アブダラ アミール
エルシャディ ババ


2月9日 恵比寿ガーデンシネマ、シネスィッチ銀座にて公開

「ラスト、コーション」

2008年02月06日 | 映画
 とにかくストーリーに興味があった。舞台は日本軍占領下の上海と香港。日中戦争だけでなく、中国人同士の内戦をも描いている点にますますそそられた。それなのに、この作品には全く戦闘シーンが登場しなかったので、更に感服していた。

 二人の立場がまるで違う男に愛される女スパイ(タン・ウェイ)の繊細な心の揺れが程よい加減に綺麗に描かれている。何よりもタン・ウェイとトニー・レオンのセックスシーンには驚嘆した。今まで見た映画の中で最高に長いセックスシーンではないだろうか。

 アクロバットのようにフレキシブルに流れ、無数に変化する体位から放つエロスは耽美と退廃に溢れている。少女のように熟し切れないが、それでいて貪欲な性への好奇心に挑む新人女優タン・ウェイ。そこに、ベテランのトニー・レオンが果敢にもタンの若い肉体を弄び、熟練した男の性戯の喜びを教え尽くす。

 トニー・レオンは綺麗ごとでは仕事しない稀有な男優なので、私はこんなトニーが大好きだ。ここまで、自分をさらけ出し、のめり込んで演じる俳優魂。というよりも、トニーの根底にある俳優哲学を叩き込まれたようで、頭が下がった。久しぶりに起承転結のあるセックスシーンの激しさと美しさと素晴らしさを満喫した。

 終盤になって、なぜこの作品には戦闘シーンが登場しないのかが、やっと理解できた。性のタブーに触れた「ブロークバックマウンテン」を世に送り出したアン・リー監督だからこそ、実は日中戦争を背景に、戦争は戦争でも普遍的な「女と男の愛という戦争」を描きたかったのかもしれない。

監督アン・リー
出演トニー・レオン、王力宏(ワン・リーホン)、タン・ウェイ

シャンテ シネ、Bunkamuraル・シネマほか全国にて公開中